一度はキャリアを諦めたワーキングマザーが「在宅秘書」という働き方で得たもの【PwC Japanグループ】
女性がキャリアを重ねる際に立ちはだかるのが、「仕事と家庭の両立」という問題。産育休を経て復帰したものの、両立が難しく、仕事を諦めてしまう子育て世代の女性は少なくない。こうした現状の解決策の一つとして注目されているのが、在宅勤務だ。
PwC Japanグループでは、米国で成果を上げていた「在宅秘書」という働き方を2015年から導入した。一般企業の役員クラスの役割を担うグループ法人のパートナーに対する秘書業務をリモートで行うのが、在宅秘書のミッション。実際に子育てをしながらPwC Japanグループで在宅秘書として活躍する女性二人に、その働き方の実態についてお話を伺った。

山岸さん(写真左) 山﨑さん(写真右)
一度は仕事を諦めて専業主婦に。でも、働きたい気持ちは捨てられなかった
――まず、お二人のこれまでのご経歴と、在宅秘書としてPwC Japanグループに入社した理由を教えてください。
山岸:コンサルティング業界でコンサルタントとして10年ほど働いたあと、外資の消費財系企業でカスタマーサービスのマネジャーとして働いていました。その時に第一子を授かりましたが、妊娠中に体調を崩してしまったり、復帰してからも保育園からの急な呼び出しがあったりと、仕事に穴を開けてしまうことが重なってしまって……。そのため、いったん会社を辞めて、子育てに専念することにしました。
子どもが小学生になったら復帰しよう。そう思っていたのですが、企業の面接に行くと「保育園に入っていなければダメ」と言われ、保育園の面談に行くと「就労証明書が必要」と言われてしまって。その経験から、半ば諦めて専業主婦として子育てに専念していたのですが、前職で一緒にお仕事をしていた方経由で現在の在宅秘書の仕事を紹介していただきました。7年間のブランクがあって不安もありましたが、これもご縁だと入社を決め、2016年の4月から働いています。
山﨑:これまで、外資系のメーカーやシンクタンク、コンサルティングファームでアシスタントや秘書業務を中心に仕事をしてきました。私も出産を機に子育てに専念することを決めて退職したものの、子どもが2歳になった時に再び仕事を始めました。しかし、仕事と家庭の両立は思った以上に難しかったんです。悩んだ結果、仕事を辞めて専業主婦に戻りましたが、どうしても働きたい気持ちは捨てきれなくて。そんなタイミングに知人経由でお声掛けいただき、2016年の1月に入社しました。

――在宅で秘書業務を行うわけですよね。1日のスケジュールはどのようになっているのでしょう?
山岸:コアタイムなしのフレックスタイム制があるので、スケジュールは在宅秘書それぞれで異なります。私の場合は、オフィスで仕事をしている人の働く時間に合わせるようにしていますね。始業時間の少し前の9時ごろからパソコンを開いて、お昼に1時間休憩をとって、終業時間には仕事を終えています。
山﨑:私は担当パートナーの方々が業務を始める前にメールチェックやToDoの整理をしておきたいので、もう少し早めにパソコンを立ち上げています。早めに仕事をすると言っても、通勤時間がないので負担はないですし、そこは本当に助かっていますね。
――オフィスに出社されることもあるのでしょうか?
山岸:在宅秘書の定例ミーティングが週に1回ありますので、その日は出社します。1時間ほどのミーティング後は、他の打ち合わせなど、オフィスでしかできない仕事を集中的に行っています。
山﨑:私も週に一度出社しています。ITが進歩したおかげでオフィスと同じ環境で働くことができますし、コミュニケーションが取りやすくなりました。とはいえ、やはり直接、対面でお話をするのも大事なことです。「普段はオフィスにはいませんが、一緒にお仕事をしています」という気持ちで、出社した時には周りの方と積極的にコミュニケーションを取るようにしています。

山岸:対面によるコミュニケーションは大切ですよね。私も普段顔を合わせられないので、出社したらいろいろな人に話し掛けるようにしています。なにより、この週に一度の出社がすごく楽しみなんです。スーツを着て出社して、職員の皆さんとお話をすると気持ちが引き締まりますし、同じ在宅秘書として働いている方と交流できるのも貴重な時間だなと感じます。
「家で一人」だからこそ、自分で仕事を遂行できるだけの力が求められる
――お二人とも以前は子育てと仕事の両立に難しさを感じていたとのことでした。在宅秘書として働くようになって、今はいかがでしょう?
山岸:両立は本当にしやすくなりました。通勤時間がない分、仕事を終わらせたらすぐに夕飯の準備ができて、家事の時間が確保できるのは大きいですね。家にいるから朝は家族を見送れますし、学校から帰ってくる子どもを迎えることもできます。
山﨑:子どもが病気になったときの対応のしやすさは、在宅勤務の大きなメリットだと感じます。呼び出しがあって、同僚や上司に事情を説明して仕事を整理して……とやっていると、通勤時間も含めて子どもを迎えに行くまでに2〜3時間は掛かってしまう。子どもに負担を掛けてしまっていることが、気持ちの面でつらかった。
でも在宅であれば、一時的にお迎えのために仕事を抜けさせていただき、家に戻ればすぐに仕事を再開することができます。日中に抜けた時間にやるはずだった業務を夜にやるといったコントロールも可能です。子どもに何かあったときにすぐ動ける距離にいながら仕事ができるのは、本当にありがたいことだと思っています。

