「仕事は短期的に、人生は長期的にデザインする」HPE女性リーダーが語る“キャリア自律”のかなえ方

「自分のキャリアは自分自身で決めるもの」

そんな考え方が浸透した現代は、“個の時代”と呼ばれている。自分のキャリアを会社任せにするのではなく、自分自身で主体的に考える「キャリア自律」の姿勢が一人一人に求められるようになった。

しかし、いざ自分の将来を決めようと思っても、自分らしい選択軸が見えずに悩んでしまう女性も多い。

そこでWoman type編集部が訪れたのは、コンピューターやソフトウエア製品の開発・製造・販売などを手掛ける日本ヒューレット・パッカード(以下、HPE)。お話を伺ったのは、執行役員の小板橋美世さんと、パートナー営業統括本部長の加藤知子さんだ。

日本HPE

写真右:日本ヒューレット・パッカード
執行役員 マーケティング統括本部長 
小板橋 美世さん

写真左:日本ヒューレット・パッカード
パートナー営業統括本部 第四営業本部長 
加藤知子さん

創業以来、社員の「キャリア自律」が会社風土として深く根付く同社。小板橋さんによれば、「HPEには社員が自らの意思でキャリアをデザインするカルチャーがあり、部署異動や働く場所、自分らしいワークスタイルの選択をサポートする制度も充実している」という。

なぜHPEでは、社員のキャリア自律を重視するのか。20~30代の女性たちが、自分のキャリアを自分でデザインし、納得感のある人生を歩んでいくための方法とあわせて聞いた。

会社も社員も幸せにする「キャリア自律」は、ビジネスの成功に不可欠

――HPEでは、社員の「キャリア自律」をどのように支援しているのでしょうか。

小板橋:HPEには創業当時から「HP Way」と呼ばれ、今なお揺らぐことなく継承されている「信頼と尊敬」をベースとしたカルチャーがあります。

当社のキャリア支援制度はこの指針に基づいて設計されており、「自分のキャリアを築く責任は社員一人一人にある」「会社や上司の役割は、社員の希望を実現できる環境を整えることである」といった考え方が徹底されているのです。

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小板橋:当社の社内公募制度は良い例の一つです。全採用ポジションの中で、毎年三分の一は社内公募制度を使って自ら異動を希望する社員で決まります。

一般的には、自分の部門のメンバーが「他の部署に異動したい」と言ったらいやがるマネジャーが多いのかもしれません。でも、HPEでは社員本人が決めたことが最優先されるので、そこで引き留められることはありません。

この制度がきちんと機能しているのは、「自律的にキャリアを形成したい」と考える社員の意思を尊重するカルチャーが、マネジメント層も含めて会社全体に浸透していることの証と言えるでしょう。

私は中途入社なのでなおさら実感するのですが、「信頼と尊敬」の行動指針が社員一人一人に浸透しているHPEのカルチャーは、本当にすばらしいですね。

加藤:私は新卒からずっとHPEで働いてきましたが、「信頼と尊敬」をベースにするカルチャーの本当の意味を理解できたのは30代後半の時にマネジャーになってからだと思います。

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加藤:管理職になりたての頃は正直言って自分が何をしたらいいのか分からず、チームメンバーの業務を助けたり、減らしたりすることばかり考えていました。

すると、ある日メンバーから「加藤さんがやっているのは、マネジャーの仕事ではないと思います。社内外での交渉に時間を割いてください」とはっきり言われたのです。

私を信頼してフラットに意見を言ってもらえたことで、マネジャーが本当にやるべき仕事とは何か、自分自身と向き合い成長する機会をもらえました。

マネジャーの仕事とは、メンバーの業務を直接的に手助けすることではなくて、目標達成のために働く環境を整え、各自の成長やスキルアップにつながるチャレンジの機会を提供すること。

メンバー一人一人の前向きな意思を引き出して、「なりたい姿」に近づいていくことをサポートすることだと学んだのです。

この考えは、今私が理事を務めている「茶話会」というHPEの女性社員のネットワーキングを目的とした活動にも生かされています。

――「茶話会」とはどのような取り組みですか?

