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NOV/2018

「とにかくやってみる」がイノベーションの第一歩! ユニリーバが実践する新しい働き方「WAA」誕生の舞台裏

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市場の常識を変える!挑戦ヒストリー
イノベーター列伝

市場の常識を変えるような華々しいプロダクトやサービスが日々メディアに取り上げられる今日。その裏では、無数の挑戦や試行錯誤があったはずです。「イノベーター列伝」では、既存市場の競争軸を変える挑戦、新しい習慣を根付かせるような試み、新たなカテゴリの創出に取り組む「イノベーター」のストーリーに迫ります

今回お話を伺ったのは、消費財大手ユニリーバの日本法人で取締役 人事総務本部長を務める島田由香氏。同氏は、社員が働く場所や時間を自由に選べる人事制度「WAA」を導入し、働き方に対する先進的な取り組みを推進しています。独自のリーダー人材育成プログラムの開発など、次々とイノベーションを生み出してきた島田氏の人物像に迫ります。

ユニリーバ 島田さん
島田由香さん
1996年慶応義塾大学卒業後、株式会社パソナ入社。2002年、米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士取得、日本GE(ゼネラル・エレクトリック)にて人事マネジャーを経験。2008年、ユニリーバ入社後、R&D、マーケティング、営業部門のHRパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て、2013年4月に取締役人事本部長就任。その後2014年4月、取締役人事総務本部長就任、現在に至る。学生時代からモチベーションに関心を持ち、キャリアは一貫して人・組織にかかわる。米国NLP協会マスタープラクティショナー、マインドフルネスNLP®トレーナー。日本の人事部HRアワード2016 個人の部・最優秀賞受賞。中学3年生の息子を持つ一児の母親

>>こちらの記事は『BRAND PRESS』より転載しています

元気がないのは「会社」じゃなくて「人」じゃないの?

人事の仕事に興味を持ったきっかけは、大学時代の組織論の講義でした。ゲスト講師として銀行の方がお越しになり、講義の中で次のように語りました。

「わたしたちの会社、元気がないんですよ。皆さんのような若い人が入って、会社を元気にしてほしいですね」

この言葉を聞いて、わたしは違和感を覚えました。「元気がないのは会社ではなく、そこで働いている社員一人ひとりなのでは」と思ったんです。それと同時に「会社で働いている人たちを元気にできる仕事ってなんだろう」と考えました。それ以来、「人事」という職種を強く意識するようになりました。

島田由香氏

そして、最初に就職したのが人材業のパソナです。同社での仕事は、すごく楽しかったですね。いろいろな新しい経験をさせてもらいました。ただ、現場で仕事をしていく中で、「もっと組織や人間の心理について深く学びたい」という気持ちも強くなっていきました。

恥を恐れずに自分の意見を述べることの大切さ

その思いは日に日に大きくなり、4年間勤めたパソナを退職して米国コロンビア大学大学院への留学を決意しました。そこで組織心理学を学ぼうと思ったんです。

決意はしたものの、留学がすんなりと決まったわけではありませんでした。実は、入学するために必要なTOEICの点数が基準に到達せず、出願期限までに条件をクリアできなかったんです。しかし、どうしても留学したかったので、日本からはるばる願書を持って同大学院の受付窓口を訪れ、「入学までに必ずTOEICの基準点をクリアするので、願書を受け付けてください」と直訴したんです。向こう見ずな人間ですよね(笑)。その結果、願書を受け取ってもらうことができ、また入学までに条件を満たすことができたので、無事に留学が決まりました。

