26 JUL/2021

演じ屋・磯村勇斗が明かす“プロ意識”に目覚めた瞬間「一つ一つの現場が勝負。期待を超えたい」

一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

自分の職業を●●屋と明確に語れるかどうかは、会社員であっても、フリーランスであっても重要なこと。なぜなら、自分が何屋か説明できることは、自分の提供価値を理解しているということだから。

演じることを生業とする俳優・磯村勇斗さんは、言うなれば“演じ屋”。つくられた世界の中で、自分ではない何者かを演じることで、価値を提供している。

磯村勇斗

しかし、俳優というのは公的な資格があるわけでもなければ、プロとアマチュアが混在する世界。そんな中で、「職業:俳優」と名乗る人は何が違うのだろうか。

磯村さんのプロ論から、仕事について考えてみたい。

自分の芝居に、お金を払ってもらう価値があるか

俳優にとってプロとは何だろうか。そう磯村さんに尋ねると「これは明確にあって」と間髪を入れずに話し始めた。

磯村さん

プロとは、芝居でお金をもらえるかどうか。舞台で言うなら、しっかりお客さんからお金をもらって板の上に立ったらその時点からプロ。ちゃんとプロとしての自覚を持たなきゃいけないと思っています。

そう迷わず磯村さんが答えたのには、理由がある。

現在28歳。今年に入ってからも大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)や『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京系)など切れ目なく出演作が続く磯村さんの俳優としての出発点は高校2年生の時。

芝居を学ぶために地元・沼津の劇団に入り、そこで初舞台を踏んだ。

磯村勇斗
磯村さん

初めてお芝居でお客さんからお金をもらったのが、その舞台でした。怖かったですよ、金返せって言われたらどうしようって。プレッシャーはやっぱりあります。

でも、そういうプレッシャーを感じているからこそ、お客さんにお金のことなんて考えさせないくらいのパフォーマンスをして、楽しかったねと言って帰ってもらいたいとも思っていました。

思い出してみてほしい、初めて働いてお金をもらった日のことを。それはもしかしたら社会人になる前。学生時代のアルバイトかもしれない。就職後の初任給かもしれない。

接客をしたり、事務作業をしたり。仕事の種類はいろいろかもしれないけれど、自分の仕事が売上につながり、それが自分の給料になって返ってくる。それがどんなに少額であったとしても、自分の口座に振り込まれた初めての給料に感動した人は少なくないはず。

磯村さん

あの時はまだ高2だったし、プロでも何でもなく、アマチュアでしたけど、お客さんからお金をいただくことへの責任は感じていたし、それ以上のものを返したいという気持ちがあった。あの時が、僕がプロとしての意識に目覚めた瞬間でした。

磯村勇斗

金額に見合った価値を提供できているか、常に厳しく自分を追求する。その妥協なき姿勢こそが、磯村さんが考えるプロフェッショナルの条件だ。

チームの一体感を生む、何気ない「声掛け」

お芝居は、無形のサービス。有形の商品と違い、値付けが難しい。はたして自分の提供している価値は金額に見合うものになっているのか。

戸惑いに揺れることは、俳優だけでなく、さまざまな職種の人が感じることだろう。だからこそ、金額以上の価値を提供するために、磯村さんが心掛けていることがある。

磯村さん

独りよがりにならないことですね。

現場に入ったら、スタッフの方や共演者の皆さんとセッションしながら一緒にものをつくっていく。撮影が終わってからもそう。作品を編集して仕上げてくれる人、出来上がった作品を広めてくれる人、いろいろな立場の方がいて、ようやくお客さんのもとに届く。

その一連のビジョンをちゃんとイメージしておくこと。一人じゃなく、みんなでつくり上げているという意識はいつも大事にしています。

磯村勇斗

そんな「チーム意識」を心に置きながら磯村さんが取り組んだのが、WOWOWオリジナルドラマ『演じ屋』だ。

依頼された役になり切る「演じ屋」を職業とする個性豊かな面々の活躍を描いた本作で、磯村さんは結婚式前日に痴漢の冤罪をかけられ、すべてを失った男・柴崎トモキを演じる。

磯村さん

もし同じことが自分の身に起きたら立ち直れないんじゃないかなと思うぐらいひどい目に遭ったトモキが、演じ屋との出会いをキッカケに、復讐を決意する。

そんな復讐劇から物語が始まって、やがてトモキ自身が演じ屋となり、仕事を通じて、社会の闇や、僕らがもう一度しっかり見つめ直さなければいけないような問題に根ざした事件や事故に遭遇していく。

磯村さん

すごく社会派なんだけど、コミカルな部分もある。また新しいエンターテインメントドラマができるんじゃないかなと台本を読んで思いました。

磯村勇斗

みんなとセッションをしながらものをつくっていく。そんな俳優としての信条は、今作でもしっかりと息づいている。

磯村さん

共演の奈緒さんが、とにかく芝居を純粋に楽しむ方で。僕が芝居上で何かをしたら、それに対応して一緒に遊んでくれた。

僕自身もそうやってその場で相手の芝居に反応していくスタイルを大切にしているので、奈緒さんとのやりとりはすごく楽しめたし、自由にやりたいなという気持ちで臨むことができました。

俳優部だけでなく、スタッフとのコミュニケーションも欠かさない。特に磯村さんが重視しているのが、日々の“声掛け”だ。

磯村さん

衣裳さんやヘアメイクさんとは普段から話すことが多いんですけど、照明さんとか音声さんとか技術チームの方とは相手も作業をしているから現場ではなかなか話しづらかったりするんですね。

