Kis-My-Ft2 藤ヶ谷太輔インタビュー「予想外の仕事が、新しい自分の扉を開いてくれた」“焦りの20代”を抜けた今思うこと
この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります
「専業」を英訳すると、「プロフェッショナル」となる。一つの道に絞り、一意専心に突き進む姿に、昔から人はプロフェッショナリズムを感じるのだろう。
だけど、これだけキャリアの選択が広がった今、「兼業」によって開けるプロの道もあるはず。
Kis-My-Ft2の藤ヶ谷太輔さんも、複数の顔を使い分けながらプロの道を歩む一人だ。
アイドルとしてステージに立ち、的確なMC力で番組を盛り上げ、映画・ドラマ・舞台と精力的に活動している。
けれど、20代の頃までは、今自分の歩いている道が正しいのか確信が持てず、「ずっと焦っていた」と打ち明ける。
未来の見えない20代こそ、他人の芝生が青く見えがち。藤ヶ谷さんは、そんな焦りをどう乗り越えて、自分の道を確立したのだろうか。
多岐にわたる仕事をこなす中で焦り、もがいた20代
「映画でも舞台でも、『この作品に出会えてよかった』と思えるものとか、ふとした時にせりふを思い出すような作品ってありますよね。
大げさかもしれないけど、人生につまずいたときに昔観た1本の作品に救われることだってあると思います。
そういう意味で、俳優の仕事はそのお手伝いができる職業。知らない誰かの“何か”になれる。そこに演じる喜びを感じます」
そう語る藤ヶ谷さん。1999年、まだジャニーズJr.だった頃に『怖い日曜日』でドラマ初出演。Kis-My-Ft2としてデビューした後も、『ビギナーズ!』や『仮面ティーチャー』など主演作を重ね、着々と演技を磨いてきた。
「芝居の仕事は生半可な気持ちじゃできない。でも僕にはベースとしてグループの活動があるし、バラエティーのお仕事もある。
お芝居だけをやりたいと言っても、そういうわけにはいかないじゃないですか。だから、20代の頃はすごく焦っていました。
芝居に挑戦したいっていう思いが強過ぎて、バラエティーをやっている時とか、この時間に他の俳優さんは芝居をやってるんだろうなって、不安になることもよくありましたね」
会社員として勤めていても、思い通りのキャリアを築けるとは限らない。希望とは異なる部署に配属されることもあれば、予想外のプロジェクトにアサインされて戸惑うこともある。
「僕も『なんで自分なんだろう?』と思う仕事のオファーを受けたことは何度もありましたよ」
そううなずいて、藤ヶ谷さんはこんなエピソードを明かしてくれた。
「例えば、30歳を過ぎてからミュージカルのオファーがあって。それまでミュージカルをやったことがなかったし、自分にはできないと思ったんですよね。
でも、やったこともないのにできないというのも失礼な話なので、お返事をする前に映像を観たんです。
『ドン・ジュアン』という作品なんですけど。以前、宝塚(歌劇団)で望海風斗さんが演じているのを拝見して、それがあまりに素晴らしくて、『自分にはここまでのことはできない』と思ってしまいました。
それで、オファーをお断りする前提で演出家の生田大和さんとお会いしたんです」
しかし、生田さんから出てきた一言をきっかけに、心境は一転する。
僕と一緒に冒険に出ませんか?――その言葉に背中を押され、「自分にはできないだろう」と思っていた初ミュージカルに挑むことになった。
「ただの食わず嫌いで『ミュージカルはやりません』だと筋が通らない。でも、この機会に一度やらせていただいて、自分にできるかどうか確かめてみたくなったんですよね。
それで思い切って冒険してみたら、ありがたいことに好評をいただいて。2年後に再演までやらせていただけたんですよ。
もちろん、やらせていただくからには一生懸命やりましたけど、最初は『自分には無理だ』って思っていたことですから、結果がどうなるかなんて本当に分からないものですね」
「なんで自分に?」と思う仕事が、新しい自分を引き出してくれた