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「茶話会」開催時の様子

加藤:2019年から5名で活動をスタートし、HPEの女性社員「一人」と「一人」が直接つながることで、会社全体の「人」のつながりへと広げていくことを目的としてネットワーキングを支援しています。

「女性社員が働くことを諦めない」ためには、社員同士の交流を深めることが重要だと考えているからです。

また、茶話会では、外部講師を招いたセミナーやHPEの女性社員によるキャリア・生き方の紹介を年4回実施。ワークショップなどを通じて参加者同士で対話する時間も必ず設けるようにしています。

参加者には、女性ならではの悩みも気軽に話せるような関係性を社内でたくさんつくってほしいですね。

小板橋:女性支援に関しては、今年新たに発足した「DEI推進カウンシル」という枠組みの中で「Vision 30」という会社全体の目標を定めました。

これは、2030年までに女性社員比率30%、女性エグゼクティブ比率30%を目指すというもです。これを足掛かりに、女性だけでなく一人一人の個性が発揮される環境づくりに貢献していく予定です。

加藤:また、当社では1on1にも力を入れており、メンバーの強みややりたいことをクリアにすることに多くの時間を割いています。

私の場合は、メンバーがプライベートで打ち込んでいる趣味の話や、会社の枠組みを超えて挑戦したい仕事の話もよくしますよ。

「一緒に働いている人にイキイキしていてほしい」というのが一番の願いなので、「将来はこんなことがやってみたいんです」と打ち明けられると、それが社外でしかかなわない希望だったとしても「いいじゃない! やってみようよ」と背中を押したくなってしまうんですよね。

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――会社の業務にかかわらず、個々人の「やりたい」「こうありたい」という希望を尊重しているんですね。改めて、会社としてそこまで「キャリア自律」を重視するのはなぜなのでしょうか。

小板橋:社員が何千人といる会社で、経営陣が全社員のキャリア志向を完全に把握するのは不可能ですよね。だからこそ社員が自分のキャリアに責任を持ち、会社や上司はそれをサポートするという発想が大切だと考えています。

そしてシンプルに、自分で決めた「やりたいこと」や「なりたい姿」に向かっている人は、前向きな状態なので一緒にいい仕事ができますよね。逆に、いやいや仕事をしている人とでは、そうはいかない。

社員が成長実感を持って楽しく働くことは、会社を変革するパワーになる。社員一人一人が能力や個性を発揮し、充実した人生を送ることは、ビジネスの成功に不可欠だと考えています。

夢がなくても焦らない。20代は「パズルのピースを埋める」が最優先

――「キャリア自律」をかなえるためには、自分なりの選択軸が必要ですよね。お二人は今まで、どのような選択軸で自分のキャリアを歩んでこられたのでしょうか?

小板橋:私は結構単純です。「新しいこと」「楽しいこと」「成長実感を得られること」の三つの基準で仕事を選んできました。

今は人生100年時代とも言われているし、40年以上は働き続けるわけですから、自分にうそはつき続けられません。だからこそ、自分の心に従って、興味のあるものを選択してきたと思います。

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加藤:私は「やりたいことは全部やる」という考え方を大切にしてきました。

例えば他部署と連携して進める業務など、自分のジョブディスクリプションを少し超えた範囲の仕事でも、より良い成果を出すために必要だと思ったら積極的に手を上げて取り組んできましたね。

状況が改善するのを「待つ」のではなく、自分でアクションを起こし続けてきたからこそ、人よりも幅広い仕事を経験できたのだと思います。

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加藤:ちなみに「出る杭は打たれる」ということわざがありますが、当社ではどんなに目立つ行動をしても“打たれた”と感じたことは一度もありません。社員の主体性が尊重されるカルチャーが昔からあるのだと思います。

――自分なりのキャリアの選択軸をなかなか見つけられない人はどうしたらいいと思いますか?

小板橋:変化の激しいビジネス環境において、五年や十年以上先の展望まで語れる人はほとんどいないのではないでしょうか。ですから、長期的な目標がなかったとしても、それほど心配することはないと思います。

それよりも、20代のうちは自分の好きな領域でパズルのピースを埋めるように、できることを着実に増やしながらキャリアを積んでいくといいのではないでしょうか。

――パズルのピースを埋めるように、ですか?

