21 FEB/2023

「数年先の予定まで埋まってる」20年営業活動ゼロで依頼殺到のブランドプロデューサー柴田陽子はなぜ“選ばれ続ける人”でいられるのか

会社員でもフリーランスでも、仕事を長く続けていくためには、組織や顧客から「選ばれる人」でいる必要がある。

でも、一体どうすれば仕事で引き合いの絶えない人になれるのだろうか。

そんな疑問に答えてくれたのが、柴田陽子事務所(以下、シバジム)代表でブランドプロデューサーの柴田陽子さんだ。

柴田陽子さん

これまでに、2019年の東京會舘リニューアルや渋谷ヒカリエなどの有名商業施設、ローソン『Uchi Café SWEETS』などのブランディングを手掛け、話題を生んできた。

そんな柴田さんがシバジムを創業してから20年がたったが、現在も仕事の依頼は絶えず、数年先の予定まで埋まっているという。

しかも、「シバジムを立ち上げて以来、自分たちで営業活動を行ったことは一度もない」というから驚きだ。

世の中のトレンドがめまぐるしく移り変わる中で、ブランディングのプロフェッショナル・柴田陽子がずっと変わらず貫いてきたものは一体何なのか。

「選ばれ続ける人」が大切にしている仕事のポリシーについて聞いた。

「想像力」を働かせるから、お客さまから褒められ、選ばれる

私が経営している「シバジム」は今年で創業20年目になりますが、これまで一度も営業活動をしたことはありません。

それは、自分たちで営業をして仕事を取るくらいなら、この事業をやめようと最初から決めていたから。

ちゃんと結果を出せば、必ず次の声が掛かる。そう信じてこの20年間を走り続けてきました。

では、なぜ私たちは結果を出し続けてこられたのか。その答えは、どの会社の誰よりも「想像力を働かせてきたから」だと思います。

柴田陽子さん

例えば、ある製麺所の社長が私たちのもとにお客さまとしてやって来たとしましょう。

そして、その社長に「カレーうどん屋をやりたい」と相談されたら、私たちはそれが本当にお客さまのやりたいことなのかを確認します。

社長が「カレーうどん屋」をやりたいのは、単に社長がカレーうどんが好きだからなのか。それとも、製麺所の麺をもっと有名にしたいからなのか。

回答が後者の場合は、「カレーうどん屋の競争が激しい場合、讃岐うどん屋をやることになっても構わないですか?」などと聞いてみます。

こうして具体的な質問を重ねながら、お客さまが本当に求めていることは何なのか、課題の本質に迫っていくのです。

私たちがコンペで勝つ理由の一つは、このプロセスにあります。

お客さまが求めているのは、アイデア以上に「なぜそれをやるか」その理由であることがほとんどです。

そして、その本質をとらえるためには、想像力が必要なのです。

柴田陽子さん

この他にも、想像力を働かせるシーンはたくさんあります。

例えば、決裁権のある会長が10分、15分しか時間が取れないような忙しい方の場合は、会長用に10分で読めるバージョンの提案書を作ります。

あるいは、お話が得意ではない担当者の方が、私たちのいないところで上司に提案内容を説明する必要がある場合、提案書とは別にポイントをまとめたメモを作ってお渡しすることも。

その際は、担当者の方が自身の力不足を感じたり、不快な思いをしたりしないように言葉選びにも配慮します。

こうして想像力を働かせながら仕事をすると、お客さまから褒められる機会が格段に増えていく。

もし自分が仕事であまり褒められていないなら、それは想像力が足りないからかもしれません。

褒められるということは、期待以上の仕事をしたということ

相手の期待の範囲におさまる仕事なのか、期待を超える仕事なのか、その差をつくるのも全て想像力なんです。

柴田陽子さん

大人になっても想像力は磨ける。まずは「小さなことにも感想を持つ」ことから始めて

ただ、周囲を見渡してみると、もったいないなと感じる人は結構いますね。

「もっと想像力を働かせるだけで、この人の仕事はずっと良くなるのに」と思うことがよくあります。

例えば先日、「ブランディングのスキルを磨きたい」と当社の採用面接にいらっしゃった方がいました。

でも、面接後に給与を提示したところ、「ブランディングではないけれど、もっと年収が高い会社に内定を頂いたので」という理由で辞退されてしまいました。

もちろん、それも一つの選択ですし、給与が大事なのはもっともです。

ただ、私たちのような少数精鋭でやっている会社で1年、2年と頑張ったら、その分もっと大きく稼げるようになっていたかもしれないし、当初言っていた「ブランディングのスキルを磨きたい」という願いもかなったかもしれない。

