【激変】夫婦でフルタイム復帰、男性が時短…育休後コンサルタントが明かす「新型コロナと男性育休が変えた」子育て女性の働き方

「女性が時短勤務」だけじゃない。
変わる、育休後の働き方

コロナ禍以降に浸透した時間・場所にとらわれない働き方や、国が力を入れて取り組んでいる男性育休の取得促進によって、育休復帰後の女性の働き方が多様化している。「女性が時短勤務をする」以外に今はどんな選択肢が生まれているのか、識者・経験者が語る実例を通して紹介しよう

育休後コンサルタント・山口理栄

将来的に子どもを持ちたい女性にとって、ライフステージが変わった後の働き方は悩みの種。

育休復帰後に子育てと仕事をうまく両立できるのか、キャリアアップは諦めないといけないのかーー。女性活躍がしきりにさけばれている時代だけど、理想通りにはいかない現実もあるのでは……? そんな不安がよぎってしまう。

しかし、「この2~3年で、育休後の女性の働き方やキャリアには、大きな変化が起きています」と話すのは、育休後コンサルタントの山口理栄さん。

自身も2度の育休復帰経験を持ち、10年以上にわたって仕事と育児の両立や育休復帰後のキャリアに悩む人たちの支援にあたってきた。

「コロナ禍を経て時間や場所にとらわれない働き方が浸透したり、男性育休の取得促進に国が力を入れ始めたり、社会環境の変化にともない育休復帰後の働き方の選択肢が広がっています」(山口さん)

育休後コンサルティングに携わる中で見えてきた「育休後の働き方」の変化について、詳しく話を聞いた。

育休後コンサルタント・山口理栄

育休後コンサルタント® 山口理栄さん

1984年4月総合電機メーカー入社。ソフトウエア開発部署にて大型コンピューターのソフトウエアプロダクトの開発、設計、製品企画などに従事。2度育休を取り、部長職まで務める。2006年から2年間社内の女性活躍推進プロジェクトのリーダーに就任。10年6月育休後コンサルタントとして独立

「これがマミートラックか」何もできなかった後悔から、育休後コンサルタントへ

——山口さんは育休後コンサルタントとして働かれているとのことですが、普段はどのような活動をされているのでしょうか?

山口:育児休業から復帰した後のキャリア形成について、仕事と子育ての両立をめざす女性たちが抱えているさまざまな問題解決を図ることを仕事にしています。

育休復帰を果たした個人の相談に応じることもありますし、企業や自治体に対して、女性活躍推進コンサルティングや社員向けセミナーを提供することも。

また、同じ境遇にある仲間同士で語り合える「育休後カフェ」の運営なども行っています。

——育休後コンサルタントとして活動を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

以前、メーカーでエンジニアとして働いていた時期があり、2回育休を取得したのですが、その時の経験が活動のきっかけになっています。

私が最初に育休をとったのは、今から29年前。産休に入る前まではソフトウエア開発を手掛けていたのに、育休復帰後はものづくりに携わる業務から外されて、サポート系の仕事を担当するポジションにまわされてしまいました。

「これが世に言うマミートラックか……」と内心がっくりきましたが、当時はまだ寿退職とか、子どもができたら専業主婦になる女性も多かった時代。「仕事を続けられただけでもよかった」と思うことしか、私にはできませんでした。

育休後の働き方

それから10年ほどたち、管理職になっていた私に、社内で女性活躍推進プロジェクトを立ち上げるのでリーダーになってくれないか、という打診がありました。

その時、驚いたんです。10年も時がたっているのに、自分が育休から復帰した時と状況がほとんど変わっておらず、女性たちは以前の私と同じようなことに苦しみ、悩んでいました。

それと同時に、自分ががまんすればいいやと育休復帰後の課題に目をつぶってしまった自分を反省しました。何か声を上げていたら、後身の人たちが同じようなことに悩む必要はなかったんじゃないか、と。

そこで、育休後の女性のキャリアを応援し、課題解決に向けた提言を行っていこうと思い立ち、2010年から育休後コンサルタントとして活動するようになりました。

育休取得後、フルタイムで復職する女性が増加

——そこからさらに10年以上たちますが、育休後の女性のキャリアや働き方について、どんな変化を感じていますか?

