自分しかいないとき、来客中に電話が鳴ったらどうする!? 意外とできていない電話応対コミュニケーション

毎日の仕事に欠かせない電話応対。新入社員のころにマナー研修で勉強したけれど、それ以降にあらためて教わる機会はなかなかないもの。今の自分の電話応対が完璧かと言われるとちょっと自信ない・・・という人も多いのでは?
そこで、『電話応対技能検定』、通称“もしもし検定”を運営する公益財団法人・日本電信電話ユーザ協会・技能検定部長の吉川理恵子さん(電話応対歴30年!)に、電話応対のいろはを教えてもらった。もうすぐ入社してくる後輩たちに正しいマナーを伝えられるよう、実力チェックしてみて!
複雑な用件、クレーム対応、年配者との通話――
「電話応対」こそ高度なスキルが求められる
日本電信電話ユーザ協会が運営する『電話応対技能検定』とは、数値に表しにくい電話応対能力を資格として認定するもので、全国にある試験機関で毎月受けることができる。通称“もしもし検定”というキャッチーな名前とは裏腹に、敬語の使い方やビジネスマナー、クレーム対応、カウンセリングやアサーション(自己表現)といった心理学まで学ぶ講習を受けなければ合格が難しい本格的な資格である。
しかし、メールやSNSなど、電話以外の通信手段が増えている現代。ビジネスでも、簡単な用件なら電話をせずに済んでしまうことも多いが――。
「逆に言えば、メールでは伝わらない、より複雑な話をしたいときに電話を使うようになったということ。むしろ、電話応対に求められるスキルは高度化しているんです。美しい話し方や正しい言葉遣いはもちろん大切ですが、ビジネスの現場では、マニュアルに収まらない臨機応変なコミュニケーションスキルの必要性が高まっています」
コミュニケーション力は個人の資質によるものと思いがちだが、吉川さんは「コミュニケーションはトレーニングで必ず上達します」と断言する。どんなことを心掛ければ、日々の仕事の中で電話応対コミュニケーションスキルを身に付けることができるのか。“もしもし検定”の過去問で、実際の例を見てみよう。
※問題はすべて『電話応対技能検定公式問題集3・4級』(日本経済新聞出版社/日本電信電話ユーザ協会編)より抜粋。
①取り次いでもらった電話、第一声は?
【問題】
同僚が「加賀さん、××の件で松上さんから電話です」と、あなた宛ての電話を取り次いでくれました。あなたの第一声として、最もふさわしいことばはどれですか。次の中から1つ選びなさい。
1.「お電話代わりました、担当の加賀です」と自分の名前を名乗る。
2.「お電話代わりました、××の担当です」と問い合わせ内容を言う。
3.「お電話代わりました、松上様ですね」と相手の名前を呼びかける。
4.「お電話代わりました、××担当の加賀です」と言う。
【正解と解説】
問い合わせてきたお客さまは、用件を言っている。同僚は、取り次ぎの際、あなたにそのことを伝えてくれている。「用件は伝わっています」と最初の一言でお客さまに理解していただくことで、お客さまが用件を2度言う手間が省ける。したがって、この問題は「4」が正解。
「電話応対で一番大切なのは、相手への思いやりです」と吉川さん。顔が見えなくとも、受話器の向こうには相手がいる。相手の立場に立って考えれば、どうすれば満足につながるか自然に理解できるはずだ。
②上司あてのセールス電話、どう対応する?
【場面】
もしもし商事経理部には、山野経理部長宛てに強引なセールス電話がたびたびかかってくるため、山野部長から「誰からどんな用件でかかってきた電話なのか、確認してから取り次ぐように」と指示されています。
【問題】
「藤井です。経理部長いますか?」という電話がかかってきました。「失礼ですが、どちらの藤井様でしょうか?」と聞いたところ、「経理部長につないでくれればわかる。」と言われました。このあとの対応の仕方として適当なものはどれですか。次の中から1つ選びなさい。
1.「申し訳ございません。山野から、会社名をお聞きするように申しつかっております。会社名を教えていただけますか。」
2.「申し訳ございません。山野から、ご用件を承るように申しつかっております。」
3.「申し訳ございません。経理部長からご用件をお聞きしてから、おつなぎするように申しつかっております。」
4.「申し訳ございません。どのようなご用件でしょうか。私どもでは、セールス電話が多いので、お聞きしてからおつなぎしております。」
【正解と解説】
この問題のポイントは、相手が名字しか名乗っておらず、経理部長の名前を知らない可能性があること。安易に名前を教えてしまうのは避けた方がよい。一方、4の応対では、いかにもセールス電話と疑っているようで、クレームにつながりかねない。したがって、「3」 が正解。
よくあるセールス電話への応対にも、「個人情報を守る」「相手に失礼のない言い回し」「担当者から言われていると前置きした上で」「用件をはっきり聞く」など、いくつものポイントが詰まっている。
「社会人経験を持つ受講者でも、電話応対の基本的なマナーや、個人情報の扱いを理解していない方は案外多い。何気ない一言が会社の印象を左右することもあるので、丁寧な応対を心掛けましょう」
③来客と電話が同時に! こんなときどうする?
【問題】
オフィスには、あなた1人しかいません。そこへ急な来客があり、そのお客さまの応対をすることになりましたが、来客応対中に電話がかかってきました。このような場合、かかってきた電話への応対として、最も適切なものはどれですか。次の中から1つ選びなさい。
1.とりあえず電話に出て、来客中と言ってから保留にし、電話の相手を待たせる。
2.来客応対中なので、電話のベルは鳴りっぱなしにして、受話器を取らない。
3.来客に断って電話に出るが、電話の相手には来客中である旨を言って手短に済ませる。
4.すぐに留守番電話に切り替える。
【正解と解説】
電話を保留にして相手を待たせるのは、相手に電話料金の負担がかかる上、不愉快な思いをさせてしまうのでNG。電話を鳴りっぱなしにする、留守番電話に切り替えるのは、いらっしゃったお客さまにとっても気持ちのいいものではない。正解は「3」。「申し訳ございません」とお客さまに断ってから、電話に出よう。
分かっているつもりでも、いざというときにとっさの判断をするのは難しいもの。オフィスでは、マナー本に載っていない臨機応変な対応を求められることも多い。
「マニュアル通り行動するのは得意でも、応用するのは苦手という方は多いようです。電話応対の瞬発力を磨くには、とにかくたくさん電話を取ること。毎回真剣に相手と向き合って応対することで、コミュニケーションスキルが磨けますよ」
「実は、電話応対に唯一の正解はない」と吉川さんは言う。その都度相手のことを考えて行動し、満足してもらえたならば、たとえマニュアル通りでなくともその電話応対は成功なのだ。
電話上手は仕事上手。失敗を怖がらずに経験を積めば、後輩たちのあなたを見る目は、少し変わってくるかもしれない。
取材・文/高橋三保子