10 DEC/2014

男性ウエディングプランナーが“かわいい研究”で乗り越えた「ブライダル=女性」のイメージ

男性ウエディングプランナーが“かわいい研究”で乗り越えた「ブライダル=女性」のイメージ

さまざまな仕事で女性の積極活用が行われるようになり、女性の働き方は変わりつつある。とはいえ、まだまだ男性比率が高い職場が多かったり、職種によっては「男性の仕事」という世間のイメージが根強く残っていたりと、少数派であることに息苦しさを感じている人は多いもの。そんな人は逆に、女社会でマイノリティーとして働く男性の仕事観を覗いてみては? 紅一点ならぬ「白一点男子」の姿から、今の職場で前向きに働いていくためのヒントが見つかるかも!

男性ウエディングプランナーが“かわいい研究”で乗り越えた「ブライダル=女性」のイメージ

アニヴェルセル 豊洲
ウエディングプロデューサー
中橋 辰也さん(27歳)

大学卒業後、アニヴェルセル株式会社に入社。以来一貫してウエディングプロデューサーとして勤務。今までに担当した式は約200組に上る

「人が評価されるポイントは人生で2回ある」
きっかけとなった中学時代の教師の言葉

爽やかな笑顔に、口調や振る舞いから感じられる物腰の柔らかさ。16人のウエディングプランナーのうち男性はたったの3人という“女性社会”の職場だが、中性的なたたずまいで違和感なく溶け込んでいる。中橋さんは年に約50組の新郎新婦を担当し、1組につき5カ月ほど掛けて打ち合わせを重ねながら結婚式という一大イベントに向けて準備を進める。

高校時代は生徒会役員・副会長・会長を歴任して文化祭や体育祭を、大学進学後は所属したアカペラサークルで他大学との交流会やライブを企画した。「その年、その場所にいるメンバーでしか同じものはできない」ところにイベントを作り上げる魅力を感じたという。数ある種類のイベントがある中で、結婚式をプランニングするこの仕事を選んだ理由は、中学時代の数学の教師の言葉にあった。

「『人が評価されるポイントは人生で2回ある。結婚式で自分のためにどれだけの人が集まって祝福してくれるのか、自分が死んだときのお葬式でどれだけの人が涙を流してくれるのか。その2回にたくさん人が集まってくれるような人生を送りなさい』。この話が頭に残っていました。幸せの象徴とも言える結婚式を、自分がいることでより良いものにできたらどんなに楽しいだろう、自分がいて良かったと思ってもらえたらどんなにうれしいだろうと思ったんです」

ウエディングプランナーは女性の仕事というイメージは強かったが、小さなころから女友達が多く、小学校から常に女子の比率が多いクラスだったという“免疫”があったせいか、まったく抵抗はなかった。多忙な仕事に追われる中で「すぐに、女性としてというよりは、1人の先輩、1人の同僚として見るようになりました」と笑う。

男性プランナーに対するイメージを打ち壊すために
“かわいい研究”にいそしむ日々

男性ウエディングプランナーが“かわいい研究”で乗り越えた「ブライダル=女性」のイメージ

そうは言っても、男性だからこそもどかしく感じる部分もあるのは事実。結婚式の料理や撮影など多岐にわたる打ち合わせの中で、新婦のヘアセットやドレスのサイズ、ドレス用インナーなどの話になると、踏み込みにくいのは致し方ない。そこは割り切って衣装スタッフ・美容スタッフに協力してもらうことを心掛けている。

それよりも中橋さんが奮闘しているのは、男性プランナーに対する顧客のイメージをどう打ち壊すか。一般的に「ブライダルといえば女性」という印象が強いせいか、女性プランナーを希望する顧客も多い。

「一生に一度の結婚式ですから、ドレスにヘアセット、テーブルコーディネートなど、ご新婦さまはとにかくかわいくしたいと思うもの。男性プランナーに対して『この人かわいいものとか分かるのかな?』という不安は少なからずあると思うんですよね。でも先入観で、男だから無理とは思われたくなかったんです」

