07 JUL/2020

『ビカミング・ア・ゴッド』人生のドン底から這い上がる新時代の主婦ヒロインに学ぶ、不確かな時代を生き抜く“雑草力”

伊藤ハルカ
海外ドラマコラムニスト・伊藤ハルカが推薦!
今月のパワーウーマン

海外ドラマコラムニストの伊藤ハルカが、旬な海外ドラマ作品の中から、注目のパワーウーマンをご紹介! 強くて、知的で、お茶目で、美しい……個性的なキャラクターが続々と登場する海外ドラマから、女性の“働き方&生き方”を学んじゃおう!
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withコロナ時代、混沌とした状況が続く中、企業だけでなく私たち個人も変化の時を迎えていると思います。

働き方も暮らし方もこれまでの通りにはいきません。柔軟に対応できる方もいれば、戸惑っていらっしゃる方もきっといるでしょう。

では、今後も起こり得る未曾有の事態に備え、私たちは今、何をすべきなのでしょうか。

その答えを握る一つの海外ドラマを紹介します。海外ドラマ史上最もクレイジーでタフな女性ヒロインの成り上がりストーリーです。

今月の作品:『ビカミング・ア・ゴッド』(スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS)

『ビカミング・ア・ゴッド』

女優のキルスティン・ダンストが主演、俳優でクリエーターのジョージ・クルーニーが製作総指揮を務めるブラック・コメディー『ビカミング・ア・ゴッド』。

昨年アメリカで放送され、放送後わずか一カ月でシーズン2の製作が決まった大ヒット作です。

舞台は、1992年のフロリダ州オーランド。「いつか貧乏暮らしから抜け出したい」と強く願う主婦のクリスタル(キルスティン・ダンスト)が、ある事件をきっかけに、ネットワークビジネスの「FAM」に関わり始め、上層会員を目指しあの手この手で成り上がっていく様を痛快に描きます。

『ビカミング・ア・ゴッド』

もともと「FAM」の活動に熱心だったのは、クリスタルの夫のトラヴィスでした。下層会員の彼は先輩会員に説得され、会社員を辞めて「FAM」の活動一本に絞ることに。

そんな矢先にある事件が起き……クリスタルは、収入なし、貯金なし、家もなしの不幸の三拍子が揃った環境に身を置くことになってしまいます。

手元にあるのは、多額の借金と「FAM」の商品在庫のみ……。銀行に融資を申し出たり、高校時代の友人に仕事を紹介してもらえないか頼み込んだり、幼い娘を抱えるクリスタルは生きるためになりふり構わず行動します。

『ビカミング・ア・ゴッド』

しかし、誰も助けの手を差し伸べてくれません。そこで仕方なく行き着いたのが、夫が没入したネットワークビジネス「FAM」でした。

もとは最低賃金で働く主婦だったクリスタルの手段を選ばない躍進劇、そして1990年代から今なお存在するネットワークビジネスの光と闇が、ブラックユーモアたっぷりに描かれます。

今月のパワーウーマン:クリスタル・スタッブス

『ビカミング・ア・ゴッド』

トラヴィスと結婚してから落ちぶれた生活を送ることになったクリスタルですが、高校時代は地元のビューティーコンテストで優勝するほどの美貌をもつ学校のアイドルでした。

今やその面影はなく、甲斐性のない夫の尻を叩き、毎日ギリギリの生活を送る主婦に。「高校時代はかっこよかったのに・かわいかったのに、今は見る影もない残念なキャラクター」は、視聴者から愛される傾向にありますね。

それは、私たちが「完璧なヒロイン」ではなく、「リアルなヒロイン」を求めているからかもしれません。

しかし、ヒロインが負け要素ばかりだと面白くないのも事実です。うまくいかないことだらけでも、逆境に打ち勝っていく姿が見たい。本作のクリスタルは、そのあたりの塩梅が完璧なキャラクターです。

