【志茂田景樹】Twitter相談を通じて思うこと「みんな些細なことを気にし過ぎ。友達に多くを求め過ぎ」

志茂田景樹さんのTwitterアカウントが、悩める数多くの人々から支持を集めている。

志茂田さんがTwitterを始めたのは、2010年のこと。ある時にふと、「日頃考えている疑問や悩みは、他の人ともある程度共通するものがあるんじゃないか」と思ったことが、Twitter相談を始める原点となった。

「深刻な悩みもあれば、些細な悩みもあるんですけど、共通するものがあるのであれば、皆さんの反応が知りたいと思いました。作家的好奇心ですね。それで自分の考えをつぶやいてみたら、意外と多くの人から反応があったんです。

やっぱり人って、それぞれ悩みを抱えていて、時には立ち止まってしまうものなんだなぁと感じました。

それならばと、これまで自分が体験してきたことを振り返って、時には質問に答えて……とやっていたら、いつの間にか悩み相談のツイートが増えたんです」

40万人を超えるフォロワーからは、さまざまな悩みが「どのくらいきているのか分からない」ほど寄せられているという。

今ではほとんど毎日、フォロワーからの相談に答えている志茂田さん。そんな悩み相談を通じて、20〜30代女性に対して思うことを聞いてみた。

志茂田景樹

志茂田景樹さん
1940年生まれ。小説『黄色い牙』で直木賞を受賞後、作家活動のほか、タレント活動、ファッションモデル、教育講演など多方面で活躍。近年は家庭における童話・絵本の読み聞かせの必要性を痛感し、『よい子に読み聞かせ隊』を結成。読み聞かせ隊長として、ボランティアメンバーとともに全国で活動を行っている
Twitter:@kagekineko

母親との価値観のズレなんて、放っておけばいい

Twitterの相談は、意外と若い人からくることが多くて、アラサーの女性もたくさんいます。特に多い悩みは、家族関係。義母との折り合いもあるけれど、意外と実母との折り合いが悪いって悩みもあるんです。

しかも、同居しているのかと思いきや、自分は東京で一人暮らしをしていて、母親は遠方の地元にいるんですね。

電話やメールで遠くにいるお母さんとやり取りをして、その内容から「折り合いが悪い」と判断しているのかもしれないんですけど、僕はそれ、ただのズレだと思うんですね。

価値観のズレ。それを埋めようとするから悩んでいるんじゃないかと思うんです。

都会にいるアラサーの女性と地方にいる50〜60代のお母さんとじゃ、価値観のズレがあって当たり前。

お互いがこれまでに培った価値観を認めながら、折り合いを付けられるところは付けて、付けられないところは理解し合うしかないと思います。

価値観のズレを完全に埋めるなんて、できないんです。だから、無理やり価値観を合わせようとして、イライラする必要もありません。

志茂田景樹

僕の個人的な意見ですけど、20〜30代の女性は、何かにつけて気にし過ぎですね。

家族問題の他にも、ママ友との軋轢とか、職場での人間関係とか、いろんな悩みが来ますけど、客観的に見ると「井の中の蛙」のやり取りと似たようなもの。

どれも大げさに気にし過ぎなんじゃないかなぁという感じがします。気にしなければ気にしないでいいようなものですよ。

あとは、みんな「ちゃんとしよう」とし過ぎです。例えば、「ちゃんと子育てができない」っていう若いお母さんの悩みも多いんですよ。

今の人たちって、Webとか本とかで見たマニュアルで子育てをしがちじゃないですか。

昔の人の子育ては、義理のお母さんは「こういう時はこうするのよ」って言うし、隣の家の人はまた違うことを言うしで、それぞれ違っていたと思うんです。

そうやって、子育てをした先輩から話を聞いて、自分に合うやり方を取捨選択していた。でも、いかにも正解らしく見えるマニュアルがあると、それができないんですよね。

「マニュアル通りにやったけどうまくいかない」ってことはよくあって、そこで悩んでしまうんです。

マニュアル本はその通りにやるものではなくて、「こういう原則ややり方があるんだな」っていう、基礎知識みたいな感じで念頭に入れておくもの。

その上で、「自分の子育ての場合はどうしようか」っていう考え方ができるといいですね。

孤独を感じる理由は、「友達がいない」からじゃない

あと、僕に相談をくれる20~30代の女性は、常に友達を欲しがっているような気がします。ただ、話を聞いてみると、もうすでに友達はいるんですよ。これは満たされぬ何かの反映なんでしょうけど、要するに、友達に対して求めることが多いんですね。

