アパホテル社長に学ぶ不安定な時代を生き抜く秘訣「経験、実績、地位…何もない今のあなたが最強よ!」【元谷 芙美子】
最近、日本全体が暗いムードに包まれている。
新型コロナウイルス感染拡大のニュースが常に目に入ってくるし、“いつも通りの日常”が送れないことにストレスを抱えている人も多いかもしれない。
これから先も、自分に仕事はあるのだろうか。世界はどうなってしまうのだろうか……。先行き見えない未来のことを考えると、どうしても不安になってしまう。
でも、この人は今日も元気だ。アパホテル社長・元谷芙美子さん。

元谷 芙美子(もとや・ふみこ)さん
福井県出身。高校卒業後、福井信用金庫に入社。営業として活躍した後、元谷外志雄氏と知り合い、結婚。71年、夫が起業した信金開発株式会社(現:アパ株式会社)に入社。94年、アパホテル株式会社取締役社長に就任。その後、早稲田大学大学院博士課程を修了。自ら広告塔となってメディアに登場し、アパホテルの認知度向上に貢献。以降、順調に成長を続け、2020年3月24日現在、アパホテルネットワークの部屋数は100,000室を超える。著書に『強運 ピンチをチャンスに変える実践法』(SBクリエイティブ)などがある
誰よりも大きな声で「おはようございます」と挨拶し、颯爽と職場に現われる元谷社長。溌剌とした笑顔に、不安そうな様子は一切ない。
実際のところ、観光・ホテル業界に属する多くの企業が今回の“新型コロナショック”で大きな痛手を負っている。
アパグループも例外ではないはずだが、元谷社長は「ピンチの時にこそ、チャンスがあるものよ」とにっこり微笑む。
なぜ、こんなにも前向きでいられるのだろうか。日本最強のポジティブウーマンに、不安定な時代を生き抜くためのヒントを聞いた。
ピンチはいつだって、チャンスに変わる
新型コロナウイルス感染拡大の件で、今世の中はすっかり暗いムードよね。みんなピリピリしているし、これから先のことが見えなくて不安になっている人もいる。
実際、海外からのお客さまが減っていく中で、日本のホテル業界は大きな打撃を受けています。でも、私はこのピンチさえも、長い目で見ればチャンスに変わると信じている。

海外からいらっしゃるお客さまが減っていく中で、アパホテルの経営にも苦しい面があるのは事実です。
しかし、当社はどこか一つの国や地域のお客さまに頼り切るような経営はもともとしていませんでした。なので、今回のことも致命傷にはなっていません。
実は以前、アパホテルの客室に設置していた書籍のことで、中国から猛烈に非難されたことがありました。その結果、今も中国からアパホテルのサイトを閲覧することができないようになっているのをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
当時は、「こんなことになって、大ピンチじゃないか」といろいろな方に言われましたよ。それはそうですよね、当時の観光業界は中国特需で沸きに沸いていましたから。中国からのお客さまがいなくなるというのは、業界の常識から言えば非常事態です。
でも、今のようにリスクヘッジをしながらの経営ができるような体質に会社が変わることができたのは、この一件があったからこそ。かつて経験したピンチから得た学びが、今の私たちを強くしてくれています。

本当に、人間万事塞翁が馬(にんげんばんじさいおうがうま)ね。その時は大ピンチに見えることも、時が経てばチャンスに変わることはいくらでもあるんです。
だから、今回のことも同じじゃないかしら。
短期的に見れば大ピンチかもしれないけれど、長期的に見れば、これもホテル業界を再編するチャンスへとつながるかもしれない。何がどう転ぶかは、分からないものです。
できることはただ一つ。このピンチの間にもしっかり前を向き、どれだけ次の一手を仕込めるか。それが未来をより良いものへと変える、唯一の手段だと思います。
ポジティブマインドは、決して感情論じゃない
今、未来を悲観している人がいるなら、そんなことに時間を使っていないで、この逆境をどう逆手にとるか知恵を絞ってみて。

