華やかな先輩たちから男性客室乗務員が学んだ「プロフェッショナル」の仕事

華やかな先輩たちから男性客室乗務員が学んだ「プロフェッショナル」の仕事

さまざまな仕事で女性の積極活用が行われるようになり、女性の働き方は変わりつつある。とはいえ、まだまだ男性比率が高い職場が多かったり、職種によっては「男性の仕事」という世間のイメージが根強く残っていたりと、少数派であることに息苦しさを感じている人は多いもの。そんな人は逆に、女社会でマイノリティーとして働く男性の仕事観を覗いてみては? 紅一点ならぬ「白一点男子」の姿から、今の職場で前向きに働いていくためのヒントが見つかるかも!

華やかな先輩たちから男性客室乗務員が学んだ「プロフェッショナル」の仕事

日本航空株式会社
客室乗務員
山根 俊基さん(27歳)

新卒で部材系メーカーに入社し、3年間営業部にて勤務した後、転職を決意。2013年、日本航空株式会社に入社し、手荷物に関するトラブル対応を行う空港旅客の仕事に従事。人事異動の一環として、翌年、成田第一客室乗員部に異動し、2カ月間の基礎訓練を受けた後に客室乗務員として勤務スタート。現在は機内サービスに従事している

男性だらけの職場から女性が9割の現職へ
華やかさだけでないプロ意識の高さに驚いた

背柔らかな物腰と爽やかな笑顔に、誠実さがにじみ出る。日本では客室乗務員と言えば華やかな女性のイメージが強いが、人なつこい笑顔を絶やさない山根さんは、日本航空の男性客室乗務員。同社において男性客室乗務員は海外基地乗務員を含めて約70名程度と、希有な存在である。

もともとは部材系メーカーに勤務し、出荷管理や工場とのやりとりを手掛けていた山根さんだが、「文系出身者の自分でも、新しいものを生み出せるフィールドで働きたい」と考え、転職を決意。そんな折り、日本航空が業務企画職を募集していることを偶然知った。

「幼いころマレーシアに住んでいたので、飛行機に乗る機会が多かったんです。漠然と憧れを持っていた航空業界で、シートサービスや路線など、新しいものを考えて世に出していく仕事に携わりたいと考えました。とはいえ、現場やお客さまのことが分からなければ企画の仕事はできません。そのため入社後の1年間は空港旅客の仕事を担当し、手荷物受け取りエリアでお客さまの荷物に関するトラブル対応を、その後異動して客室乗務員として勤務していますが、一緒に働く人のほとんどは女性。仲の良い姉がいることもあり、抵抗はまったくありませんでしたが、前職では女性社員がほとんどいなかったので不思議な感覚でした(笑)」

客室乗務員として異動する際は、「華やかな女性たちの職場なのだろう」とイメージしていたが、実際に入ってみると、そのプロ意識の高さに驚いたという。

「華やかなだけでなく、皆さんバリバリ働いていて、素直にすごいなあと。客室乗務員は、サービスだけでなく、保安要員としての役割も大きいので、高いプロ意識を持っているんです。いい意味で驚きを感じましたね」

男女問わず求められるスキルは同じ
仕事への姿勢も会話も勉強になる

華やかな先輩たちから男性客室乗務員が学んだ「プロフェッショナル」の仕事

2カ月の客室乗務員訓練を受けた後、ロス・シカゴ・サンディエゴ・パリ路線のフライト担当となった山根さん。同じフライトに男性客室乗務員が搭乗することはほぼないが、だからといってやりにくさを感じることは今までに一度もなかった。

「男女問わず求められるスキルは同じですし、皆さんプロとして働いているので、男性1人だから困るということはありません。逆に、細やかな気遣いと目配りをする先輩たちに学ぶところが本当に多くて。例えば、ファーストクラスのお客さまがお手洗いに立つ時、先回りしてトイレが清潔に保たれているかをチェックしておき、お客さまが戻ってくる前に座席の毛布をきれいに畳む。トイレの備品の歯ブラシセットを置く時に、下に千代紙を敷いておく。こういうマニュアル以上の仕事を追求する姿勢を尊敬していますし、どんどん見習っていきたいですね」

国際線を担当しているため、海外ステイ時は女性メンバーと一緒に夕食を取ることも多いが、肩身の狭い思いを味わったこともないという。

「女性同士の会話を聞ける貴重な経験をさせてもらっています。恋愛の話や女性としての考え方を聞く時間は、勉強になりますね(笑)。オンでもオフでも『男性だから』という扱いを受けることはありませんが、女性より体が大きい分、狭い通路で邪魔にならない立ち居振る舞いを心掛けたりと、自分自身で気を付けている部分はあります。特に僕は油断すると声が大きくなり過ぎてしまうので、常にトーンを落として話すようにしています。また、前職では身だしなみをそこまで気にしてはいませんでしたが、今はお客さまの前に立つ仕事なので、意識が大きく変わりました。理容室に行く回数もツメを切る頻度も増えましたし、乗務の前にネギやカレーなどのにおいの強いものを食べない、食事の後は歯磨きを欠かさないなど、気を遣うようになったと思います」

「物めずらしさ」が強みになる
中には名前を覚えてくれる人も

一方、客室乗務の中で“白一点男子”だからこその良さを感じることもある。

「お客さまにとって男性の客室乗務員はめずらしいようで、よく声を掛けていただけるのは強みだと思っています。中には名前を覚えてくださる方もいらっしゃって、『山根さん、あの時も乗っていましたよね』と言っていただけるのは単純にうれしいですね。そうした会話が糸口となり、個々の要望や希望をさりげなく知ることができる。機内のサービスに活かせることはもちろん、将来的には商品開発に携わりたいと思っているので、現場の最前線でお客さまのご意見を聞くことは大きな財産になると実感しています」

5月5日の子どもの日には、“鯉のぼりフライト”として男性スタッフのみが搭乗する便もあり、今年度は山根さんも乗務を務めた。

「いつも女性ばかりなのですごく新鮮でしたし、折り紙で作ったカブトを持ってお客さまと写真撮影をしたり、イベント感を演出できたことが楽しかったですね。毎年楽しみにしているというお客さまも多く、フライトが終わった後、全スタッフに花束を渡してくださった方もいてうれしかったです」

インタビュー中、終始にこやかな山根さん。働く上で心掛けているのは「素直であること」と話す。

「相手が男性であっても女性であっても、大事なのは常に素直でいることだと思っています。自分よりも長い経験を持つプロの方々からのアドバイスは、本当に深く、役立つものです。素直に聞く耳を持ち、取り入れる姿勢があれば、自分も大きく成長できる。現時点の目標は、1人でも多くのお客さまに笑顔で帰っていただくこと。飛行機は移動のツールではありますが、フライトそのものが旅の楽しい思い出になるよう、感動を生み出したいと思っています」

どの先輩からも温かく受け入れてもらっていることに感謝していると言う山根さん。男女を意識することなく相手を「プロ」として尊敬し、アドバイスを真摯に受け止め、吸収していく。こうした姿勢を持つことが性差に関係なく活躍できる秘訣なのだろう。

取材・文/上野真理子 撮影/柴田ひろあき