声優・小松未可子の“自分第一”な成長論「新しい武器をもっと増やしていきたい」
この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心をつかみ、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります
新人の頃は「仕事第一」だったけれど、今は「自分第一」にすることが長く働き続けていく上で、一番のモチベーションにつながっています。
2010年にデビューして以来、TVアニメ『スター☆トゥインクルプリキュア』(香久矢まどか/キュアセレーネ役)や、『呪術廻戦』(禪院真希役)など数多くの作品に出演してきた人気声優の小松未可子さん。
2022年10月27日よりNetflixにて全世界独占配信されるアニメ『ロマンティック・キラー』では、魔法使いリリの声を担当する。

Netflixシリーズ「ロマンティック・キラー」10月27日より独占配信開始
声優としてのキャリアは10年以上。競争の激しい声優の世界で、チャンスをつかみ続けてこられたのはなぜなのか。彼女のプロフェッショナリズムに迫る。
「声優冥利に尽きる」三つの声色を使い分ける高難易度の役に挑戦
小松さんが演じる魔法使いのリリは、恋愛に興味がなく、子どもの頃から大好きなゲームとチョコ、猫に囲まれて元気に過ごしてきた女子高生、星野杏子の前に突然現れ、杏子が恋愛するように魔法を使って少女漫画のようなシチュエーションを次々と仕掛ける。
星柄のとんがり帽子とマントを身に着けた、マスコット的なキャラクターだ。
リリはこれまでにやったことのないタイプのキャラクターだったので、オーディションで選ばれた時は本当にうれしかったですね。
うまくできるか心配でアフレコまではドキドキしていたのですが、「選ばれたからにはやるしかない。思い切り演じよう!」と気持ちを切り替えて挑みました。

リリは時に人間の姿に変身するキャラクターで、女の子バージョンと男の子バージョンが存在する。そのため、リリの姿に合わせて声色を変える必要があった。
同じキャラクターでありながら実質的には三役をこなす難易度の高い仕事。小松さんは「声優冥利に尽きます」と朗らかに笑った。
ちょっと憎たらしいけどかわいらしさもあるリリをベースにしつつ、人間の姿の男の子や女の子になった時にガラッと声を変えられたら面白いだろうなと思いました。
また、表現の幅が広いだけではなく、ギャグ的な要素やアドリブが多いキャラクターでもあって。
台本には書かれていないけどアニメーションの動きがついているシーンがいくつかあったので、「いかに台本の余白を埋めるか」という課題を自分の中に置きながらアフレコに臨みました。
難しい役どころですが、その分すごくやりがいを感じましたね。
現場は臨機応変に。ただ、周到な事前準備も欠かさない

プロとしていい仕事をするために小松さんが普段から心掛けているのは、事前の準備を怠らないこと。『ロマンティック・キラー』の仕事においても、それは変わらなかった。
『ロマンティック・キラー』にはパロディー的な要素が多く含まれているので、パロディーの元ネタとなる作品も見て、それをオマージュしたセリフを自分なりに用意していました。
とはいえ、それが役に立たないことも多々ありますけどね。すべてが予定どおりに進むことはなかなかありませんから、臨機応変な対応が求められます。
しかし、周到な準備は絶対に裏切らない。それが自分の自信につながるからだ。
小松さんは「新しい武器」を増やすことにも貪欲だ。やったことのない役に挑戦し、声の使い方の幅を広げるように意識しているという。

