理想の味を絶対にあきらめない。『プレミアムガーナ』計画比約135%超えの大ヒットを生んだチョコレート研究員の信念【ロッテ 村松美紀さん】
働く女性たちに愛されているヒット商品やサービスを生み出した女性たちの頭の中を大解剖! 話題の商品・サービスの生みの親・育ての親から、ヒットを生むノウハウや、いい仕事をするコツを学ぼう
赤いパッケージでおなじみの『ガーナ』チョコレート。
1964年の誕生以来、日本中の人に長く愛され続けてきたロッテの大ヒット商品だ。
特に、コロナ禍に生まれたガーナ初のプレミアムラインの売れ行きは絶好調。
同社が発売当初に計画した売り上げを約135%上回る実績を叩き出しているという。
この『ガーナ』シリーズの味を10年以上支えてきた女性が、ロッテのチョコレート研究課で働く村松美紀さんだ。

<プロフィール>
株式会社ロッテ チョコ・ビス研究部 チョコレート研究課 主査
村松美紀さん
幼少期には児童合唱団に所属し、高校時代はオペラのコンクールで入賞経験も。大学・大学院で建築を専攻し、2012年にロッテ入社。入社4年目にポーランドのグループ会社に海外赴任。帰国後に「ガーナ」の担当となり、その後、チームリーダーに抜擢
同社のガーナブランド商品の研究開発を行う研究員は、全社員約2400人の中から選び抜かれた8人が所属。
村松さんはそこでチームリーダーを務めている。
子どもから大人まで日本中の人に広く長く愛されるヒット商品を、村松さんはどのように生み出してきたのだろうか。
味も食感も、理想をとことん追求して生まれたヒット商品
――現在、『プレミアムガーナ』の売れ行きが絶好調とのこと。どんな商品なのでしょうか
昨年発売を開始した、とろける口どけの『ガーナ』シリーズにさらに“ひと手間”を加えた商品です。専門店のチョコレートのような、プレミアムな味わいを楽しめるシリーズになっています。

写真は2022年9月に発売されたばかりの『プレミアムガーナ ダークミルク』。厳選したカカオの芳醇な香りと上品なミルクの味わいをどちらも楽しめる、プレミアムな板チョコレート
おかげさまで、発売当初の売り上げ計画の約135%超えを記録。
この大ヒットを受けて、来年以降も継続的に、このプレミアムラインを販売していきたいと考えています。
――なぜ、プレミアムラインは予想以上にヒットしたのでしょうか?
まず一つは、コロナ禍に変わった消費者意識にフィットする商品だったことですね。
コロナ禍で外食の頻度が減ったこともあり、おやつやおうちご飯を「ちょっと贅沢にしたい」というニーズが高まっていることは、皆さんも感じているところだと思います。
そこで、弊社では『ガーナ』ブランドでも、毎日のおやつ時間を少し贅沢にするような商品を出そうと考えました。

もう一つは、味と食感にとことんこだわり抜いたこと。
いくらプレミアムなパッケージに包んで売り出したとしても、実際に食べてくださった方に「いつものガーナと一味違うな」と思ってもらえなければ、意味がありません。
「とろける口どけ」というガーナらしさはそのままに、まるで専門店で買ったチョコレートを食べた時のような体験も届けたいと思いました。
例えば、プレミアムガーナの『フルーツショコラ』シリーズには、マスカットやストロベリーなどの味があるのですが、いずれも、フルーツにかぶりついた時の食感を再現するために何度も試作品づくりを繰り返しました。

プレミアムガーナの『フルーツショコラ』シリーズ。マスカットのみずみずしい果実感、あまおう苺のみずみずしい果実感を再現
ガーナミルクの中に果物とホワイトチョコのソースが入っているのですが、このソースのとろとろ感をちょうどいいところで保つのが難しくて。途中、理想の食感にならないことから発売中止を検討する声もあったくらいです。
でも、研究室で試行錯誤を繰り返し、新技術を開発することでわれわれが思い描いたような口どけをかなえることができ、商品化に至りました。

――紆余曲折あった中でも理想を追求し、妥協しなかった商品だからこそヒットした、と。
そう思います。先ほどご紹介した『ダークミルク』も、理想の味をかなえるために、50回以上の試作を重ねました。
チョコレートは、「ダークチョコレート」「ミルクチョコレート」「ホワイトチョコレート」など、いくつかの種類があります。
ですが、われわれの作りたい商品は『ダークミルク』なので、ミルクとブラックのちょうど中間。ミルクチョコレートとダークチョコレートの風味を両立させなければいけなかったんです。
そして、口に入れた時にはダークチョコレートならではのカカオの風味が、その後にミルクの甘さがやってくるようにしたかった。
どれくらいの厚みがあれば理想の味になるのか、どんな形であればもっと美味しくなるのか、何パターンも試作品を作っては食べてを繰り返し、今の商品が完成しています。
――『ダークミルク』というチョコレートの種類もめずらしいですよね。ダークとミルク、半々の商品を作ろうというのは、村松さんのアイデアだったのでしょうか?
はい。実は、3年前に海外赴任をしていた時に、ヨーロッパの市場ではちらほらダークミルクチョコレートが売られているのを目にしていたんですよ。
それで、実際に食べてみるとすごく美味しくて。「これは日本でも紹介したい」「ガーナでも作ってみたい」とかねてから考えていました。
それから3年、今こうして理想を追求してできた商品を皆さんにお届けできて、それを多くの方に受け入れてもらえたことがうれしいですね。
――一つの商品を世に出すまでに数年かかる場合もあり、その間もうまくいかないことが何度もあるわけですよね。そこで村松さんが折れずに仕事に向き合っていられるのはなぜなのでしょうか?

