「企業風土に無理に馴染まなくていい」野田聖子議員が語る、圧倒的マイノリティーだからこそできること

女性が安心して子育てと仕事を両立できる「ナショナルモデル」を構想

働く女性の問題と言えば、女性議員の出産と育児もいまだ深刻だ。野田さん自身も2011年に長男の真輝くんを出産したときは、「そんなに産みたいなら仕事を辞めればいいじゃないか」と批判にさらされた。

「私は嫌味を言われても流せるし、入院しながらもできる仕事をこなしたり、うまく部下である秘書を代役に立てられた。でも、それはその頃、私がもう50歳で、大臣も何度も経験したぐらいのポジションにいたから。一般的には、出産はやっぱり20代が適齢期でしょう。そのくらいの年代は、どんな仕事だってまだヒヨッコ扱いで、自分で時間も自由にできないような年齢。ですから、働く女性の出産は大変で当然ですよね」

野田さんにとって、誰かに負担があって“当然”とされている世の中を変え、女性が安心して子どもを産み、仕事を継続していける社会を実現することが、今後の政治家人生の使命だ。

「まずは教育から変えていかないとダメですよね。『子どもを産んで育てやすいのは20代だよね』っていう意識を、男女共に小学生くらいから持てるようにしなくちゃいけない。その上で、出産を担う性としての女性に対し、男性がいかにフォローしていくべきなのかも教育段階からしっかり意識に根付かせていくべきです」

「企業風土に無理に馴染まなくていい」野田聖子議員が語る、圧倒的マイノリティーだからこそできること

また、労働環境の改革、具体的には長時間労働を無くして子育てと仕事の両立の障害を減らしていくことも野田さんの政策の1つだ。

「シングルインカムからダブルインカムに完全移行した上で、双方の労働時間を8時間から6時間に短縮すること。2人で12時間になれば今よりも総労働時間は増えるけどお互いの負担は減るでしょう。そういうナショナルモデルをつくり、そのモデルを積極的に導入した企業には国からの補助金を支給するとか、税額控除をするとか、何らかの形で支援を行う。そこまでやらなければ、日本が抱えている長時間労働の問題は、いつまで経っても変わらないと思います」

現在の政界において、数で女性に勝ち目はない。圧倒的な男性社会であるがために、政策に関しても「偏りがある」と一刀両断する。

「奥さんを人質のように地元に置いて、日ごろから普通の家庭生活を営むこともない。妻が自分の手伝い以外のことをするなんてまるで考えていない政治家たちは、国民の現実を全然理解していません。若い人なら『これからはダブルインカムでないと家計が成り立たない』って皆分かっていますよね。でも、男性議員たちの多くは今も『最近の男がだらしないから女を養うこともできないんだ』とか『無駄に学歴なんて与えるから、女も社会進出したいなんてわがままを言うんだ』って腹の底では本気で考えているんですから。本当に嘆かわしい現状です」

自分が信じることをやっていれば、常にストレスフリーでいられる

2015年9月、野田さんは総裁選への出馬を断念した。その後、“「男を敵にする」 政策集団立ち上げへ”と報じられ、その動向にますます注目が集まった。

「あれは男の前に『ろくでもない』って形容詞は付けるべきだったわね(笑)。女性政策は何も女性のためだけじゃない。女性が働きやすい社会って、結局は男性も働きやすい社会なんですよ。私は日本の男性の自殺だって減らしていきたい。皆、余計なものは背負いたくないのに、いろいろ背負い過ぎているのよね」

そう現在の労働市場の問題点を指摘する野田さんは、これからの社会において重要なのは「生産性と効率性」だと主張する。そこには男性社会によくありがちな精神論ではなく、「現実的な目線と発想」が不可欠だ。とはいえ、男性と女性という二項対立で、真っ向から男性側と喧嘩をする気は毛頭ない。今現在、男性社会で奮闘している女性たちにも「非生産的なおじさんたちのやり方も認めた上で、独自の道を行けばいい」とエールを送る。それが、野田さんの考えるダイバーシティーだ。

「別に、働く女性たち全員が自分の会社の企業風土に無理に馴染まなくったっていいと思います。私も常に王道からは外れてきて、ここまでやって来られましたから(笑)。それよりも私が大事にしてきたのは、自分にとって本当に必要な人の声に耳を傾けるという行為。私の場合であれば、有権者の声。だから、他の議員たちと視線がズレていて当たり前だし、そのズレが自分の魅力になるんだと思う」

媚びず、驕らず、戦わず。女性政治家と言えば、肩肘張って早口でまくし立てる印象が強いが、野田さんはすっと肩の力が抜けていて、それでいて揺るぎがない。なぜここまで無垢なままでいられるのだろうか。

「過去を振り返ってみると、私が仕事でストレスを感じるときって、自分でもやっていることに自信がないとか、何か後ろめたい気持ちがある場合がほとんどでした。本当に正しいと思って仕事に取り組んでいるときは、たとえ周りから抵抗を受けてもストレスフリーでいられたんです」

周囲の環境に自分を迎合させることにパワーを使っていてはもったいない。自分は自分と割り切った上で、心から正しいと信じることを、誠実にやっていく。そのブレない信念こそが、今の働く女性に最も必要なものかもしれない。野田聖子衆議院議員。今、日本初の女性首相誕生に向けて最も期待される政治家の一人。男性社会の逆風をストレスフリーで突き進んでいく。

取材・文/横川良明 撮影/吉永和志

くるみん

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