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MAR/2015

「客寄せパンダでもかまわない」――普通の男性が女形芸者として生きる理由

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「客寄せパンダでもかまわない」――普通の男性が女形芸者として生きる理由
さまざまな仕事で女性の積極活用が行われるようになり、女性の働き方は変わりつつある。とはいえ、まだまだ男性比率が高い職場が多かったり、職種によっては「男性の仕事」という世間のイメージが根強く残っていたりと、少数派であることに息苦しさを感じている人は多いもの。そんな人は逆に、女社会でマイノリティーとして働く男性の仕事観を覗いてみては? 紅一点ならぬ「白一点男子」の姿から、今の職場で前向きに働いていくためのヒントが見つかるかも!

「客寄せパンダでもかまわない」――普通の男性が女形芸者として生きる理由
まつ乃屋栄太朗さん(28歳)
大森の置屋『まつ乃家』の長男として生まれ、家業を手伝うため、10歳のころから性別を隠してお座敷に出る。2009年、病気にて他界した母の後を継ぎ、女将として『まつ乃家』を背負う。現在、4人の芸者を抱え、自身も芸者として活躍している

母の死をきっかけに家業を継ぐことを決意
「なくても困らない」商売に価値を生み出す

現れた瞬間から、その凛とした佇まいに目を奪われる。女性よりも女性らしい優雅な立ち居振る舞いとあでやかな笑顔。まつ乃家栄太朗さんは女形の芸者であり、若くして大井海岸の置屋『まつ乃家』の女将を務める。かつては向島にも女形の芸者が1人いたというが、現在は日本で唯一の存在だ。

芸者を抱える置屋で生まれ育ち、女将であった母を助けるため、10歳のころからお座敷に出ていた栄太朗さん。当時は性別を隠し、一言も話さずに踊りのみを披露していた。

「今の時代は女装したタレントさんが表舞台で活躍し、ポップなイメージで受け入れられていますが、私が幼いころはまだまだディープでダークなイメージが強かった。『男の子が女性の格好をするなんて気持ち悪い』という反応も少なくはなかったようです。母がよく『女尊男卑だ』と怒っていましたが、芸者の世界は女性のみであることが当たり前ですから」

女性ばかりの環境で育ち、家業を手伝うのも当然のことと受け止めてきた。当初は「女性の格好をすることに抵抗があった」と話す栄太朗さん。この世界で本気で生きていく決意を固めたきっかけとなったのが、女将であり母である、まり子さんの死だった。

「それまでは、このまま続けていくのか、それとも違う道を選ぶべきなのかという葛藤がありました。けれど母が亡くなった時、この仕事を自分が続ける意味をあらためて考えることになった。私たちの商売は、明日なくなったとしても誰も困りません。人を楽しませるという、実質的に意味のないものに価値を生み出していくのはとても大変なこと。でもそれをやってこそ、自分自身も成長できる。母から『自分にとって大変なことを選び、進んでいきなさい』と言われて育ってきたことも大きく影響していると思います」

男性であるがゆえの拒否反応
本当の意味での芸者の仕事はできていない

「客寄せパンダでもかまわない」――普通の男性が女形芸者として生きる理由

23歳にして、栄太朗さんは女形芸者として、そして置屋の女将として生きていく道を選んだ。当初は女将が男性であることに対する反発もあり、残念ながらまつ乃屋を去った人もいたという。

「女将になったばかりのころは、『母のようにリーダーシップを発揮しなくては』と必死でした。本来は後ろから付いていくタイプの自分なのに、分相応でない振る舞いをしたことも少なくありません。今は無理に取り繕うことなく、等身大の自分の言葉で伝えること、そして『皆さんに協力してもらいながら一つのものを創り上げる』ことを大切にしています。1人でお座敷の空気を創るのは無理な話ですし、みんなで協力し合えば想像以上のものが生まれますから」

現在は4人の芸者を采配しつつ、自身も多い時は月に20本お座敷に出る。最近でこそ、女形の芸者としてTVや雑誌の取材を受ける機会が増えたことで興味を持ってくれる人も出てきたが、以前は男性であることに対する拒否反応もしばしばあった。

「お客さまからしてみれば、『酒席でもてなしてくれる女性』が芸者です。キャバクラ嬢が男性だったらおかしいように、私の存在はそもそも間違ったもの。珍しいものとしてのおもしろさはあるかもしれませんが、本当の意味で芸者の仕事ができているのかというと、そうではない。この葛藤は、私がこの仕事を続けていく限り、ずっと関わる問題です」

夢は「大井海岸の芸者文化を伝えていくこと」
そのための苦労や理不尽は全て受け止める

「男性にとって不利でしかない」芸者の世界。そこで生きる栄太朗さんが大切にしているのが「自分の気持ちをフラットにすること」だ。

「嫌なことも悔しいこともありますが、それを表に出さないようにしてきました。私の場合、男性であることがすでにマイナスですから、負の感情を出せばさらにマイナスになってしまう。『やりたくてやっていることなのだから』と、全てを受け止めるように心掛けています。そこで働き続けたいのなら、耐えることも、理不尽を受け止めることも当然。叶えたい目標があるから、そのためにはどんなことがあっても大したことではないと思えるんです」

その目標とは、大井海岸の芸者文化を盛り上げ、つないでいくこと。

「私が女形の芸者であることの大きな利点は、一般的な芸者さんよりも話題性があること。客寄せパンダのような存在と思われてもいい。知ってもらえる機会を作ることができるんですから。『楽しかった。またお願いするよ』と言っていただけるよう、一期一会の想いを大切に、一つ一つの宴席を盛り上げていきたいですね」

「自分の夢に向かうためなら、どんな苦労も苦労ではない」と、覚悟を感じさせる笑顔で語る栄太朗さん。大きな視点で、何事もしなやかに受け止めていく強さを持つことができれば、不利な環境の中でも新たな価値を生み出していけるのかもしれない。

取材・文/上野真理子 撮影/柴田ひろあき

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