しかも、ミュージカルの仕事にチャレンジしたことが、新たなキャリアを開くきっかけになった。
「今、やらせていただいている『A-Studio+』のMCも、『ドン・ジュアン』のPRのために出させていただいて、その時の(笑福亭)鶴瓶さんとの掛け合いを見たスタッフさんがオファーをくださったみたいなんですよ。
MCの仕事もこれまでやったことがなかったので、最初は『なんで自分なんだろう?』ってびっくりしましたね」
しかし、今や『A-Studio+』は藤ヶ谷太輔を語る上で欠かせない、代名詞のような仕事になった。
「なんで自分に?」と思うようなチャレンジこそ、新しい自分を引き出すチャンスなのかもしれない。
「だから、30歳を過ぎてから考え方を変えました。
それまではこの時間で芝居の仕事ができたかもしれないと思っていたものも、『芝居』だけじゃなく『表現する』という大きなくくりに変えてみて。
そうしたら、『MCをやっていたから、こういうお芝居ができるようになった』とか『バラエティーで身に付けた間とリズムのおかげで自分にしかできない芝居ができた』というふうに、すべてつながっていると感じられるようになった。
表現者であるために、いろいろ挑戦させていただいてるって捉え方ができるようになってからは、20代の頃のように変に焦らなくなりましたね。
自分は何者か、何を表現したいのか……なんて難しく考えなくてもいいんじゃないかな、っておおらかにとらえられるようにもなったし。
死ぬ前に、『いろいろ経験させていただけてよかったな』って思えたら、それでいいやって考えるようになって。
年を重ねるごとに、気持ちが楽になってきました」
50回以上のテイクを重ねて生まれた、見たことのない表情
そんな藤ヶ谷さんの最新主演映画が『そして僕は途方に暮れる』だ。
2018年に自らが主演した同名舞台を映画化。人間の弱さやずるさ、みっともなさを生々しく描く力に定評のある三浦大輔監督の下、藤ヶ谷さんは、重大な局面が訪れるとすぐに人間関係を絶って逃げてしまう男・菅原裕一を演じている。
「三浦さんは、僕の中にある新しい扉を開けてくださる人。自分にもこういう芝居ができるんだっていう瞬間を、何度も引き出してもらいました」
その最たる瞬間が、裕一が振り返るカットだ。一言では形容できない複雑な表情を浮かべた藤ヶ谷さんの姿がスクリーンに刻まれている。
「あのシーンは本当に大変でした。三浦さんからは『日本語で説明できない表情を見せてほしい』と言われて。
でも、三浦さんの求めているものが何かまったく分からなくて、あそこだけで50回以上テイクを重ねましたね」
三浦組の一員として過ごした日々は、「想像を絶するキツさだった」と藤ヶ谷さんは言う。
「それこそ俺が裕一だったらとっくに逃げてるなって初日から思いましたよ(笑)
このまま窓から飛び出して走って逃げようかとか、『ちょっと車で休憩するわ』って言ってスタッフさんから車の鍵をもらって、そのままアクセルを踏んで家に帰ろうかな……とか。
いろいろ頭によぎりましたけど、ここで逃げたらもう仕事もできなくなるし、グループになんて説明しようとか、いろいろ考えるから逃げなかっただけ。
だからあそこまでいさぎよく逃げられる裕一は、ある種カッコいいなと思いますよ。みんな逃げたくても逃げられない人たちばっかりだから」
でも逃げなかったからこそ、こうして今、映画の公開を楽しみに待っている自分がいる。
ダメで情けなくて自分勝手で、でもどこか共感せざるを得ない裕一という人間を、藤ヶ谷太輔は見事に演じ切った。
「初号を見た時、なんていう表情をしているんだって思いました。これまで見たことのない自分の表情だったので。
それも全部、三浦さんが引き出してくださったおかげです。三浦さんって面白い人なんですよ。クランクアップの時も、飛び跳ねて喜んでいて。
そういう姿を見ると愛くるしいなと思うし、あんなにキツかったのにまた三浦さんと一緒にやりたいなっていう気持ちになる。
まあそこで『いや、1回冷静に考えた方がいい。10年くらい空けた方がいいんじゃないか』って思い直しましたけど(笑)」
人に優しくできる自分でいることが、プロのセオリー
