することは読書や一杯のコーヒーで十分。
リフレッシュが必要なタイミングに気付くのが大事

でも、今回の舞台のように、長い間東京を離れて乗馬クラブに行けない状態が続くと、ストレスがたまるのでは？――その問いに、黒谷さんはかぶりを振った。

「お稽古とか地方公演とかが重なって、３カ月、４カ月と乗馬クラブに行けないこともあります。でも、仕事が詰まっている期間は、なぜだかあまり自然に触れたいと思わないんですよ。多分、モードが違うんでしょうね。そういう期間は、がっつり仕事モードになっているみたい。しばらくして久しぶりに乗馬に行って土を触ったら『土って、こんなんやったっけ？』ってびっくりしたことがあります。そういう新鮮な気持ちを発見できるのも自然が好きな理由なのかも」

自然に触れらこと以外で、黒谷さんが心がけているリフレッシュ法は読書。上京して独り暮らしを始めたと同時に１人の時間が増えたことがきっかけで本を読む面白さに気付いた。それ以来、好きな作家の新作を買ったり、画集や写真集を集めたりなど、読書の幅を広げていった。

「わたしのバイブルは、画家・平山郁夫さんの『ぶれない――骨太に、自分を耕す方法』という本。何かあったときそれを開くと、『ああ、ええこと書いてあるわ。そやな。元気出さな』って思うんです。たとえば、ボクシングみたいに一発KO勝ちで相手を倒せることもあるけれど、やはり日々の積み重ねが大切だよとか。職業は違うけれど、書いてあることを私に置き換えたらこうかなって考えながら読むと、すごく元気がもらえるんです」

そのほか、コーヒーを１杯飲む、ものすごく疲れたら取りあえず寝る、など自分なりの切り替え方法をいくつか持っているという黒谷さん。何か特別なアクションをとるわけではないが、日常生活の一部分を“切り替え地点”としている。その位地を自分自身でコントロールできている。そんな印象を受けた。

「『あ、いまが気分の替えどき！』みたいなタイミングには敏感になりましたね（笑）。そう感じたら、すぐに何かしてリフレッシュします」

自分はこうだと意固地にならず
ときには気の進まないこともしてみる

とはいえ、気分の替えどきや自分なりのリフレッシュ方法が分かるまで、黒谷さんは試行錯誤を繰り返した。以前から気持ちの切り替えが上手だったわけではない。

「歳を重ねるごとに気持ちの切り替えにかかる時間が短縮できるようになってきた気がします。『あれをしたときにはけっこういい感じだったな』っていう感覚が、自分に合うリフレッシュ方法を発見するカギだと思うんです。たとえば家でふさぎこんでいるとき、電話がかかってきて『遊びに行こうよ』と誘われたとする。そこで、『そんな気分じゃないの。この気持ちに浸っていたいから』って答えてもいいんですよ（笑）。でも、頑張って外に出て、楽しいことがあって帰ってきたら、なんか気持ちまで変わっていたってことありませんか？ それって自覚なしに心を切り替えられたってことでしょ。そんな経験を忘れずに覚えておいて、少しずつ切り替えにかかる時間を減らしていけばいいんですよ」

内にこもるのではなく、なるべく外に出る。そして、出会う人々やモノからいいところをもらって自分に活かすように心がけているという黒谷さん。常に“美点凝視”という言葉を心に留め、良いものを吸収していきたいと話す。

そして、ときにはあえて「自分の意志とは反することにチャレンジする」のも刺激になるという。

「本で読んだことの受け売りなんですけど、最初はやる気が出ないって思うのは当たり前らしいですよ。でも、嫌なことをルーティンでやっていくと、そのうち頭が『いまやらんとあかんのや』って学習して、スイッチが入るんですって（笑）。そして、どんどんやる気になっていくんです。それを知ってから、とりあえず、気が乗らなくてもやってみたらええんやわって肩の力が抜けました」

昨年度後期のNHK連続テレビ小説「カーネーション」で演じたサエ、そして現在稽古中の「吉本百年物語――焼け跡、青春手帖」の浪花千栄子。どちらも大阪を舞台に、大阪弁で役柄を演じている。

「この２つの経験で、大阪弁でお芝居をする楽しさっていうのが分かってきました。今回の舞台を無事に終えることができたら、きっと標準語で話す設定の役柄でも、また違った自分の一面を出していけるんじゃないかなと思っているんです。それを楽しみに、この舞台を頑張りたいと思います」

取材・文／朝倉 真弓　撮影／柴田ひろあき

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