09
JAN/2020

#KuToo石川優実「日本のメディアは女性差別を直視していない」“自分を大切にできる人”が増えれば世界は変わる

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2019年2月に始まった「職場でのヒール・パンプスの強制を禁止する」ことを目指す署名キャンペーン「#KuToo」。

活動を牽引する石川優実さんはイギリス・BBCの「100 Women(100人の女性)」に選出され、「#KuToo」は「ユーキャン新語・流行語大賞」のトップテンにもノミネート。日本だけでなく、世界的にも注目を集めた。

Kutoo
女優・フェミニスト
石川優実さん

1987年愛知県生まれ。高校生の頃から芸能界に興味を持ち、2005年に芸能界入り。主にグラビアで活躍し、14年に映画『女の穴』に主演。17年に自ら受けた性暴力を「#MeToo」で発信。芸能の仕事と並行して、女性の生き方や権利に関する活動を行う。19年2月、職場でのヒール・パンプスの強制禁止を目指す署名キャンペーン「#KuToo」を開始。著書『#KuToo: 靴から考える本気のフェミニズム』(現代書館)
Twitter:@ishikawa_yumi

一方で、2019年末に発表された男女格差の度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数2020」で、日本は世界153カ国121位と、過去最低の順位となった。

世界がジェンダー平等を推進する中、遅れをとる日本。アンフェアな状況がいつまでたっても変わらないことにうんざりしてしまいそうになるけれど、石川さんは「疲れますよね」と頷きながら、それでも「#KuTooの活動は楽しいですよ」と微笑む。

石川さんが活動を通じて実現したいのは、「働くときの負担を減らして、心の余裕を増やすこと」だという。そうなったとき、私たちにはどんな変化があるんだろう。#KuTooの活動への想いを聞いていくと、少し明るい未来が見えてきた。

なんで女性は仕事でパンプスを履かなきゃいけないの?

#KuTooのきっかけは、本業である芸能の仕事とは別にやっていた葬儀の仕事でした。ヒールのパンプスを履かなければならなかったんですけど、歩きっぱなし、立ちっぱなしの仕事ですから、足への負担が大きくて。

ヒールが嫌いなわけじゃないし、今もパーティーなんかがあれば履きたいなと思うんですけど、日常で履くことはほとんどなかったんです。

ヒールに慣れている人の中には「逆にぺたんこ靴の方がつらい」って人もいますけど、私の場合はどうしても足に合わなかった。一日中お通夜や告別式がある日は、家に帰ったら足の小指から血が出ていたこともありました。

でも、冷静になって男性社員の足元を見てみると、誰もパンプスは履いてない。「だったら女性だって履かなくていいじゃない!」と思って、それをツイートしたら、思ってもいなかった大きな反響がありました。

この“愚痴ツイート”がどんどん拡散される中で、誰かが「運動にしましょう」と言ってくれて、そのリプライの中で「ハッシュタグをつけませんか?」という話があがり、また別の誰かが「#KuToo」というハッシュタグを作ってくれた。

私が主導したわけではなく、自然にできた流れに乗せてもらった感じで、#KuTooはスタートしたんです。

実はその前から、「#MeToo(※)」をきっかけにジェンダーの問題に関心を持つようになっていました。それまでは「ジェンダー」という言葉を知らないぐらい無知だったけど、ずっと違和感はあったんですよ。(※セクシャルハラスメントや性的暴行の被害体験を告白・共有する際に用いられるハッシュタグ)

Kutoo

例えば、私はグラビアの仕事をしているんですけど、私自身がセックスの話をするのは良くないこととされてしまう。そういう話をしたときに「誰とでもやるんでしょ?」って変な人が寄ってくることも多くて、それでセクハラを受けることにも納得がいきませんでした。

こういう違和感がジェンダーの問題にあることを知って、自分なりに勉強して記事を書いたりトークイベントに出たり、「性についてグラビア女優が真面目に発信する」活動を始めるようになって。その一環として、ジェンダーに関するいろんな理不尽をTwitterでつぶやいていました。

その一つが#KuTooに発展したツイートです。愚痴ツイートが署名キャンペーンに発展したわけですけど、愚痴は私にとってジェンダーの問題を啓蒙する活動の一つだったんです。

