花王の全国・首都圏ナンバーワン美容部員の「質問力」とは? コロナで急変、化粧品売場のイマ
2020年から続くコロナ禍は、あらゆる業界・職種に深刻な影響を与えた。中でも美容関連の接客・販売職は、百貨店の休業や来店者の減少などにより、大きな変革を求められた職種の一つだ。
コミュニケーションのあり方が変わっていく中、接客のプロたちは、どんな工夫で逆境を乗り超えてきたのだろうか。
そこで、花王ビューティブランズカウンセリング株式会社が独自に開催している接客対応力に関するコンテスト「ビューティカウンセリングコンテスト」において、全国ナンバーワンに輝いた大西恵美さん(仮名)と、首都圏百貨店でナンバーワンの実績を持つ川本祐子さん(仮名)に話を聞いた。
<プロフィール>
大切なのは、聞き過ぎないカウンセリング。まずは会話を楽しむ
――大西さんは2019年のビューティカウンセリングコンテストで、全国ナンバーワンの実績をお持ちだと伺いました。どんなコンテストだったのでしょうか?
接客の中でのホスピタリティーマインドや、会話力・提案力などを競うコンテストです。
コンテスト当日は、全国8地区、約2100人の中から選ばれた10人のビューティアドバイザーがステージに立ち、お客さま役の女性に対して接客のロールプレイングを行いました。
――2000人以上の中からナンバーワンに選ばれたなんてすごいですね! 接客で工夫されているポイントは何ですか?
普段からカウンセリングでは、お客さま一人一人の「なりたいお肌」をしっかりと把握できるように努めています。
お客さまごとに、理想とするお肌の状態は異なりますよね。同様に、生活習慣も体質も人それぞれです。
目の前のお客さまがどんなお肌になりたいと思っているのか、その理想に近づくためにはどんなケアが必要なのか。正しく知り、ご提案するためには詳細なヒアリングが欠かせません。
だからといって、一方的に質問し過ぎないことも大切です。あれもこれもと聞き過ぎては、お客さまも畏縮してしまいますから。
時にはお肌に関すること以外や、私自身の話も交えながら、リラックスした雰囲気の中でカウンセリングを進められるように心掛けています。
――なるほど。カウンセリングの雰囲気づくりが大切なのですね。
そうですね。そのためにも、全体を通じて一番大切にしているのは、私自身が楽しみながらお客さまとお話しすることです。
お客さまに興味を持って、じっくりお話を聞いていると、お肌のことに限らずその方自身に対する理解が深まっていきます。結果、より良い関係性の構築につながっていくと思います。
コロナ禍、肌に触れられない状況で試される“気付く力”
――2020年は新型コロナウイルス感染症の拡大が深刻な一年でした。大西さんのお仕事にも影響があったのではないでしょうか?
はい。昨年は百貨店が休業し、店頭に立てなくなった時期もありました。お客さまが足を運んでくださる日常は当たり前のことではなかったのだと、改めて実感しましたね。
人と話すことが好きな私にとって、お客さまや職場のメンバーと直接話ができない状況は、とてもつらかったです。
ーー休業中は、どのように過ごしていたのですか?
自社製品の復習をしたり、おもてなしについて改めて考えたりと、自己研鑽の時間だと考えて過ごしました。オンラインツールを活用して、メンバーとも励まし合いながら。
店舗の営業が再開したときに、少しでもレベルアップした自分で店頭に立てたらいいな、と思って。
ーー営業が再開した後も、これまでと同じようにいかない点が多かったのでは?
そうですね。感染症対策の一環で、お客さまお一人あたりの接客時間をゆったりと確保できなくなりましたし、何よりもお肌に直接触れることができなくなってしまいました。
一方で、長時間マスクをするようになり、お肌のトラブルやお悩みを抱える方は増えています。お肌の変化にご自身では気付いていない方も多いのですが。
だからこそ、お客さまのことをよく見て、お話に耳を傾け、こちらから気付いて差し上げることが重要です。タッチアップができない分、より丁寧なカウンセリングを心掛けるようになりました。
ーー他にも、コロナ禍の接客のお仕事で大西さんが大切にしていることは?