ただ、留学後も順調だったわけではありません。最初はなかなか講義に入り込めず、肩身の狭い思いをしていました。英語をうまく話せないために気後れしてしまい、なかなか自分の意見を言えなかったのです。ある授業で教授から質問され、答えはすぐわかったのに英語でどう説明しようか迷っている間に、別の学生が答えてしまったことがありました。しかし、その答えがまるっきり的はずれ。それでも先生は丁寧に受け答えをして、周りからも次々といろいろな意見が出て議論は大いに盛り上がりました。その様子を見て、「まちがっていてもかまわないから、まずは発言しないと何も生まれない」ということに気づきました。それからは、たとえ英語がチグハグでも、積極的に意見を言うようにしました。周囲も「今の意見いいね」と声をかけてくれるようになり、講義がより楽しくなりました。

日本人は、いろいろな意見を持っているのに、それを表に出さない人が多いのではないでしょうか。意見やアイデアを自分の中だけに閉じ込めていては、意味がないしもったいないと思います。まちがっていようが反対されようが、まずは発言することから何かが生まれる。米国への留学でこうしたことを学べたのは、今でも大きな財産となっています。

GEとユニリーバ、それぞれのリーダー像

帰国後、日本GE(現GEジャパン)の人事部門に就職しました。同社では、周囲をグイグイと引っ張っていく米国流のリーダーシップによる組織づくりを学ぶことになります。強いリーダーに必要な行動や思考に触れる中で、大きな刺激を受けました。

日本GEに入社して6年ほど経ったとき、現在の勤務先であるユニリーバ・ジャパンから誘いを受けました。日本GEでの仕事が楽しかったので迷ったのですが、せっかくの機会なのでオフィスを訪問してみることにしました。そこで、ユニリーバのオープンで飾らない社風を肌で感じて、「ここで働きたい」と思ったんです。その直感を信じて、ユニリーバに転職することにしました。

ただ、GEとはカルチャーが大きく異なり、最初は戸惑いましたね。GEは強いリーダーがおり、トップダウンでミッションが与えられ、その下で社員がテキパキと働いていました。「リーダーとはこういうものだ」という共通の価値観が浸透していたんです。

一方、ユニリーバは個々の意見を尊重し、話し合いながら物事が進んで行く。リーダー像は1つではなく、リーダーシップの取り方も人それぞれ。GE流のリーダーシップに慣れていたわたしは、「こんなリーダーもいるの!?」と戸惑いました。

島田由香氏

このギャップが大きすぎて、最初は「いろいろな人がいろんなことを言ってスピードも遅いし、わたしはこの会社にマッチするのだろうか…」と思っていました。今だから言えますが、「3カ月で辞めようかな」と思っていたぐらいです(笑)。でも、何のためにユニリーバに来たのかを考えたとき、「そうだ、消費財の人事をやりたかったからだ」と気づき、まず1年はベストを尽くしてみることにしました。

真のリーダーに必要なものとは

結局、今でもユニリーバで働いています。自分の中でいちばん大きく変わったのが、「リーダーシップ」の捉え方です。ユニリーバで働くうちに、必ずしも周囲を引っ張るだけがリーダーシップではないことに気づいたんです。自分の視野を広げてくれたユニリーバで、人事担当として組織づくりにもっと貢献していきたいと思うようになっていきました。

ユニリーバでさまざまなリーダー像に触れるうちに、自分の中で「真のリーダー」の定義ができました。それは、「LEADER」の頭文字を取った次の6つの要件です。

Love すべて愛に基づいた言動になっている。愛らしく、愛嬌がある。
Energy 常にみなぎる活力がある。
Authenticity 自分らしくある。正直でうそをつかない。自分の非を素直に認め、謝ることができる。
Drive 物事を動かす推進力となる。
Enthusiasm 成し遂げたいという熱意がある。
Respect 立場や年齢を問わず、だれに対してもどんなことにも尊敬の念を抱く。

これらを兼ね備えた人物がすぐれたリーダーであるとわたしは思っています。この中でも特に大事なのが「Respect」です。リーダーといっても人間なので、だれかに対してネガティブな感情を抱くこともあるでしょう。それでも、敬う気持ちを常に持っていれば、冷静かつ真摯に相手と向き合えるはずです。