BBC「100人の女性」に選ばれたことに“驚かなかった”理由

2019年2月から#KuTooのキャンペーンを始めて、10カ月が経ちました。その間に私はイギリス・BBCの「100 Women(100人の女性)」に選ばれ、「#KuToo」は日本の流行語大賞のトップテンに入り、活動に関する本も出て、本当に大きな反響がありました。

あのツイートがこんなことになるとは、当時はもう、全然思わなかったです(笑)

Kutoo
「本の表紙には、『男女の靴が入れ替わっている』構図を選びました。これを見て違和感を覚える人に、『じゃあ今の世の中はどうなのか』を考えてほしくて。一目で現状のおかしさを分かってもらえる、いい表紙だと思っています」(石川さん)

ただ正直なところ、「100人の女性」はありえるかもと思っていました。なぜなら、ジェンダーに対する問題意識が日本と海外では全然違うから。

例えば、#KuTooの取り上げ方。海外のメディアからは「女性差別と戦っているフェミニストの石川優実さんに話を聞きたい」って取材申し込みがくるんですけど、日本のメディア、特にテレビでは、ドレスコードや労働と健康の問題にされてしまう。

日本のニュースやワイドショーで#KuTooが女性差別の問題として扱われたことはほぼなくて、メディアがジェンダーの問題を直視しないようにしているのを感じました

それに、声を上げた人へのスタンスが全然違うんです。

海外の人からはリスペクトの気持ちを感じるんですけど、日本は逆で「みっともない」って方向になってしまう。#MeTooで私が自分の経験を発信した時も、日本のメディアは完全にゴシップ扱いでした。

活動をする中でこういう違いを実感していたから、「100人の女性」に選ばれたことはそれほど驚かなかったんです。「社会的な大きな問題」と認識されているジェンダーの問題に基づいた活動をしている人を選出するのは、欧米では妥当なんだと思います。

そういう意味だと、日本の流行語大賞のトップ10に「#KuToo」が入ったことの方がびっくりしましたね。まずは知ってもらうことが大切なので、流行語に入れたのは良い機会。世界と比べたらまだまだだけど、少しは前進したのかなと思いました。

#KuTooは表現活動の一つ。「社会を良くしたい」から苦にはならない

この10カ月を振り返ると、すごく楽しかったなと思います。

Kutoo

大変なことはいろいろあるけれど、「この社会を良くしたい」って欲求があるから苦にはならないというか。

働いていた葬儀会社をつきとめられそうになって、好きだった仕事を辞めざるをえなくなったことだけはつらかったんですけど、それ以外は楽しんでやっています。

それに、私はもともと「表現をする」ことが自分のやりたいことなんです。#KuTooも「男女の偏りをなくしたい」って思想に基づく表現活動の一つで、活動家というよりは“タレントの石川優実”としてやっている感覚ですね。

バッシングが多いから精神的にしんどそうに見えるかもしれないですけど、批判の内容は#KuTooと関係ないことがほとんどです。そもそも署名の内容を読んでもいないし、私の容姿や仕事に対する差別的な言葉ばかり。

それはどう考えても相手が悪いから、気にしていません。私という存在が気に入らないんでしょうけど、それはただのいじめでしょ? って。物言う女が気に食わないから黙らせたいんだと思います。

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著書ではこれらのクソリプを紹介。「自分の言葉に責任を持ってほしくてやってるんです。『さらされた!』って騒ぐ人もいますけど、先に自分が何をしたのかを考える必要があるのではと思っています」(石川さん)

結局、建設的な批判ってあまりないんですよ。

「女性が仕事でパンプスを履かなければいけない風習を変えたい」という#KuTooの反対意見は「女性は仕事でパンプスを履かかなければいけない」にしかならないと思うんですよね。

そうなると、反対意見の人は「性別で役割を決めてしまっている」ことになります。男女雇用均等法や憲法を無視しているわけですから、議論にならないというか。

むしろ#KuTooが一つの風習を変えられれば、他の「性別で役割分担をしているから起きていること」も変えられるかもしれない。女性に限らず、男性が働く上で押し付けられているものだってたくさんありますよね。

自分を大切にする癖をみんなが持てば、世の中は変わるかもしれない

私は自分の活動によって、「働く時の負担」をなるべく減らして生きられるようにしたいと思っています。

我慢するのがいいって風潮はまだ残っていますけど、それを意味のある努力に変えた方が仕事は上手くいく。そして、心の余裕も増えると思っています。

私の場合は違和感の正体がジェンダーの問題にあったことに#Metooで気付きましたけど、その違和感を自覚できたのは、27歳のころに自分と向き合う時間を意識的につくったからなんです。