コロナ禍に限った話ではないのですが、お客さまに「来てよかった」「元気になった」と感じていただけることが私の目標。そのためにも、仕事へのマインドを高く持ち、前向きな気持ちで店頭に立つことを大切にしています。
また、店舗全体で成果を出していくためにも、お客さまだけでなく、一緒に店頭に立つメンバーとも積極的にコミュニケーションを取るようにしています。
前向きな気持ちを保つためには、出勤後のあいさつやお客さまへお声掛けする時の「第一声」が大事です。
気持ちのいいあいさつができると、それがスイッチになって流れに乗ることができるんですよ。なので、どんなときでも明るい声を出すようにしています。
ーー大西さんの今後の目標を教えてください。
より一層経験を積んで、お客さまに寄り添い、信頼していただけるような接客を目指していきたいです。そのためにも、幅広い分野の知識を深めていきたいと思っています。
あとは、好奇心をなくさずにいたいなと思います。私は、人よりも「知りたい」という気持ちが強い方なんです。
お客さまのことも、お肌のことも、商品やケアのことも、いろいろなことを知れるのが楽しくて仕方がない。そのわくわくする気持ちを大切にし続けたいですね。
リモート時代、接客のポイントは「シンプルな言葉選び」と「リアクション」
――続いて川本さんにお話を伺います。これまでのご経歴と、現在のお仕事内容について教えてください。
以前は家業を手伝っていたのですが、もともと美容の分野に興味があったこともあり、2005年にカネボウ化粧品販売株式会社に入社しました。
現在は、花王ビューティブランズカウンセリング株式会社で、主要ブランドである『KANEBO』の中で、売り上げ全国トップの店舗に配属されています。
リーダーポジションとして、13人いるメンバーのサポートやマネジメントも担っているところです。
――川本さんは、2020年に行われたエリア別の社内コンテストで、首都圏百貨店のナンバーワンになられたそうですね。
2019年までは全国で行っていたコンテストなのですが、コロナ禍のため全国から人が集まることが難しく、2020年は地区ごとに開催されることになりまして。首都圏エリアからは約1000名が出場しました。
しかも今回は、初めてのリモート開催。お客さまとモニター越しにお話ししてご提案する形式でした。
――リモートでの接客となると、普段とはかなり違うものになりそうですね。
正直なところ、いつも以上に緊張しましたね。
お肌の状況などが細かく見えない分、なるべく多くの情報を引き出せるようにたくさんお話しして、お客さまについての理解を深めることに集中しました。
ーーリモートでのカウンセリングでは、どんな点を意識しましたか?
「お客さまが応じやすい会話」を心掛けました。
画面越しですと、どうしても伝わる情報が制限されます。だからこそ、難しい言葉は使わずにシンプルな単語でお伝えしたり、リアクションをいつもよりも大きくしたりと、「伝わりやすさ」を重視しました。
なので、お客さま役の方が最後にニコッと笑顔を見せてくださった時はうれしかったですね。対面でなくても、距離は縮められるんだと実感できました。
普段の接客でも、お客さまに笑顔でお帰りいただけるような対応ができるよう取り組んでいきたいですし、実店舗でのオンラインカウンセリングが導入される未来も、きっとそう遠くないうちに訪れます。
お客さまにより良いサービスをご提供できるように、新しい接客のかたちを受け入れていきたいですね。
コミュニケーションへの苦手意識は「聞く」力を付けて克服
――日々の仕事ではどんなことを意識していますか。
スキンケアやメイクについてはこちらからご提案させていただくのですが、それ以外の部分では、お客さまから「教えていただく」姿勢を大切にしています。
というのも、店舗に来られるお客さまは、化粧品を購入するだけでなく、私たちとの会話を楽しみにしてくださっている方が多いのです。
年代も私よりも上の方が多いため、人生の先輩であるお客さまのお話にしっかりと耳を傾け、学ばせていただくようにしています。
――お店ではリーダーを務めていらっしゃるとのことですが、メンバーの皆さんと接する際に気を付けていることはありますか。
メンバーの意見をしっかりと聞くこと、でしょうか。私自身の意見は持ちつつも、一つ一つメンバーにも意見を仰ぐこと。
何か迷うことがあれば、遠慮なくメンバーにも相談させてもらうことが、私のスタンスです。一方通行のマネジメントにならないように注意しています。
実は、コミュニケーションが得意だと思ったことはあまりなくて。だからこそ、お客さまに対してもメンバーに対しても「聞く」姿勢を忘れずにいようと思っています。
関わるすべての方に対して思いやりを忘れず、忙しくても感謝の気持ちを伝えること。そうすることで、お互い気持ち良く物事が進んでいくようになると考えています。
ーーコロナ禍以降、普段のお仕事に変化はありましたか。
以前は、専用の機器を使ってお客さまのお肌の状態を測定し、数値化された結果をもとにスキンケアや化粧習慣のご提案をしていました。
ですが現在は感染予防のため、お客さまの肌に触れることができなくなってしまったのです。
お客さまの肌を目視で確認し、正しく状態を把握するのは決して容易ではありません。さらに、これまでご提示していた数値というデータがお出しできない状態で、お客さまに納得していただく必要があるのです。
そのためにも、さまざまな角度から質問を投げ掛けて、お客さまへの理解を深めるように努めています。
ーー例えばどのような質問をするのでしょうか?
最近ですと、人と会う機会が減ったことで、スキンケアやメイクをしなくなり、お肌の状態を意識する機会が減っている方が多いんです。
そういった方に「何かお悩みはありませんか」とお尋ねしても、「特にありません」とおっしゃいます。
そんな時は「長時間マスクをつけることで、乾燥やニキビに悩まされる方が増えているのですがいかがですか?」と具体的な投げ掛けをすると、「そういえば、肌がごわつくんです」といった回答をいただけることも。
ーー質問の仕方をより具体的なものへと変えることで、お客さま自身も意識していない気付きを引き出すことができるのですね。最後に、川本さんの目標を教えてください。
やっぱり私は、お客さまが笑顔になってくださることが一番うれしいんです。
ですから今後も、お客さまのご希望やお悩みに合わせたご提案をすることで、お客さまに喜んでいただけるようにカウンセリングスキルを高めていきたいと思います。
これからも、「『KANEBO』のコーナーに来るとワクワクする」と感じてもらい、希望を持っていただけるような接客をしていきたいですね。
取材・文/高橋実帆子