働きやすい会社は思わぬところに? 女性3人の体験談から探る、実は好環境&やりがい豊富な製造業コンサルの仕事

近年、「長く働く」が女性がキャリアビジョンを描く上での一つのキーワードとなっている。その希望をかなえるために、「働きやすい会社に転職したい」と考える人は多いだろう。
では、どんな会社が「働きやすい」のだろうか。
「女性比率が高いから」「スタートアップで柔軟そうだから」と、なんとなくのイメージで企業選びを進めてしまうと、意外なところにある“実は働きやすい業種”を見落としてしまうかもしれない。
今回注目したいのは、そんな見落とされがちな業種の一つである製造業だ。
とある調査によると、これから社会に出ていく学生層の多くは製造業(メーカー)に対して「大変そう、忙しそう」「昔ながらの文化がありそう」などの印象を抱いていることが明らかになっている。しかし実際はどうなのだろうか。
話を聞いたのは、製造業に向けたDXコンサルティングを行う横河デジタルの女性社員3人。
製造業と密接に関わりながら働くことに対する率直な感想を聞くと、「働きにくいと感じたことは一切ない」と口をそろえる。その理由を明らかにしていこう。

ソリューションビジネス事業本部 コンサルティングセンター
生産情報コンサルティング部 業務改善Gr.
鈴木夕稀(すずき ゆき)さん
2018年に横河ソリューションサービス株式会社に入社、23年より横河デジタル株式会社へ出向。入社以来、生産情報コンサルティング部にて工場の課題整理と解決のためのソリューション提案をしている

ソリューションビジネス事業本部 コネクテッドインダストリーズビジネス開拓センター
方法論開発部 変革推進Gr.
吉川花里(よしかわ はなり)さん
2016年に横河電機株式会社に入社。プラント情報を用いた課題解決ソリューション『Digital Plant Operation Intelligence(DPI)』の新規ビジネス立ち上げに携わる。国内ビジネス拡大のため、19年に横河ソリューションサービス株式会社に出向後、23年より横河デジタル株式会社に出向。現在は、工場や経営層向けにプラントデータ解析を用いたDXコンサルティングに従事

ソリューションビジネス事業本部 コンサルティングセンター
制御コンサルティング部 操業最適化Gr.
宮脇 瑠美佳(みやわき るみか)さん
2020年に横河ソリューションサービス株式会社に入社し、23年より横河デジタル株式会社に出向。入社以来、制御コンサルティング部にて、工場内の省エネルギーの取り組みに関するコンサルティングを幅広く行っている
製造業に携わる仕事“ならでは”の働きやすさがある
未経験者にとっては「製造業」と聞いてもどんな業種なのかイメージしづらいもの。
横河デジタルで製造業向けコンサルティング事業に携わる吉川花里さんは、入社する前に想像していた製造業のイメージについて次のように振り返る。
製造業というビジネスは工場ありき。
なので「技術」を扱う仕事であっても、オフィスワークが中心のIT業界よりも、いわゆる現場仕事が多いんだろうな、という程度のイメージしかありませんでした。
また、一部理系の知識も必要になるため、理系女性の母数が少ない製造業ではおのずと男性が多い印象はありました。
実際に入社してから、顧客の工場に足を運ぶようになった吉川さん。
「やはり工場での現場仕事が多く、男性が多いのは想像通りだった」と話す。
吉川さんの言葉に、工場が抱える課題を解決するソリューションの提案業務を担当する鈴木夕稀さんも同意する。
そうですね。理系出身ということもあり男女比は気にしていませんでしたが、全体的に年齢層が高めなことに驚きました。
働く環境を選ぶ上では注目したい要素でもある、男女比や年齢層。同性や同年代が少ない環境で働くことに不安を感じる人もいるだろう。
製造業を顧客に持つ横河デジタルに入社して、彼女たちはどう感じているのだろうか。
聞くと、顔を見合わせながら「気にならないよね」とうなずき合った。
男性が多いとか、年代が上の方が多いからといって「働きにくい」と感じたことはないですね。

私も最初は製造業に対して二人と同じような印象を持っていましたが、入社してから働きにくさを感じたことはないです。
むしろ弊社の場合は女性がまだまだ少ないので、今後のキャリアに期待して新しいことに挑戦させてくれたり、居場所を一緒につくってくれたりするなど大切に育ててくれていることを感じますね。
工場内の省エネルギーに関するコンサルティング等を担当する宮脇 瑠美佳さんの言葉で、表層的な情報だけでは分からないポジティブな一面が見えてきた。
製造業向けコンサルならではの働きやすさについて、鈴木さんと吉川さんはこう続ける。
製造業というと「忙しくてワークライフバランスが取りにくいのでは」と思われやすいのですが、私たちは製造業といっても工場や現場を支える立場であるため、会社としてお客さま対応の体制が整っています。
仮に夜遅い時間に工場で突発的なトラブルがあったとしても、トラブル対応をする部署が別にあるので、私たち個人に向けてお客さまから連絡が来ることはほとんどありません。
私たちのような製造業のお客さまに向けたコンサルティング業務は、仕事とプライベートのバランスが取りやすいと思いますよ。
忙しい時もありますが、「お盆期間は工場の定期修理でシステム導入することが多く、その期間付近は毎年忙しい」など、年間を通して繁忙期は大体決まっています。
それに合わせて仕事の見通しを立てられるので、休める時はしっかり休んで、メリハリをつけて働きやすいです。