得意な役でお仕事をいただけるのはとてもありがたいこと。でも、「これしかできない自分」にはなりたくないんです。
だから、「こんな役をやってみたいな」というものがあれば自分で手を挙げて、「やらせてほしい」と言うようにしています。
ただ、声優の世界は制作者からのオファーがあって仕事が始まることが一般的だ。
そのため、新人の頃には、自分から「これがやりたい」なんて言ってもいいのだろうか? と悩んだ時期もあったという。
でも、かつて仕事でご一緒した音響監督さんが、「やりたいことがあるなら、どんどん口に出した方がいい。チャレンジ精神をかってくれる人は必ずいる」と言ってくださったんですよ。
それ以来、自信を持って自分のやりたい役を口に出せるようになりました。
今持っている武器を使ってもらうことはもちろん大切ですが、新しい武器も増やしていきたいんです。
その変化がキッカケでつかんだ役柄が、2014年に放送されたTVアニメ『ニセコイ』の鶫誠士郎役だ。
実は、別のキャラクターでオーディションのオファーがきていたが、「鶫誠士郎役も受けられますか?」と声を上げたことで見事にチャンスをつかみ取った。

オファーしていただいた役にしっかり向き合うのは当然ですが、自分が「ここぞ!」と思う時は、「こっちの仕事もやってみたい」と口に出すのは大事だなと思いますね。
自分の可能性を広げられるのは、やっぱり自分。
「やってみたら、これもできた!」っていう経験を増やしていくうちに、お仕事の幅も広がっていくと思います。
「自分第一」が良いパフォーマンスにつながる
チャレンジ精神旺盛な小松さんだが、無我夢中で仕事にくらいついた20代を経て30代になった今、「仕事観にも変化があった」と話す。
新人の頃は、一つでも多く場数を踏んで一刻も早く成長したいと考えていました。だから、今思えばむちゃな働き方をして疲弊していた時期もあったかもしれないです。
でも今は、自分に負担をかけ過ぎず、「自分の時間を大切にする」ことも心掛けることが仕事のモチベーションを保つ上で大切な要素なんじゃないかって思うんですよね。
自分の時間を大切にする方法はさまざまだ。友達に会う、美容院に行く、趣味に没頭する……「心にゆとりを取り戻すための時間を過ごすようにしている」と小松さんは言う。

何をするでもなく、だらだらしてただ休むのもいいですよね。
そうやって自分の心にゆとりを持っておくことが、日々の仕事にもいい影響を与えてくれるし、チャレンジに踏み出す余裕も生まれてきます。
自分の時間を大事にすることと、仕事で新しいことにチャレンジすることは、小松さんにとって二つセットだ。
今後は、アニメーションの声優業をベースとして続けながらも、文学の朗読劇やナレーションなど、これまでに経験の少ない領域でのお仕事にも挑戦したいです。
声優と一言に言っても、ラジオ、海外ドラマの吹き替えなど本当にさまざまな分野があるので、自分なりに「できた!」と思えるところまではチャレンジし続けていきたいです。

<プロフィール>
小松未可子(こまつ・みかこ)
声優・歌手。1988年三重県出身。代表作には『呪術廻戦』(禪院真希)、『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』(マァム)、『半妖の夜叉姫』(せつな)などがある
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作品情報
Netflixシリーズ『ロマンティック・キラー』
2022年10月27日より独占配信開始

Netflixシリーズ「ロマンティック・キラー」10月27日より独占配信開始
原作:百世渡『ロマンティック・キラー』(集英社「ジャンプコミックス」刊)
監督:市川量也(「灼熱カバディ」「すばらしきこのせかい The Animation」)
シリーズ構成:大場小ゆり(「厨病激発ボーイ」「佐々木と宮野」)
脚本:大場小ゆり(「厨病激発ボーイ」「佐々木と宮野」)、福田裕子(「勇者、辞めます」「大正オトメ御伽話」)
キャラクターデザイン:松浦有紗(「すばらしきこのせかい The Animation」「厨病激発ボーイ」)
音楽:川崎龍・狐野智之
アニメーション制作:ドメリカ(「灼熱カバディ」「すばらしきこのせかい The Animation」)
OP テーマ:YURiKA「ROMA☆KiRA」
EDテーマ:リリ(CV:小松未可子)「Romantic Love〜恋愛しませんか?☆〜」
企画・製作:Netflix
取材・文/阿部裕華 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
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