その分、ちょっとした休憩のタイミングを見計らって、自分から話し掛けるようにしています。

なぜなら、そうやってコミュニケーションを取っていくことが、ひいてはいい現場づくり、いい作品づくりにつながっていくと磯村さんは信じているからだ。

磯村勇斗
磯村さん

特にハードなシーンが重なると、どうしても現場はピリピリしがち。だけど、そこでイライラしていても、いい空気は生まれない。そんなときこそ、他愛のない話でいいので、何か話し掛けることでその場の空気が和らぐんです。

磯村さん

例えば、ちょっと変わったカメラを使っていたら、これなんですかと聞いてみたり。そうすると、こういう撮り方ができるんだよって、技術的なことを教えてくれたりするんですよ。

もちろん相手も忙しいときがあるので、そのあたりのタイミングには注意しますけど、そうやって声を掛け合うことで、肩の荷が降りることもあるし、どんなに現場が大変なときでも一緒に乗り越えられるんじゃないかと思っています。

緊張の糸はずっと張り詰めている

自分の芝居は、お金を払う価値があるか。まだアマチュアだった10代の頃から、そう自問自答を繰り返してきた。

今や磯村勇斗の名前は全国区となり、CM出演や雑誌の表紙を飾るなど、一人のタレントとして確かな商品価値を有している。

磯村勇斗
磯村さん

自分の商品価値みたいなところは、僕自身は特に考えてはいないんです。それはあくまでマネージャーさんだったり事務所サイドが把握していればいいこと。僕の入るところではないので、あまり気にはしていないんですけど。

磯村さん

こうしてドラマに出たり、舞台に出たり、いろいろなところで求めていただけるからには、それに対してちゃんとそれ以上の価値を返していかなければいけないという気持ちはあって。

それにはやっぱり一つ一つの現場が勝負。そう考えると、緊張した糸をずっとピーンッと張りつめているような感じはあるのかなと。

そう自分の双肩にかかるプレッシャーについて口にする。

磯村さん

この業界って悪いことはどんどん広まっていくじゃないですか。そういうところはちょっと怖いなと思います。

けど、そこをあれこれ考えてもしょうがないので。今自分の出せるものを最大限に出していくしかないかなという気持ちで、全ての現場に取り組んでいますね。

磯村勇斗

非道のヤンキーから、小悪魔な同性愛者、年上の上司に恋するサラリーマン、徳川家将軍と、演じる役柄は多種多彩。若手ながらカメレオン俳優という称号をほしいままにしている磯村さん。

その変幻自在ぶりから「同じ人が演じているとは思わなかった」と称賛の声があがることも珍しくない。

磯村さん自身もかねてより役がしっかり印象づけば、磯村勇斗という名前を覚えてもらわなくてもいいと語っていた。その気持ちはブレイクの中にある今も変わらないだろうか。

磯村さん

そこは変わっていないですね。今も自分より役のことが残れば、それでいいなと思います。

その職人のようなストイックさは、まさに“演じ屋”そのもの。だけど、そう揺るがぬ信念を見せた後で、茶目っ気たっぷりにこんなエピソードを付け加える。

磯村さん

そうは言っても、『いそむら・はやと』の読み仮名が『いそむら・ゆうと』と間違えられていたり、『はやと』の漢字が違っていたりすることもまだ多々あるので。事務所の方と、『まだまだこれからだね』という話はします(笑)

そうやって場を和ませるジョークも忘れない。その気配りやサービス精神が、きっと現場のコミュニケーションにも生きているのだろう。

神出鬼没にさまざまな作品に出演し、強烈な印象を残す“演じ屋”・磯村勇斗。そのハイレベルな仕事ぶりは、10代の頃から変わらないプロ意識と、何気ない“声掛け”から生まれるチームコミュニケーションに支えられていた。

磯村勇斗

ブルーナボインのシャツ ¥30,800/(ブルーナボイン 代官山店☎︎03・5728・3766) その他スタイリスト私物


<プロフィール>
磯村勇斗(いそむら・はやと)

1992年9月11日生まれ。静岡県出身。2014年、デビュー。『仮面ライダーゴースト』(テレビ朝日系)、連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)で注目を集め、以降、『今日から俺は!!』(日本テレビ系)、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)、『恋する母たち』(TBS系)など数々の話題作に出演。近作に大河ドラマ『青天を衝け』(NHK総合)、『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京系)、映画、『ヤクザと家族 The Family』(Netflixにて配信中)、映画『東京リベンジャーズ』(全国公開中)など。
Twitter:@hayato_isomura
Instagram:hayato_isomura

取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) ヘアメイク/佐藤友勝 スタイリング/齋藤良介

作品情報

WOWOWオリジナルドラマ『演じ屋』

演じ屋

<ストーリー>
「演じ屋」。それは客から依頼された役になりきる、まだ誰も知らない新たな職業。
結婚式前日、トモキ(磯村勇斗)は痴漢の冤罪で仕事も婚約者も失ってしまう。1年半後、トモキを痴漢だと言い張っていた女と、目撃者の男がグルだったことを偶然知る。元婚約者に伝えに行くも、彼女は他の男性との結婚を控えており拒絶されてしまう。絶望したトモキがビルの屋上で自殺しようしていると、刃物を持った男に襲われるアイカ(奈緒)と遭遇し・・・

演じ屋

放送日:7月30日(金)スタート 毎週金曜夜11:30放送・配信 全6話/第1話無料放送
※オンデマンドでは無料トライアル実施中!
監督・脚本:野口照夫
出演:奈緒 磯村勇斗
笠原紳司 青山倫子 藏内秀樹 加藤柚凪 今井孝祐
徳永えり 伊藤萌々香 伊藤あさひ / 島崎遥香 田中俊介 白川裕二郎(純烈) / 
忍成修吾 おかやまはじめ / 袴田吉彦 (話数順)
特設サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/enjiya/
公式Instagramアカウント:enjiya_wowow