「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

連載:「私の未来」の見つけ方

生き方も、働き方も、多様な選択肢が広がる時代。何でも自由に選べるってすてきだけど、自分らしい選択はどうすればできるもの? 働く女性たちが「私らしい未来」を見つけるまでのストーリーをお届けします

大分県別府市で、ヨガと温泉のある暮らしを通じて女性のキャリア支援をする、YOGIRLS代表の沈 彦希さん。

新卒から10年勤めたAppleを辞め、次の道を模索する中で別府と出会い、その2カ月後には別府への移住を決め、YOGIRLSのクラウドファンディングを開始。初めて別府を訪れたわずか半年後にはYOGIRLSをオープンした。

「かつては不安や悩みがたくさんあった」と話す沈さんが、これほどのスピード感で自分らしい未来を切り開いてこられたのはなぜなのだろう。

「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

YOGIRLS代表&キャリア支援 沈 彦希さん(しん げんき)

早稲田大学商学部卒業。新卒から10年勤めたAppleを退社後、全ての女性に自分らしさと健康を届けることをミッションに大分県別府へ移住し、株式会社YOGIRLSを設立。17歳でヨガに出会ってからヨガはライフスタイルの一部。全米ヨガアライアンスTT200,TT300を取得。日本瞑想協会認定講師。 Webサイト

初めて別府を訪れた2カ月後、移住を決意

私は2023年4月、大分県別府市の鉄輪で『YOGIRLS』をスタートしました。

YOGIRLSはヨガの考え方に基づいた「正しい生活」を送ることで、本来の自分と向き合うための場所。

最短3日間の宿泊型プログラムを提供しています。

中国から日本の大学に進学し、日本で就職し、言葉や習慣の異なる環境でたくさんの苦労があった中、私は高校生から始めたヨガに支えられてきました。

今の自分が健康で自分らしく居られるのはヨガのおかげだから、そのハッピーをシェアしたい。

そんな思いから立ち上げたYOGIRLSですが、実は3年くらい前からずっとやりたいと思っていて。

新卒入社したAppleで会社員をしながら物件を探していたんです。

でもなかなか良い物件は見つからず、旅行好きでもあったので、会社を辞めて日本一周をしながら最適な場所を探すことにしました。

別府を初めて訪れたのは、会社を辞めた約3カ月後。大分の友人から誘われて遊びに来たついでに、なんとなく立ち寄ったのが別府市の鉄輪でした。

鉄輪は町中に温泉の湯煙が上がる珍しい場所。静かでゆったりしていて、山と海に囲まれていて、古くからの湯治場もある。

「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

そんな土地に1週間滞在して、すごく気に入ってしまって。肌に合ったんでしょうね。

当時の私は頑張り屋さんで、無理しすぎていました。この先どうしようって悩んで、不安もたくさんあった。

それが別府に来て、ゆるんだんです。この土地は猫すら人見知りしないというか、湯煙で温まりながらのんびりしている感じがする。

リラックスした状態で毎日ヨガをすることで、今まで以上に自分と向き合うことができました。

「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

だから日本で移住するなら別府だなって思ったけど、その時は老後に住みたい場所くらいに思っていたんです。

でもよく考えたら、「なんで老後なんだろう」って。

「やりたいけど……」って思いながらやらずにいるのは、自分をないがしろにしているのと同じこと。やらない理由を重ねてしまっていたけど、よく考えたら後回しにする理由がなかった

当時はすでに会社も辞めていたから、失うものもありません。むしろ逆にチャンスなんじゃない?って。

そう思って、2カ月後にもう一度別府へ行って、その翌日に住む家を契約しました。

年末だったから内見もできなかったけど、ここがいいかなって決めちゃった。

日本一周はできずに終わったけど、振り返れば、日本一周がしたかったっていうよりは、きっと次の道を探していたんだと思います。

だから別府にたどり着いて「ここだ」って確信できた時に迷いはなくなって、自然と旅も終わりになりました。

YOGIRLS起業は、これまでの仕事と真逆だった

実は別府で住居の契約を終えてカフェで一休みしていた時、移住することと、YOGIRLSの物件を探していることをなんとなく話したら、カフェの方が物件を紹介してくださったんです。

