音楽も絵本も自分が“創りたい”作品を生み出していきたい【 今月のAnother Action Starter vol.4川本真琴さん】

川本真琴

川本真琴(かわもと・まこと)

1974年生まれ。96年に「愛の才能」でデビュー。97年発売のデビューアルバムはミリオンセラーの大ヒットとなり、日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞。2002年にメジャーレーベルとの契約を解消し、プライベートオフィスを設立。自身で原盤制作を行い、シーンにとらわれない、女性シンガーソングライターとしては非常に希有な歩みを続ける。12年、2冊同時刊行の『とうめいの龍』と『ブリキの姫』で絵本原作を手がける。12年8月、11年ぶりのワンマンライブ「風流銀河girl」を予定。

無機質な役割を担うのでなく
信頼できるプロとして役割を任せ合いたい

8月に予定されているライブを前に、着々と準備を進めている――と思いきや、「バンドメンバーに、早く曲を決めてくれって言われているんですよね。もう本当に決めなくっちゃマズいんですよ」と焦りを口にしながら、柔らかい笑顔を見せてくれた川本真琴さん。11年ぶりのワンマンライブといっても、ことさら気負った様子はない。

「メジャーでやっていた当時は会社に仕切ってもらっていたなかで、演奏と歌のことだけを考えていました。それが私に与えられた役割だったというか。例えばこのセッティングをしてくれたのは誰かとか知らなくても仕事は進んでいくし、わたしは乗っかるだけ、みたいに感じることもありました。けれど今は、周囲のプロの方々の力を借りながらライブの全体像を考え、いろいろなことを自分で決めながら組み立てています。もちろんそれぞれの役割があって、自分で機材までいじろうとかは思わないんですけど、全部を自然と把握できているのが今の環境。バンドやスタッフの人たちは、CD制作などで普段から一緒にやっている人たちばかりなんです。お互いに気心が知れているから、『任せられるところは任せる』という風に自然体でやっていけるんだと思いますね」

デビュー当時は、レコーディングしているときとテレビなどのメディアに出演しているときとでテンションが全く違っていたという。やがて、たくさんの仕事を抱え過ぎて集中力が途切れてしまい、生放送の音楽番組で歌詞が出てこないというハプニングを起こしたこともあった。

「疲れてたんでしょうね(笑)。いまでも、パタリと倒れてから『ああ、MAXを越えちゃった』と気付くことがあるし。でも、だからといって何でもかんでもセーブすればいいとは言えないと思うんですよね。周囲の方々に手伝ってもらって、支えてもらっているわけですから。だから、わたしは倒れる倒れないを気にして加減するのでなく、そのとき自分がすべきことを精一杯やっていきたいって思うんです」

人とのつながりから新しいことが生まれ
そこからまた音楽が生まれる

川本真琴

川本さんの「自分がすべきこと」。それは、曲作りばかりにおさまらない。2012年5月に2冊同時発売という形で絵本作家デビューをした。作詞と絵本の制作とは、どんな違いがあるのだろうか?

「曲に詞を書くときは、まず仮詞を付けるんです。でも、実際に発表するまでに、ずいぶん変わります。変え過ぎちゃって『前のも良かったね』なんて言われたら、また最初から検討してみたり、いろいろ手を加えていきながら仕上げていきます。反対に、絵本には“仮”が無いんです。3か月ぐらい文字にしないまま構想を練り続けていて、頭のなかで出来上がったお話を一気に吐き出していくという感じでした」

言葉を紡いでいく過程が違う、曲作りと絵本作り。川本さんにとって、人との関わりや、そこから得られる刺激もまた、音楽関係者と出版関係者とは異なるものだった。

「周りにいる人はだいたいミュージシャンで、そういう人ってクセとか思考回路とかが似てるんですよ。どこでマイナス思考になってしまうのかっていうポイントまで同じで考えていることが分かってしまう。でも、出版界の人って、いつも会っているメンバーとは、どこかが違うんですよね。職種によって人柄が違うというのは、面白い発見でした」

普段からいろいろな人の意見を聞いて参考にすることが多いという川本さん。自分の立場と違う人の意見は、意識的に取り入れるようにしているという。

「ずっと音楽をやっていると、一般的じゃなくなっちゃう気がするんです。だから、あえていろいろな人の話を聞いて、そこで面白いと思ったものを自分に取り入れるようにしています」

例えば、絵本の執筆にあたっては母校の先生にも意見を聞き、得られたアドバイスが大きなヒントになった。また、ミュージシャンとしての普段の活動に加え、母校の大学の曲を作ったり、地元の小学校でミニライブを行ったりという活動もそういった人とのつながりから生まれているそう。

「母校のために曲を作るというのは、世の中的には目立たないアクションかもしれません。でも、世代の違う学生や子どもたちと触れ合って、彼女たちが聞いている音楽を知り、考えていることを知るというのは、とても実になる経験でした。何より、世代の違う子たちが発するパワーを直接感じることができたのは良かったですね。こういった経験が、いつか詞になり、曲になっていくはずですから」

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