日本が北欧並みに男女平等になったら働く女性の暮らしはどう変わる? 女性キャリアの専門家に聞いてみた

OECD(経済協力開発機構)が2015年に発表した「ジェンダーギャップ(男女平等)指数ランキング」によると、日本は145か国中101位。ベスト5には北欧諸国が並んでいる。世界的に見てみると、日本は依然として男女格差が大きい国だといえるだろう。
では、日本が北欧並みに男女平等な社会になったとき、働く女性の暮らしはどう変わるのだろうか。日本女子大学人間社会学部教授・現代女性キャリア研究所長の大沢真知子さんにお話を伺った。
日本企業の“曖昧な評価”が女性の活躍を妨げてきた
日本の働く女性の多くは、日常のいたるところに男女格差があることを感じている(『日本の働く女性の7割が「男女の不平等」を実感! 世界の男女格差ランキングも下位レベル』)。
しかし大沢さんは、「働く女性の数だけに注目すると、日本は先進国のなかでも中位につけており、働く女性の数は増えています。それなのに女性たちが男女格差を感じるのは、管理職などの地位に就いている女性が少ないからではないでしょうか」と分析する。また、非正規労働に就く女性が増えたことも、男女の不平等を際立たせているという。
日本で女性管理職が育ち難い背景には、「企業が女性人材を育成してこなかったことに加えて、北欧やアメリカなどの欧米諸国とは全く異なる“曖昧な”評価・査定の文化がある」と大沢さんは指摘する。
「北欧や欧米諸国の場合、職務によって担うべき役割や賃金が明確に決まっているのが一般的。だから、同じ職務をこなしているのに性別や人種によって賃金や待遇に差がある場合には、そこに差別があるということで企業には法的に厳格なペナルティーが下されます。
一方、日本では企業内での昇進・昇格など、職位が上がる際のモノサシがはっきりと存在しておらず、上司の印象次第というケースが非常に多いわけです。そのため、会社で長い時間を上司と共に過ごせる人のほうが仕事へのコミットメントが強いという考えが根強くあり、いずれ結婚や出産で離職する確率の高い女性を管理職に登用することに企業は消極的だったのです」(大沢さん)
労働時間による会社への貢献度で評価が下される場合、女性は自らのライフイベントによって離職を余儀なくされるだけでなく、自らのスキルを高めて管理職になりたいという意欲が湧きにくい。
今の日本は、北欧諸国が経験した“価値の転換期”にいる
このような日本社会の現状を変え、全体の男女格差を北欧諸国並みにしていくためには、企業側の努力が不可欠だ。
「今、日本国内では人材不足も手伝って、大手企業が女性に対して仕事と育児の両立支援をすることに加え、女性にも仕事に対するモチベーションを上げてもらい、組織の中核を担う立場を目指してもらおうという活躍支援に乗り出したところです。国内の中小企業ではコストの面が足かせとなって、子育て中の社員への両立支援さえも不十分というのが現状だと思いますが、男女の均等は進んでいます」(大沢さん)
「資生堂ショック」という言葉で世間をにぎわした資生堂の取り組み(時短勤務の女性社員にも遅番のシフトや接客のノルマを課す)のように、企業が両立支援から活躍支援へとシフトチェンジする際には大きな混乱を伴う。今でこそジェンダーギャップ指数ランキング4位のスウェーデンでも、男女格差のない環境が実現するまでには長い時間がかかった。国も企業も国民も一丸となり、保育環境や教育内容まで改革し、根気強くこの課題に向き合ってきたという。
「今の日本は、スウェーデンが通ってきた価値観の転換期と似た状況に差し掛かっています」と、大沢さん。今は景気がやや上向いているように感じられるが、近い未来に大きな不況がやってこないという保証はない。さらに、少子化の影響で労働人口は急激に減少している。日本の労働市場は、女性の労働力なくして維持できないところにまできているのだ。
女性が働きやすい社会ではイノベーションが加速する
上述した方法以外にも、男女間の不平等解消のためには、個人、企業、国がさまざまなアプローチを取っていくことができる。こうした努力のすえに日本が北欧並みの男女平等社会になった場合、働く女性を取り巻く社会は、「どのような属性の個人にとっても働きやすく、生きやすい社会になっているでしょう」と、大沢さんは確信を持って話す。
「男女格差の背景には、男性は仕事、女性は家庭といったように、必ず“男性はこう生きるべき”、“女性はこう生きるべき”という社会規範があるものです。それらが取り払われた社会は、多様性に富み、異なる個性が互いに尊重される社会になります。例えば、バリバリ働く女性、家庭を守る男性など、多様な働き方や生き方が受け入れられるようになっているでしょうね。“女だから●●を諦めなければいけない”ということも無くなり、女性の人生はより豊かになると思います。
さらに、平等であり多様である社会は、一方向に流されない強い社会だと言えます。全く異なる価値観、属性の人同士が同じ社会で活躍できることにより、革新的なサービスが生まれやすくなったり、社会全体のイノベーションが起こりやすくなっていきます」(大沢さん)
「日本が北欧並みの男女平等な社会になる日はまだ遠い」と感じてしまうかもしれないが、格差を是正する方向に舵が切られていることは間違いない。女性たち自身もいま一度、自分はどんな社会で、どうやって生きていくことが幸せか、「女性だから」という制約を捨てて考えてみるといいだろう。

日本女子大学教授 現代女性キャリア研究所所長
大沢 真知子さん
日本女子大学 人間社会学部 現代社会学科教授。南イリノイ大学経済学部博士課程修了。Ph. D(経済学)。 コロンビア大学社会科学センター研究員。シカゴ大学ヒューレット・フェロー、ミシガン大学助教授、亜細亜大学助教授を経て、現職。専門は労働経済学。主な著書は『ワークライフシナジー』(岩波書店、2008)、『ワーキングプアの本質』(岩波書店、2010)、『妻が再就職するときーセカンドチャンス社会へー』(NTT出版、2012)、『女性はなぜ活躍できないのか』(東洋経済新報社、2015)など
第1弾:日本の働く女性の7割が「男女の不平等」を実感! 世界の男女格差ランキングも下位レベル
第2弾:男女平等先進国フィンランドと日本は何が違う?データで比較してみた
第3弾:日本が北欧並みに男女平等になったら働く女性の暮らしはどう変わる? 女性キャリアの専門家に聞いてみた
>>女性管理職がいる会社で働く
>>仕事と家庭を両立できる職場で働く
取材・文/朝倉真弓