転職市場で人気の新職種「カスタマーサクセス」の仕事とは? 営業女性の新たなキャリアの選択肢として注目のワケ【CS座談会】

営業のミッションは売上を作ること。でも、本音を言えば、売った後の顧客フォローにもっと力を入れたい。そんなジレンマを抱えながら営業活動をしている人もいるだろう。
そんな人に紹介したいのが、カスタマーサクセスという職種。
サブスク型のWebサービスが普及する中、サービス提供企業が売上を立てるためにはユーザーの長期利用が鍵を握る。
そこで「顧客の成功」を実現すべく、ユーザーに伴走するカスタマーサクセスの需要が増加。Web系企業を中心に、コロナ禍でも活発に採用が行われている。
一体どのような仕事なのか、カスタマーサクセスとして活躍する3人の女性に詳しく話を聞いた。

ヘイ株式会社
谷中 千菜美さん
専門学校卒業後、IT企業でアルバイトをしながら音楽活動を行い、2019年HR系スタートアップ企業でカスタマーサクセスを経験。21年4月ヘイに転職し、予約システム『STORES 予約』のカスタマーサクセスを担当

Sansan株式会社
新倉朋美さん
新卒で出版社の営業、自社商品の企画編集に従事したのち、IT企業に転職し、Web分析ツールのカスタマーサクセス及び代理店開拓営業を担当。2018年8月Sansanに転職し、カスタマーサクセス部のエンタープライズ領域を担当

株式会社ハッカズーク
三市 さくらさん
大学卒業後、電子マネーサービスの営業、人材紹介会社でのキャリアアドバイザーを経て、株式会社キャスターに転職。採用代行のリクルーターと採用支援サービスのカスタマーサクセスを経験したのち、2021年4月より現職。アルムナイ特化型システム『Official -Alumni.com』のカスタマーサクセスを担当
カスタマーサクセスは「攻めの顧客支援」
ーー皆さんのカスタマーサクセス(以下、CS)としての役割、ミッションについて教えてください。
三市:企業と退職者の関係性をつくる『Official -Alumni.com』という、クローズドのSNSのようなシステムのCSをやっています。企業と退職者の双方にとって心地良い空気を形成するためのサポートがメインミッションですね。
同時に、「企業と退職者をつなぐ」という新しい考え方を広めていくために、成功事例をつくるのも重要なミッション。市場を切り開く鍵を握る、大事な役割です。
谷中:私は予約管理システム『STORES 予約』のオンボーディング(※)チームでCSを担当しています。契約後のお客さんが運用を開始するまでのサポートが大きな役割です。
※新規顧客にサービスの使い方を理解してもらうための支援プロセスのこと
迷わずスムーズに使い始められることが長期利用にもつながるので、オーナーさんのより良いスタートを実現すべく試行錯誤しています。
具体的には、CSのサポートなくオーナーさん自身で運用開始できた割合や、契約からどのくらいの期間で実際の予約で利用されたかなどの数字目標も追っています。その一環として、ヘルプページのコンテンツを拡充したり、セミナーを実施したりもしますね。
ーー担当企業の支援だけではなく、これから使い始める企業全体に向けた施策も考えているんですね。ちなみにカスタマー“サクセス”とカスタマー“サポート”は何が違うのでしょうか……?
谷中:CSはお客さんに対して能動的に動く役割で、カスタマーサポートはお客さんからのお問い合わせに対応する役割です。攻めと守りのようなイメージでしょうか。当社の場合だと、両者はチームが明確に分かれていますね。
ーーなるほど、皆さんは「攻めの顧客支援」をする役割なのですね。続いて新倉さん、ご自身のミッションについて教えてください。
新倉:クラウド名刺管理サービス『Sansan』の活用を通じて、お客さまの事業成長に貢献することがミッションです。私はエンタープライズ領域のお客さまを支援するチームに所属しています。
企業規模が大きくなると、企業に応じた個別支援が必要になります。担当企業とは毎月ミーティングを行い、お客さまの課題を深掘りして、それに対する施策を一緒に考え、最終的には自走できるように、お客さまに併走しながらサポートしています。
その際、お客さまとの関係性を深めることがポイントになるので、「その企業の人と、どれだけ接点を持てているか」も目標指標の一つ。クラウド名刺管理サービスはさまざまな部署のあらゆる役職の人が使うサービスなので、「どの部署のどの役職の人にどれだけ会えているか」も重要なんです。
そうやって聞いたいろいろな部署の成功事例をまとめて、社内報のように社内で展開してもらうこともありますね。
本質に向き合いながら、営業が描いた夢を実現する
ーーCSの魅力はどのようなところにあると思いますか?
新倉:お客さまに「こんな未来が待ってますよ」と夢や理想を見せる役割が営業だとしたら、CSは営業が見せた夢を実現する役割です。
私は営業をやっていた時、「お客さまが抱いていた期待を、実際にそのサービスで超えられたのか」が売った後に分からないのが嫌で。
その点CSはお客さまが変わる瞬間が見られるのが醍醐味であり、「こんなことできるんだ!」を、直接声を聞きながら実現していける楽しさがあります。
そういう声からどんどんファンが増え、仲間になってくれる人が増える。エンタープライズ企業の場合、まずは一部門から導入いただくことも多いのですが、小さく実績を作りながら、お客さまと一緒に全社に展開していきます。その過程に立ち会えるのは大きなやりがいですね。
ーー営業が描いた夢を正夢にするのがCSなわけですね。谷中さんはいかがでしょう?
谷中:二つあって、一つはお客さんに伴走できること。ご契約いただいてから先、お客さんにとって一番近い存在でいられます。

