職場でジェンダーギャップに直面したらどうする?子育てから学んだツッコミ力【治部れんげ】
社会に出て、結婚して、子どもを産んで。ライフステージが変わるその時々で、「女であること」を理由にモヤモヤする場面は少なからずある。
よく見渡せば、「女らしさ」「男らしさ」のステレオタイプもまだまだ多い。せめて我が子には、性別にとらわれず、伸び伸びと自由に生きてほしい。そう思ったとき、親には何ができるのだろう。
そこで、フリージャーナリストの治部れんげさんを訪ねた。治部さんの2人のお子さんは、社会が決めた「女らしさ」「男らしさ」にとても敏感だ。
旅行先のホテルで朝食食べ終えた息子、私のiPadを持ちビデオ設定で入口へ。「●●(地名)のお母さんが作った美味しい朝食を…」という表示を録画して「ほら、見て!お母さんしか書いてないよ。これは違うよね」とジェンダー・ポリスぶりを発揮。
— 治部れんげ/ Renge Jibu (@rengejibu) 2017年8月3日
なぜこれほどフラットな視点を持てるのだろう。子育てをする中で抱くジェンダーへの違和感、そして違和感に直面したときに親として何ができるのか、そのヒントを探る。

治部れんげさん
フリージャーナリスト。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。経済誌の記者・編集者を務める。2014年からフリーに。国内外の共働き子育て事情について調査、執筆、講演などを行う。著書『稼ぐ妻・育てる夫―夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『ふたりの子育てルール』(PHP研究所)、『炎上しない企業情報発信 ジェンダーはビジネスの新教養である』(日本経済新聞出版社)など
Twitter:@rengejibu
子ども用品は「ママが使いやすい」ものばかり。女性自身も“良き母”像にとらわれている
私は小学4年生の息子と小学1年生の娘を子育て中ですが、「何かおかしい」と感じることはたくさんあります。
共働きで子育てをする夫婦がこれだけ増えているのに、やはり父親の育児参加はまだまだ進んでいません。
夫本人は子育てに参加したいと思っていても、上司世代はいまだに「男たるもの妻子を養って一人前」くらいに考えていたりする。
そのために、残業の多い業務にはどうしても男性をあてることが多くなります。そうなると結局、女性が一人で「ワンオペ育児」をせざるを得ないという悪循環に陥ってしまうのです。
一方の妻の側も、「家事・育児は女性が担うもの」という思い込みからなかなか自由になれません。
もやもやした思いを抱えながらも、「やはり自分は良き妻、良き母でありたい」「そうはいっても夫には出世してほしい」という願望もあり、結局一人で何もかも抱え込んでしまう。実際、家事・育児の役割分担について、夫と話し合ったこともないという人も少なくないのです。
日常生活のなかでも、「男らしさ」「女らしさ」の呪縛は、あちこちに見てとれます。例えば、「ママが使いやすい」と謳われている子ども用品はたくさんありますが、「パパも使う」ことは想定されていないように思えます。
学校の出席番号も、男子が先で、女子が後というところがまだまだ多いようです。
以前、息子が見つけてきて「これ、変だよね」と言った消防少年団のポスターには、男の子がホースを持って前面に立ち、女の子が後ろで救急箱を持って控えていました。
男性はメインの業務や力仕事を担い、女性は補助的な仕事やケアワークを担うという思い込みは、いまだに根強く残っています。
女の子がヒーロー、男の子がお姫様に。「男性のピンク」も当たり前になりつつある

それでも、変化の兆しは確実に現れています。
子どもたちに人気の「プリキュア」シリーズは、「女の子だってヒーローになれる」をコンセプトにした先進的なアニメ。最近ではさらに進んで「男の子だってお姫様になれる!」というセリフが飛び出し、注目を集めました。
また、息子の通う小学校では、性教育の授業を男女一緒に行ったそうです。
小学校4年生といえば第二次性徴期に入るころで、体も子どもから大人へと変化していく時期にあたります。私が子どものころは、女子だけが集められて、女性の体の仕組みや生理についての説明を受けたものでした。
息子の学校では、保健の先生からクラス全員に心身の変化についての説明があり、さらに「男らしさ」「女らしさ」を決めつけたり、押し付けたりしないように、と先生から話があったということです。
地域により、学校により進め方は違うと思いますが、一部ではこのような例も出てきました。こんなふうに子どもたちを取り巻く環境は、少しずつ変化してきています。
実は先日、大学の学園祭を訪れたとき、男子学生がおそろいのピンクのTシャツを着ている様子を見て、しみじみと時代は変わっているなと感じました。
娘が一時期、ピンクなどのパステルカラーばかりを欲しがるので、親として複雑な気持ちになったものですが、今の大学生は「ピンクは女の子の色」という意識さえ持っていない。
偏見や固定観念に縛られることなく、男性がピンクを着ることが当たり前と感じる世代が生まれているのです。
「なぜドラマでさらわれるのは女性ばかり?」おかしなことには子どもと一緒にツッコミを!

もちろん世の中には「何かおかしい」ことの方がまだまだ多いでしょう。特に働くママたちにとっては、理不尽だと感じること、腹の立つことがたくさんあるはずです。
そこで私が提案するのは、「何かおかしい」ことには、子どもと一緒にツッコミを入れて遊ぼうということです。
例えばドラマを観ていると、なぜか悪役は男性、さらわれたり、狙われたりするのは女性ばかりです。
我が家では、そんなステレオタイプのドラマを見ると、息子が「また女の人が逃げてる!」と突っ込みます。新聞の写真を見て、娘が「おじさんばっかり!」とツッコミを入れるという毎日です。
中でも、都心と地方、日本と海外など、違う世界と比べてみると良いでしょう。
例えばアメリカのドラマでは、大統領やCIAエージェントのような仕事に女性が就いていることもめずらしくありません。
最近のハリウッド映画では、コンピュータが得意な女の子が大活躍したり、男性の後ろに隠れずに、真っ向から敵と戦う女性ヒロインが登場したりしています。
『逃げ恥』に代表されるように日本のドラマも変わってきているので、昔のものと見比べてみると、子どもと一緒に新たな気付きや学びを得られるはずです。あくまでも遊びなので、子どもも飽きずに楽しんでできると思いますよ。
しかも、子どものストレートな意見は、本来あるべき姿を思い出させてくれます。
官僚のセクハラ問題が起きたとき、息子は「その人はクビになったのか」「刑務所に入ったのか」と聞いてきました。「だって悪いことをしたんでしょ」と極めてシンプルに本質を突いているのです。
先日、中学生相手に講演をしたとき、たまたま男女別に列に並んでいたので、「医大入試での女性差別問題とは、この列の女子生徒だけ20点減点にするようなもの」だと説明しました。
すると、誰もが「そんなのおかしい」と言う。当然の反応だと思います。「皆さんの反応が正しい。どうか大人に汚染されないでくださいね」とお願いしてきました。
世の中を変えていくには、一人一人が「おかしいものはおかしい」と声を上げていくことが大切です。子どもと同じ目線で本質を見極め、おかしなことにはどんどんツッコミを入れていってください。
取材・文/瀬戸友子 編集・撮影/天野夏海
【書籍紹介】『炎上しない企業情報発信 ジェンダーはビジネスの新教養である』(治部れんげ著/日本経済新聞出版社)2018年10月18日発売予定