「なんとなく不安」は自分らしさを知るチャンスかも? 今後のキャリアを考え、スキルを磨く前にすべきこと/YOGIRLS・沈彦希

YOGIRLS 沈彦希さん

選択肢が多く、自分の進むべき道がはっきり定まらないからこそ、20代は先々の人生に漠然とした不安を抱える時期。

「今のままでいいんだろうか」

そんな悩める人に向けて、「自分と向き合えば進むべき方向はおのずと見えてくる」と話すのは、YOGIRLS代表の沈 彦希さん。

沈さん

本当は、全ての答えは自分の心の中にあるんですよ。

だって、探し物は失くしたから探すじゃないですか。探しているということは、もともと持っているんだと思うんです。

大分県別府市で、ヨガと温泉のある暮らしを通じて女性のキャリア支援をしている沈さんは、自分と向き合う方法の一つとして「ウェルネス留学」を提案している。

今後のキャリアを考える上で、なぜウェルネス(よりよく生きようとする生活態度)が必要なのか。それによってどのような変化が生じるのか。

詳しく聞いてみよう。

>>YOGIRLS・沈彦希さんのインタビューはこちら
「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

YOGIRLS代表&キャリア支援 沈 彦希さん(しん げんき)

早稲田大学商学部卒業。新卒から10年勤めたAppleを退社後、全ての女性に自分らしさと健康を届けることをミッションに大分県別府へ移住し、株式会社YOGIRLSを設立。17歳でヨガに出会ってからヨガはライフスタイルの一部。全米ヨガアライアンスTT200,TT300を取得。日本瞑想協会認定講師。 Webサイト

世の中に悪い仕事はない。「自分にとって良い仕事」を選べていないだけ

編集部

沈さんが代表を務めるYOGIRLSのウェルネス留学について教えてください。具体的には何をするんですか?

沈さん

YOGIRLSでは最短3日の滞在型プログラムを提供しています。アーユルヴェーダやヨガプログラムを通じて心身を整え、自分と向き合う土台を作りながら、認定講師によるキャリアカウンセリングを行っています。

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新卒1年目から50代まで幅広い女性がYOGIRLSのプログラムに参加。「一番多いのは30代。20〜30代は選択の時期ですから、悩みも多いのだと思います」(沈さん)

編集部

なぜウェルネスが大事なんですか?

沈さん

まずは自分の体と心の状態を整え、自分自身を良い状態にすることが大切だからです。

物事には良い面と悪い面があるからこそ、自分が「大丈夫」と思える状態で決断をすることが重要

でも現実には、無意識のまま我慢したり、自分の気持ちを後回しにしたりと、本心では違うと思いながらその状態を続けてしまっていることが多いと思うんです。

編集部

「なんとなく違う気がする」と違和感があるまま続けていたり、「今はタイミングじゃないから」などやらない理由を並べたり……たしかにやってしまいがちですね。

沈さん

ヨガには5000年の歴史があり、そこで培われた哲学に 「非暴力」の考え方があるのですが、本心を無視することは自分への暴力とも言えるんですよ。

編集部

どういうことですか?

沈さん

本来、人はそれぞれ違います。得意・不得意だって人によって異なるわけで、全てのことをみんなと同じようにできる必要はない。

例えば、数字が苦手な人が経理をやっても自分らしさは発揮できないじゃないですか。

それなのに「みんなできているのに、なぜ自分はできないんだろう」と自分を責めるのは、自分をいじめているのと同じことです。

編集部

本心では違うと思いながら状態を変えようとしないことは、自分の声を無視していることであり、それはつまり自分への暴力であると。

沈さん

世の中に仕事はいっぱいあって、悪い仕事なんかない。問題は自分にとって良い仕事を選べるかどうかです。

もし目の前の仕事が悪く見えてしまうのであれば、それは合わないものを選んでしまっているのかもしれません。

違和感は自分からのサイン

編集部

ただ、無意識に我慢をしている状態が当たり前になってしまうと、そもそも自分が我慢していることにも気付けないなと思います。

沈さん

まずは体の感覚に意識を向けてみてください。

自分の思考や気持ちをはっきり理解するのは難しいけれど、体の状態は観察すれば見えてきます。ヨガや瞑想はその手段の一つですね。

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編集部

たしかにストレスで胃が痛くなったり、肌が荒れたり、体に異変が出ることはありますね。

沈さん

眠れない、夜中に起きてしまう、湿疹が出るなど、体は本当に素直です。

他にも「ずっと同じことを考えているな」「昨日怒られたことをまだ引きずっているな」など、頭の中は見えないけれど、普段との違いを意識することはできると思います。

編集部

同じようなことをぐるぐる考えてしまうときは、どうしたらいいんですか?

沈さん

人間は1回の呼吸で三つのことを考えると言われていて、思考が多いときの呼吸は浅くて早くなっています。

だから、呼吸を深めましょう

編集部

「リラックスしたいときは深呼吸をしましょう」っていうのはそういうことなんですね……!

沈さん

大きく息を吸って吐いて、呼吸を深めていけば、自然とマインドが静かになり、思考も減っていきます。

スティーブ・ジョブスはインドに瞑想を学びに行ったそうですが、考えることが多いビジネスパーソンにこそ、瞑想やヨガは必要なんだと思います。

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呼吸法レッスンの様子

編集部

Googleも瞑想を取り入れていますね。

沈さん

そうやって体や心の状態を観察することを習慣づければ、自分の変化にも気付けます。それができれば無理をして心身を壊してしまうようなことにもなりません。

編集部

ということは、「違うかも」「変だな」と違和感を持ったら、ある意味チャンスかもしれないですね。

沈さん

まさにそう。それが自分からのサインです。

「キャリアアップをする」「たくさん稼ぐ」「出世をする」といった社会で良しとされる価値観も、それが自分に当てはまるとは限りません。

違和感を持った自分を否定したり流したりせず、向き合うことが現状を変えるのだと思います。

無意識を自覚するには、環境に変化をもたらすこと

編集部

他に、無意識の違和感に気付くための方法はありますか?

