玉木宏「芸歴24年でも、常にまだまだ」できないことだらけの仕事を続けてきた理由
この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

映画やドラマの作品作りも、皆さんのお仕事も、何かをつくり上げるという意味では同じですよね
数々の話題作に出演する、人気俳優・玉木宏。彼にプロとしての心掛けを尋ねる中で、こんな答えが返ってきた。
特殊な世界に思えるエンターテインメントの世界。でも根底には、私たちの仕事と通じる考え方があった。
演者半分、ファン半分の気持ち
玉木さんが主人公・オーウェンの吹き替えを務めた映画『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』は、1993年に公開された『ジュラシック・パーク』シリーズの最終章。1、2作目に続き、3作目のオファーも玉木さんの元に舞い込んだ。

オファーをいただいた時は純粋にうれしかったですね。同時に、最終章と謳われていることが気になって。
またオーウェンの声を演じられる喜びと、いちファンとしての「本当に終わるのかな」という寂しい気持ちが同時にやってきました。
吹き替えは「自分が演じるのとは全く違う」という。映画とは全く異なる空間で、自分ではない人に声を吹き込むのは「特別な作業」だ。
クリス・プラットさんの演技に合わせながら、声だけで臨場感を体現しなければいけない。
動き過ぎるとマイクに音がうまく入らなくなってしまうんですが、普段は動きも含めて演じているから、どうしても動きたくなってしまうんです。
声優さんはすごいなと改めて思いました(笑)

「昔から好きなのはティラノサウルス。大きくて強くてかっこいいし、『ジュラシック・シリーズ』のシンボルですから」(玉木さん)
今回で主人公・オーウェンの声を演じるのは3作品目。だが、「何度やっても慣れない」と玉木さんは続ける。
他の人の吹き替え音声が一切入っていない状態でオーウェンの声を入れていったので、一人で元の音声に当てていく感じ。
できる限り原音のニュアンスに近づけたいと意識しましたが、どういう掛け合いになるのか想像できない中でやる難しさがありました。
取材時点では、吹き替えの完成作品を見る前だった玉木さん。「自分の声も気になりますが」と前置きした上で、いちファンとしての期待を語った。
もちろん字幕の良さもありますが、ちゃんと映画に集中できるのは吹き替えならでは。
耳から情報が入る分、映像を細部まで見られる楽しみがあります。大きなスクリーンで見るのが待ち遠しいですね。

「お気に入りのシーンは、オーウェンが恐竜に追われ、街中でバイクチェイスを繰り広げるシーンです」(玉木さん)
今の気持ちもまた、演者半分、ファン半分。玉木さんにとって『ジュラシック・シリーズ』の魅力は「地球の神秘に触れる高揚感」にある。
恐竜が実在したら怖いだろうけど、それでも恐竜に思いを馳せる人が多いのは、こんなに大きい生物が地球上にいた事実にワクワクするからだと思います。
現実と、そうでない部分が融合した作品であり、そこが魅力ではないでしょうか。
いろいろな人がいることが面白い。そう気付いて変わったこと
大河ドラマや朝ドラなどのヒューマンドラマから、『のだめカンタービレ』や『極主夫道』などのコメディーまで、玉木さんが出演する作品も、その役柄も幅広い。それは「偶然の産物」と玉木さん。
本当にうれしい限りですね。
「玉木にこういう役をやらせたら面白いんじゃないか」と思ってくれる方がいるからオファーがいただける。
僕自身、つくり上げたイメージを壊し、また新しく作って……を繰り返していきたいと思っているので、すごく幸せな環境だと思います。
バラエティーに富んだオファーがくるのは、周囲の期待の表れ。その期待にプロとして応えるために、各現場で心掛けているのは、役割を全うすることだという。

