現代版「赤毛のアン」に学ぶ“自分軸を貫く”処世術とは?働く女性の新バイブル『アンという名の少女』

海外ドラマコラムニストの伊藤ハルカが、旬な海外ドラマ作品の中から、注目のパワーウーマンをご紹介! 強くて、知的で、お茶目で、美しい……個性的なキャラクターが続々と登場する海外ドラマから、女性の“働き方&生き方”を学んじゃおう!
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本連載では、これまでにさまざまなな大人の女性たちの人生や生き様をご紹介してきました。しかし、パワーウーマンは必ずしも「大人」とは限りませんよね。
今回ご紹介する作品、『アンという名の少女』(Netflix)に登場するのは、不遇な環境に生まれ育ちながらも、気高く生きる13歳の少女です。19世紀を舞台にした小説『赤毛のアン』の設定を忠実に守りながらも、セクシュアリティーやフェミニズムなど現代社会を反映するテーマをストーリーに加え、新時代の「赤毛のアン」として話題の一作です。
今月の作品:アンという名の少女(Netflix)

世界中で愛される不朽の名作「赤毛のアン」を原作にするNetflixオリジナルシリーズ。舞台や映画などこれまで幾度となく映像化されてきた小説に、差別や偏見、LGBTQにルッキズム、アイデンティティーや女性軽視など現代の社会問題が色濃く描かれ、新感覚な「赤毛のアン」に仕上がっています。
舞台は19世紀後半のカナダ。美しい自然が溢れるプリンス・エドワード島に住むマシュー・カスバートとマリラ・カスバート兄妹が、農場の手伝いをしてくれる養子を迎え入れるところから物語はスタートします。年老いて体力に限界を感じていたため、力仕事を任せられる男の子を希望していた二人。しかし実際に彼らの元にやってきたのは、やせっぽっちの女の子アンでした。
生まれてすぐに両親を亡くし、孤児院に身を寄せていたアン。自分にも家族ができると知り、大喜びでカスバート家にやってきたのですが、手違いがあったと知りがっかり。しかし、想像力が豊かで聡明なアンに惹かれたカスバート兄妹はアンを引き取ることを決意。三人は新しい生活をスタートさせます。

無事に家族としてカスバート兄妹と共に暮らせることになった後も、「孤児だから」と近所の人から偏見の目で見られたり、学校では同級生からいじめにあったり、さまざまなトラブルがアンを待ち受けます。
しかし、どんな時も自分に正直に、人に合わせるのではなく自らが正しいと信じる道にまっすぐに進むアン。そんな彼女の凛々しい姿に多くの人が魅了され、次第に心許していきます。
一方で、マシューとマリラが独身を貫いてきた理由や、女性であるがゆえに社会進出の夢を絶たれてしまう現状など、原作ではあまり触れられていなかった現代社会の問題についても、深掘りされています。
時代は違えど、今を生きる女性たちが抱えている悩みと通じるものは多いと感じるはずです。
今月のパワーウーマン:アン・シャーリー(エイミーベス・マクナルティ)

どんな環境に生まれるか、それは誰にも選べません。生まれてすぐにアンのように孤児になってしまう人もいれば、恵まれた家庭に生まれ育つ人もいます。肌の色も自分のセクシュアリティーも選べません。
それなのに、孤児として生まれたことで差別を受け、いじめにあうアン。憤りを覚えるシーンも多いですが、人々の先入観や誤解をゆっくりと解消し、自分を認めさせるアンの手腕は脱帽もの。
本を読むことが大好きなアンは、そこで得た知識を生かして村人が直面する問題を解決したり、持ち前の明るさで人々の心に変化を起こしていきます。
生まれによって差別されている状況は、普通だったら卑屈になってもおかしくなさそうなもの。しかし、そんな中でもアンがまっすぐにたくましく育った理由は二つ。
一つは、小さな幸せを見つける名人であったこと、もう一つは、自分を決して卑下せず、誇り高く生きていることだと感じます。

どんなに不幸で悲しい現状でも、その中で小さな幸せを見つけられる人は強いですよね。アンは川に水が流れ、小鳥がさえずるだけで最高の幸せを感じられる人なのです。
窓の隙間から太陽がさすだけで心踊る少女です。そんなときでも与えられた環境を楽しむことがハッピーシンキング脳の持ち主なのです。
また、シーズン1の1~2話で印象的なシーンがありました。男の子を養子として迎えたかったカスバート家の誤解により、アンは一度は孤児院に送り返されてしまいます。
すぐにマシューがアンのいる場所まで探しに行き、ようやく駅で見つけるのですが、アンは共に帰宅することを拒否します。「私には私っていう家族がいる!だから平気よ」と。
私はかわいそうな人じゃない、同情は結構という、アンの意志を感じさせる台詞です。

例え周囲が自分を惨めな人という烙印を押しても、自分自身は決してそうは思わない。常に気高く生きているのがアンという人なのです。
その生き様が、少女ながら非常にかっこいい。どれだけ辛い状況にいても、自分がかわいそうかどうかは自分の心が決めること。誇り高く前を向いて生きることの力強さをアンから感じることができます。
さらに、名言を生む達人でもあるアンは、読書家なだけあって言葉選びの能力にも優れています。
マリラに初めて名前を聞かれた時には、「私の名前はアン。つづりの最後にEがつくと思って呼んで。Eがつくほうが立派に見えるから」と名回答。
これはタイトルにもそのまま使われていて、「Anne With E」が英語タイトルでもあります。
自分の世界をしっかりと持ち、それをきちんと言葉にして他人に伝える。おかしな目で見られても自分を曲げずに伝え続ける。そのアンのぶれない姿勢もまた、彼女を強くし、村人たちの心を動かしたのかもしれません。

Netflixオリジナルシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中
たった13歳の少女から学べることは数知れず。勇気とパワーをたっぷりくれるアンを演じるのは、1,800人以上の中からオーディションで抜てきされた、当時14歳のアイルランド系のカナダ人女優エイミーベス・マクナルティ。
赤毛の三つ編み、ソバカスだらけの頬、空想好きでおしゃべりな女の子。原作の設定にぴったりな彼女こそまさに新時代のアン。息をするようにアンを演じていて、演技をしている感覚が全くなく、自然な姿を見せてくれます。
「アンの生きうつし」として評価の高いエイミーベスですが、本作がアメリカでプロモーションされる際、エイミーベスの画像が一部修正されてしまいました。色を白くしてソバカスが消された写真が使われてしまったのです。
これには、撮影した写真家ケイトリン・クローネンバーグも「がっかり」とコメント。“美しさの定義は自分で決める”ことが本作のテーマでもあるのに、ポスターでそれを消してしまっては話が通りません。
ルッキズムがまだまだ根強く残っていることがよく分かるトラブルです。

どんな状況でも自分らしく、胸を張って、気高く生きていけば人生はきっと楽しくなる。他人からの評価を気にするのはもうやめにしよう。新時代の「赤毛のアン」はそんなメッセージを私たちに届けてくれます。
作品情報
『アンという名の少女』
【配信】
Netflixオリジナルシリーズ。シーズン1~3独占配信中
https://www.netflix.com/title/80136311
【放送】
9月6日(日)よりNHK総合でシーズン1の放送がスタート
『今月のパワーウーマン』の過去記事一覧はこちら
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