小板橋:ええ。例えば、私はマーケティングの仕事が好きで、20代の頃からずっと携わっています。

でも、マーケティングと一言に言っても、その領域には多種多様な仕事が存在しているし、それぞれ求められるスキルや一緒に働く相手も違ってくるんですよ。

そこで私は、それらの仕事を一つ一つ経験して“マーケティングというパズル”のピースを少しずつ埋めていくことを意識してみました。

すると、だんだん全体像が見えてきて、「次はこれをやってみたいな」「知らないことをもっとやってみたいな」と自然に思えるようになりましたし、その中で自分の向き不向きも見えてきました。

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加藤:私も、無理をして長期的な目標を立てる必要はないと思いますね。

例えば、1on1で「やりたいことが見つけられない」と話すメンバーには、まずは3カ月先の目標を考えてもらっています。

キャリアの話というと、ものすごく先の未来を考えなくてはいけないイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。たった3カ月先のことでもいいから、自分がどうありたいか、何をしたいのか決めるのは大きな一歩です。

また、これまで見てきたメンバーの中には、仕事で一時的に自信を無くしてしまったために、将来の展望を描けなくなってしまった人もいました。

そんなとき私は、そのメンバーの「強みや達成できたことリスト」を一緒につくります。自信を取り戻すちょっとしたきっかけをつくることで、再び前を向いて進みだすメンバーを見るとうれしくなりますね。

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小板橋:あとは、自分のやりたいことを見つけたら、はっきりとマネジャーに伝えるのがおすすめです。

私は女性の中には、「頑張ってさえいれば、自然といい方向に導かれるはず」「黙っていても努力していればきっと報われる」と思っている人、つまり「お天道さまが見てくれている」と無意識に信じている人が多い気がしています。

それは決して悪いことではありません。

しかし、「興味のあるプロジェクトをリードしたい」、「より年収やポジションを上げて活躍したい」と思っているのなら、全くアピールすることなく限られたポジションにアサインされるのはかなり難しいと言わざるを得ないでしょう。

私は20代後半の頃に、当時働いていた会社がお客さま向けに海外視察を行うプロジェクトを行っていると聞いて「参加させてください!」とマネジャーに訴えたことがあります。

残念ながらその時はスキル不足のため希望はかないませんでした。でも、その2年後にアサインしてもらうことができたんですよ。「あの時、チャレンジしたいって言っていたよね? 今ならできるはずだ」とチャンスをもらえたのです。

やりたいことがあったらちゃんと声を上げなきゃダメだなと気付いた瞬間でしたね。

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小板橋:当時の私のように、若いうちは、やりたいことをアピールしても力不足などが理由ですぐにできるわけではないかもしれません。

しかし、一度声に出せば、周囲の人は覚えていてくれますし、自分もそれに向けて努力をするのでチャンスをつかみやすくなります。周囲と自分にコミットメントを生み出す「宣言」のパワーは、若いうちからぜひ意識できるといいですね。

キャリアとは「人生そのもの」。自分にとって最適なバランスを見つけて

――これからの時代、女性が自分らしく長く働き続けるためには、どのような考え方を持つことが大切だと思いますか?

加藤:若い人の中には、もしかすると「キャリア=仕事」だと思っている人が多いかもしれませんが、キャリアとは人生そのものです。仕事で昇格すれば人生は成功なのかというと、決してそんなことはありませんよね。

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小板橋:その通りですね。今振り返ってみて思うのは、人生の中で仕事よりもプライベートの比重が高くなる時期があってもいいということ。

私はかつて「仕事も家庭も100%で頑張りたい!」「どちらも手を抜きたくない」と思いすぎて、少し無理をしてしまった時期がありました。

特に子育て中は時間の制約が生まれるので、強い焦りを感じるかもしれませんが、その時期は長い仕事人生の中のほんの一瞬です。決して自分一人で無理をせず、会社やパートナーに頼りながら、自分にとって最適なバランスを見つけてほしいと思います。

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加藤:本当にその通りだと思います。子育てだけではなく、趣味や介護なども含めて、人それぞれワークライフバランスを保つことは、仕事のモチベーションを高めるために重要だと思います。

私も家族との時間や空手の稽古に割く時間は、仕事と同じぐらい大切です。プライベートを大切にすることで、仕事のモチベーションもより一層高まっていると感じますね。

女性の中にはそういったセルフコントロールが苦手な人も多いと感じているので、今後も茶話会で女性の悩みや興味に寄り添ったセミナーを企画していこうと思います。それらを通じて、自分自身と向き合うスキルも学んでいってほしいですね。

小板橋:自分のキャリアはあくまでも自分らしく、それぞれのペースで考えていけばいいんです。

仕事の目標設定は3カ月先のことを見通すくらい短期的なものでもOK。でも、人生のバランスは長期的な視点から考えてみる。そうやって自分らしいキャリアをデザインしていけたら、長く心地よく働いていけると思いますよ。

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取材・文/一本麻衣 撮影/吉永和久