山口:だいぶ状況は変わりましたよね。出産後も仕事を続ける女性は年々増えていますし、今では約7割の女性が育休後に仕事復帰するようになりました国立社会保障・人口問題研究所「出生動向基本調査」より)。

また、特に大きな変化をもたらしたのは、コロナ禍を機にリモートワークが普及したこと。通勤の負荷が減ったことで、育休後にフルタイム勤務で復職できる女性も増えました

ーー以前であれば、時短勤務で復職しなければならなかった人たちが、フルタイムで復帰できるようになっていると。

山口:はい。復帰後の働き方についてご相談を受けることもありますが、その時に、フレックス制やリモート勤務などの制度を活用して「夫婦でフルタイム復帰しようと思っている」と話す方もいらっしゃいますし、家庭の状況によっては妻がフルタイムで復帰して、男性が時短勤務にするケースもあります。

さらに、国が男性育休の取得促進を進めていることもあり、男性の意識も変わってきているように感じますね。特に若い世代の男性ほど、育児を自分ごととして考えて、仕事と家庭の両立を図ろうとする人が多い印象です。

保育園の送り迎えを分担して行ったり、最新の家電を取り入れて家事の負担を減らしたり、土日のどちらかを夫婦交代でフリーデーにしたり、家庭ごとに夫婦で話し合い、自分たちなりの両立方法を見つけていらっしゃいます。

育休後の働き方

ーー共働きで仕事と家庭を両立していくやり方も、家庭ごとにさまざまな方法があるんですね。

山口:その通りです。

育休後の職場復帰といえば「女性が時短勤務」で「男性がフルタイム」で復帰し、家庭・子育てはどちらかといえば女性をメインに……と考えてしまう人もまだ多いと思います。

でも、本当は家庭ごとに正解があっていいし、夫婦ごとにベストな働き方は違うもの

自分たちに合う両立のカタチは多様な選択肢の中からフラットに選んでほしいなと思いますし、夫婦ともに子育てをしながらも充実感をもって働いていける道を探してほしいです。

例えば、最近お話を聞いたご夫婦で印象的な事例があったので、紹介します。

お二人は同じ会社の製造現場で働いていたのですが、夫が他の部署に異動するという形で育休から復職したとのことでした。

お二人が勤めている会社にも時短勤務制度はあるのですが、全員がシフト制で動いている製造部門はその制度の適用外だったため、夫婦で話し合い、時短勤務を選択できるオフィス部門に夫が異動することにしたそうです。

それは、「ものづくりの現場で働き続けたい」という妻の思いを尊重した結果で、復職後は妻がフルタイムの昼勤シフトで働き、夫はオフィス部門に異動して時短勤務制度を活用することにしたとのこと。

子どもが小学校に入学して手がかからなくなってからは夫も元の部署に戻り、今は夫婦ともにものづくりの現場で活躍されていると話していました。

もちろん、このような共働きのカタチはあくまで一つの選択肢なのですが、より多くの女性に「出産後もキャリアをあきらめない道」があることを知ってほしいなと思います。

育休後の働き方

社会全体の価値観が変わっていく過渡期「周囲の目より、自分たちの気持ちを大切に」

—— 育休後の働き方の選択肢がますます広がってきていますね。

山口:着実に広がっていると思いますね。ただ、いまが社会全体の価値観が変わっていく過渡期であることも事実です。

ーー価値観が変わる過渡期というのは?

山口: 例えば、「家事も育児も仕事も頑張る」という女性にはエールが送られるものの、「家事や育児は夫に任せて仕事に集中する」という女性には、まだバッシングが集まりやすい。

逆に、「男性が、仕事に加えて家事も育児もやっています」なんていうと「イクメンだね、すごいね」なんて褒められますが、それが「専業主夫になる」という選択をすると「ヒモみたいだ」と言われたり、好奇の目で見られたりすることも多い。

つまり、育休後の働き方の選択肢自体は多様化しているけれど、まだまだ性別役割分業の意識やジェンダーステレオタイプは根強く存在している

それによって、マイノリティーになるような選択は避けたいと感じる人も、まだ多いと思います。

ーー自分たちらしい両立のカタチを思い描いたとしても、それを実践するには心理的ハードルが高い場合もあると。

山口:そうですね。でも、人からどう見られるかを気にし過ぎるより、自分が大切にしたいことを維持できる働き方を選んだ方が後悔しないはず。

子育て中にもキャリアをあきらめなくていい環境が整いつつありますから、思い切って挑戦する勇気を持ってもらえたらいいですね。しかるべき時が来たら、パートナーとしっかり話し合って、ぜひ自分たちらしい選択をしてください。

取材・文/瀬戸友子 編集/栗原千明、光谷麻里(ともに編集部)