これから世界がどうなるか分からなくて不安でしょうけど、「不安だ」っていくら愚痴をこぼしていても何も変わらない。
闇雲にマスクやトイレットペーパーを買い占めたりしても、あなたの不安はずっと心の中にあり、消えてはくれません。
では、どうすればいいのか。一寸先も見えない不安定な時代を生き抜くために必要なものは、知識と情報です。
実のところ、アパホテルではパンデミックの危険性について3年前から真剣に議論を重ねていました。そして、もしもそうなったときにどうするか、経営陣で対策も決めていたのです。
だから、今回のような事態も決して私たちにとっては「想定外のこと」じゃない。正しい知識を身に付け、時代の先を読んで行動してきたからこそ、何が起きてもたじろがずに対応することができました。
もしもあなたが不安定な世の中を生きていくことに不安を感じているなら、今すぐ勉強しましょう。経済のこと、環境のこと、あなたの生活に関わることをしっかり学んでください。
はっきり言いますが、近道はありません。

豊かな知識は、あなたが幸せに生きるために欠かせない財産であり、武器になります。そして、自分の目でしっかり世界を見渡せるようになってこそ、無用な心配ごとからも解放されるんです。
もちろん、いつも通りの日常が送れなくて気落ちしてしまうのは仕方のないこと。日経平均もガクッと下がって世の中も停滞ムードだし、何となく暗くなってしまうのも分かります。
でもね、そんな時こそ自分で気を立て直して、戦略を練るの。「このどうしようもないピンチをチャンスに変えるには、一体どうしたらいいんだろう」って。
ポジティブマインドって決して感情論ではなく、知識と戦略の積み重ねなんですよ。不安定な未来を明るく生き抜ける人というのは、ちゃんと学んで、自分の頭で考えて答えを出せた人たちだけなんです。
何もないなら、何でもできる。今のあなたが最強よ!

また、どんな時でも挑戦することをやめないのは大事ね。不安定な時代だからって、守りに入っても仕方ない。自分らしく、やれることはどんどんやっていきましょう。
世の中がこんな時だから……なんて、やりたいことに挑戦するのをやめたり、何かを我慢したり、遠慮することはないんじゃないかしら?
でも、こういうことを言うとね、「自分には何もできることがないんです」なんていう方もいるんですよ。私から言わせると、絶対にそんなはずはありません。
若くて経験がない、何も成し遂げていない、地位も名誉も何もない……。そんなの最高じゃないですか。何もないなんて、一番の自由よ?
人は、お金とか役職とか、いろいろなものを得るたびにしがらみに縛られていく。既得権益を奪い去るのが難しいように、人は一度得たものをなかなか捨てられなくなるものなんです。すると、できないことがどんどん増えてくる。
ですから、何もないっていうのはね、何でもできるってことと同じことだと考えてご覧なさい。何もない今のあなたこそ、最強なんですよ!

そして、どんなに時代が不安定で移り変わったとしても、自分の人生は自分のもの。それだけは変わらぬ事実です。
他人にどう思われるかなんて気にせず、あなたはあなたらしく、あなたの好きなように生きてください。
私はね、今72歳なんですけど、華やかなお帽子やミニスカートが大好き。お気に入りのお洋服を着て、皆さんのために一生懸命仕事をするのが、私らしいなって思っています。そしてそれは、90歳になったって変わらないでしょうね。
「その歳でミニスカートはきついよ」なんておせっかいを言う人がいるかもしれないけれど、「あら、私に注目してくれてありがとう」って言ってあげればいいだけのこと。何を言われようと、全然気にしません。
だって、私が幸せかどうか決めるのは、私ですからね。「自分は世界一の幸せ者だ」って思えるなら、それでいいじゃないですか。そう考えるのはタダですよ。
さぁ、今すぐできることからトライしてみて。そして、「ピンチはチャンス」「自分は世界一の幸せ者」って口癖のように唱えてみて。あなたの人生も、いい方向に動き出すはずですよ。
取材/横川良明 企画・文/栗原千明(編集部) 撮影/赤松洋太