ガラスの天井の残る日本で、私たちにできること「“女性だから”と諦めないで。毎日学び、前進を」【佐々木かをりさん】
「ガラスの天井」という言葉をご存じだろうか。女性が組織内でのキャリアアップを目指すときに、一定よりも先に進めなくなる状況を「目に見えない障壁に阻まれている」と表した言葉だ。
近年、結婚・出産後の女性が働き続けることが当たり前となりつつある。女性活躍というフレーズもよく耳にするようになった。それでも、2021年3月31日に発表されたジェンダー・ギャップ指数2021では、日本は153カ国中120位。G7の中では最下位となった。
「ガラスの天井は、今もまだ確かに存在します」
そう話すのは、『国際女性ビジネス会議』を主催する株式会社イー・ウーマン代表取締役社長・佐々木かをりさん。過去25年間の『国際女性ビジネス会議』開催を通じ、世の中の確かな変化を感じる一方で、それでもまだ日本には男女不平等が蔓延していると佐々木さんは断言する。
それはなぜか? 今の日本で女性が理想のキャリアを実現するためにはどうすべきなのか? 詳しく聞いた。
「ガラスの天井」は、まだ女性の上にある
ジェンダー・ギャップ指数について、私はこのランキングは“当然”の結果だと思っています。むしろ順位が上がらなくて良かったと感じたほどです。
なぜなら、日本は男女格差の解消のためにまだ何も動いていない状況。順位が上がれば、動きもそこで止まってしまいます。
世界の中で今どの位置にいるのか。順位を突きつけられることが、「今、もっと変わらなければ」という社会へのメッセージにつながると思います。
近年、ジェンダーの問題が各所で話題に上がることが増えてきました。私がキャリアを歩み始めた頃、日本の政治・経済・メディアといった表舞台に立つのは男性が中心。そこで取り上げられるテーマも、男性目線のものばかりでした。
しかし#MeToo運動に始まり、選択的夫婦別姓についての議論や、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の会長だった森喜朗氏による女性蔑視発言などがメディアで大きく報道されていた様子は、皆さんの記憶にも新しいかと思います。
これはつまり、女性の権利を無視できない時代が日本にも訪れたということ。日本の過去を見れば、大きな変化であり、機会であることは事実です。
今から30~40年前、女性のキャリアは大学を卒業した瞬間で閉ざされていました。大学でどんなに優秀な成績を修めても、履歴書に「女性」と書かれているだけで会社説明会にも参加できないことが多かったのです。
そんな時代と比較すれば、今は男女共に活躍できる社会になったように見えるでしょう。もしかしたら、20~30代の女性の中には、日常の中で深刻な男女格差を感じるシーンが少ない方もいるかもしれませんね。
ですが、ぜひ覚えておいてください。平等に見える世の中でも、男女格差は無くなっていません。女性のキャリアを阻む「ガラスの天井」が、いまだに存在しています。
だから世界で120位。日本では女性の経営者や会社役員が少ない状況が続いていますし、政界においても女性閣僚はわずか2名。こうした現状を見れば「ガラスの天井」は存在するということが分かるはずです。
「女性枠」を敬遠しないで。ポジションは取ったもの勝ち
男女間の不平等を無くし、女性も活躍できる社会にするためには、政治・経済の世界にいる男性たちに働き掛けていくことが重要です。
そのためには、二つのアプローチがあります。
一つは人権問題であることを明確に語り、格差を無くす必要があることを伝える方法。女性も男性も、同じ権利を持つことができるという基本を守ることを推進していく大切な道です。
もう一つは、男性たちにとっても女性活用はプラスになることだと「実利」があることを伝える方法です。
近年、女性活躍や人種など、多様な人が活躍している企業の方が、企業の利益が高いというデータが出ていることをご存知でしょうか。
「女性活用によって、企業が利益を上げられる」というデータを示し、実利につながることが伝われば、人権問題と言われても動かなかった人からも関心が得られる可能性があります。結果、女性の管理職・役員を増やそうと取り組む企業も増えてきました。国が女性活躍推進に舵きりしたことも影響として大きいでしょう。
そんな中、「女性枠」でポジションを与えられることに抵抗のある女性もいるかと思います。けれど、視点を変えてみれば、これまでは男性たちが「男性枠」を与えられてきただけのこと。それを嫌がる男性はいませんよね?