すべてのオファーには、僕に求められている「何らかの役割」があると思っています。
「自分に与えられた役割は何だろう」というのは、すごく考えます。
その役割は、誰かから指示されるものではない。大切なのは「自ら察知し、動くこと」。
その瞬間に、どの立ち位置で、どういう仕事をすればいいのか。
役柄やシーンによって攻めたり引いたりしながら、自分の役割を把握する。それを良い形で実現できるよう、臨んでいます。
その理由を「仕事は共同で何かをつくり上げることだから」と玉木さん。それは作品づくりのみならず、あらゆる仕事に通じる考え方だろう。だからこそ「協調性が必要」と続ける。
協調して、楽しんでやること。
もちろん仕事には大変なこともたくさんあるけど、その先にあるもの、映画であれば視聴者を、想像しながら取り組むことが大事だと思っています。
自分勝手なことをしていたら、良い作品は生まれませんから。
そう話す玉木さんだが、実は「協調性がそれほどある人間ではない」と明かす。昔は集団行動も苦手だったのだとか。「あの頃は、自分のことしか考えていなかったのかも」と振り返る。
僕が協調性を意識するようになったのは、いろいろなタイプの人がいることを「面白いな」と思えるようになったことが大きいと思います。
そうすると、人といることが楽しくなる。自分のことはどうでもよくなるんですよね。
ずっと難しい。だから、これからも俳優を続けたい
98年に俳優デビューし、芸歴24年目となる玉木さん。「小手先で簡単にできるような仕事だったら、多分すぐ辞めていたと思う」と、俳優の仕事への思いを語る。

俳優は一つの作品に入り、その役の人生を演じます。
毎回の作品で「これはよかった」「ここはもっとこうしよう」と思うことを、次の役を演じるときに生かせれば、もっと良い演技ができる。
それを何度も、短いスパンで繰り返せることが楽しいんです。
24年間一つの道で経験を積んでも、「常にまだまだ」の感覚。できないことが山ほどあり、いつまでたっても難しい仕事だからこそ「俳優の仕事をこれからも続けていくのだと思う」と玉木さん。
これからは自分のためだけではなくて、子どもが喜ぶ仕事もしていきたいと思っています。
今回の『ジュラシック・ワールド』もそうですが、俳優は子どもに夢を与える職業だと、最近改めて思うようになりました。
プライベートでは子どもと生活を共にする中で、演技の原点にも触れた。
子どもは「真似る」ことが好きで、観察力や想像力がすごい。敵わないですね。
キッチンの作業なんて見えないはずなのに、気が付くとフライパンをゆする仕草を真似している。
その純粋な気持ちは、間近で見ていて面白いです。自分が忘れているものがたくさんあるなと思います。
演技もいわば「大人が本気でやっているままごと」。
演じた役にリアリティーを感じてもらえなければ、その役は完全な嘘になってしまう。
その空気感は、きっと経験を年輪のように重ねていった先に、味になって出てくるものなのではないかなと思います。
役者に定年はない。年齢と経験を重ねることで得られる魅力もある。だからこそ「今後もさまざまなジャンルで経験を積みたい」と玉木さんは穏やかに、真っ直ぐ話す。
その先に何が見えるかは分からないけど、その感じも楽しんでいけたらと思っています。
理想は、その場に立っているだけで役の人生を物語れるような、そんなたたずまいがある俳優。
一生手に入らないものかもしれないけど、そんな存在感がある俳優になりたいとずっと思っています。

玉木宏(たまき・ひろし)
1980年生まれ。愛知県出身。98年俳優デビュー。『ウォーターボーイズ』『愛し君へ』、『のだめカンタービレ』、『あさが来た』、『極主夫道』、『キングダム2 遥かなる大地へ』など数々の人気映画・ドラマに出演。
取材・文/天野夏海 撮影/赤松洋太
作品情報

7月29日(金)全国公開
【出演】クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラム、サム・ニール、ディワンダ・ワイズ、マムドゥ・アチー、BD・ウォン、オマール・シー、イザベラ・サーモン、キャンベル・スコット、ジャスティス・スミス、スコット・ヘイズ、ディーチェン・ラックマン、ダニエラ・ピネダ
【監督】コリン・トレボロウ
【脚本】エミリー・カーマイケル、コリン・トレボロウ
【キャラクター原案】マイケル・クライトン
【ストーリー原案】デレク・コノリー、コリン・トレボロウ
【製作】フランク・マーシャル、パトリック・クローリー
【製作総指揮】スティーヴン・スピルバーグ、アレクサンドラ・ダービーシャー、コリン・トレボロ
ウ
(c) 2021 Universal Studios and Storyteller Distribution LCC. All Rights Reserved.
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/professional/をクリック