人生最大のピンチに立たされている彼女が、底知れぬタフネスで“巻き返し”を図っていきます。

『ビカミング・ア・ゴッド』

高校時代の同級生や町の人は、彼女を「負け組」と噂しますが、彼女自身は自分を「負け組」とも「勝ち組」とも思っておらず、自分にも人生にも過度な期待をしていません

彼女が見ているのは、「目の前の現実」を何とかすることだけ。子どもに与えるご飯が必要で、そのためにはお金が必要、そのためには仕事が必要で……「それならば何でもやるしかない!」といった調子です。

踏まれても、蹴散らされてもまた這い上がる、いわゆる“雑草力”を持ち合わせています。自分を憐れんで立ち止まったり、現状を卑下するのではなく、今やるべきことに集中する力があるのです。

『ビカミング・ア・ゴッド』

多くの女性たちが、これまでに何度も逆境を経験していると思います。そんなとき、ついオーバーリアクションをしてしまったり、他人と自分の人生を比較して落ち込んでしまうものですが、彼女を見ている「そんな思考に陥る必要はない」と思えてきます。

他人と自分を比較しない、自分の人生に完璧を求めない、起きてしまったことを卑下しない、問題を解決したいなら「今すぐにやれること」を探してそれだけに集中する。これを心に留めておくだけで、クリスタルのようにタフな自分になれそうです。

どんなピンチもタフに切り抜けていく、“雑草力”の重要性を、クリスタルが教えてくれます。

“モテ美女”のイメージを脱ぎ捨てたキルスティン・ダンスト

『ビカミング・ア・ゴッド』

クリスタルを演じるのは、ハリウッドを代表する実力派俳優のキルスティン・ダンスト。3歳の時に子役としてデビューして以来、38歳になる今日まで俳優街道をまっすぐ突き進んできた彼女。

有名な出演作でいうと、2002年〜2007年までの映画『スパイダーマン™️』シリーズのヒロインや、ソフィア・コッポラが監督を務める『マリー・アントワネット』があります。

いわゆる、“男性からモテる美女”を演じる機会が多かったのですが、2015年のドラマ『FARGO/ファーゴ』で訳ありの主婦を怪演。一筋縄ではいかない女性役を見事に自分のものにし、俳優として新たな道を歩み出します。

これまではどちらかというと“キュート”な役を演じることが多かった彼女が、体重を大幅に増量して臨んだ本作のクリスタルは、まさに役者人生の集大成

米ローリング・ストーン紙は、「キルスティン・ダンストの過去作の中で最高の出来」と高く評していますし、今年のゴールデン・グローブ賞でも女優賞にノミネートされています。

『ビカミング・ア・ゴッド』

キルスティン・ダンスト自身も「撮影中はイカれたことをたくさんやった。俳優歴は長いけど、かなり興奮したわ」と語るなど、本作には特別な思い入れがあるようです。

プライベートでは、前述のドラマ『FARGO/ファーゴ』で共演した俳優と結婚し、2018年に第一子が誕生したばかり。幼い娘を抱えている点では、本作のクリスタルに共通するものがあります。

もしも自分がクリスタルと同じ状況に陥ったらどうするか……。 同じ母親として、想像しながら演じた局面もきっとあったのではないでしょうか。

赤ちゃんを抱え、タバコをふかしながらバイクで銀行に向かうやさぐれ主婦のクリスタル。キルスティン・ダンストが見せた新しい一面は、皆が想像する「海外ドラマのヒロイン」とはほど遠いけれど、生きることに貪欲で、私にはとても清々しく映りました。

世の中がどう変わるか分からない、不確かな時代に必要なもの。それは、どんなピンチに陥ったときもしぶとく生き抜く“雑草力”。雑草パワー全開の新時代のヒロイン、クリスタルから多くのことを吸収してくださいね。

作品情報

『ビカミング・ア・ゴッド』
【配信】
Amazon Prime Videoチャンネル 「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」
<字幕版・吹替版> 5/1(金)より全話一挙配信中

【放送】BS10 スターチャンネル
6/19(金)より 毎週金曜23時放送ほか ※6/13(土)20時~ 第1話 先行無料放送
6/24(水)より 毎週水曜22時放送ほか

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https://www.star-ch.jp/drama/onbecomingagodincentralflorida/