現在、内閣府の男女共同参画基本計画では、社会におけるさまざまな分野の指導的地位に対し、女性が占める割合の具体的な数値目標を掲げています。しかし、それがそもそもおかしなことなのです。
私は男女共同参画会議の議員を務めているので、先日の会議で、「この数値を男性にしてごらんなさい」とコメントしました。女性比率15%を目指すということは、言い変えれば「男性枠として85%を死守する」ということ。いかにいびつな状況であるかが分かりますよね。
ですから女性の皆さんには、何枠であろうと取れるポジションは取ってほしいと思います。「女性だから」と気負ったり、諦めたりする必要はありません。その役にあなたがついて、成果をあげればいいのですから。
女性役員や経営者を増やすことで、“意識”を変えていく
「企業の経営層に女性を増やしていくアプローチ」を続けていると、「なぜ経営層にこだわるのか」「現場が変わらなければ意味がないのでは」と言われることがあります。
全くその通りですが、これも多様なアプローチがあるでしょう。決定権を持つ男性と一緒の議論テーブルに女性がつくことで、語られる課題や実施される施策に女性の視点が加わっていきます。そしてその場の男性たちのエデュケーションにもなる。結果、彼らの意識も決定も変わっていくのです。
私は社会を変えていくための課題は、多くの人の“意識”にあると思います。この“意識”というのはなかなかくせ者で、法律でも決められないし、強制もできないもの。だからこそ、決定権のある人と同じ立場で発言する女性を増やしていくことが社会全体の意識の変化にもつながると考えています。
もしも日本企業の経営層の半数が女性になる日がきたら、現場だってあっという間に変わるはず。管理職を増やすには時間がかかっても、例えば女性社外取締役を増やすことは株主総会で選ばれれば良いのですから、一年後に可能です。さまざまな形で管理職、幹部、役員に女性を増やして、大きな動きを作りたいと思います。
私が毎年開催している『国際女性ビジネス会議』では、性別に関係なく、自らを高めて貢献するためのテーマを扱っていますが、「女性役員」をテーマにした分科会を約10年前に行った時は30人前後の参加でしたが、近年では400人ほどが選んだんです。全国の企業で女性取締役に関心があることが分かります。
また、会議参加者のアンケートで、かつては将来のキャリアについて「いずれは起業したい」と回答する参加者が多く、今いる組織内にガラスの天井があることを察して諦めてしまう人をよく目にしました。しかし最近は「勤務先の会社で上のポジションを目指す」という声が圧倒的に多くなりました。組織の中で決定権を持つポジションを目指す女性が増えてきていることを感じます。
さらに昨年の『国際女性ビジネス会議』(オンライン開催)では、とても素敵な言葉を参加した女子大学生たちから聞くことができました。
「これほどまでに楽しそうに働いている女性を見たのは初めて」「こんなに前向きな大人と触れ合ったことがなかった」、そして、「今までは企業で働くことが嫌だと思っていたけれど、企業の中で上を目指そうと思った」と言ってくれたのです。
私たちは、どうしても身の回りにいる人たちの言葉や行動で世界を描いてしまいますよね。でも国際女性ビジネス会議に参加している世界の女性たち・男性たちは、前向きな楽しい人ばかり。世の中には仕事を楽しんでいる女性、多様なキャリアを実現している女性、子育てと仕事を両方を楽しんで輝いている女性がたくさんいることを知り、その人たちと出会ってくれたことが嬉しいです。
いきいき仕事している先輩たちに触れることは、人生の選択肢を広げます。非常に大切だから、皆に体験し続けて欲しいから、毎年、毎年、この会議を開催しているんです。
自分の人生に天井はない。道を切り開くための努力は惜しまずに
日本という国や社会全体には、女性の貧困など多くのジェンダー問題が残されています。これらは政策などから見直す必要のある課題です。
しかし、もしも企業の中でキャリアを築いていきたい、自分自身の人生をより良くしたいと願うのであれば、すべきことは非常にシンプル。「自分を高めること」「前向きな思考で行動し続けること」そして「良い会社を選ぶ」ということに尽きると思います。
もしも「このままでは長く働けない」と感じているのであれば、前向きな人の考えに触れ、勉強を続け、前向きな行動をとる。それでもダメなら、その会社が合わないのかもしれません。今の時代、女性が働きやすい環境を整えている企業はたくさんあります。我が社のように女性が社長や役員を務めている企業もたくさんあります。長く働ける会社は山ほどあると思います。自分が貢献する場所を選んで欲しいと思います。
キャリアや働き方でうまくいかない時も、どうか「自分が女性だからうまくいかない」とは思わないで。自分の技術や知識を理由であると考えれば、いくらでも前に進めます。
今の社会には、ガラスの天井は確かにまだあります。でも、自分の人生に天井はない。どう生きていくかは自分自身で選べるし、その実現に向かって毎日学び続け、働き続け、誠実に歩めば、必ず道は開けると思います。是非、一緒に歩みましょう。
取材・文/上野真理子
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