“新時代のリーダーシップ”が女性の「自分らしく働きたい」を叶える!/ソフトバンク人事本部・日下部 奈々さん
長寿化が進む日本。これからは男女関わらず70歳を超えても仕事を続けるのが当たり前になると予測されている。Womantype世代に置き換えるなら、キャリア寿命は少なく見積もってもあと40年以上。何かを犠牲にし、我慢しながら働き続けるには長過ぎる時間だ。
そこで改めて重要になってくるのが、自分らしく、持続可能な働き方を見つけること。しかし、「自分らしい働き方」とは一体何だろうか? 実は、それを実現できている女性は多くないかもしれない。
そこで、日本を代表するグローバルカンパニー、ソフトバンク株式会社で長年人材開発に携わりながら、社内外の幅広い年代に対し「自分らしく働く」支援を行っている日下部奈々さんにお話を伺った。
「指示を待つだけ」の働き方をしていると、“自分らしさ”は見つからない
ソフトバンクグループと言えば、純利益1兆円超のメガグループ。日下部さんはグループの人材育成機関「ソフトバンクユニバーシティ」の創設にあたりプロジェクトマネジャーを務めるなど、人材育成の観点からグループの成長を支え続けたキャリア開発のプロフェッショナルだ。これまでキャリアに悩む多くの仲間たちの声に耳を傾け、解決に導いてきた日下部さんだからこそ、「自分らしく働く」ことの意義も強く実感している。
「キャリアカウンセリングやワークショップをしていると、大半の女性が自分らしい働き方について葛藤を抱いているように感じます。その声をもう少し細かく分けると、『そもそも自分らしさが何か分からない』ケースと、『自分らしさは分かっていても、それを実現できない』ケースの2つが多い印象です」
「自分らしく働いている」と実感できると、精神的な充足感も増すことは明白。そもそも「自分らしさ」が分からないという女性たちに向けて、日下部さんは次のようにアドバイスする。
「20代の女性にフォーカスして伝えるのであれば、まずはいち早くリーダーシップを発揮する経験を積むことです」
ここで注意しておきたいのが、リーダーシップの定義だ。日下部さんの問うリーダーシップは「人の先頭に立ち組織目標に向かって周囲を引っ張る」という旧来型のそれではない。これからのリーダーシップとは「周囲の力をうまく活かしながら、目の前のいまを変える一歩を踏み出すこと」だと日下部さんは言う。
「“自分らしさ”は、自分が下した決断や、経験を振り返ったときに初めて見えてくるものです。だからこそ、若いうちから『指示されたことだけをやる』ことが習慣になってしまっていては、自分らしさはいくら待っても見えてこない。身の周りで起こっていることを、誰かのせいにするのではなく、『自分が』変えていく経験を重ねると、自らが望む働き方が見えてくるのも早いと思います」
「自分らしさ」の発見はマイプロジェクトプランニングの訓練からスタート
「周囲の力をうまく活かしながら、目の前のいまを変える一歩を踏み出す」、そんな新時代のリーダーシップを養うためのステップとして、日下部さんは以下の【My Project Planning Seat】を使い、自分の周辺で起こっていることを当てはめながら課題解決を実行に移してみることを提案する。
「気になっていることは『チームに活気がない』でも、『情報共有のスピードが遅い』でも何でもOK。大事なのは、まず自分のモヤモヤを見える化し、それに対するアクションを起こすことです。このスキームは、そのためのファーストステップ。何でもないことのように見えますが、これも立派なプロジェクトプランニングの一種。まずは小さなことでも自分から改善提案をし、自分も周囲も『やりたい!』と思えるプランとして賛同を得ながら成功体験を積むことで、今の時代に必要とされるリーダーシップを少しずつ養っていくことができます。そうしているうちに、自然と自分らしい働き方の一端が見えてくると思いますよ」
人脈を整理することが“理想の働き方”を実現する近道になる
また、「自分らしさや理想の働き方は分かっていても、なかなかそれを実現できない」と悩む人に向けて日下部さんが紹介してくれたのは、“ネットワークのポートフォリオ化”だ。具体的にどういうことだろうか?
「理想の働き方が実現できずに悩んでいるときには、何でも自分一人でやろうとせず誰かの力を借りることや、実現のための環境を自らつくっていくことも重要です。ただ、人脈形成に使える時間は限られていますから、まずは現在の自分のネットワークを見える化し、いま補強しなければならないのはどのカテゴリーの人脈かを把握するようにします」
日下部さんの場合、自分の身近にいる人たちが、下記の3つのいずれかに偏っていないかを確認するという。
【1】一緒にいると自分らしくいられる人
【2】お互いを高め合い、目標達成のために協力し合える人
【3】枠を超えた新しい情報・経験を持っている人
下記のシートに思い浮かぶ人の名前を書き込んでいくと、状況が可視化されやすい。
「たとえ『Facebook』上に友達が1,000人いたとしても、ある一定期間に付き合えるのはせいぜい30名といったところ。上記の3種類に属する人たちがバランス良く自分の身の周りにいる時は、自分らしく働くことができ、かつ理想の実現に向けたチャレンジがしやすい環境だと言えます」
もしもネットワークに偏りがある場合は、強化したいカテゴリーに意図的に時間をとったり、足りていない人脈を補えるような新しいコミュニティーに参加してみるなどしながら、バランスを調整してみよう。
「やりたいこと、できること、しなければいけないこと」は全部違っていい
人生100年時代とも言われている。この長き仕事人生を豊かなものにするためには、“自分らしく働くこと”が重要なことはやはり間違いない。だが、『自分はこうでなければならない』という特定の理想像に縛られ過ぎてしまうことがないようにも注意しておきたい。
「人は多面的な生き物。身を置く環境や、関わる人との関係性によって、さまざまな“自分らしさ”を持っているのはごく自然なことです」
自分が得意なことややりたいことと、周囲から求められることのギャップに、「自分らしさが発揮できていない」と落ち込む人もいるかもしれない。だが、その差異もまた他人から見た自分らしさの一面。そうポジティブに受け入れ、能力を発揮していくことで開ける世界もある。
「『WILL(やりたいこと)』、『CAN(できること)』、『MUST(しなければいけないこと)』という考え方がありますが、まずは自分の仕事や役割をこの3つに整理してみると、視界がクリアになるかもしれません。でも、3つすべてが重なる唯一のものを見つけようとすると苦しくなる。それぞれ違っていて構わないし、そのどれもがあなたらしい。自分らしさは一つじゃないし、自分の思う自分らしさに当てはまっていなければ必ずしも不幸せというわけではない。そのことを、ぜひ覚えておいていただければ」
日下部さん自身も今まさに、第二子の誕生を控え、改めて自分らしい働き方について模索しているところだという。ただ、「悩むときは期間を決める。そしてその期限が来たら、たとえ仮置きでもいいから一つ答えを出して、それに向かって突っ走るだけです」と腹をすえている。
まだまだ先の長い人生。20~30代の働く女性たちにとっては、悩みが尽きないのは当たり前だ。まずは目の前の仕事に主体的に取り組むこと、やりたいこと、できること、しなければいけないことに全力で向き合ってみること。経験値を増やしながら、その時々で自分にフィットする働き方を見つけていこう。
取材・文/横川良明 撮影/栗原千明(編集部)