最初はやる気なんてなくていい。スイッチはあとから入るもの。【今月のAnother Action Starter vol.6女優・黒谷友香さん】
史実に基づいたお芝居で
実在の人物を演じるという挑戦
月替わりで内容が変わる12本のお芝居で、吉本興業創業100年の歴史をたどる「吉本百年物語」。その第6弾となる9月公演「焼け跡、青春手帖」で、女優の浪花千栄子役として出演する黒谷友香さん。終戦後、吉本の寄席の劇場は全て焼け、芸人らも解散してしまったなか、唯一残った芸人・花菱アチャコと、傷心のうちに引退していた女優・浪花千栄子との出会い、そしてふたりが作り上げた伝説のラジオドラマ誕生の軌跡を演じる。
「私自身大阪の出身ですから、吉本の舞台に立つというお話が来たときには、まずはびっくり、驚きでした」
インタビューの冒頭、黒谷さんの大きな瞳でまっすぐ見つめられたとき、思わず姿勢を正したくなるような衝動に駆られた。けれど、流れるような大阪弁で、テンポ良く応えてくれる黒谷さんと会話を重ねていくにつれ、その緊張感はどんどん溶けていく。
今回の舞台への想いについて、「大阪では吉本が生活の一部なんです」と黒谷さんは言葉を継いだ。
「私も小学生の頃から吉本の新喜劇とか見に行ってたんですよ。あと、当時やっていた『4時ですよーだ』を見るために走って学校から帰ったり。見ないと、次の日学校で話について行かれへんみたいな。大阪人にとってはそのくらい吉本が身近な存在。自分もお笑いに育ててもらったという意識があるので、その吉本の舞台に立つというのは、なんだか感慨深いですね」
黒谷さんにとってごく身近な存在である吉本が、どんな人たちの手によって立ち上げられ、どんな歴史を経て今に至るのか。それを明らかにしていくお芝居のリレーを引き受けるというのは、これまでの舞台とはちょっと違った経験だという。
「芸人さんが出ている舞台に立つのは、別に初めてではないんです。それに、新喜劇みたいにお笑いをするわけではないので、普通の舞台とそんなに違うことはないんですよ。でも、演じる役柄が実在した方で、架空の人物ではないというのが、これまでとはちょっと違うところなんです。だから、浪花千栄子さんという方は何を考えてはったんやろ、こういう感じやったんかなって、いろいろと手探りしています」
浪花千栄子さんの自叙伝を読み込んだり、出演している映画を見たりしながら役柄を探っていく。ことに自叙伝に関しては、時を経てご本人が考えていたことを文字として読めるという、新しい役作りを経験できることが幸せだという。
大好きな大阪の地で
新しいパワーをもらいたい
今回黒谷さんは、自身のホームグラウンドと言うべき大阪で、約1カ月にわたる公演をこなす。空き時間や休日にどう過ごすかを問うと、「いや~、1カ月間もどうしましょうね!?」と、弾んだ声が帰ってきた。
「3、4日仕事で大阪に行くってことはありますけど、1カ月ずっといられるのは、19歳で上京して以来初めて。友だちもおるし、やっぱり大阪はホッとしますね」
そんな黒谷さんの“野望”は、1カ月の間に新しい大阪を把握すること。
「大阪も私がいたときとだいぶ変わっていて、行くたびに、ここどこ? 何これ? みたいなものができているんです。ほんまに私、大阪人か?って思うときがあるんですよ(笑)。だから、友だちと会って、新しくできたところをまわって、買いものに行って……。大阪人が新しい大阪を知ることで、何か得るものがあるんやろなって期待しています」
上京した当時、最初に驚いたのは東京の人の多さだった。大阪も人が多いイメージがあるが、東京のほうがはるかに密度が高いと感じたのだそう。「人も多いし、繁華街もたくさんあるし、ものすごいところ」というのが、10代のころの黒谷さんが感じた印象だった。
だからこそ黒谷さんは、1日でも休みが取れると、千葉の乗馬クラブに遊びに行く。自然の中でリラックスし、広い空を眺めて、土に触れる。それだけで十分に気持ちの切り替えができるのだという。
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