「カルビーに入ったら一生安泰」そんな社員はどうぞお辞めください【カルビー松本会長×サイボウズ青野社長/働き方改革対談:後編】

<前編>に引き続き、国内企業の「働き方改革」をリードするさまざまな取り組みを実践してきたカルビー・松本晃会長と、サイボウズ・青野慶久社長に、働き方改革が進む世の中で、働く人一人一人に求められるチャレンジについて聞いた。

世界と互角に戦える人材は、「競争のない職場」で育たない

――働く人たち一人一人が、よりいっそう自分の市場価値を高める働き方を意識していく必要がありますね。

松本 そう、しかもグローバル目線での市場価値を意識してほしい。日本は人口も経済もこの先、縮小の一途をたどっている。それなら、世界と戦える筋力をもっと一人一人が鍛えていかないと。

青野 そういう人材を、カルビーではどう育てているんですか?

カルビー 松本会長

カルビー株式会社 
代表取締役会長 兼 CEO 
松本 晃氏

1972年、伊藤忠商事に入社。同社子会社の取締役営業本部長を経て、93年にジョンソン・エンド・ジョンソンメディカル(現、ジョンソン・エンド・ジョンソン)に入社。代表取締役社長、最高顧問を歴任後、カルビーの代表取締役会長兼CEOに就任

松本 社内でコンペティションを生んでいくことですね。社内での競争も経験していない人材が、いきなり外に出て戦えと言われても戦えるわけがない。権威主義的なものは全て排除して、成果を出す人をきちんと評価すれば、自ずと競争意識が生まれます。社内競争は、国際競争力を伸ばす上で極めて重要です。

青野 以前、大手家電メーカーの経営が傾いたとき、優秀な技術者が海外メーカーに引き抜かれるという現象が目立ちました。その時、日本の経営者の中には海外メーカーに対して「金で人を釣るようなことをして」と批判的な態度を示す人が多かったように記憶しています。ですが、フラットに考えれば至極当然のことですよね。ではそうした優秀な技術者に国内の企業は一体どれだけの報酬を支払ってきたのか。「若いから」、「社歴が浅いから」という理由で、彼らより仕事ができない年配者より報酬を低く設定していなかったか。技術者の立場に立って考えれば、自分をより高く評価してくれる企業に移ることは、当たり前のことです。

松本 かつての日本は確かにそうした横並びの評価基準でした。けれど、それは戦後の工業化社会に向かう時代にワークしたやり方だった。かつての日本は成長社会。たとえ入社の段階では給与が安くても、真面目に働き続ければ、給与も地位もだんだん良くなることが約束されていた。

青野 でも、今は違いますよね。会社は決して社員の将来を保障してくれない。だったら年齢なんて一切関係なく、今活躍している人を評価しなければ。

松本 結局、世の中の仕組みが変わったにも関わらず、会社の仕組みだけは変わらないまま時間だけが過ぎ、「失われた30年」というところまで来てしまった。何を変えるのか。誰が変えるのか。どう変えるのか。さまざまな議論が交わされていますが、私は一番大事なのは働き方だと思った。だからこうして「働き方改革」を進めているのです。そしてもう一つ「働き方改革」と密接して重要なことがダイバーシティーです。

サイボウズ 青野社長

サイボウズ株式会社 
代表取締役社長
青野慶久氏

1971年、愛媛県生まれ。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現、パナソニック)を経て、97年サイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任し、ワークスタイル変革を推進してきた。上場企業初のイクメン社長としても知られる

青野 私たちが「働き方改革」を進めているのも、グーグルやマイクロソフトと世界を舞台に本気で戦うためです。彼らと同じ土俵で戦うには、常にイノベーションを起こし続けることが不可欠。では、どうすればイノベーションの生まれる組織がつくれるかというと、キーワードはやはりダイバーシティーだと思っています。多様な価値観やバックグラウンドを持つ人材が集まる組織にこそ、イノベーションは生まれます。「働き方改革」とダイバーシティーは切り離せない両輪のようなもの。「働き方改革」を進めると、多様な人材を受け入れる土壌ができますから。

プロとしての鍛錬をやめた途端、すぐに必要とされなくなってしまう

――今後、こうした変革の渦中の中で働く20代は、何を意識しておくべきだと思われますか?

松本 改めて言いますが、自分に求められているのは成果なのだとしっかり頭に入れておくこと。そういう意味では、会社員であっても一人一人が個人事業主のような意識を持って働くこと。

青野 その上で、自分を磨き続けることですね。年功序列制度が今以上に意味をなくし、入社して数年で同期と年収差が300万近くついてしまうこともごくごく当たり前になるでしょう。ちゃんと自分の市場性を意識してスキルを磨いておかないと、あっという間に周りから置いていかれることになります。

サイボウズ カルビー

松本 イチロー選手が分かりやすい例ですよね。彼が43歳という年齢でなお一線でいられるのは、毎日妥協のないトレーニングを続けているからです。会社員もプロであることを自覚して、アスリートのように常に鍛錬に励まなければ、すぐに必要とされなくなるでしょう。

――自己変革を続けていくことが重要になりますね。お二人が今後特に変革していきたいこととは?

松本 個人の能力をもっと高められる環境をカルビーでつくることが第一です。会社というのは魅力的な人間をつくる場所なんですよ。ところが、個人が本来持っている魅力をどんどん剥いでいるのが今の日本の会社。まずはこれをきちんと改善していかないと。具体的には、大人がもっと勉強できる環境や制度をつくることが大事だと思います。環境で言えば、もっと早く帰れるようになれば、自己投資の時間を増やせる。制度で言えば、スクーリングのための入学金や授業料のサポートでしょうね。設備投資に100億も200億もかけるくらいなら、もっと日本の企業は人に投資すべきだと思います。

青野 サイボウズで言えば、グローバルが重要なテーマになると思います。いかに組織をグローバル対応していくか。それは決して外国人採用を増やすといった単純な方法では解決し得ない問題です。現状、私が考えているのは、もっと世界視点で物事を考えられるようになるために、多くの社員に海外出張の機会を与えることです。やっぱり現地で学ぶことは大きい。数カ月、現地で生活し、仕事をすれば、それだけで帰ってきた時には今までなかった視点を獲得しています。できるだけ考えが凝り固まる前にという意味でも、今後はより多くの若手にそうした成長の場を踏ませてあげたいですね。失敗してもいいんです。むしろ向こうでやってみて通用しないことを知ることの方が勉強になる。それが彼らの次のモチベーションになるし、挑戦する社員を増やすことで、自ら市場性を高めていく集団をつくっていければと考えています。

取材・文/横川良明  撮影/竹井俊晴


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