24 APR/2023

「変化のない毎日」を送っている人ほど脳疲労が悪化する? 脳内科医が教えるNGな休み方【医師監修】

特集:働く女の休み方改革

長く働き続けるためには、頑張るだけじゃなく、心とカラダをしっかり休める時間を持つことも大切。この特集では、ヘルシーなワークライフをつくる“いい休み方”を新提案。明日の元気な自分をつくる「休み方改革」を始めよう!

脳疲労

最近、よく耳にするようになった「脳疲労」という言葉。

・十分寝ているはずなのに、頭がずっしり重い
・一日中ぼーっとして頭がさえず、脳が疲れている気がする

忙しく働いている人の中には、こんな症状に悩まされている人もいるのではないだろうか。

加藤先生

頭がしゃきっとしない、頭が疲れたような感じがずっと続いている……それは、脳がSOSを発している状態かもしれません。

そう話すのは、脳内科医の加藤俊徳先生。いわゆる脳疲労の原因は、普段使用している「脳番地」(※)に偏りがあるからだと話す。

(※)脳番地とは、同じような働きをする神経細胞の集まり(部位)と、その神経細胞群と関連している機能の総称

放っておけばうつ病などにも発展しかねない脳疲労。加藤先生に、しっかり脳を休めて、普段から疲労をためこまないようにするための方法を聞いた。

脳内科医 加藤俊徳先生

脳内科医
加藤 俊徳さん

新潟県⽣まれ。脳内科医、医学博⼠。加藤プラチナクリニック院⻑。株式会社「脳の学校」代表。昭和⼤学客員教授。脳科学・MRI脳画像診断の専⾨家。脳科学音読法や脳番地トレーニングの提唱者。1991年に、現在世界700カ所以上の施設で使用されている脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。小児から超⾼齢者まで1万人以上を独自開発したMRI脳画像法で診断し治療。『一生頭がよくなり続けるすごい脳の使い方』(サンマーク出版)、『1万人の脳を見た名医が教えるすごい左利き』(ダイヤモンド社)、『頭がよくなる!はじめての寝るまえ1分おんどく(西東社)など著書・監修書多数
■加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com

思考、視覚だけ使いすぎ? 現代女性の脳はの疲れはバランスが悪い

ーー「脳疲労」という言葉をよく耳にするようになりました。そもそも「脳が疲労している」とは、どういう状態を指すのでしょうか?

脳疲労とは、一般的に「脳番地」ごとに感度が落ちている状態です。

脳番地 加藤俊徳先生

似たような働きを持つ脳番地をまとめて、代表的な8つの系統に脳番地を分類(出典

「脳番地」というのは、脳内で同じような働きをする神経の塊のようなもので、思考系、感情系、伝達系、運動系、視覚系などが代表的です。

例えば、PCやテレビ、スマートフォンなどの画面を見る時間が長い人は、「視覚系」の脳番地ばかりを使いすぎてしまっている状態。

同じ脳番地ばかりを⻑時間使用していると、その脳番地の感度が落ちて感覚が鈍くなり、認知機能や運動機能の低下が起きます。この状態がいわゆる「脳疲労」です。

脳の一部の場所だけ使っていると、そこにだけ血流を良くして酸素を供給したり、神経伝達を活発化させたりしなければなりません。すると、その場所で代謝が落ちやすくなり、働きが鈍くなります。

ーーよく使うものほど、すぐにくたびれたり故障したりするのは、機械も一緒ですよね。

はい、それと同じイメージです。脳疲労も、同じ脳番地を使いすぎてショートさせないための自己抑制機能の一つと言えるのかもしれません。

また、20~30代の働く女性の日常を考えると、最も脳疲労を起こしやすいのが、上の図で言うところの「思考系」や「伝達系」の脳番地でしょうね。

脳疲労

一日中デスクワークを続けていると、思考や判断はするし、話したり伝達したりすることはするけれど、体を動かす「運動系」の脳番地はほとんど使いません。すると、使用し続けた脳番地は疲労していますが、運動系の脳番地は全く疲労しない。

でも、われわれは「どこの番地が疲れているか」まで細かく把握することはできないので、一部の脳番地が疲れているだけで体全体がだるいように感じてしまうんです。

ーーなるほど。一部の脳番地が疲れ続けていくと、体や精神にどのような影響が出るのでしょうか?