谷中:今は無償提供中のコロナワクチン接種の予約システムでCSを担当しているのですが、ゼロからお客さんと一緒に考える毎日。「何かあったときはこの人に連絡しよう」という存在になれて、お手伝いができたのはうれしい経験でした。
喜びの声も厳しいお言葉も、直接聞けるのはCSならではの魅力です。
ーーもう一つは?
谷中:お客さんと一緒にプロダクトを成長させていけること。CS だからこそキャッチできる生の声を開発メンバーに伝え、議論が生まれ、新しい機能が実装されることもあります。お客さんに報告する瞬間は「よし!」と思いますね。
私たちCSが届けなければ、現場の声は社内のメンバーにはなかなか伝わりません。お客さんの喜びの声はやっぱりみんなが喜んでくれるし、「この事業をやってよかった」という社内の雰囲気づくりにもつながるなと感じます。
三市:CSって、本来はみんなが持っている役割だと思っています。エンジニアは顧客の成功に向けてプロダクトを作るし、セールスは顧客の成功を実現したいからサービスを売っている。
その中でCSとして仕事をする面白みは、会社が目指す思想を自分が体現できること。「売った後が分からないのが物足りない」というのは営業によくある話ですけど、まさにそこを補える職種です。
「成功させなければいけない」というプレッシャーはありますし、頭も気も使うし、いろんなところにアンテナを張り巡らせなければいけない。でもそれは本質に向き合えている証拠でもあるので、魅力的な役割だと思っています。
ーー本質に向き合う?
三市:前職で採用支援サービスのCSをしていたのですが、あるスタートアップ企業で、会社としての採用の土台を築いた上で、採用を成功させることができたんです。
スムーズに採用ができて解約になってしまったけれど、長期的に採用をするための土台をつくれた。本当の意味でお客さんを成功に導けましたね。
ーーとはいえ、解約になって怒られたりはしないんですか……?
三市:前職の場合はそういう解約を「ハッピーチャーン(うれしい解約)」と言っていました。採用を再開する時に再度利用してもらえる関係性を築くことも一つのゴールでしたし、実際にまた使っていただけることもあって。

三市:お客さんの期待や望みをきちんと見極め、汲み取って、何を提供するか考えて動くのは、CSとして忘れてはいけないことであり、醍醐味。本質に向き合った価値提供ができる仕事だと改めて思います。
全てのベースは顧客との信頼関係
ーー逆に大変なことは?
新倉:営業ができると言って売ったけれど、実際は仕様的にできないこともあります。仕方がない面もあると理解はしつつ、歯がゆい気持ちになることはありますね(笑)
谷中:すごく分かります(笑)。それをCSがいかに運用でカバーするか、必死に考える。それは大変さであり、面白さややりがいでもあるなと思います。
あとは、予約システムの場合、深夜に予約をする方もいらっしゃるので、予期せぬ時間帯にトラブルが起きることがあります。前職のHR系のシステムではお客さんが使うのは日中だったので、プロダクトの特性でいろんなパターンがあることを転職して学びましたね。
トラブル発生時にCSがどう動くかはすごく大事で、対応次第でプロダクトの期待やCSへの信頼が変わってくる。腕の見せ所でもあるのかなと思います。
三市:期待値調整は大変ですよね。お客さんの課題やニーズに全力で応える一方、できないことはどうしてもある。そこのバランスを取って、お客さんの期待値や満足度を下げずに伴走するのはめちゃくちゃ難しいと思います。
ーーできることとできないこと、バランスを取るポイントは何だと思いますか?
三市:CSとお客さんの信頼関係ですね。極端な話、結果が出ていなくても満足度が高ければ解約とはならないケースもありますから。
新倉:当社ではCSをサッカーのボランチに例えることが多いんですけど、攻めと守り、状況によって役割がコロコロ変わるポジションなんです。
お客さまに対しては守りの姿勢で対応する一方、社内ではお客さまの要望を通すために各所とハードな調整を行うこともあります。でも、やっぱり無理なこともあって。「社内がOK出してくれればすぐに解決するのに!」ともどかしい気持ちになることもあります。
その時にお客さまとの関係性が築けていれば、仕様上できなくても運用方法を提案することで納得してもらえる。CSのベースは信頼関係だとつくづく思いますね。
数字は追う。でも「顧客のために」が大前提
ーーCSは営業と似ている面もありそうだと思いました。三市さんと新倉さんは営業とCSの双方の経験がありますが、どんなところに違いを感じますか?
三市:仕事の組み立て方やスタンスは違いますね。もちろんCSも数字の指標は追いますけど、「数字のために」が薄くなったというか。お客さんの課題解決や望みに向き合う時間が増えた感覚です。
新倉:数字をつくるのと、お客さまの成功状態をつくるのは、やっぱり別物です。営業はゴールを示す役割で、そこへの道順を示すのがCSというイメージですね。

