20 APR/2023

3度の転職、CTO就任…「決断の裏にあったのはワクワクだけ」あらたまが“今”を楽しみながら働き続けられる理由

私たちのエンジニアライフ

「女性のロールモデル」が少ないエンジニアの世界。 “好きな仕事”を続けている女性たちのインタビューから、自分らしいエンジニアライフを築いていくためのヒントを探してみよう。

どんな会社で働くことがエンジニアとしての成長につながるのか、どんな領域のプロになればいいのか。技術を極めて生きていくか、マネジメントに挑戦するかーー。

エンジニアのキャリアには選択すべきことが山ほどある。そして、それが時として「悩みの種」になることも。

「私はそんな時、『将来のためになるか』はあまり考えず、自分のワクワクする気持ちにしたがってキャリアを選択してきました

そう話すのは、新卒で株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)に入社し、現在はケーキ通販サイトなどを運営するスタートアップ企業、Cake.jpでCTOを務める新多真琴さん(以下、あらたまさん)だ。

3回の転職を経て、マネジメント未経験でスタートアップのCTOに就任したあらたまさん。未来に縛られずに「今を楽しむ」あらたまさんの働き方から、自分らしいエンジニアライフを築く秘訣(ひけつ)を紹介したい。

新多真琴(あらたま)

Cake.jp CTO 新多真琴さん(@ar_tama
国立音楽大学卒。在学中よりプログラミングを独学で学び、面白法人カヤックやGoogleのインターンにも参加。卒業制作としてオリジナルアプリ『テンスウリズム』を制作の後、新卒でDeNAに入社する。その後はセオ商事、ロコガイドへと転職し、2021年6月にCake.jpに入社。22年1月からCTOを務める。日本もちもち協会代表。料理・音楽ユニット「All My Relations」共同主宰としても活動中。好きなもちもちは餅と団子

転職先は「ここでしか得られないもの」と「ここだから自分に還元できるもの」がある場所を選んできた

――あらたまさんはDeNAでキャリアをスタートし、メガベンチャー、中小企業、スタートアップとさまざまな企業規模の会社で働いていますよね。毎回どういう基準で転職先を決めてきたのでしょうか?

一番大事にしているのは、自分の興味関心が向いて、面白そうだと思えるか。あとはご縁ですね。

私はこれまで、中長期的なキャリアビジョンはまったく描いてこなかったんですよ。それは今も変わらない。

今マネジメントをやっておけば将来のためになるだろうとか、この先の未来はきっとこうなるだろうからそれに備えておこうとか……そういうことはどうしても考えにくいタイプなんです。

だったら、ムリに描こうとせず、分からないままでいいのかなと。

――これまで転職する際は、具体的にどんなところにワクワクしましたか?

毎回「面白そう」と感じた点は異なるんですが、3回の転職全てに共通しているのが、その環境でしか得られないものがあったことと、「ここだからこそ私が還元できる価値がありそう」という感覚があったことですね。

1社目のDeNAから2社目のセオ商事に転職したのは、大手ではできない経験ができそうな点にワクワクしましたし、3社目のロコガイドはチームでの開発や事業ドメインに興味が湧きました。

ロコガイドでは、チームで課題を解決するプロジェクトに携わり、「1+1」が2ではなく3や4になる経験をし、チームでしか到達できない場所があることを実感したんです。「自分がやりたいのはこういうことなのかも!」と新たなワクワクを見つけた気がしました。

今度はチームを作る側の立場で、価値をどんどん大きくしていく仕事がしたい。そんな思いが湧いてきた時、Cake.jpからCTOの打診をいただいて引き受けた……というのが、3回目の転職です。

新多真琴(あらたま)

――マネジメント未経験からCTOにチャレンジすることに不安はなかったですか?

多分あったんだと思うんですけど、喉元過ぎると熱さを忘れてしまうタイプで(笑)

周りの人たちに相談して、客観的に見てもらった上で「いいんじゃない? やってみなよ」って言ってもらえたから思い切れたのかもしれません。

ワクワクすることがあったら、難しく考えずに「やってみるか!」と飛び込んできた感じですね。

「今の仕事楽しめてる?」ふり返りを習慣にして、自分がワクワクすることに目を向ける

――目の前の仕事をこなすことで精いっぱいになると、自分が何に面白さを感じるか分からなくなってしまう人も多いと思います。あらたまさんはどうやって今自分が「ワクワクすること」を見つけていますか?

自分の得意や好きなことを言語化できるように、定期的に振り返りはしていますね。

具体的には、「何をしているときが一番楽しいか」や「どういう環境が一番心地よいと感じるか」を思いつくままに紙に書き出すんです。

やってみると、結構スッと出てくる言葉があるんですよね。その言葉をつかまえて「なぜそう感じるんだろう?」とさらに深く考えていきます。

そして、もし今の環境でそれが満たされていないなら、どこに課題があるのか、改善できるものなのかを考える。

そうやって深堀をして考えていくうちに、「そもそも出発点が少し違ったかも」なんて最初に戻ることもあるんですが、こんなふうに行ったり来たりしながら自分が楽しみながら働けるベストな状態を定義していきます。

――その振り返りの習慣を始めたのには、何かきっかけがあったんですか?

