“自分にとっての幸せ”が分かれば、産休・育休も怖くない。ミレニアル世代の起業家が初めて妊娠した今思うこと【SHE 福田恵里】
出産後も働き続ける女性は増えたけれど、育休後のキャリアには何となく不安がつきまとうもの。「育休期間をどう過ごすべき?」「復職後もやりたい仕事を続けるにはどうしたら…?」 本特集ではそんな疑問に答えていきます。
表参道・銀座に拠点を構え、20~30代の女性たちに向けたキャリア&ライフコーチングスクール『SHElikes(シーライクス)』を展開するSHE株式会社。
「キャリアだけに留まらない、人生100年時代における自分らしい生き方をサポートし、ワーク&ライフスタイルをアップデートする」というビジョンを掲げるSHEで、CCOを務めているのが福田恵里さんだ。
福田さんは、2019年8月に妊娠。つわりで苦しんだ日々や、仲間から驚くほど祝福を受けたことを、個人のnoteで発信していた。
会社をけん引していくポジションにいながら妊娠することに、不安はなかったのだろうか? また、どんな工夫をしていけば、「仕事と妊娠・出産・育児」を自分らしく両立していけるのか。
産休に入る1カ月半前。大きなお腹を抱えながら、今まさに「私らしい産休・育休」について思考を巡らせている福田さんに、お話を聞いた。
自分のライフイベントを、会社や世の中に還元したい
実は妊娠が分かった時、仕事に対する不安はあまり感じなかったんです。
もちろん「全力投球で仕事ができなくなるかもしれない」という不安がゼロかと言われれば、それは嘘になる。
でも、一緒に働いているSHEのメンバーを心から信頼していたので、物理的に働く時間が短くなったとしても、なんとか乗り越えていけると感じていました。
妊娠を発表した時も、チームの皆は泣いて喜んでくれたんです。
妊活中から「今月もまたダメだった」なんてオープンに話していたこともあり、まだ胎嚢(赤ちゃんを包む袋)が見えたかなくらいの超初期に、はっきりと報告をしました。
よく「職場に伝えるのは安定期に入ってからがいい」と聞くけれど、実際は安定期に入るまでが、心身ともにつらいタイミング。
その時こそ周りを頼りたいし、大切な人たちに喜んでもらいたいから、早めの報告にためらいはありませんでした。
それに、妊活中や妊娠初期から小まめに状況を伝えていたからこそ、チームの責任感も強まっていたような気がします。
「恵里さんをサポートしなきゃ」「恵里さんがいなくなっても会社を守らなくちゃ」というような思いを、すごく感じました。まぁ、私が自分で言うのも何なんですけど(笑)
チームのメンバーから「個人のライフイベントが、こんなにチームを強くするんだって感じました」とも言ってもらえて、とてもうれしかったです。
SHEはそもそも、女性の自分らしい生き方をサポートする会社。
今の日本には、キャリアステップの中で子育てを足かせのように感じてしまったり、産み時が分からなくて悩んでいたりする女性がたくさんいますよね。
だからこそ、私がママになって、ママの気持ちやリアルな実情を知ることができたら、事業にも奥行きが生まれると思いました。
自分の人生に起きるライフイベントを、どうコンテンツ化して世の中に還元していくか――。そう考えたら「子育てとの両立」という新しいチャレンジも、より楽しみに思えたんです。
共同創業者でCCOときけば、代わりがいないポジションのように見えるかもしれないけれど、SHEには本当に優秀なメンバーがたくさんいます。だから、私がいなくたって、全然大丈夫。
もともと属人化しない仕組みづくりも心掛けていて、極力自分がボールを持たないことを徹底していたのも、関係あるかもしれません。
チームの人と紡いできた時間や信頼感は、目に見えない立派な財産
「妊娠・出産で現場を離れたら、戻る場所がなくなるかもしれない」「責任ある仕事を任されているから、とても産休・育休なんて考えられない」といった悩みは、本当によく聞きます。
アラサー世代が多いSHEの会員さんも、まさにそういう年頃。転職活動をしているとき、面接で「お子さんの予定はありますか?」と尋ねられるのも、少なくないようです。デリカシーがなさ過ぎて、信じられませんけど……。
その上、まじめな方ほど自責の念をもってしまいがち。「子どもができて申し訳ない」「迷惑を掛けてしまうから言いづらい」なんて声もあるほどです。
だけど、一人の人間の命を授かるって、とても尊いこと。すべてのママが等しく素晴らしいし、本当に頑張っていると思います。
だから、妊娠しているときくらい、子育てしているときくらい、自分自身に甘えることを許してほしいと思うんです。
自分に自信がなくて、ついネガティブに考えてしまう気持ちも分かります。
でももしかしたら、スキルやポジションといった分かりやすい“ハード面”の自信は、ある人の方がめずらしいかもしれません。
だけど“ハード面”ではなく“ソフト面”に目を向けてみれば、きっとみんな誇れる部分があると思うんです。
