名塚佳織「声優歴23年、安心したことなんてない」プレッシャーとの付き合い方

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Another Action Starter

日々の暮らしの中で、ちょっとしたチャレンジをすること。それが、Woman typeが提案する「Another Action」。今をときめく女性たちへのインタビューから、挑戦の種を見つけよう!

声優歴23年、アニメ『交響詩篇エウレカセブン』(エウレカ役)や『コードギアス 反逆のルルーシュ』(ナナリー・ランペルージ役)など数多くの作品に出演し続けている名塚佳織さん。

名塚さん

昨年に第二子を出産した二児の母でありながら、その活躍は止まることを知らない。現在絶賛公開中の映画『ONE PIECE FILM RED』でも、ヒロインである歌姫・ウタを演じている。

結婚、出産とライフステージが変化していく中、安定したキャリアを築いているように見えるが、名塚さんは「常にプレッシャーを感じている」と語る。

しかし同時にこうも話す。「そのプレッシャーは必要なものなんです」とーー。それはなぜなのか、常に挑戦を続ける名塚さんに聞いた。

人気作品への出演、プレッシャーが原動力に

『ONE PIECE FILM RED』のウタはオーディションでつかんだ役だった。劇場版『ONE PIECE』シリーズのヒロイン、主人公・ルフィの幼馴染、人気キャラクター・シャンクスの娘という重要な役に抜擢されて喜びもつかの間、すぐにプレッシャーを感じたという。

名塚さん
名塚さん

いろいろな要素がこれでもか! とてんこ盛りの役柄で(笑)

多くの方が愛している作品だからこそ、私にそんな大役が務まるのだろうかと不安な気持ちがありました。

一方、その不安が名塚さんを突き動かす原動力にもなっていた。

名塚さん

合格をいただいてすぐに、「今日からウタのことだけを考える毎日が始まるんだ」と思いました。「ウタを演じるために、とにかく準備しなきゃ!」って。

ウタは「世界の歌姫」という異名を持つキャラクターで、劇中には数多くのライブパートがある。セリフパートは名塚さん、歌唱パートはアーティストのAdoさんと担当が振り分けられていた。

そのため、役作りをする上では「Adoさんの声を研究した」と明かす。

名塚さん

歌からセリフ、セリフから歌へ、スムーズに移り変わることが求められるだろうなと思っていました。

なのでまず初めに、Adoさんのいろいろな楽曲を聴いて、Adoさんの声の雰囲気からウタの話し声で参考にできる要素を探る作業をしました。

同時に、徐々に上がってくるウタの楽曲や設定資料を確認しながら、どんな経験をして何を感じて今のウタがあるのかを考えていきました。

綿密に準備して挑んだ、独自の収録方法

これまで数多くのキャラクターを演じてきた名塚さんだが、今回初めて「楽曲のキーに合わせた声を出すこと」に挑戦した。

普段演じる上では監督や音響監督からちょっとしたニュアンスやテンションを指示されることはあるものの、ある程度は自由度高く演じているのだそう。

しかしウタを演じる上では、「今までになかった指示を受けました」と明かす。収録前に監督や尾田(栄一郎)先生に聞いてもらうための音声テストでは、さまざまなパターンの音域でウタのセリフを録音した。

名塚さん
名塚さん

歌からセリフ、セリフから歌へ切り替わるタイミングの声に対し、「もう1トーン低い音からスタートしてほしい」「2トーン高い音で終わってほしい」と歌を歌う時のようなディレクションを受けたんです。

なので本番当日は「さっきの声よりキーを高め(低め)に」と言われて理解できるように、直前に出した声を覚えておこうと考えました。それはすごく難しかったです。

ほとんどのアニメ作品はアフレコ時に映像は完成されておらず、絵コンテに声を当てていく。さらに、ほかのキャストの芝居のニュアンスやテンションなどとのバランスも考慮して演じなければならない。