すぐにいい結果が出ないことは「当たり前」だと思っているので、試行錯誤が続くこと自体はあまり気になりません。
実は私、以前オペラ歌手になることを目指していたんですよ。
その時も、一生懸命練習してコンクールに何度も出ましたが、いい結果が得られないことも度々ありました。
でも、練習を重ねれば着実に歌は上達するし、失敗したりうまくいかなかったりするからこそ、そこから改善点を見いだせる。
仕事も全く同じことが言えます。一足飛びで成果が得られることなんてなかなかないし、失敗した時こそもっと良いものを生み出すチャンスです。
「何が悪かったのか」を分析できるのは失敗した時だけですからね。
たとえうまくいかないことが続いても「次どうすればいいか」をちゃんと考えて実行に移せばいいんです。
――失敗がなければ、ヒット商品は生まれない?
そう思いますね。いきなり大成功の商品を生み出すことはできません。
たくさん失敗を重ねて、味や食感を何度もチューニングして、ようやく「これだ」と思えるものが完成する。その繰り返しですね。
ヒットを生み出す「ひらめき力」は努力で身に付く
――改めて、『ガーナ』シリーズのように、老若男女に長く愛されるヒット商品を作る上で大事なことは何だと思いますか?
数字で見える科学的データを参考にすることも大事なのですが、同時に大事なのは、商品づくりやその販促にかかわる人たちの「ひらめき力」なのかなと思います。
――村松さんご自身は、ひらめき力をどのように磨いてこられましたか?

とにかく、食に関わるいろいろな情報をインプットすることですね。
例えば、赴任中は毎週末、ヨーロッパ各地に足を運んではいろいろなお菓子を食べて市場調査をしてきました。
日本に帰った今も、週末にはデザートビュッフェを食べに行ったりスーパーのお菓子コーナーを回ったり、チョコレート専門店に足を運んだりするのが習慣です。
さらに、私はいろいろな方のお話を聞くのが好きで、自分と違う感性の人と交流するようにしています。
そうやってあらゆる情報を収集をしながら、世の中にはどんなニーズがあるのか、どんな食べ物や味が存在するのか、自分の引き出しをどんどん増やしてきました。
そうすればするほど、こんなものを作ったらいいのでは?というアイデアも出やすくなり、ひらめき力も高まりますね。
――ひらめき力は、努力でつくれるということですね。
そうです。私も地道に足で稼いで食体験を積み、情報収集をすることで「ひらめき力」を磨いてきましたから。いいひらめきは、必ず努力の上に生まれると思います。
楽譜づくりをするように、味を奏でる
――理想の味を追求する仕事の面白さをどう感じていますか?
私の中で味づくりは、楽譜を作るような作業。どの楽器の音色をどこでどうやって重ねるのか……曲を表現するような感覚があり楽しいんです。

合唱で例えるなら、ソリストが歌う部分もあり、ユニゾンで調和を大切にするところもあり……ソプラノ、メゾソプラノ、アルト、どのパートを目立たせるかというバランスにも気を付ける。
味づくりもそんなふうに、すべての原料の配合を細かく調整したり製法を考えたりしていきます。
――ガーナブランド商品の研究員は8人のメンバーがいるそうですが、周囲の人から刺激を受けることもありますか?
はい。インスタグラムや友達同士の文化、サステナブルに対する考え方など、チームには全く異なる興味・関心を持っている世代の人もいますから、意見交換をするとすごく参考になりますね。
今後も若い世代の感性をどんどん取り入れて、伝統的でありながらも新しい『ガーナ』シリーズを世に送り出していけたらと思います。
――伝統を守るだけではだめで、新しい挑戦も必要ということですね。“会社の顔”となるブランドの味を任されるプレッシャーはありませんか?
プレッシャーはそれなりにありますね(笑)。ただ、それ以上にこの仕事ができる喜びの方が大きいですね。
その根底にあるのは、食べていただいた方に喜んでいただきたいという気持ち。
皆さんの人生の中に、われわれの製品が何かしらの幸せを提供することができたら……という思いが私の商品開発への原動力になっています。

――村松さんがそういった思いを持つようになったのはなぜなのでしょうか?
ご褒美に食べたチョコ、大切な人と食べたチョコ……過去を振り返ると、私の人生とチョコレートは幸せな記憶といつも結び付いています。だからこそ、そういう体験をもっと世の中に増やしていきたいと思うんです。
ちなみに、日本のチョコレートの消費量は世界トップの国と比較すると五分の一程度。世界と比較すると、日本人はあまりチョコレートを食べていないんですよ。
ですから、より多くの方にチョコレートの良さを知ってもらって、食べてもらう機会はまだまだたくさんある。
そこで、『ガーナ』シリーズから多様な商品を開発し、日本に新しいチョコレート文化をつくれたらいいなと思います。
取材・文/モリエミサキ 撮影/赤松洋太 編集/栗原千明(編集部)
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