「ここならずっと働ける」地下鉄運転士・バス乗務員に転職した女性たちが明かす、長く続けられる仕事の見つけ方

「長く働ける職場=ワークライフバランスが整っている、福利厚生が充実している」と考える人は少なくない。
働き続けていく上でライフイベントの影響を受けやすい女性は特に、その傾向が強いと言えるだろう。しかし、働きやすい環境さえあれば、本当に長く仕事を続けられるのだろうか。
「今の仕事なら、ずっと働き続けていけるイメージが湧きます」と声をそろえるのは、横浜市交通局で地下鉄運転士として働く山崎真由美さん(仮名)と、バス乗務員として働く岡本春香さん(仮名)だ。
地下鉄運転士もバス乗務員も、必ずしも長く働けるイメージを持たれる仕事ではないが、彼女たちがそう確信できるのはなぜなのか。
その理由をひも解いていくと、長く働きたい女性の仕事・職場選びにおいて大切な視点が見えてきた。
【地下鉄運転士 山崎さんの場合】
働きやすさ重視で転職したのに3年で退職。「やりたいこと」じゃないと続かない

横浜市交通局 地下鉄運転士 山崎 真由美さん(仮名)
新卒で民間鉄道会社に入社し、駅務員業務を約4年経験。契約社員だったため契約期間満了前に「長く働ける仕事をしよう」と、大手保険会社にカスタマーサポートとして転職。3年経験した後、2017年に横浜市交通局に入局。駅務員を経て運転士へ。現在に至る
人々にとってなくてはならない交通インフラを守りながら、多くの人と接することができる。そんな仕事内容に引かれて山崎真由美さんが新卒の時に選んだのは、民間の鉄道会社の駅務員。
さまざまな人と触れ合いながら、仕事の幅も広げていける毎日は、やりがいと楽しさにあふれていた。
「駅務員として働く日々はすごく充実していました。ただ、契約社員だったので5年で契約満了となってしまうことから、泣く泣く退職したんです」
そんな山崎さんが次に選んだ仕事は、大手保険会社のカスタマーサポート。選んだ理由は、ライフイベントを経ても長く働けそうだったから。正社員採用だったことや、産育休制度が整っていたこと、異動がないことなど、環境面を重視して入社を決めた。
「実際に働いてみると、ワークライフバランスは整っていて働きやすさは申し分ありませんでした。
ただ、なんだか毎日が満たされなくて……。『このまま働き続けて、私は将来どうなるんだろう』という疑問が湧き上がり、結局、3年たった時にまた転職活動を始めました」
やっぱり鉄道業界で働きたい。そんな思いが再燃する中で山崎さんが出会ったのが、横浜市交通局だった。

正社員採用であること、公営の鉄道会社でワークライフバランスを整えて働けそうといった環境面に加えて、大好きな鉄道のフィールドで将来の可能性が広がっていく予感にワクワクしたという。
「横浜市交通局は、駅務員や運転士、助役(駅長の補佐役)、責任職と将来の選択肢が幅広いんです。以前鉄道会社で働いていた時も、そろそろ車掌を目指そうと思っていたので、ここでステップアップしていきたいと強く感じました」
「何事もない」1日を終えられた瞬間の達成感
駅務員として働き始めてから1年後、充実した研修制度のおかげもあり、山崎さんは運転士の試験に合格。思い描いた通りにステップアップを果たした。
現在はブルーラインの運転士として働いており「自分の仕事にやりがいと誇りを感じている」と話す。

「鉄道が安全に、時間通りに動くのは当たり前です。
でも、この『当たり前』の裏には、駅務員をはじめ保守点検や車両整備の担当者、運行管理を行う人など、運転士だけでなく、たくさんのプロフェッショナルがいて、一人でも欠けたら成り立ちません。
世界一と言われている日本の鉄道インフラを支えている実感は、やりがいにつながっていますね」
最も達成感を得られる瞬間について聞くと、山崎さんは目を輝かせ「1日の勤務を終えるとき」だと話す。
「『異常ありませんでした』と報告する瞬間には、大きな達成感がありますね。地味かもしれないけれど、『今日も1日、滞りなく安全運行を成し遂げられたんだな』という充実した気持ちを味わえます。
また、ドアが開いて降りていくお客さまの姿を直接見ることができるので『こんなにたくさんの人たちの当たり前の毎日を支えられているんだ』という実感も、モチベーションにつながります。ホームから手を振ってくれるお子さんもかわいいです(笑)」

「泊まり勤務の翌日は明け休みがあるので、それも入れると実質的にはかなりお休みが多いです。有休も取りやすく、昨年は全て消化しました。育休から復帰する職員に合わせて時短勤務を設けるなど、柔軟で働きやすい環境です」(山崎さん)
【バス乗務員 岡本さんの場合】
地元横浜で、好きな仕事を長く続けたかった

横浜市交通局 バス乗務員 岡本春香さん(仮名)
新卒で民間鉄道会社に入社し、駅務員、車掌、鉄道運転士の業務を約8年経験。その後、民間鉄道会社に転職し、駅務員業務を1年経験した後、地元・横浜で働きたいと考えて再度の転職へ。2021年、横浜市交通局にバス乗務員として入社
学生時代からの夢だった鉄道運転士として、約8年にわたり働いていた岡本春香さん。充実した毎日を送っていたものの、日に日に地元の横浜で働きたいという思いが強くなり、転職を考えるようになった。
「運転の仕事は続けたかったんです。『運転』『横浜』のキーワードで転職先を探したところ、横浜市交通局のバス乗務員の仕事が目に留まりました」
早速、見学に出掛けてみた岡本さん。この時、育児と仕事を両立する女性のバス乗務員に出会えたことが背中を押してくれた。