例えば、思考系、伝達系の脳番地が脳疲労を起こすと、言葉が出にくくなっていきます。記憶系が疲労すると、急に記憶が飛んでしまうようになるなど、記憶力に支障が出てくる。

20~30代の方はもともと体力がありますから、脳疲労を感じにくい傾向はあるのですが、知らず知らずのうちに脳疲労を蓄積してしまっている人は多いです。

それが結果的に、やる気の喪失、寝ても回復しない倦怠(けんたい)感や無気力につながってしまうんです。

さらに、脳疲労が悪化して脳番地の働きが戻らなくなると、うつ病や適応障害を引き起こす可能性も。怖いのは、脳疲労に気付かず、いつの間にか悪化させてしまうことですね。

「変化のない毎日」が脳をますます疲れさせてしまう

脳疲労

ーーでは、脳疲労をリセットさせるには、どのような方法がありますか?

普段使っていない脳内番地を使うことを意識してみてください。各脳内番地をバランスよく使うことで、脳疲労は回復しやすくなります

例えば、普段デスクワークが中心で、思考系、伝達系の脳番地ばかり使っているなら、運動系の脳番地を使うために週末1日だけ自然の中をハイキングしてみるとか。

いつも過ごしている環境とは違う場所に身を置くだけで普段とは違う脳番地が働きますし、「疲れた」ように感じているかもしれないけれど、実は体は全然疲れていないということもあります。

思い切って体を動かして運動系脳番地を使うと、「あれ? 何だか元気が湧いてきたぞ」と感じることもあるかもしれません。いつもと違う脳番地を使うので、かえってリフレッシュできるんです。

逆に、仕事で疲れているからといって「寝だめしよう」とするのは要注意。逆に疲れがたまってしまう可能性があります。

ーーそれはなぜですか?

結局、寝ているだけだと平日と違う脳番地を使うことにならないので、バランスが悪いままになってしまうんです。また、遅くまで寝ていると、自律神経にも悪影響が出てホルモンバランスもみだれます。

ーー他にも、疲れを悪化させてしまうような休み方はあるのでしょうか?

基本的な考え方は同じで、平日よく使う脳番地と同じところを使い続けることですね。

例えば、仕事中によくデジタルデバイスを見ている人が、休みの日にもずっとスマホやテレビを見ていたら、使っている脳番地は一緒です。

寝転がって体は休めていても、結局、脳は同じところを使い続けているので、リフレッシュできていません。

つまり、1日、または1週間の中で変化のない休み方をしていると、同じ脳番地を使い続けていることになり、脳疲労が蓄積されてしまうのです。

「いつもと違う環境・行動」がリフレッシュにつながる

脳疲労

ーー普段と違うことをすると気分転換になるのは、違う脳番地を使ってリフレッシュするということなんですね。

そういうことです。また、普段からさまざまな脳番地を使うことを意識して生活すると、疲労をためこまなくなっていきますよ。

例えば、オフィスワークで日中ずっと座りっぱなしの人なら、20分でもいいからウォーキングをして脚の筋肉を使ってみる。脳を目覚めさせる意味では、朝の時間帯に歩くことをおすすめします。

逆に、接客業で一日中動き回っていたり、人と話したりする仕事が多いなら、朝・晩のどちらかに30分でも本を読む時間をとるとか、ゆっくり目を閉じて瞑想(めいそう)してみるとか、仕事中と違う過ごし方を意識的に取り入れてみる。

1日単位、1週間単位で、脳疲労を回復させる時間を意識的に設けてみましょう。

ーーもうすぐGWですが、連休中は思い切っていつもと全く違う脳番地を使ってみるような過ごし方ができるといいのかもしれませんね。

そうですね、少しずつ旅行もしやすくなってきましたから、普段行かないような場所に足を運んでみると脳に新しい刺激が加わって、リフレッシュできると思いますよ。

普段あまり運動系脳番地を使っていない人は、旅先に行っていろいろな場所を歩いてめぐりだした途端に、元気が湧いてくることもあるでしょう。

いつもと違う体験を日常の一部に取り入れつつ、日ごろからバランスよく脳を使って、いいコンディションをキープしていけるようにしたいですね。

取材・文/宮﨑まきこ イラスト/石山好宏 編集/栗原千明(編集部)