例えば、任された仕事をいつも愚直にやりきっている、周りの人と笑顔で働いている……。そんな仕事との向き合い方やコミュニケーションだって、信頼を生んでくれるもの。
チームの人たちと紡いできた時間や信頼感は、目に見えないけれど、立派な自分の財産です。冷静に、自分の持っているハードとソフト面の価値を整理して、強みとなるポイントを見つけてほしい。
そしてあくまで申し訳なさそうにするのではなく、堂々と妊娠・出産を楽しんでほしいと思います。
自分の幸せを祝福してくれない環境なら、離れたっていい
どうしても「周りに迷惑を掛けてしまう」と自責の念がぬぐえない人は、いっそ周りの人に聞いてみてください。
「妊娠を考えているけれど自信がない」「私の仕事って、みんなからどう映っている?」と相談したら、自分では気付いていない魅力を、きっと教えてもらえると思います。
もし、それでもいい答えが返ってこなかったら。または、妊娠を伝えたとき、職場で嫌な顔をされてしまったら。
そんな環境で働き続ける必要は、全くありません。
子どもができるということは、その人の人生にとって最もうれしいかもしれないほどのこと。それを一緒に喜んでくれない環境なんて執着しなくていいと、私は思います。
まだ妊娠をしていないなら、自分に子どもができたときのチームの反応を想像してみるのもよさそう。それで喜んでもらえる自信がないのなら、いっそ身軽なうちに、別の環境を探してもいいかもしれません。
子育てもキャリアも諦めない生き方は、きっとこれからもっと一般的になっていくはず。仕事も人生も大切にできる居場所を、みんなに見つけてほしいなと思います。
とはいえ、自分が抜ける分の仕事を頼むという意味では、周りに負担をかける場面はどうしても出てきてしまいます。
だからこそ「それでもあなたと働きたい」「この人のことを応援したい」と思ってもらえるように、普段からしっかり頑張っておくのは自分の責任。
良い環境をつくるために、自分がまず真摯に仕事をしたり、コミュニケーションを図ったりするのが、シンプルだけどとても大切なことだと思います。
自分の幸せを考えれば「べき論」に惑わされることはなくなる
出産予定日が4月末なので、3月末から産休に入り、滋賀県の実家に里帰りします。今のところ5月あたりまではお休みをいただくつもりですが、リモートでできることは、結局やり続けてしまいそう。
SHEの仕事は好きでやっていることだし、私にとっては人生の一部。もともと土日に仕事をすることも全然嫌じゃないので、「どうやってちゃんと休むか」の方が課題かもしれません(笑)
東京に戻ってきてからは、毎日子どもを連れて出社しようと思っているんです。昔、SHEとシェアオフィスをしていた別の会社で、0歳の赤ちゃんを毎日連れてきていた方がいたんですよね。
ママが打ち合わせなどで席を外しているときは、他の社員さんたちが交代で赤ちゃんのお世話をしていて……。まるで、ママがたくさんいるような感じ。
しかも本当のママ以外はみんな、子育て経験のない若い方でした。だから私も、家族を拡張するようなイメージで、社員のみんなと子育てしたいと考えているんです。
その点、SHEで最初に子どもを産むのが私でよかったなと思います。SHEの社員の中でも、既婚者が増えてきているので、もしかしたら数年後にはベビーラッシュがくるかもしれません。
だからこそ、今ここで私が道を切り開いておけば、これからチームにママが増えても、皆で一緒に育てながらキャリアを磨けると思うんです。
皆の協力を得ながら、自分の人生と仕事を両立している姿を見せられたら、きっとチームにも良い影響が出ると感じています。
今はまだ産休・育休などに不安をおぼえる女性が多いけれど、SHEなら空気を変えていける。
むしろ、これほど女性の生き方に向き合っている会社なのに「実際に子どもを産んだら両立できなかった」なんて絶望ですよね(笑)
ライフイベントによって、自分も周りも高められると証明していくのは、私たちのミッションだと考えています。
妊娠・出産は自分の身体が変わっていくことでもあるし、子どもを産めば今まで通りの人生ではなくなるから、不安はもちろんあります。
だけど、その時々で自分にとっての幸せが何かをちゃんと考えていれば、むやみに世間の「べき論」に惑わされることはなくなると思うんです。
専業主婦としてめいっぱい子育てをすることも、子どもを連れて出勤することも、保育園に預けて時短で働くことも、本人にとって幸せなら、どれも素晴らしいこと。
自分にしか、自分の幸せって分からないんですよね。
不安はあっても、自分の思想や美学に基づいてアクションを取り続けていけば、きっと“自分自身の幸せ”にたどりつけるはず。
出産はまだこれからだけど、これから自分の人生や生き方がどう変化していくのかが本当に楽しみです。
取材・文/菅原さくら 企画・編集・撮影/天野夏海
『特集:「私らしい育休」って何だろう?』の過去記事一覧はこちら
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