「AT限定の運転免許を持っている程度で、大型車両の運転なんてできるのかな……と不安だったのですが、その気持ちを彼女に伝えたら、『私も子育てと両立しながらスキルを身に付けられるのか不安もあったけれど、丁寧に研修してもらえたから大丈夫。バスの運転は楽しいよ!』と笑顔で話してくれて。彼女のイキイキした姿はとても印象的でした。
そんな話をしていた時、たまたま彼女の指導を担当したバス乗務員が通りかかったのですが、すごく和やかに会話をしていて、こんな雰囲気の中でバスの運転ができたら楽しいだろうなと思ったんです」
できるかどうかなんてやってみなきゃ分からない。まずはチャレンジしてみよう。そうして横浜市交通局に入局した岡本さんは、約半年の研修期間を経て、バス乗務員としてのキャリアをスタートした。
四季を感じながら、お客さまと触れ合える毎日が楽しい
バス乗務員としてのやりがいを聞くと、岡本さんは笑顔で「お客さまとの一瞬の触れ合いが楽しい」と答えた。
「バスには、いろいろなお客さまと直接触れ合える楽しさがあるんです。乗り降りする際のほんの数秒だけ、一瞬だけの接点ですが、『ありがとう』とか『また君の運転だね』とか、声を掛けてくださる方も多いですね。
例えば、ご年配の方が降車する時、『ゆっくりでいいですよ』なんて声掛けすると、お客さまの表情が明るく変わるのが分かります。ちょっとした気遣いにも笑顔や感謝の言葉を返していただけるので、それがうれしくて」

また、毎日同じ道を運行していると、季節の移り変わりを感じられるのも楽しみの一つだという。
「窓からは季節の花の香りがしますし、雨の匂いも分かりますよ。ちょっと気分が乗らない日も、花が咲き始めたことに気づけばパッと気持ちが明るくなります。
また横浜にはいろいろな名所があるので、路線によってはそうした風景も楽しめます。中華街などの観光地も地元だとあまり行かないので、新鮮な空気を味わえますし、毎日飽きることなく働けるのも、この仕事の魅力かもしれません」

「早番・遅番に加えて、朝と夜のラッシュの時間に4時間ずつ働く中休勤務のシフトもあります。中休は、勤務の合間の時間を自由に使えるので、昼寝したり、買い物に出掛けたり、市営体育館に筋トレしに行ったり、周辺をジョギングしたり……みんな思い思いの過ごし方をしています。泊まり勤務はないのでしっかり休めますし、3回育休を取得して現役を続行する女性職員もいるので、ライフイベントを経ても働き続けられます」(岡本さん)
仕事の充実感と働く環境。どちらも諦めないことが、長く働ける仕事と出会う秘訣
地下鉄運転士とバス乗務員、それぞれの仕事にやりがいを感じながら、充実した日々を送る山崎さんと岡本さん。
今後については「もっとステップアップしていきたい」「好きな仕事を続けたい」と、おのおの期待をのぞかせる。
「まずは運転士を極め、新人の育成を担う指導運転士や駅長の補佐役である助役へとステップアップしていきたいです」(山崎さん)

バス乗務員の岡本さんは「大好きな運転の仕事をずっと続けていきたい」と笑顔だ。
「現時点では大好きな運転ができるバス乗務員を続けていくつもりです。
もしも結婚・出産・育児などのライフイベントで考えが変わるなら、その時にまた考えればいいかな、と。育児と両立する乗務員は勤務時間を一定にすることもできますし、ほかにもいろいろなキャリアの道筋を描くことができますから」
二人とも、ワークライフバランスを最も重視して転職先を選んだわけではなかったが、横浜市交通局に入局した今、長期的に働き続ける未来を描いている。
その理由について問うと「やりたいことができているからではないでしょうか」と答えてくれたのは山崎さんだ。
「最初の転職をした時、『産育休も充実しているし、長く働き続けるにはこういう環境の方がいいのかな』とある意味打算的に転職先を選んでいました。でも、その結果、仕事に充実感を持てなくて続かなかった。
今、進みたいと思えるキャリアを見つけられたのは、『やりたい』という気持ちに素直に従ったからだと思うんです。好きと思えるフィールドで、豊富なキャリアの選択肢があるので、すごく未来を描きやすいなと感じます。
その上で、横浜市交通局は正社員として働けて、ワークライフバランスも整っている。転職時にどちらも譲らなかったから、長く働ける仕事と出会えたのだと思います」
その答えに岡本さんもうなずく。

「興味を持ったこと、やりたいと思ったことは、取りあえずやってみたらいいんじゃないかと思います。私も最初は『大型バスを運転するなんて、自分には絶対に無理!』と思っていたけれど、いざ飛び込んでみるとどうにかなった。
やりたいと思ったことは自分の気持ち次第でどうとでもなるものです。『この仕事、アリかも?』『この会社、いいな』って感じたら、その思いのままチャレンジしてみることが大事なのかもしれません。
3 年前の自分は想像もしていなかった仕事ですが、職場の雰囲気も働く環境もやりがいも、全て満足できる職場を見つけられてよかったと思っています」
取材・文/上野 真理子 撮影/竹井俊晴 編集/光谷麻里(編集部)