そう考えると、もっと少し先の未来まで解像度を上げて想像してくれたら、その人は今より幸せになれたのに……と思わずにはいられませんでした。

柴田陽子さん

では、どうすれば仕事にもキャリアにも役立つ「想像力」を磨くことができるのか。

まず私がおすすめしたいのは、感じる心、つまり感受性を豊かにすることです。

例えば、身近につらそうにしている人がいれば、何があったのだろうとイメージしながら声を掛けてみる。

すばらしい成果を上げたスポーツ選手がいれば、背後にはどれだけの苦労や挫折があったのだろうと思いをはせてみる。

普段からそういうふうに、あらゆる物事に感受性を働かせると、仕事で接する人に対しても敬意の深さが変わり、質問のレベルも変わってくるものです。

そう話すと、感受性は大人になってからも育むことができるのかと聞かれることがありますが、答えはYesです。

そのためには、何事に対しても自分なりの問いを持つことが鍵となります。

一つ、私自身が経験したエピソードをご紹介しましょう。

大学時代に友達とあるレストランに行った時のことです。

そのレストランはとても空いていたので、まず「なぜ空いているんだろう?」と考えました。「入り口が暗いからかな?」「どうしたらもっと店の雰囲気が明るくなるかな?」「それにはいくら掛かるかな?」などと考えているうちに、なんとたった1分で21個もの気付きを得られました。

一緒にいた友達は私よりも学校の成績が良い人たちばかりでしたが、私が気づいているようなことは何も気に止めずに会話を楽しんでいる様子でした。

その時に私は、24時間365日、頭の上に「はてな」と「びっくりマーク」をつけて過ごしていれば、それが私の力になるかもしれないと思ったのです。

柴田陽子さん

その日から、私は常に何かを考えています。

「あの人の話がみんなを引きつけるのは、結論を先に言うからかな」「ガソリンスタンドにはのぼりがたくさんあるけれど、その有無で売り上げが変わるのかな」など、たった1日でも本当にたくさんの問いが浮かぶし、その数だけ気付きも得られるんです。

一日の中で気付きが少ないなと感じる人は、「小さなことにも感想を持つ」習慣からぜひ始めてみてください。想像力とともに、自分のこだわりや信念が浮かび上がってくるでしょう。

仕事の本質は、「自分がどうなりたいか」ではなく「相手のために何をするか」

さらに、これから仕事で選ばれ続ける人になりたいなら、想像力を働かせることの他に、「仕事の本質」についてよく理解する必要があるとも思います。

最近、20代の女性たちと話をしていて感じるのは、「自分がどういうキャリアを歩みたいか」は一生懸命に考えているけれど、仕事を通して「相手にどうしてあげたいか」を考えない人が意外と多いんじゃないかということ。

柴田陽子さん

仕事とは「自分のスキルを使って相手に与えること」だという、すごくシンプルな事実が抜け落ちているから、「会社が何もしてくれない」とか、「あの上司がひどい」とか、不平不満で頭がいっぱいになってしまう。

でも、それって不健全ですよね。

そうではなく、「もっと成長して、誰かの役に立つ人になりたい」という健康的な頑張りができるような女性たちが増えてほしい。

誰かの役に立つから仕事として報酬が発生する。

そして、相手の期待を超えるくらい役立つことができれば、その分報酬が上がるし、また仕事をしてほしいと声が掛かって選ばれる。それだけのことなんです。

だから、20代のうちは先々のキャリアについてあれこれ考えて過ごすより、まずは求められることに全力で取り組んでみるといいのではないでしょうか。

そうすることで、仕事の本質が見えてくるはずですよ。

柴田陽子さん

柴田陽子事務所代表
柴田陽子さん

1971年生まれ。大学卒業後、外食企業に入社。役員秘書を務めたのち、新規業態開発を担当。レストラン開発会社に転職したあと、2004年「柴田陽子事務所」を設立。ブランドプロデューサーとして、店舗プロデュースや商品開発、コンサルティング業務を請け負う。渋谷ヒカリエ、ローソン「Uchi Cafe Sweets」、「グランツリー武蔵小杉」総合プロデューサー、ミラノ国際博覧会の日本館レストランプロデューサー、東京會舘、東急プラザ渋谷などのブランディングに関わる。2021年、変化の時代を自分らしく生き抜く“一生ものの学び”を提供するオンラインスクール・シバジムアカデミーを開校。どんな時代においても自分の力で生きていくために必要な思考、人間関係、話し方、習慣、人財育成など、これまで自身が出会ってきた「できる人」の頭の中を徹底解剖し、講座化。開校から約2年で600名以上の受講生を輩出。Instagram、書籍『勝者の思考回路 成功率100%のブランド・プロデューサーの秘密』『コンセプトライフ』など

取材・文/一本麻衣 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)編集/柴田捺美(編集部)