カリスマリーダーはいらないーー「コミュニケーション&共感力」を活かした女性向けリーダーシップのススメ

安倍内閣が「2020年までに指導的地位に女性が占める割合を30%とする」と発表したのを機に、日本全体で女性管理職・女性リーダーの育成、輩出に注力する企業が増えている。一方、女性側はというと、社会全体の女性活躍ムードを感じながらも、どこかひとごとという人も少なくない。「リーダーなんて私には向いていない」という声を聞くことも。

そこで今回は、『女性のためのリーダーシップ術』著者である猪俣恭子さんにインタビュー。女性ならではのリーダーシップの発揮の仕方を伺った。

「リーダー」=「カリスマ的素質がある人」という誤解を捨てよ!

猪俣恭子さん

株式会社story I 代表取締役 猪俣恭子さん

1965年生まれ。中央大学文学部史学科卒業後、地方銀行に就職。窓口業務を経て、人事部にて社内研修の企画運営および講師を担当。結婚を機に退職し、実家の印刷会社に勤務。社内コミュニケーション活性化のためにコーチトレーニングプログラムでリーダーシップを学び実践。その傍ら、2006年に独立。国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ、一般財団法人生涯学習開発財団認定マスターコーチ、米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー

企業の研修講師として、多くの働く女性と接している猪俣さん。特に20代後半の女性にリーダーになりたくないという人が多いことを実感しているそう。

「『忙しくなる』『責任が重くなる』のが嫌だという人もいますが、それ以外にも女性がリーダーになることに躊躇してしまう理由はあると思います」

猪俣さんによると、リーダーになりたくないと女性が考える理由の1つに、「リーダーになる人は、『仕事ができて責任感があり、交渉に長けている』など、スーパーマン的なリーダーをイメージしていること」が挙げられるという。

「特に、小さいころからリーダー経験があまりないという女性に、この傾向があると思います。しかし、冷静に周囲を見渡してみると、企業で活躍しているリーダーは決して皆が皆、スーパーマン的なリーダーではありません。

企業風土にもよると思いますが、『実力があり、頼りになる』リーダーもいれば、『コミュニケーションを密にとってくれる』『面倒見がよい』『協調性がある』というリーダーもいる。実にさまざまなタイプのリーダーがいて、それぞれが活躍しています。まずは、偏ったリーダー像を捨て、多様なリーダーを知ることが大切ですね」

最近では企業側も、「ついてこい!」というカリスマ的なリーダーよりも、一人一人の強みやスキルを引き出し、それを活かしてくれるリーダーを求めているという。

「男性・女性・外国籍など、働く社員が多様化している今、コミュニケーション力や共感力を備え、多様な価値観を受け入れられるリーダーが必要とされています。そしてそれらはまさに、私たち女性が得意とするところなのではないでしょうか」

一人一人との「対話」を大切にする、女性向けマネジメント

猪俣恭子さん

では、コミュニケーション力や共感力など、女性ならではの強みを活かしたリーダーシップは、実際の現場でどのように活かせるのだろうか。猪俣さんの周りには、こんな女性マネジャーの事例が。

「知人の女性がある会社の営業部でマネジャーをしているのですが、彼女の部署は社内で唯一、毎月売上げを達成し続けています。彼女はとても優秀ですが、ぐいぐい引っ張っていくタイプではありません。一体、どんなマネジメントをしていると思いますか?

目標数字がどれくらいで、進捗はどうで、達成のために何をするかなどを考えさせるのは一般的なマネジメントですよね。でも彼女は違います。『メンバー一人一人の動機付けをしっかりしているだけ』だと。

部下と定期的に面談し、『給与が1万円上がったら何がしたい?』と問いかけ、『旅行がしたい』『おいしいものが食べたい』『趣味に使いたい』というワクワク感を引き出し、だからこそ目の前の仕事をがんばろうというモチベーションアップにつなげていたのです。

一人一人とじっくり話してコミュニケーションをとる。共感する。関係性を深める。相手のやる気やビジョンを引き出す。すごくシンプルですが、こうした行動は、部下のモチベーションを上げ、高いパフォーマンスにつながります。ぐいぐい引っ張っていくのが苦手でも、こうした対話力を活かしてリーダーとして活躍している女性は、私の周囲でも多くいますよ」

リーダーシップを発揮することが自分の働き方を見直すきっかけに

猪俣恭子さん

最後に、リーダーシップを発揮することに躊躇しがちな女性へのアドバイスを伺うと、猪俣さんは、「リーダーシップへの思い込みを捨ててほしい」と話す。

「本当はできる力があるのに、『やったことがないから』など、過去の経験に囚われてはいませんか? もし『自分にリーダーは無理』と思っているなら、『それって、本当?』と自分を疑ってみて。

無理して『私にはできる』と思い込む必要はありませんが、もしそこで自分へのレッテルが剥がせれば、きっと一歩を踏み出せると思います」

リーダーに求められる力は、カリスマ的牽引力ではなく、共感力&コミュニケーション力であり、それは女性が得意とするところだと前述した。そして、仕事上でリーダーを経験すれば、業務の幅が広がり、ステップアップできるのはもちろん、やりがいや成長を実感できることも多い。

そこで自信をつけ、ゆくゆくは管理職にチャレンジするというキャリアもある。猪俣さんのメッセージにもある通り、そんなリーダーとしてキャリアを歩むという選択肢を、『私にはできない』とはなから捨てるのはもったいない。「新しいことにチャレンジすることは、自分を成長させ、輝かせることにつながると思います」と猪俣さんは続ける。

「ぜひ一度、自分自身で『リーダーになったら、どんないいことがあるのか?』を真剣に考えてほしいですね。

給料が上がる、人として信頼される、自分に自信が持てチャレンジが怖くなくなる、プレゼンスキルが身につく……など、自分でリーダーになることのメリットを具体的にイメージし、未来への期待を膨らませてみることです。そこで、心から挑戦したいと思えたらやってみたらいいのです」

リーダーになる道もあることを頭の片隅にいれ、まずは3年後、5年後、10年後、どんな生き方・働き方をしていたいか、自分自身と対話してみてはいかがだろうか。

『女性のためのリーダーシップ術』

女性のためのリーダーシップ術

著・猪俣 恭子/経営者新書/価格:本体740円+税 理想の上司は、指図するより後方支援―部下を育て、ともに成長する。女性が自分を無理に変えることなく、自分らしさを活かしてリーダーシップを発揮する方法を段階を踏んで解説する

取材・文/岩井愛佳 撮影/赤松洋太