仕事から離れて、実家に戻ってぼーっとして。自分が何を考えているのか、何を思ったのか、しつこいくらいに考える時間を半年ほどつくったんです。その結果、今にたどり着きました。やっぱり心に余裕がないと、自分の本当の気持ちには気付けないと思うんです。

Change.orgの絵美さんのインタビューを読んだんですけど、まさに私も同じことを思っていて。自分と向き合うのは「どれだけ自分を大切にできるか」と同じだと思うんですよ。

パンプスの問題だって、体のことを一番に考えていたら、もっと早くに気付けたかもしれません。

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オフィシャルな場に合わせやすいフラットシューズを靴の通販サイト『ロコンド』と開発

足の痛み以外にも、女らしさを押し付けられていることへの精神的な負担を感じている人だっているかもしれない。そういうつらさに気付かず我慢してしまうのって、自分の気持ちをないがしろにしてしまっているのと同じです。

だからこそ、今よりも心に余裕を持って、自分を大切にする癖をみんなが付けられれば、世の中は変わるんじゃないかなと思っています。一人一人が自分と向き合う時間を1日5分でも持てたら、ちょっとずつ一人一人が変わっていって、それが大きな変化になる。

やっぱり「自分で考える」ことを諦めちゃだめなんだと思います。考えない方が一見楽そうに思えるけど、最終的な結果はきっと楽じゃない。

いろんな意見があるけれど、その中で「自分はどう思うか」を大切にして、まだ全然ジェンダーが平等じゃないからこそ、探り探りでもみんなで考え続けていくべきことなのかなと思います。

自分に負担のない、小さなアクションが、何かを変える

ただ、そうやって考えたことを、みんながみんな積極的に発信しなければいけないとは思いません。少なくとも、仕事を失う可能性があるアクションは避けた方がいい。

覚悟があるならもちろんいいんですけど、会社に直談判するのは体力も使うし、個人が上の人に言うことができない状況があるからこそ、#KuTooが運動になっているわけです。

私の本業は芸能のお仕事ですけど、それでも葬儀の仕事を失ったのはとてもショックでした。

Kutoo

だからこそ、自分の負担にならないアクションを起こしてほしいなと思います。匿名のSNSで違和感をつぶやくだけでも立派な一歩だし、それこそ自分が抱えている違和感に関する署名キャンペーンに賛同するのもいいですよね。

#KuTooみたいな活動って、みんなのちょっとずつのアクションの集まりでしかないんですよ。そして、一人の小さなアクションが活動を後押しすることにつながるんです。

私もバッシングが多過ぎて「敵ばかりなのかな」と思うこともあるんですけど、リアルな場所で声をかけてもらったりお手紙をいただいたり、応援していることを伝えてくださる方もたくさんいて。「ちゃんと味方もいるんだ」って思えるのは本当にありがたいんです。

だから「私が賛同しても何も変わんないだろう」って意識はぜひ捨ててください。本当に変わりますから。ただし繰り返しますが、そのアクションは無理のない範囲で十分です。

#KuTooでは今後、まず目先の目標として「パンプス強制はパワハラにあたり得る」の一文をパワハラの指針に入れてもらうことを目指しています。

同時に運動としては、エンタメの要素を増やしていきたい。

最近、チリで性暴力に対してダンスで抗議デモをしていたんですけど、こうやって音楽や踊りなどの表現を活動に取り入れていけば、もっと広がっていくんじゃないかなと思っています。

社会的活動と芸能・エンタメは別物として扱われがちですけど、やはりメディアが与える影響は大きいですから、そこを攻めなければ価値観は変わらない。

私個人としても、「芸能の仕事をしている人間が社会活動をすること」を「かっこいいこと」として認識してもらえるようにしていきたいと思っています。

もっとカジュアルに、誰でも社会運動をしていいと思うんですよ。でも今は、バッシングされたり意識高い系って言われたり、日本ではまだそういう人がバカにされがち。私はそれを、「かっこいい」に変えていきたい。

その結果、社会運動をやる人が次々と出てきてくれたら、どんどん社会も変わってくんじゃないかなと思います。

>>「#KuToo」の署名キャンペーンページはこちら

取材・文・構成/天野夏海 撮影/川松敬規(編集部)

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