鉄輪は人気エリアで空き物件はほとんど出ないそうなので、奇跡的な出会いでした。しかも、その物件の条件がぴったりで。

そうやって移住を決めた2週間後にはYOGIRLSを始める準備が整い、1月の半ばにクラウドファンディングをスタートしました。

「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

奇跡的に出会った「YOGIRLS HOUSE」

これまでの私だったらもっと計画をしっかり立てただろうし、会社であれば事業計画を考えなければいけない。何か始めるにあたって「こうすべき」があるじゃないですか。

でも、YOGIRLSは私のハッピーをシェアする場所。

私をハッピーにしてくれた場所で、健康かつ自分らしく居られるためのコンテンツを提供する事業だから、利益を追求するビジネスとは前提が違う。

だからもう、早いんですよ。迷いがないから。

YOGIRLSは女性のエンパワーメントを掲げていますが、これも「私が女性だから」というシンプルな理由です。

結婚や出産など、女性は男性と比べて特有の悩みがありますよね。「いつ結婚するの?」ってたくさん聞かれるし、結婚したら今度は「子どもは?」と聞かれる。

今はいろいろな選択肢が取れるようになってきてはいるけど、それでも自分にとって何がベストなのか、悩みは尽きないじゃないですか。

私自身も正解を探してきたけれど、そうではなく、自分が心から幸せだと思える選択をするのが大切で

自身の経験をへてそういうことが分かってきたからこそ、同じように悩んでいる人にシェアできることがあると思っています。

収益の一部を女性支援団体に寄付しているのも、シェアの一つですね。持っているものをシェアするのは自然なことですから。

クラウドファンディングの反響は予想以上で、4月のオープン時点で6月まで予約が埋まりました。

1人目の滞在者は会社を辞めて来てくださって、それだけの思いを持って求めてくれる方がいることも分かりました。

ビジネスでは計画や目標を立てたりマーケティング施策を組んだりするのが大事だと言われるけれど、思いを乗せればこんなにも共感してくれる人がいる

それはこれまで会社でやってきたこととは真逆の世界でした。

ビジネスのやり方を否定するわけではないけれど、こういうやり方もあるんだなと気付かされましたね。

「探している=もともと持っている」ということ

2022年7月にAppleを辞めて日本一周を開始し、10月に別府を訪れ、12月に移住を決め、23年1月にはクラウドファンディングを開始し、4月にYOGIRLSをオープン。

われながらすごい勢いだなと思うけど、自分が良い状態で決断をしているから、不安は全然ありませんでした。

この場所なら私はハッピーで居られるし、私が持っているハッピーをシェアできる。

そして、これからは健康と幸福をシェアするのが私の仕事であり、ライフ。そう確信できたんです。

「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

会社では意味や根拠が求められるし、それも必要なことだけど、生き方は人それぞれ。私の場合は理屈じゃなかった

それまではずっと最適な選択肢を探していて、会社員の頃はワークショップに行ったりアドバイスをもらったりもしていました。

それも必要な経験だったけど、今思えば、逆に混乱してしまっていたなと思います。

本当は、全ての答えは自分の心の中にあるんですよ。だって、探し物は失くしたから探すじゃないですか。探しているということは、もともと持っているんだと思うんです。

だから、自分と向き合えば進むべき方向はおのずと見えてくる。

そう気付いてからは、どんなことがあってもブレなくなりました。もう答えは自分が持っていると分かっていますから。

これまでも毎日ヨガはしていたけれど、別府に来てからの1年間で生活によりヨガの考え方を取り入れるようになりました。自分に合う食べ物を取ったり、最適な時間に眠りについたり。

そうやって正しい生活をして、自分が良い状態で居られているから、今の私はとても自分らしく居られているなと思います。

自分らしく生きるには「私は大丈夫」と思える状態を整えること

振り返ればAppleに勤めていた10年間、何度かヨガを仕事にすることを考えたタイミングはあったけど、当時は会社を辞めるのがめちゃくちゃ不安でした。

ヨガは大好きだけど、ヨガ業界は不安定で年収もそう高くない。実際に退職時には「お金はどうするの?」「生活は大丈夫?」など、報告のメールに対して恐ろしい返信が来ました(笑)

それらは私のことを思ってくれてのアドバイスだけど、人生には良いことと悪いことの両方が必ずある。

それなのに不安に目を向けたらキリがないじゃないですか。

だからこそ恐れや不安からのスタートではなく、自分が良い状態にあって、「私は大丈夫」と思えることが後悔しない結果につながるのだと思います。

悩みは尽きないけれど、行動すれば続けるか、辞めるかを選ぶこともできますしね。

そして、私がAppleを辞める決断を後押ししたのもまた、ヨガでした。

「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

仕事と両立しながらヨガインストラクターの講習を受け、1年間かけて資格を取るつもりだったのですが、もう、あまりにも楽しくて。ヨガの講習に専念したくなっちゃったんです(笑)

会社を辞める不安よりも、自分のワクワクの方が価値あるものだと感じたから、自分の人生をそっちに賭けようと思えた。

今思えば、当時は自分のステータスに執着していたから、会社を辞めることが怖かったのでしょうね。

失ったら自分が駄目になるんじゃないかって思って、長い間会社を辞めるのが不安だった。

でも本来、自分が良い状態であれば、どんな場所でも輝けるんだと思います。

そういう状態にあれば、自分が無理なく居られる場所を選ぶこともできるはず。

だからこそ、自分らしく生きるには、やっぱり自分の状態を整える必要があるんだと思います。

「自分が良い状態で決めたことはきっと正しい」別府移住&起業を即実行したYOGIRLS・沈彦希のシンプルな哲学

そのためには、自分が悪い影響を受けている時に、それに気付けることが大切です。

生きていればさまざまな影響を受けるし、悪い状態になってしまうこともあるけれど、気付ければ解決に向けて動ける。

ありのままの自分と向き合う手段が、私にとってはヨガや瞑想なんです。

私は「行動力があるね」とよく言われますが、不器用で苦手なことがたくさんあるし、自分が心から納得しない状態では動けない。

でも、自分が良い状態にあって、やるべきことに納得できているから、これだけのスピードでYOGIRLSを立ち上げられた。

だからこの先の人生も決めすぎず、良い状態にあるその時の自分が決めるのが一番良い気がしています

そのためにも、まずは私自身が無理なく、健康で幸せな良い状態で居続けたいですね。

なによりYOGIRLSは私のハッピーをシェアするために始めたものですから。

取材・文・編集/天野夏海 写真/ご本人提供