友達関係は、対等なものです。損得勘定じゃなくて、持ちつ持たれつが最善。そうやって終世の友になっていく。

でも今の20~30代の人は、「友達は何かをしてくれる人」っていう意識が、きっと強いんじゃないでしょうか。「自分に何かを与えてくれる友達が欲しい」ようです。

そういう意識を持っていることに、自分で気付いていない人も多いですよ。それに、寂しさもあるんだと思います。

友達がいっぱいいる人気者がネットにはいて、良い話ばかりをしている。自分もそうなりたいと思ってTwitterやブログなんかをやるんでしょうけど、何か発信すると良い反応だけじゃなくて悪い反応がくることもありますね。

孤独を癒したくてネットの世界に入ったのに、安全圏から物を言ってくる他人のマイナスな言葉が、心にグサリと突き刺さる。リアル社会の中での孤独とはまた違う孤独感を、ネットの世界で味わうことになります。

だから、しっかりネットとリアルの世界の線引きをしておかないといけないと思うんです。

志茂田景樹

ただ、ネットの世界に依存している人ほど、自分の満たされない心を、ネットの中で満たそうとするんですよね。本来なら傷つかなくてもいいことに傷ついて、でもネットはやめられない。依存症に近いですよ。

友達もネットの中で求めようとするでしょう? もちろんネットの中でも求められないことはないけども、リアル世界の体のぬくもりとか、肉声とか、触れ合った感触も含めて、そういうことができる友達こそが、これまでの人類にとっての友達です。

寂しいと感じる理由は、友達がいないことではなくて、リアル社会でもネット社会でも、自分の心が安住する場がないっていうのが本当のところじゃないのかな。

小さな波風だったら、起こしたっていいじゃないの

僕が10〜20代の頃は、貧困と並んで結核なんかの病気が若い人にとっても大きな問題で、病気の悩みを抱えている人がたくさんいました。

一方で、今の若い人の悩みは、8割以上が心の悩みです。うつ病とまではいかないけれど、心のリズムを失っている人がたくさんいる。

そういう自分の状態を誰にも相談できない人が多いみたいで、僕のTwitterに相談がくるんですね。こういう“うつ予備軍”の人たちは、悩みをいつまでも心に引っ掛けたまま、自分で自分をうつ病にしてしまう傾向があるように思います。

志茂田景樹

特にアラサーの女性は、「心地良くいたいから、波風を立たせないように上手くやろう」と、いろいろ我慢してしまっているんでしょうね。

でも、周りの人には自分の考えを言葉ではっきり伝えた方が、本当はいいと思います。「言わなくても分かってくれるだろう」って言外に求めているけれど、それは非常に身勝手です。

もうちょっと率直になった方が、暮らしやすくなると思いますよ。少々の波風はすぐに収まりますから。

それに、「多少の波風が立った方が、むしろお互いを早く理解できる」ということは、意識したらいいんじゃないですか。今の人は意識しないと、言いたいことが言えないみたいですから。

不満や反感は、大きくなる前に、波風立てて解決させちゃえばいいんです。そうすれば、大火事にはなりません。ボヤで済みます。

小さな傷っていうのは耐えられるものですし、耐えているうちに、いい意味で打たれ強くなるんです。

でも女性たちは、「自分が火元になりたくない」っていう気持ちが非常に強いのでしょうが、炎が収まり切らない大きさになってから、初めて人にぶつけるんです。

自分の心の中で炎を大きくしてしまうんですね。そういう気持ちのぶつけ合いって、憎しみ合いに近くなってしまうんですよ。

先ほども申し上げましたけれども、今の人はいろんな面で気にし過ぎ。「小さな波風だったら起こしたっていい」ぐらいの気持ちが、今の世の中を生きるにはちょうどいいんじゃないでしょうか?

志茂田景樹

「目が逆なことも、気にしない」

取材・文・構成/天野夏海 撮影/竹井俊晴 企画・編集/栗原千明(編集部)