コロナ禍に中途入社した2人の女性の経験談から探る、“ニューノーマル”移行期の転職活動に必要なこと
新型コロナウイルスを契機に、世界中が“ニューノーマル”を模索している。そんな世の中が変わりつつあるタイミングで転職し、スムーズに業務や会社に慣れるためには何が必要なのだろう。
そのヒントを探るべく、入社前に緊急事態宣言が発令されたことで、予期せぬ形で新しい仕事をすることになった2人の女性に話を聞いた。
「大手企業に転職していたらキツかったかも」
IT業界で働いていた岩本さん(仮名)は、『Spready』というサービスを通じて現在勤務するスタートアップと出会った。
「ITに詳しくない人やレガシー産業にこそ、ITが必要なのでは?」という岩本さんの課題意識と、転職先企業の事業内容が合致。
今年の2月から社長や役員と面談を重ね、3月半ばに入社を決意。4月末に前職の最終出社日を迎え、5月半ばから働き始める予定だった。
本当は入社まで有休を消化するつもりだったんですけど、どこにも行けないし、やることないじゃないですか。なので、結局は最終出社日の翌週には今の会社で働き始めました。
早めに仕事をスタートできたのはありがたかったですね。
岩本さんが初めて出社をしたのは6月1日で、それまでの間はフルリモート。初めての職場で雰囲気も分からないままリモートワークをするのは大変そうと思いきや、「案外ありでした」と振り返る。
私が転職したのは良くも悪くも何も整っていないスタートアップ。研修もなくて、やりながら覚えるスタイルでしたし、もともと『勝手に頑張る』を想定していたんです。
Slackを遡れば情報は拾えますし、オンラインで歓迎会をやってもらって多少は雰囲気も掴めました。そういう意味では、もしも研修制度がしっかり整った大手企業に転職していたらキツかったのかもなって思います。
むしろリモートならではの良さも感じたという。
Zoomだと名前が出るじゃないですか。社員の顔と名前を照らし合わせることができたので、顔と名前をすぐに覚えることができたんです。
在宅だと子どもが写り込んだり犬の声が聞こえたりして、プライベートが垣間見えることも相手の人となりを理解するのに役立ちました。
厳しそうな人でも親しみを持ちやすかったですし、逆にリモートだからこそコミュニケーションが取りやすかった面はありました。
また、入社後即リモートでも適応できたのは「転職先の社風も大きい」と岩本さん。
いい意味で私も会社もドライなんです。私は会社に過剰に何かを求めることはないし、会社から変に気遣いをされることもない。適度な距離感があることが功を奏した気がします。
前職はもっと社員同士の仲が良い社風だったんですけど、そういう会社だったら申し訳なく思っちゃいそうだし、気疲れしそうだし、仲が良いからこそリモートでその輪の中に入りにくいような気もして、しんどかったかもしれないです。
とはいえ、6月から週2~3回出勤するようになった今は「出社の良さ」を実感している。
リモートでもそれほど苦労がなかったとはいえ、対面で取れる情報が多いことを改めて感じています。
ただ、初出社日は、オフィスへの入り方が分からなくて困りました(笑)。プリンターの設定は未だにできてないですし、本来であれば入社初日にやることがおざなりになってしまっているところはありますね。
入社後即リモートだったことは「総じて良かったと思う」と岩本さん。
困った顔をしていても話し掛けてくれる人がいない中、意識的に発信したり同僚に絡んだりしなければいけない状況に置かれたのは大きかったですね。
ただでさえ自力で頑張らなければいけないスタートアップへの中途入社で、しかもリモートになって、自分に厳しくなれたように思います。
「ある程度諦めないとやっていられなかった」
Web制作会社でWebディレクターとして勤務していた中島さん(仮名)は、産休・育休を経て復職したものの、社内で活躍できるイメージがわかず、転職を決意。
仕事と子育てを両立できる環境であること、ロールモデルとなる人がいることを重視して転職活動を行い、2019年12月に現在働いている会社から内定を得て、2020年4月に入社した。
予定通り4月1日付で入社したものの、1週目は自宅待機に。翌週に1日だけ出社して入社手続きを行い、そこから完全リモートワークになりました。
研修はすべてオンラインに切り替わった。対面での研修との違いに慣れない部分はあったものの、業務を覚える上での違和感はなかったという。
逆に研修する人の方が気を使って『何かあったらチャットで質問してください」と声を掛けてくれたので、むしろ質問がしやすかったくらいです。
オンラインでの研修に関しては、研修をする側の方が大変なんじゃないかと思います。
入社後即リモートになって、中島さんが苦労したことは大きく二つある。一つ目はコミュニケーションの問題。
例えばWeb会議での発言の仕方が難しくて。お互いがお互いのことを知らないわけで、発言のタイミングやコミュニケーションの取り方が分からなかったです。
ただ、皆さんが気を使ってチャットなどでメッセージを送ってくださって、気楽になった部分はありましたね。小まめに声を掛けてもらえるたので助かりました。
そして二つ目が、子育てとの両立だ。
5月は保育園が原則休園になってしまい、さらに夫は単身赴任中。子どもはまだ1歳なので、ワンオペで自宅保育をしながら仕事をするのはほぼ不可能でした……。
その分、頻繁に状況を連絡するようにはしていて、『今こういう状況なので動きづらいです』といった報告はしていました。子育てに理解がない会社だったら大変だっただろうなと思います。
フルリモート自体は「今後の働き方や生活について考えるいい機会になった」と中島さん。ただし、入社即フルリモートは「キツい」と続ける。
会社も上司も事情を汲んでくれて優しかったのですが、中途入社なので即戦力であらねばというプレッシャーと、子どもが家にいることで思い切り働けないジレンマで結構メンタルをやられました……。
コロナ禍で保育園も親もベビーシッターも頼れない特殊な状況の中で、どうすることもできない。だからこそ「ある程度諦めないとやっていられなかった」と振り返る。
最初はひたすら申し訳なかったんですけど、だんだんと『今はもう仕方がない』という諦めが強くなっていきました。
あとは、私から相談する前に上司から状況のヒアリングをしてもらえたことで、気持ちはだいぶ軽くなりましたね。入社直後に自分から『働けません』とは言えないじゃないですか。
子育て中の方が多い職場だからこそ、保育園の状況も理解してくださって、本当にありがたかったです。
6月からリモートワークは終わり、現在は出勤して仕事をしている。思うように働けなかったからこそ、「仕事へのモチベーションは逆に上がった」と晴れやかだ。
今は思い切り仕事ができることがめちゃくちゃ楽しいです。仕事ができることのありがたさを噛み締めていますね。
“自分に合う”企業を選ぶ重要度が増している
二人の体験談に共通するのは、「それぞれがその職場だからどうにかなった」ということ。
それは二人の所属する会社が特別すばらしいということではなく、二人が自分に合った会社をきちんと選んだからこそ、不安定な状況での入社でも成立したということだ。
もしも2人の職場が逆だったら、おそらく成り立たなかったのではないだろうか。
「大手企業だから」「制度が充実しているから」といって、自分にとって良い会社とは限らない。「自分に合った会社を選ぶ」はいつだって大切なことだけれど、予期せぬ状況を切り抜ける上ではより重要になってくる。
徐々に日常生活が戻りつつあるとはいえ、まだまだ混乱の最中。これから転職を考えている人は、「なぜその会社で働きたいのか」「会社からどんなことを求められているのか」「何かあった時に自分の状況を理解してもらえそうか」をいつも以上に意識して会社選びをする必要がありそうだ。
取材・文・構成/天野夏海