――場所を選ばず、自分のペースで仕事ができることは、在宅勤務の大きなメリットですね。オフィスに出勤して仕事をする従来の働き方とは大きく異なりますが、仕事の取り組み方は変わりましたか?
山岸:在宅でもオフィスでも、「やるべきことを誠実にやる」というのは同じです。ただ顔が見えない分、信頼感を持ってもらえるように、指定された期日よりも前倒しで対応するなど、なるべく早めに動くことを心掛けています。
山﨑:対面ではないからこそ、細かい部分で気を使うようになりました。スケジュールを確認して忙しくないタイミングにご連絡する、相手がメールチェックをする時間帯に合わせて確認事項をまとめて送り、早めにレスをいただけるようにするなど、これまで以上に相手の負担を減らせるように心がけています。
また、在宅勤務の場合は分からないことを近くの席の人に気軽に聞くことができません。ある程度自分で解決できる力があることが重要だと感じています。その上で、自分で解決できないことは早めに報告、相談するなど、スピードは意識していますね。
山岸:やるべき仕事を目の前に並べてくれる人はいませんし、やるべきことを自ら探し、業務を広げていく必要がありますよね。PwC Japanグループの在宅秘書は、皆社会人経験が10年以上ある人たち。自分で判断し、業務を遂行するだけの経験を積んでいる人にとってはメリットの大きい働き方ですし、現に在宅秘書制度が始まった2015年以降、在宅秘書の離職率はかなり低いと聞いています。ただ、そうでない人にとっての在宅勤務は、逆に大変なことも多いかもしれないですね。
「働けるって素晴らしい!」専業主婦の時代があったから気付けたこと
――専業主婦として過ごしていた時期もあったお二人。一度は仕事を離れたからこそ、気付くことはたくさんありそうですね。
山﨑:仕事に復帰した時は、家族以外から「ありがとう」と言われることのうれしさを改めて感じました。社会とのつながりを持ち、貢献している感覚を得ることができる。これは私にとって、とても大きなことでしたね。
山岸:私の場合、専業主婦のころと良い意味で生活は変わっていません。子どもたちを学校に送り出したあと、日中一人で家にいる時間に仕事をしているので、もしかしたら子どもたちは私がフルタイムの仕事に復帰したことに気付いていないかもしれないですね。
ただ、気持ちの面では大きな変化がありました。育児に専念できた専業主婦としての7年間はとても貴重な時間でしたが、ふとした時に社会から切り離されているような寂しさを感じることもあって。仕事に復帰できた時は本当にうれしくて、気持ちの面で元気になりました。生活にもメリハリがついたことで、むしろ家族に対して余裕を持って接することができるようになった気がします。
――仕事に対する意識にも変化はありましたか?

山岸:「働けるって、こんなに素晴らしいことなんだ!」というのを改めて感じましたね。また、在宅勤務が成り立つのは、会社側が仕組みをきちんと整えてくれているから。仕事と家庭の両立で悩みながら働いていた以前の私は、思うように仕事ができないことから、つい会社に対して不満を抱えてしまうこともありました。でも今は、在宅で働ける制度が整っていて、サポートしてくださる方もいる。「私は自分のやるべきことをやって、仕事で感謝の気持ちを伝えよう」という気持ちが強くなりました。会社のことがとても好きですし、高いモチベーションで仕事ができています。
山﨑:今はもう、感謝の気持ちしかないですね。私は当社の2人目の在宅秘書として、この働き方がスタートして間もないころに入社しました。元からいらっしゃる現場の秘書さんや担当パートナーの皆さんも、当時は在宅秘書というまだよく分からない存在を快く受け入れてくださって。いろいろな方の理解やサポートがあったからこそ働けているというのは、常に感じています。オフィスに毎日出社して週5日のフルタイム勤務となると仕事への復帰はハードルが高いですが、在宅であればチャレンジしやすいですし、在宅秘書という働き方は本当にありがたかったですね。
山岸:出産や育児だけでなく、介護や健康上などさまざまな理由で、かつての私たちのように仕事を諦めている方はおそらくたくさんいると思います。その中には、「能力もあるし働きたい気持ちもあるけれど、働けない」という優秀な方もいらっしゃいますよね。在宅勤務を含め、働き方の選択肢が増えれば、個人にとってはもちろん、企業にとっても可能性は広がるはずです。人生にはさまざまな変化があるもの。働き方を選択できる会社が増えて、個人が仕事を諦めなくていい社会になっていったらいいなと思っています。
取材・文/中村英里 撮影/赤松洋太 編集・構成/天野夏海
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