子どもは親を選べない、だけど親から受ける影響は一生モノ「そんなのアンフェア」――家族留学manma代表・新居日南恵さんの“自分らしい生き方”
今、女性の働き方・生き方は多種多様。何でも自由に選べるって素敵だけど、だからこそ、何を選択し、どこに進めばいいのか悩んでしまう。「私らしい未来」は一体、どの道の先にあるんだろう……?
そこで今回Woman type編集部では、さまざまな女性たちに聞いてみました。「私らしい未来」、みんなはどうやって見つけたの!?
結婚する・しない、子どもを産む・産まない――今、働く女性たちには、さまざまな生き方の選択肢が広がっている。でも、だからこそ自分が進むべき道が分からなくなってしまうこともある。自分はどう働き、どう生きたいのか、未来を決めるにはどうしたらいいんだろう?
そんな悩める若者世代にさまざまなロールモデルとの出会いを提供するのが、新居日南恵さんが代表を務める株式会社manmaだ。今年、大学院を卒業予定だという新居さんは、現在25歳。“家族留学”と呼ぶ家庭インターンシップ事業を行なうmanmaを創業したのは、今から5年前のことだった。
事業と研究に打ち込んできた彼女が今、見据えている“私らしい未来”とは? 20代、等身大の言葉を聞いた。

<プロフィール>
新居 日南恵(におり・ひなえ)さん
1994年生まれ・東京出身。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科所属。2014年に株式会社manma(元任意団体manma)を設立。15年1月より学生が子育て家庭の日常生活に1日同行し、生き方のロールモデルに出会う体験プログラム「家族留学」を開始。内閣府・文部科学省・総務省などの検討会の委員も務める
家族のカタチは多種多様。
でも、知っているのは自分が育った家庭だけ?
結婚のタイミングはいつがいいのか。そもそも、自分は結婚したいのか。子どもは欲しいのか。子どもを持ったらどんな働き方がしたいのか……。考えるに足りる情報を持っている20代は少ないのではないでしょうか? 家族の形はいろいろあるけれど、私たちが知っている情報はほんの一握り。基本的には、自分が育った家庭のことしか知らないという人が多いはずです。
だから私はmanmaを立ち上げて、子育て家庭と若者をつなぐ事業を始めました。一つでも多くのロールモデルを実際に自分の目で見てみることが、その人がより良い未来を選択するための手掛りになるのではないかと考えたからです。

家族留学に参加する人は、結婚や子育てに前向きな人ばかりではありません。仕事が大好き、キャリア優先で生きていきたいという人もいます。結婚、出産って、大変そうな話ばかりが耳に入ってくるじゃないですか。「保活」なんて、まさに戦いみたいな語られ方をするし、ワーキングマザーは仕事も家事も子育てもすごく大変だよというメッセージも多いです。だから、私たちの世代の中には「そういうのはいいや」と考える人もいます。
でも、本当にそれでいいのかという不安は心の中にあって。家族留学を通して子どもと触れ合ったり、子育て中の大人たちの姿を見たりして、「自分の本当の気持ちを確かめたい」という人もいるんです。そして、実際に家族留学に参加した後に価値観が激変する人もいて、「意外と子育ても楽しそう」とか「自分にもできそう」って話してくれる人がこれまでにたくさんいました。
また、インターン先の家庭のお母さんが不妊治療の経験者で、話を聞けて「勉強になった」という人もいましたね。多種多様なロールモデルとの出会いが、インターン参加者の方と受け入れ先家庭の方の人生を変えていると実感しています。
子どもは親を選べない。
でも、親から受ける影響は一生モノ
そもそも、私が「家族」というものに興味を持ったのは、高校生の時だったように思います。もともと大学では教育関係のことを勉強しようと思っていたのですが、当時目にした文献に「日本の子どもは世界の子どもに比べて自己肯定感が低い」という内容があって。「これだけ豊かな国なのに、なぜ?」っていうのが気になったんです。

そこから、日本の子どもにかかわる社会課題をいろいろと調べていくと、摂食障害、パーソナリティー障害、人格障害など、こうした問題を抱えている人は家庭環境に影響を受けているケースが多いということが分かりました。子どもは親を選べないのに、親から受けた影響によって一生苦しむことになるのはすごくアンフェア。これをどうにかできないかなって考えたんです。
そこから次第に、他の家庭の大人とか、地域の大人が普通に複数の家庭の子育てに関われるような仕組みがあるといいなと思うようになって。それが今のmanmaの家族留学につながっていきます。
今年大学院を卒業しますが、これまでは、こうした想いを「研究」と、manmaの「事業」と、メディアなどでの「発信」によってカタチにし、つなげてきました。この3つを循環させていくことが、私にとっての自分らしい働き方なんだと思います。
ただ、私にも迷いはあって。これまでずっと「家族」のことに目を向けて、同じ問題意識を持った人たちと一緒に過ごしてきたので、自分の視野が狭くなってはいないかと不安になったんです。なので、一度ゆっくり時間をとって、「家族」のジャンルに縛らずいろいろなことを学ぶ“インプット期間”を設けてみることにしました。それがちょうど去年のことです。

手始めに、海外を訪れてみました。行き先として選んだのは、フィリピン、そして発展目覚しいインドです。インドでは、世界中から集まった同世代の社会起業家の方と議論するチャンスに恵まれて、すごく刺激を受けました。
特に印象に残っているのは、フィリピンで出会った インドネシア出身の20代の起業家の方から聞いた話です。ご両親からは「安定した石油会社で働け」と言われていたそうなんですが、彼が選んだのはゴミ問題を扱うNGOで働く道。要は、お金や権威じゃなくて、パッションで仕事を選んだ、と。私もそれにはすごく共感して、自分自身もそうありたいと改めて感じました。
「自分せこいな」って思う選択はしない
今も、いろいろな人の考え方に触れて、自分の知らない世界をたくさん見て、これから進むべき“私らしい未来”を模索している最中です。
ただ、今後もぶらしたくないと思っている軸は二つあります。
一つ目は、自分が“ユニークな存在” でいられるかですね。ユニークさは“掛け合わせ”によって生まれると思っていて、私の場合は「『家族』にかかわる課題解決に、若いうちから『事業』と『研究』の面で取り組む人」という掛け合わせになります。私はいつも「短い人生の中で、何ができるか」ということ考えているのですが、せっかく仕事をするなら自分にしかできないことをしたい。そこに近づくための方法が“ユニークであること”なんだと思います。
もちろん、全員が全員ユニークな存在であるべきとは考えていません。これは、私なりの生き方なので、キャリアの築き方は人それぞれです。

そしてもう一つ、“私らしい未来”をつくっていくために大事なことは、せこくない選択をすること。つまり、「こっちの道を行った方が得するだろう」とか、「ラクできるだろう」みたいな気持ちで物事を決めていないか、ということです。
せこい・せこくないの判断基準も人それぞれなのですが、「あ、今の自分せこいな」って感じる選択をしちゃう時ってたまにありませんか(笑)? でも、そういう選択をしたときって、ずっとその後ろめたい気持ちが追い掛けてくるもの。そして、いつの間にか自分が決めたことなのに、他人のせいにしてしまったり、卑屈になったりしてしまう。
だからやっぱり、自分が自分に誇れる選択を積み重ねていくことが大事だと思います 。一つ一つの自分らしい決断が、より良い未来へとつながっているはずだから。
取材・文/松永怜 撮影/赤松洋太 企画・編集/栗原千明(編集部)
『「私の未来」の見つけ方』の過去記事一覧はこちら
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