そこでまずは周りの女性プランナーたちの「かわいい」に聞き耳を立てることから始めた。結婚式会場のコーディネートを見た彼女たちの「今日のこれ、すごくかわいいよね」と言った会話を聞いては、欠かさずチェック。インターネットで女性向けの記事や特集を読んだりと、“かわいい研究”を入社時から意識して積み重ねてきた。今でも時には「えっ、これが?」と面食らう場面もあるが、“かわいい感度”はだいぶ上がってきたと自負する。プライベートで雑貨屋の前を通ると、つい足を止めて「これは披露宴のテーブルに置いたらかわいいかも」と、女性が好きそうなアイテムを探してしまうほどアンテナは敏感になった。

「女性が思う『かわいい』は幅があるので、そこを理解するのは大変でした。どう見ても気持ち悪いキャラクターがなぜかわいいんだろうか……と(笑)。でも、お客さまに上辺だけの言葉は言いたくなかったんです。例えば結婚式の受付に飾るウェルカムボード。お客さまが頑張って手作りしてお持ちになったものを、本当はよく分かっていないのに『かわいいですね』と表面的に言うだけで終わらせるのはすごく失礼なこと。お客さまに共感したいという気持ちは強くありました」

お客さまからプレゼントされた
“白紙”のアルバム

こうした苦労がある一方で、男性だからこその強みもある。

「結婚式は新郎新婦が2人そろって初めてできるものですが、中には結婚式にあまり興味が持てないというご新郎さまも。そんな時にご新郎さまに寄り添って話ができるのは男性だからこそだと思います」

年に2、3組は、女性にはない視点でアドバイスしてくれそうといった理由で、男性プランナーを希望する新郎新婦もいるのだとか。さらに今年は自身も結婚式を挙げ、プランニングされる立場を初めて経験した。当事者として新郎新婦の大変さを味わったことが、仕事にも役立っている。

「体験を元に実感を持って、もっと近い距離でお話できるようになりました。式の準備を面倒に感じてしまっているご新郎さまには、『僕も仕事と結婚式の準備の両立には苦労しましたけど、でも当日は絶対に楽しいですから!』と共感しつつ、気分を盛り上げられるように心掛けています。『中橋さんが言うなら』と、乗り気になってくださった時はやりがいを感じますね」

こうして男性ウエディングプランナーとして努力をしてきた結果、思い出深い出来事も。担当した結婚式が無事に終わった数日後、新郎新婦が挨拶に訪れ、「最初は男性のプランナーさんで大丈夫かなと思ったけど、そんな不安はすぐになくなりました。中橋さんとの打ち合わせが毎回本当に楽しかったです」と、アルバムをプレゼントされた。

「1ページ目にはお客さまと3人で撮った写真が貼られていましたが、2ページ以降は白紙だったんです。不思議に思っていると『これから中橋さんが担当する新郎新婦は、きっと私たちと同じように楽しい気持ちになると思うから、今後担当するお客さまと撮った写真をここから貼っていってください』と。多いときは1回2~3時間の打ち合わせが1日4件入ることもあり、終わるころにはヘトヘトになりますが、打ち合わせ時間中に気を抜いたことは一度もありません。そうした姿勢が少しでも伝わったのかなと思うと、本当にうれしいですし、自信になりました」

伴走者として寄り添い獲得してきた信頼が、新郎新婦の粋な計らいとなって結実した瞬間。あれから4年が経ち、そろそろページはなくなりそうだ。結婚式は花嫁が主役。だからこそプランナーは女性の方が良いと考えてしまいがちだが、中橋さんはどこまでも仕事に前向きだ。新婦の気持ちを理解する努力をしつつも、新郎に寄り添うことで男性としての強みを発揮し、新たな価値を生み出す。仕事との向き合い方一つで、どんな立場でもきっと輝けるということを中橋さんが体現している。

取材・文/柏木智帆 撮影/柴田ひろあき