一筋縄ではいかない仕事だからこそ、ずっと楽しめる
一般的なイメージに反して、彼女たちが「働きやすさ」を感じていることが伝わってくる。さらに、宮脇さんは製造業に関わるからこそ感じられる魅力を教えてくれた。
働きやすさはもちろん魅力的ですが、それ以上に「ものづくりの現場」を間近で見られることが製造業に関わる最大の醍醐味だと思います。
私はペットボトルのリサイクル事業を行っているお客さまを担当しているのですが、普段は決して立ち入ることのない工場に入り、身近なものが加工され、再生されていく過程を見るのはワクワクします。
また、モノづくりへの熱い思いに触れるとより愛着が生まれるんですよね。
特に私の部署は、工場のエネルギー削減への取り組みに特化しているので、環境問題に関する知識もたくさん学ぶことができました。
自分の仕事が製造業のお客さまの役に立ち、環境にも貢献していると思うとやりがいを感じますね。

世界に誇る技術を豊富に持ち、「ものづくり大国」としての日本の成長を支えてきた製造業。
製造業に関わる魅力は、仕事そのものにあるという宮脇さん同様、吉川さんも仕事に対してやりがいを感じている様子をうかがわせた。
例えば「品質トラブルが減った」というお客さまの声を頂くと、やりがいを感じます。
トラブルが減ることで、残業が減るなどお客さま個人の生活にも影響しますし、生産性向上などお客さま企業の利益にも貢献しています。
さらに大きく捉えると、製造業はGDP比率も高いので国の経済活性化にもつながっている。対応する課題が大きくなればなるほど、自分の成長も感じます。
海外のお客さまや、海外に工場を展開している日系企業のお客さまも多いので、コロナ前は海外出張に行くこともあり、新しい土地で知識を増やしていく充実感がありました。

意義のある仕事に携わること。日々の仕事の中に「学び」があること。
彼女たちの話からは、「働きやすさ」だけでなく「働きがい」も意識することが、キャリアを築く上では重要であることが感じられる。
横河デジタルの場合、さまざまな製造業の顧客に向けたコンサルティングソリューションの提供を行っているため、得られる学びはより幅広い。
一口に製造業と言っても、化学や食品、紙パルプなどあらゆる業種のお客さまがいます。
私の部署は特定の製品を売るのではなく、お客さまの課題に合わせた最適な解決方法を考えていくので、すべてのお客さまに当てはめられるような、決まったソリューションの型は存在しません。
各業界の知識を身に付ける必要がある上、企業によって適切なアプローチも異なります。
どれだけ経験を積んでも、世の中やお客さまの変化に合わせたアップデートや自己成長が不可欠。
大変ですが、それが働きがいにつながっています。

横河デジタルの場合、情報を取り扱うITシステムだけでなく、工場の操業全体を担うオペレーションテクノロジー(OT)にも強みがあり、 その二つの融合によってDXを支援するサービスを提供しています。
ありきたりな技術ではないからこそ、提案できるソリューションの幅が広いんです。
さらに、経営層や製造責任者の方を相手に提案を行うこともあるので、成長できる機会が多くあります。
自分次第で、職場はどんどん働きやすくなる
働きやすさと働きがい。製造業と密接に関わる横河デジタルで、この二つをかなえながら働く3人。
しかしさらに話を聞いていくと、彼女たちが心地よく働けている理由は業界や会社の特性によるものだけではなさそうだ。
私にとっては、コミュニケーションに壁がなく、良い人間関係を築くことが働きやすさを実現する上で欠かせない要素です。
そのためには、性別や年齢に関係なく、お互いに敬意を持って接すること、そして双方の歩み寄りが大切。コミュニケーションは、どちらか一方が欠けたら成立しませんから。
だから私は、まずは自分から働きかけるようにしているんです。
「この業務は別のやり方が効率的だと思う」などの日々のちょっとした気付きも、気後れせずに上司に伝えるようにしています。

自らが働きやすい環境をつくるため、良好な人間関係を築くための働きかけを惜しまない。
その点では、鈴木さんにも共通する部分があるという。
私は同じ部署の新入社員や、もっと成長したいと考えている若手社員に向けた勉強会を定期的に開催しているのですが、それが自分自身の働きやすい環境の実現にもつながっていると思います。
初めは、私が新卒の頃も「もっと知識を付けたい」と思っていたので、同じような思いをしている後輩たちや、現状の私と同じように提案の幅を広げたいと思う人たちの成長の機会になればと思って始めたことでした。
今では、講師としてお話してくださる方や、積極的に参加してくださる他部署の方とも交流があり、次第に「自部署や他部署の人とのつながり」を実感できる場所になったと感じています。
環境に依存することなく、自ら考えて行動を起こすこと。
それによって本当に心地よく働ける環境が築かれていくことが、宮脇さんと鈴木さんの話からは感じ取れる。
最後に吉川さんは、「仕事を好きで居続けることができたら、働きやすい環境は実現する」とほほ笑んだ。
よくお客さまに向けて「私の仕事は、データ解析でお客さまを工場のヒーローにすることです」と伝えるのですが、ただデータ解析で成果を出すだけではなく、お客さまの働きがいにもつながる仕事をしたいと考えています。
大変な時もありますが、「やっぱりこの仕事が好きだ」と自分が実感できるだけでなく、周りの人にもそれが波及できればうれしいですね。

取材・文/古屋 江美子 撮影/竹井俊晴