ハードな現場を乗り越え、また一段上のステージに上がった藤ヶ谷さん。
現在も新たな主演ドラマの撮影に加え、Kis-My-Ft2としての活動など、目まぐるしい日々が続く。
これだけ多忙なスケジュールの中で、プロのパフォーマンスを果たすために心掛けていることは何だろうか。
「一つは仕事のバランスですね。僕のソロ活動の基準は、グループ活動に支障が出ないことなんですけど、この映画を撮っている時になかなかそれができなくて、メンバーには迷惑を掛けてしまったと思います。
僕のベースはあくまでグループ。
だから、グループ活動に支障が出る量の活動はしないようにしようって、改めて自分のキャパを見直しました」
仕事のプライオリティーを付けることは、パフォーマンスを保つ上で欠かせない。優先順位を明確にすることで、自分のやるべきことを取捨選択できるのだ。
「そしてもう一つは、プライベートをちゃんと充実させること。僕は仕事と同じくらいプライベートを大事にしたいんですよ。
プライベートが充実していると、心の余白ができる。そしてその心の余白が仕事の遊び心につながる。
余白が埋まっちゃうくらいいっぱいいっぱいになると、どうしても心が動かなくなる。
自分の心と相談しながらお仕事ができたら、それが一番幸せだなって思います」
「忙しい人=売れている人」「忙しい人=仕事ができる人」という時代はもう終わり。仕事においても大事なのはサスティナビリティーだ。
労働寿命がどんどん延びている今だからこそ、心と体を健康に保ちながら、長く働き続ける環境をつくることが求められている。
「パツパツになってると、結果的に誰も幸せにならないんですよね。
家に帰ってその日の自分を振り返ったときに、何だか最近、あんまり人に優しくできてないなって感じるときってありませんか?
僕自身、すごく忙しい時に、僕ってもうちょっと温かい人だったんだけどなとか、もっと人を好きだったんだけどなって反省することがあって。
そういう自分は嫌だなって思ったんです。
仕事って一人でやるものじゃない。たくさんの人の力があって成り立つものだからこそ、人に優しくできる自分でいたいなって思います」
この日も分刻みのハードスケジュールにもかかわらず、藤ヶ谷さんは疲れた様子などまるで見せず、常に笑顔だった。
そんな人柄がまた新しい仕事を呼び込んでいくのだろう。
和を重んじ、人を敬う。それこそが、令和のプロフェッショナル像だ。
<プロフィール>
藤ヶ谷太輔(ふじがや・たいすけ)さん
1987年6月25日生まれ。神奈川県出身。98年、11歳でジャニーズ事務所に入所。Kis-My-Ft2として11年、1stシングル『Everybody Go』でCDデビューを果たす。20年より『A-Studio+』のMCを務める。俳優としての近年の出演作に『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』『ミラー・ツインズ』『やめるときも、すこやかなるときも』『華麗なる一族』など。23年1月より主演ドラマ『ハマる男に蹴りたい女』が放送予定
取材・文/横川良明
作品情報
出演:藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、毎熊克哉、野村周平、香里奈、原田美枝子、豊川悦司
脚本・監督:三浦大輔
原作:シアターコクーン『そして僕は途方に暮れる』(作・演出:三浦大輔)
音楽:内橋和久
エンディング曲:大澤誉志幸『そして僕は途方に暮れる』
製作:映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
制作プロダクション:アミューズ 映像企画製作部 デジタル・フロンティア
企画製作・配給:ハピネットファントム・スタジオ
(C)2022 映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会
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