本作はルフィ役の田中真弓さん、シャンクス役の池田秀一さんと共にアフレコを実施。「なるべく自分の考えに固執し過ぎず、柔軟に対応できるよう意識しました」とも語った。

同時に「二人がいなければ迷子になっていたかもしれない」とうれしそうな表情を浮かべる。

名塚さん
名塚さん

ルフィから飛んでくるセリフやシャンクスの思いを直接聞けたことで、とても収録がしやすかったです。

また、真弓さん自身はウタに出会っていたルフィのことは知らなかったから、上手く成立するのか不安もあったそうです。

名塚さん

でもルフィとウタが再会してすぐ「お前、ウタだろ!」とセリフを発した瞬間、「自分の中に昔からウタがいた」と腑に落ちたらしいんですよ。

たしかに私もそのセリフを聞いた時、すぐに「ルフィ!?」って返すことができた。今までずっと収録していたかのような感覚になれました

「つながりを大切に」プレッシャーからは逃げない

重責を感じながら見事に演じきったウタ。本作に限らず1999年アニメ『おじゃる丸』で声優デビューをして23年間、数多くの作品に出演する中で、毎回多くのプレッシャーを感じてきたはずだ。

「23年、安心したことなんて一度もない」と名塚さんは言う。「プレッシャーをつらく感じることはないのか」と率直な疑問を投げ掛けると「でも、そのプレッシャーは必要だと思っています」と強いまなざしを携えて答えた。

名塚さん
名塚さん

(『おじゃる丸』の)大地(丙太郎)監督が私を見つけてくださって、いろいろな人に名塚佳織という人間を紹介してくれた。そこから皆さんが私を使ってみようと声を掛けてくださって、今の私がいます。

つないでくださった方の顔に泥を塗るわけにはいかないからこそ、プレッシャーからは逃げちゃいけないと思うんです。

それこそが名塚さんの仕事のスタンスだ。だからこそ徹底した準備を怠らず、けれども準備に固執し過ぎず柔軟に対応していく。

そんなスタイルが確立されていったのだろう。朗らかに「つながりを大切にしていきたい」と話す姿が印象的だ。

名塚さん

私は人とのつながりがなければ、声優のお仕事をできていなかったと思うんです。

すてきな方々とお会いすることができたのも、今回『ONE PIECE FILM RED』でヒロイン役を務められたのも、こんな素晴らしい世界に身を置かせてもらえているのも、つながりがあったから。

皆さんがいないと自分の存在意義を見失いそうだから、求められること一つ一つ丁寧に答えていけたらといいなって思います。

チャレンジ続けられる秘訣は、仕事・育児・ご褒美のメリハリ

名塚さんはデビュー当時からフリーランスで仕事を続けてきた。そして現在、二人の子どもを育てながら仕事をしている。

プレッシャーを感じながら準備を怠らない仕事のスタイルで、育児との両立をどのように実現しているのだろうか。

名塚さん
名塚さん

昔から体力には自信があるのと、マルチタスクは得意なんです。

役者の仕事が特殊なのかもしれませんが、子どもに授乳しながら、家事をしながら、仕事のことを考えているときもあります。

もちろん仕事でも育児でもどれか一つに無心で没頭する時間が必要なこともありますけどね。

例えば、子どもが風邪をひいたら仕事は一時中断して落ち着くまで向き合う。仕事に没頭しなきゃいけない時は家族や頼れる人に頼って仕事に集中する。

そうやってメリハリをつけています。

また、「自分へのご褒美は大切です」と名塚さん。大好きな甘いものを買ったり、遊びの時間をもらったり、ただただ寝る時間を確保したり……それらの時間も含めて、メリハリを大切にしているという。

最後に、ライフステージに変化があった名塚さんが今考える「今後の展望」について伺うと、「もっともっと子育ても仕事も充実していけたらいいな」と優しくほほ笑んだ。

名塚さん

上の子を出産した時もそうだったのですが、第二子を出産してより仕事が楽しくなりました。

家族のために働けることをすごく幸せに感じています。仕事に出ているからこそ家族との時間を大切にしたいと思えるし、家族と過ごす時間があるから仕事の時間を有意義に感じられる。

周りの皆さんに支えられてとてもバランスよくお仕事ができています。だからこそ、仕事も育児も丁寧に向き合っていきたいなって思います。

名塚さんの強さは「弱さを見せる強さ」なのかもしれない。周りの支えに頼れるからこそ、恩返しとして仕事を頑張れる。

ライフステージが変化し守るべきものが増えても、その強さがあるからプレッシャーに負けず挑戦し続けられるのだろう。

名塚さん

声優 名塚佳織さん

代表作に『交響詩篇エウレカセブン』エウレカ役、『コードギアス』シリーズナナリー・ランペルージ役、『僕のヒーローアカデミア』葉隠透役などがある。アニメだけでなく、舞台でも活動している

作品情報

『ONE PIECE FILM RED』 大ヒット上映中!
©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会 
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取材・文/阿部裕華 撮影/竹井俊晴