生田斗真「いつも同じ自分ではダメ」変幻自在に期待に応えるプロの“察知力”
この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります
「ただならぬ熱量を感じる脚本でした」
俳優・生田斗真。数々のドラマや映画に出演してきた彼が、初めて脚本を読んだときの感想をそう語るのは、2023年6月2日に公開される映画『渇水』だ。

原作は、1990年に第103回芥川龍之介賞候補になった河林 満さんの同タイトルの小説。刊行から30年以上、脚本作成からおよそ10年という長い年月を経て、満を持しての映像化だ。
映画『凶悪』(2013年公開)『孤狼の血』(2018年)で日本アカデミー賞 優秀監督賞を受賞した白石和彌さんが、本作で初めて企画プロデュースを務めることでも話題となっている。
さまざまな領域のプロフェッショナルが集う本作の主人公として、生田さんは何を意識したのか。
撮影の裏側を聞く中で、生田さん自身のプロたるゆえんが見えてきた。
熱い思いを持った創り手たちの期待に「何とか応えたい」
監督やプロデューサーといった作り手達の満場一致で本作の主人公に抜てきされた生田さん。オファーを受けた時の気持ちを、次のように語る。
「白石さんは、髙橋(正弥)監督が脚本家の方と仕上げた本を読んで、『これは何としても世の中に出さなければならない。ぜひ参加させてほしい』と感じたそうなんです。
それを聞いて、さまざまな人の思いを乗せて自分のところにたどり着いた作品なんだな、と身が引き締まる思いでしたね。
関わる人々の並々ならぬ情熱を受け取るとともに、そんな熱い思いを持った人たちから『生田さんに演じてほしいんです』と言っていただいた。
これ以上の喜びはないと感じましたし、何とか期待に応えたい、ぜひ参加したいと思いました」
本作の主人公・岩切俊作は、市の水道局員。水道料金が滞納する家庭を訪れて水道料金を徴収したり、最終的には停水執行をしたりと、忌み嫌われる仕事を粛々とこなしていく。
プライベートでは妻子と別居中。人生を少し諦めているような岩切の表情からは、心が“渇いた”男のもの悲しさが伺える。
芝居をする上で、実際に家庭の水道を停める作業を経験した生田さん。水道の停め方は、量水器ボックスの中の止水栓をひねるだけだ。

「いとも簡単に停められてしまうあっけなさと、水道が停まることの重大さ。その大きなギャップには、考えるものがありましたね」
生活がひっ迫する滞納家庭を相手に淡々と仕事をこなす岩切の姿は、見る者にある種の残酷さを感じさせる。
しかし、生田さんは岩切に対して「いろいろなことに傷付いてきたのに、自分の中の疑問にふたをしている人」との解釈を口にした。
「世の中にはルールやモラルといったあらゆる枠があり、大人になればなるほど枠からはみ出さないようにしなければいけなくなりますよね。
本当に正しいかどうか分からないことでも、『仕事だから』と自分に言い聞かせる。
だけど、めちゃくちゃ眠い中で電車に乗って仕事場に向かっているとき、ふと『何のために働いているんだっけ?』『お金のためだとしたら、何でお金が必要なんだっけ?』と考えてしまう瞬間ってありませんか?
岩切の場合は、そういう疑問にさえふたをして生きているんです」
その上で、岩切という男をどう演じたのか。生田さんは撮影当時を思い起こしながら、次のように語った。
「いろいろなことに傷付いてきて、まだ傷口が癒えていないはずなのに、痛みを感じないふりをして淡々と生きてきた男の哀愁が彼にはある。
だけど、人と出会っていく中で『何かが違う』という感情がせき止められなくなっていく様子や、彼が変化していく様が、ちゃんと“空気”で伝わるように演じられればいいなと思いました」
芝居のテクニックより、“空気”をまとうことを意識した
岩切を演じる上で生田さんが“空気”を特に意識した背景には、明確な理由があった。
現在、大半の映画作品はデジタルカメラで撮影されているが、『渇水』は全編フィルムカメラ。生田さんは「フィルムカメラでしか出すことのできない色や空気が確実にある」と説明する。
だからこそ、「俳優として、空気を支配することが自分のテーマだった」と。
「お芝居のテクニック的なことを意識するよりも、空気をまとう必要があると思ったんです。
ただ演じるのではなく、自分の体にまとわりついている周りの空気を支配して、変えていくような。感覚的ではありますが、そんな意識で撮影に臨みました」
岩切らしい空気をまとうために、生田さんは共演者への接し方にも気を配ったという。
作中、岩切は幼い姉妹が暮らす家に滞納料金の徴収に向かうことになる。給水停止が目前に迫る貧困家庭だ。
髙橋監督からは、岩切の後輩水道局員である木田拓次を演じる磯村勇斗さんと生田さんに対して、「休憩中であっても、姉妹役の子たちとはあまり話さないようにしてください」というオーダーがあった。

「水道を停めたら彼女たちの命に関わるかもしれないけど、岩切は『規則だから』と線引きをしています。
リアリティーを追求するためには、撮影現場で仲良くなりすぎてはいけない。
監督としても、その線引きを撮影現場でもしてほしいという意図があったのだと思います。
なので、現場ではなるべく一定の距離を保つようにしていたのですが、彼女たちは笑顔で話し掛けてくれたり、ぬいぐるみを見せてきたりするんですよ。
でも、それに全力で応えることはできない。すごく切なくて、心が痛かったですね。岩切の立場のつらさが実感できました」
本番でいい仕事をするために、本番前の過ごし方にも意識を払う。生田さんのプロ意識が伝わるエピソードだ。
プロとして、現場ごとに求められる「自分」を追究する
また、生田さんが普段からプロとして「いい仕事」をするために意識しているのは、その日、その場所、その作品で、自分に期待されていることが何かを考えることだという。
「参加する作品や役柄によって、意識すべきことは変わってくると思うんです。必要な立ち振る舞いも現場によって違います。
なので、その作品、その役に対して僕に求められているものをその場その場で察知して、考えること。いつも同じ自分ではダメだなと思っています。
そして、その場で感じ取ったことをちゃんとアウトプットすることを考えていますね」

これは役者のみならず、あらゆる職業に通じる考え方だろう。
長く同じ仕事を続けていたとしても、それぞれの現場で求められる成果は、誰と仕事をするか、何のための仕事か、自分がどんな立場かによって、毎回変わるもの。
条件や環境が変わっても、柔軟にやり方を変えて期待に応える・超えるパフォーマンスを発揮するのが、プロと呼ばれる人なのかもしれない。
生田さんの仕事に対する姿勢が、そう再認識させてくれた。
取材・文/阿部裕華 編集/秋元 祐香里(編集部)
作品情報
映画『渇水』6月2日(金) 全国公開
出演:生田斗真
門脇麦 磯村勇斗
山﨑七海 柚穂 / 宮藤官九郎 / 宮世琉弥 吉澤健 池田成志
篠原篤 柴田理恵 森下能幸 田中要次 大鶴義丹
尾野真千子
原作:河林満「渇水」(角川文庫刊)
監督:髙橋正弥 脚本:及川章太郎 音楽:向井秀徳
企画プロデュース:白石和彌
主題歌:向井秀徳「渇水」
(c)「渇水」製作委員会
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