沈さん

意識的に普段の行動を変えるといいと思います。通勤ルートを変えたり、いつもとは違うコンビニに行ったり、普段食べないものを食べてみたり。

今の状態が良くない=日常生活に問題がある」ということですから、小さくても変化をもたらせるといいですね。

編集部

そのくらいなら気軽にできそうです。

沈さん

一番良いのは、生活習慣を整えること。体と心はつながっていますから、正しい生活をすれば自分の状態も良くなっていき、違和感にも気づきやすくなります。

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沈さん

ただ、生活習慣を変えるのって難しいじゃないですか。

飲み会に誘われたり、夜中にアイスを食べちゃったり、夜更かしをしてしまったり。

人間は誘惑に弱いから、どうしても普段と同じ行動を取ってしまいがちです。

編集部

ダイエットと一緒ですね……。

沈さん

私自身、東京で仕事をしていた時は、遅くまで仕事をしたりジャンクフードを食べたりしていました。

そういう中でヨガを1時間だけやっても、一時的なリラックスにはなるものの、結局すぐ元の状態に戻っちゃうんですよ。

だから宿泊型のヨガスタジオを作ろうと思ったんです。

編集部

本腰を入れて自分を変えるには、環境そのものを変えるのが近道だと。

沈さん

その際、自然がある場所を選ぶのがおすすめですね。

編集部

なんとなく良さそうではありますが、なぜでしょう?

沈さん

「自分らしい」というのは自然体の状態です。そして、突き詰めて考えれば人間は自然の一部。

だからこそ自分の状態を整える環境は、自然に近い場所が適しているのだと思います。

編集部

都会に住んでいる人であればなおさら、普段と環境を変える意味でも良さそうですね。

沈さん

そうですね。休日を普段と違う環境で過ごすだけでも、普段の環境と比べてどうなのか、そこで自分がどう感じているのか、気づきがたくさん得られると思います。

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自分を変えることが、人生を変える一番のきっかけになる

編集部

YOGIRLSで自分の状態を整えた人には、どういう変化が起きるんですか?

沈さん

前向きになっていきますね。会社を辞めて好きな仕事を始める人もいれば、今いる会社で前向きに仕事ができるようになった人もいます。

編集部

具体的な事例を教えてください。

沈さん

例えば1カ月滞在した20代の女性の場合。彼女は仕事でたくさんの悩みを抱えていて、プライベートでも医師から止められているのにもかかわらず、お酒を止められずにいました。

でも、生活を整え、自分の体に合う食事を摂るうちに、冷え性だった体が温まり、それに伴い不安も減っていった。

編集部

まずは体調面から状態を整えていき、それによってマインド面にも変化が訪れるわけですね。

沈さん

そうやって少しずつ「心地良い」という感覚を理解できるようになっていった結果、キャリアカウンセリングで話す内容も変わっていったんです。

編集部

どういう変化があったんですか?

沈さん

事前カウンセリングでは「仕事だから嫌だけどやらなきゃいけない」と話していたのですが、そこに疑問を持つようになりました。

心地良いと感じるというのは、本来の自然体の自分に戻れているということ。そういう状態にあるからこそ、本当にやりたいことは何なのか、考えられるようになったのだと思います。

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事前カウンセリングの様子

編集部

その後の仕事はどうなったのでしょう?

沈さん

周りの環境が変わったり、やりたいと思っていた仕事ができるようになったりと、良い変化があったそうです。

これは彼女が特別なことをしたというよりは、彼女自身が変わったことが大きいと思っています。

編集部

同じ出来事でも、自分次第で受け止め方は変わりますもんね。

沈さん

自分の状態も表情に出ますから、それ次第で周りの人が自分に抱く印象も変わります。

つまり、相手を変えることはできないけれど、自分が変われば周りに影響を与え、状況に変化をもたらすことができる。

そういう意味で、自分を変えることが人生を変える一番のきっかけになるのだと思います。

編集部

自分が変われば世界も変わる……。

沈さん

キャリアを考えるとき、どうしてもスキルを身に付ける方向に目がいってしまいがちですが、そこは後からどうにでもなると思うんです。

むしろ大切なのはその手前で、一歩を踏み出す方向性を定めること。そこさえ見つけられれば、あとは勝手に道は開くのだと思います。少なくとも致命的な迷子にはなりませんから。

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編集部

そのためにも自分と向き合って、本来の自分を取り戻した状態で選択することが大事だということですね。

沈さん

繰り返しますが、答えは自分の中にあります。どこに一歩を踏み出せばいいか、本当はもう分かっているのだと思いますよ。

状態を整えて自然体でいれば、自分が無理をしていることにも気付けるから、自分に合わない仕事を選んだり、続けたりせずにも済みます。

つまり自分と向き合い、自分を理解し、自分の状態を整えることが、自分らしく生きる第一歩。今後のキャリアについて考えるときは、ぜひ自分にとって心地良い環境に身を置いてみてください。

取材・文・編集/天野夏海 写真/ご本人提供