3社目のロコガイドにいた時に自分のキャリアにモヤモヤした時があって。その時に、この状況を打開するにはどうしたらいいのかな? と思って始めたんですよね。

例えば、現場のエンジニアとしてマネジメントされる立場にいると、つい「上司や会社は自分の頑張りをちゃんと見てくれているだろう」と期待してしまうんですが、それじゃダメだなと気が付いて。

適正に評価をされるには、自分の目標とそれが会社にもたらすメリットを明確にして、それを行動目標に落とし込むことが大切。そしてそれを上司と一緒に定期的に振り返るようにした方がいいなと思って、「振り返り」を習慣にし始めたんです。

新多真琴(あらたま)

――それによって、何か変わりましたか?

エンジニアとして価値が発揮できているのか、悩むことが減りましたね。自分がどうありたいかと、そのために環境に求めること、そして自分が組織から求められていることの三つを分析できるようになって、次の手を打ちやすくなった気がします。

1社目のDeNAにいた頃は自分の好きも得意も意識できておらず、デキる先輩エンジニアと比較して葛藤することも多かったので、もっと早く始められていたらよかったなと思ったくらいです。

また、4社目でマネジメント未経験からCTOへとジャンプアップすることができたのも、自分がやりたいことと還元できることをしっかり言語化できていたからかもしれません。

「ユーザーを喜ばせたい」だけじゃない。CTOになって一気に広がったエンジニアとしての視野

――IT業界には、まだまだCTOのポジションに女性が少ないですよね。あらたまさんはスタートアップに転職してCTOとして働く選択をしたことを、今どう感じていますか?

間違いなく「挑戦してよかった」と言えますね。まだまだ課題は山積みだし、道半ばですけど、自分の選択に後悔はしていません。

仮に、テックリードやマネジャーなどのポジションに挑戦したとしても、もちろん成長はできたと思いますが、CTOとして働くことで広がった視野は、他では得られなかったんじゃないかなと思うんです。

見える景色が大きく変わりましたね。

――具体的に、どんなふうに視野が広がりましたか?

まず、会社経営について自分ごととして考えられるようになったことですね。

現場のエンジニアだった時は「目の前のユーザーを喜ばせたい」という思いだけで仕事をしていましたが、今はそれに加えて「事業を軌道にのせていくためにプロダクトとしてできることは何か」についても考えられるようになりました。

あとは、自分のチームだけでなく、全社の成長にも目が向くようになりましたね。

会社で働くからには、「1+1=2」ではなく、「1+1=100」くらいの成果をあげたいという思いが強くなりましたし、日々それを実践したり学んだりできる機会があることを、とてもありがたいなと感じています。

時代が変わっても「風化しない知識」を強みにできれば、エンジニアは長く働ける

――身近に女性CTOのロールモデルが少ないことへの不安はありませんでしたか?

特にないですね。そもそも、女性エンジニアのロールモデルを求めたことがないんですよね。

CTOが集うイベントへ行くと女性が極端に少ないことに違和感を覚えることはありますが、基本的にエンジニアって性差の表れにくい職業の一つだと思うんです。

だからCTOになった時の不安は、女性だからというのは全くなくて、単に「自分に務まるか」だけでした。

新多真琴(あらたま)

――なるほど。とはいえ、あらたまさんは、エンジニアとして長く働き続けることへの不安を感じたことはありませんでしたか?

よく世の中で言われているのは、技術をずっとインプットし続けなければならないことへの不安ですよね。産休や育休などでブランクができたときに不安を感じるのも、この点にひもづいているんじゃないでしょうか。

でも、エンジニアには「風化する知識」と「風化しない知識」があると思っていて。

「ソフトウエアを作ることで事業価値を押し上げる」というエンジニアに求められる役割は今後も風化しないもの。そこにさえ、しっかり根を張れていれば、すぐに風化してしまうような枝葉のノウハウや技術トレンドは、後から学んでどうにでもなる。

それに今はネットでもトレンドの技術に関する情報はたくさん公開されていて、インプットの手段はいくらでもあります。ですから、一人で全てを学んでカバーする必要はないですよね。

そのためにチームがあって、みんなの力を借りることができれば難局も乗り切れると思っているので、エンジニアを続けていくことへの不安はほとんどありません。

――あらたまさんは、未来のことにとらわれずに「今」を大切にして仕事をしている印象ですが、今後やってみたいことはありますか?

そうですね。あまり先を考えすぎず、その時々の興味やご縁でキャリアを選んでいくのは、多分今後も変わらないと思います。

ただこれまでの選択を振り返ってみると、自分の中のぶれない軸としてあるのは、「チームや組織のメンバーが過不足なく力を出し切れて、それによって事業価値や会社の成長が成し遂げられている」状態を心地よいと感じていること。

これを100%実現するのは相当難しいと思いますが、今後もできるだけ近づけるよう尽力していきたいですね。私自身はエンジニアなので、その軸はぶらさず、人の成長と会社の成長がしっかりリンクするような組織基盤をつくっていきたいです。

……と言ってもこれは今現在のことなので、将来全然違う方向にワクワクが向いている可能性もあります(笑)。でも、それでいいんじゃないかと思っています。

新多真琴(あらたま)

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取材・文/古屋 江美子 撮影/桑原美樹 編集/光谷麻里(編集部)