前CEOの質問攻めから生まれた「WAA」

ユニリーバでは、2016年から新しい働き方「WAA」を開始しました。WAAとは「Work from Anywhere and Anytime」の略で、働く場所・時間を社員が自由に選べます。この制度が生まれた背景には、2014年に就任したイタリア出身のCEO、フルヴィオ・グアルネリの存在があります。同氏は日本で働くのが初めてだったので、就任早々、日本独特の働き方に関してわたしに次々と疑問を投げかけてきました。

「どうしてわざわざ満員電車に乗って会社に来るんですか?」
「毎朝、会社のエレベーターに行列ができているのはなぜですか?」
「いつも遅くまで会社にいますが、いつ家族と話しているんですか?」

こんな感じで、毎日質問攻めでした(笑)。でも、これらの疑問にわたしも共感したんです。そこですぐにWAAのアイデアを伝えました。説明を聞いたフルヴィオはその場で「やろう!」とゴーサインを出してくれました。

WAAは、上司に申請すれば、理由を問わず、会社以外の場所(自宅、カフェ、図書館など)でも勤務でき、6時から21時の間で自由に勤務時間や休憩時間を決めることができる(*1)制度です。全社員が対象(*2)で、期間や日数の制限はありません。働き方の多様性を高め、社員一人ひとりが自分の能力を最大限発揮できるよう支援することで、成果につながらない時間を減らし、業務効率の改善を図ることが目的です。

実は、WAAのアイデアはかなり前から自分の中にありましたが、公にしたことはありませんでした。従来の働き方が習慣として深く根づいているので、「変えよう」という機運がなかなか生まれないだろうと考えていたのです。フルヴィオがユニリーバ・ジャパンのCEOに就任しなければ、「WAA」をこんなにも早く導入することはできなかったかもしれません。

「とにかくやってみる」ことからすべては始まる

他社の方とWAAについて話をすると、「そんな大胆な制度は、うちの会社では無理だろうな」とよく言われます。そんなとき、わたしはいつも「まずやってみればいいじゃないですか」と答えています。

わたしは「制度よりも運用が大事」というポリシーを持っており、何事もまずやってみないと始まらないと信じています。制度を作っても、社員に活用されなければ意味がありませんよね。ユニリーバでも、実際に運用していくことで最初は戸惑い気味だった社員もしだいに慣れていき、WAAを効果的に活用できるようになりました。

これは、何かに挑戦しようとしている人にも共通するアドバイスです。「とにかくやってみる」。それがイノベーションの第一歩だと思うんです。

わたしも今、新しい挑戦を始めています。WAAを地域活性化と連動させる取り組みです。例えば、ユニリーバの社員が1カ月間、地方に滞在して仕事をする。そこで、社員が持っているマーケティングや商品開発などのノウハウを、自社の業務だけでなく、その地域の活性化に活かす。社員からすれば、いつもと違う環境で、いつもと違う人と交流することが新たな刺激となり、イノベーションを生む力になる。Win-winな関係性を築くことができるはずなんです。

すでにいくつかの地方自治体に賛同していただき、実証の準備を進めています。自分らしくいきいきと活躍できる働き方、生き方を日本全国、そして世界へと広げていきたい。壮大なチャレンジですが、「とにかくやってみる」の精神でこれからも楽しんでいきたいと思います。

*1:1日の標準労働時間は7時間35分、1ヶ月の標準勤務時間=標準労働時間×所定労働日数とする
*2:工場、営業の一部を除く

>>こちらの記事は『BRAND PRESS』より転載しています

■会社概要:ユニリーバ・ジャパン
本社所在地:東京都目黒区
設立:1964年(昭和39年)3月
代表者:代表取締役社長兼CEO 髙橋康巳
従業員数:約520名(2018年8月現在)
主要な事業内容:パーソナルケア、ホームケア、食品の製造

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