新倉:その際に、ゴールと現時点のギャップを埋めるための行動をどれだけ深く想像できるかがポイントだと思っていて。チームでもよく話すんですけど、CSはお客さまのことをどれだけ具体的に想像できるかが重要です。
お客さまが会社内でどういう動きをしていて、何を目指しているのか。想像力が豊かな人は向いていると思います
ーーオプションを売るとか、プランをアップグレードさせるとか、そういう営業のような役割もCSにはあるのでしょうか?
新倉:今期からアップセル(単価を向上させること)とクロスセル(別のサービスを売ること)が正式に目標の一つに追加されました。
Sansanは利用者数によってプランの金額が決まるので、使う人を増やす動きがアップセルにつながります。Sansan以外のプロダクトも導入いただくのがクロスセルですね。
三市:今の会社ではあまりないですけど、前職ではクライアントの採用計画に合わせて職種や採用媒体、工数が増えるタイミングでアップセルの提案はしていました。目標の一つではありましたけど、採用の状況に応じて適切に提案をする考え方でしたね。
谷中:当社も目標の一つにありますけど、「この機能が必要だと本心から思った時にアプローチをする」考え方。お客さんの理想を実現させるために必要だと思ったときに提案をするイメージです。
新倉:お客さまがやりたいことが全部できた結果として、アップセルやクロスセルにつながっていく。数字を追うこと自体は営業と一緒ですけど、CSの場合はアプローチの仕方が違いますね。
カスタマーサクセスの達成=顧客の喜び
ーーCSの仕事選びのポイントや注意点はありますか?
谷中:プロダクトはもちろん、プロダクトを使うお客さんに対して、興味があったり面白そうと思えたりすることが大切かなと思います。
お客さんの考えに想像をめぐらせたり、会社や業界の状況や特性を学んだりする姿勢が不可欠。お客さんを知ってこその仕事なので、そこに関心が持てるかはポイントです。
三市:会社や扱うサービスによってCSの仕事内容もミッションもさまざま。そこはきちんと把握した上で選んだ方がいいですよね。
新倉:営業時点でお客さまが見ているゴールを実際に達成するのって、すごく大変です。その実現に邁進する気持ちの強さが重要なので、サービスやミッションへの共感は不可欠だと思います。
ーー最後に、CSに興味を持っている人へのメッセージをお願いします!
三市:より本質に向き合った仕事がしたい人にとって、CSは難しいけれどやりがいのあるキャリアだと思います。「お客さんにもっと向き合いたいのに」というジレンマがあるのなら、CSはいいんじゃないかな。
新倉: 人や企業が明確に変わる瞬間を、誰かと一緒に体験したい人におすすめしたいです。
営業は一人で頑張ることが多いと思うんですよ。もちろん目標を達成した喜びをチームで共有することはできますが、一人で数字を作ることに向き合う時間はやはり多く、時に孤独を感じる瞬間もあります。
でもCSは、お客さまが何かを達成した瞬間に立ち会い、喜びを分かち合うことができるんです。社外にはお客さまがいるし、社内にも営業や開発がいて、常に誰かと仕事をしている。
自分だけで仕事をすることが絶対にないから、チームで成果を出すとか、お客さまと一緒に作り上げるとか、そういう働き方をしたい人は、CSに向いていると思います。
谷中:CSも数字を追いはしますけど、やっぱりチームなんですよね。達成がお客さんの喜びにつながっている。
営業だと自社製品を売ることがミッションですけど、CSは自社のプロダクトがお客さんに合わないのであれば、極論、他社のプロダクトをおすすめすることだって選択肢の一つです。その結果解約に至ったとしても、お客さんの成功につながればいい。
常にお客さんの味方として、お客さんの立場で物事を考えられるのがCSの一番の魅力だと思います。
企画・取材・文/天野夏海