「会社の成長に貢献する人を手放したい企業は無い」9年連続・産育休からの復帰率100%の企業が教える、“社員が辞めない会社”の作り方
女性活用がしきりに叫ばれる時代。国からのアプローチもあり、女性が長く働き続けられる環境をつくろうと、社内の制度や仕組み作りを急ピッチで行っている企業も多い。
だが、制度をつくってみたのはいいものの、それらがうまく機能していないケースも少なくないのではないだろうか。
そんな中、TV通販で有名な『ショップジャパン』を運営する株式会社オークローンマーケティングは、9年連続で産休・育休からの復帰者が100%という驚異的な実績を出している。現代の日本社会では、出産や育児といったライフステージの変化を受けて仕事を辞めてしまう女性もまだまだ少なくない。
同社のように、女性社員が「ライフステージが変わっても、ここで働き続けたい」と感じられる企業には、どのような特徴があるのだろうか。同社・人事総務部の河合由紀さんにその秘訣を伺った。
“女性だから”という特別扱いはなし!
「働きやすい」は個人によって違う

株式会社オークローンマーケティング
人事総務 ディヴィジョン デピュティーダイレクター
河合由紀さん
2007年入社。法務部で企業法務などに携わった後、翌年に総務部へ移動。人事総務の統合をきっかけに、採用から人材の育成までを担当。“成功する環境づくり”を目標に、社員が働き続けやすいサポート体制や制度を構築する
「当社がこの10年特に力を入れて取り組んできた社内環境の変革には、全てに一貫した目的がありました。それは、一人一人の社員が最大限のパフォーマンスを発揮できる環境をつくるということ。なので、女性社員のためだけに何か特別な制度をつくったりしているかというと、そういうわけではありません」
産休・育休からの復帰者が100%というだけでなく、女性管理職の割合も21%と国の平均の2倍以上という同社。諸々の状況を鑑みると、河合さんの回答は意外なようにも思える。だが、その真意は「女性だけを特別扱いするような制度こそ、現実的でない」とする考え方だ。
「当社には、女性だけに限らず、全社員がより良いライフスタイルを送るためのサポートをする制度が数々あります。例えば、その日にやるべき仕事が終われば15時には退社しても良いとする『6時間勤務制度』。
これは、社員なら誰でもが使える制度で、男性はもちろん、お子さんがいない社員でも利用することができます。こうした制度も、ワーキングマザーの方だけが使えるようなものにしてしまうと、使う側も何となく“引け目”を感じてしまいますし、それを使えない人たちからの印象もあまり良くはない。
結果的に、“制度を使いにくい雰囲気”が社内に広がってしまうと思うんです」
また、家族のために休暇を取りたい社員向けに『ファミリー休暇制度』も導入している。
「この制度は、自分の家族のためならどんな理由であっても休暇が取れる制度です。上限は年に5日まで。『家族と幸せで充実な時間を過ごすため』の休暇なので、子どものため、夫や妻のため、両親のため、二親等以内の家族なら誰でもOKです」
ここでもポイントとなっているのは、「誰もが使える制度」であること。性別や子どもの有無など、社員の属性に関わらず、一人一人がいかに良質な生活を送り、仕事の質を向上させられるかが考えられているのだ。結果的に、どちらの制度も多くの社員に活用されている。
“制度はあるけど使えない”に陥らないために!
「VOE」による評価で改善を重ねる
こうした各種制度が同社で整えられるようになった背景には、2006年以降の業績拡大がある。『ビリーズブートキャンプ』の大ヒットを受け、2006年から同社の売り上げは急上昇。持続的に会社を成長させるため、優秀な人材に長く活躍してもらうニーズも高まった。
「先ほども申し上げましたが、私たちが行っているのは、社員一人一人が最大限力を発揮して、“成功できる環境”を整えること。それを進める理由は、会社の成長のために欠かせないと考えているからです。そのために、あらゆる制度を“会社の成長”という目的に合わせて進化させています」
また、一般的にこうした新制度が設立された際にありがちなのが、「制度を作ってみたものの、現実的に機能していない」というケースではないだろうか。同社では、そのような事態を防ぐために、「VOE」(Voice Of Employee)と呼ばれる制度を設けている。
「新しく制度をつくるときには経営陣を含め全社員に説明をしていますが、運営する中で想定していなかった問題は必ず出てくるもの。それを拾い上げる役目を果たしているのがVOE制度です。
全国の3つの拠点から10人ほどの社員が月に1度集まり、職場環境や社内制度などに対する意見・要望などをまとめ、直接経営層に伝えています。なので、新しく作った制度についても『これじゃ全然意味が無いよね』とか、辛らつな意見が出てくることもありますね(苦笑)。でも、こうやって社員からの意見を定期的に吸い上げることで、あらためて目的を伝えたり、現実に即した社内環境改善の施策が打てるようになっています」
こうした工夫の数々が、女性はもちろん、全社員の長期的な就労を可能にしている。
「産休育休からの復帰者の割合とか、女性管理職の比率とか、今の日本ではそうした“数字”の帳尻合わせのための女性活用を進めている企業も少なくないのではないでしょうか。
でも、それでは意味がありません。本当に大切なのは、会社の成長は社員一人一人の成長にかかっているという意識。そのために、会社としてできることはきっちりサポートしていくという姿勢だと思います」
一社員でも会社を変えられる!
まずはその基盤づくりを

同社のような企業が増えればきっと、女性が抱える働くことへの不安も減っていくだろう。
だが、今すぐに、とはいかないのが現実だ。では、私たち一人一人が今の会社をより“働き続けることができる環境”に変えていくためには、何ができるのだろうか。
「働き続けたいという想いのある方は、きっと今の仕事が好きな方、会社が好きな方だと思います。でも、会社が旧日本的な古い体質を抜け出しきれていないとか、制度面のサポートが手薄であるとか、働き続けることに不安があるケースが多いでしょう。そういう時、まずすべきことは、自分が会社の成長に存分に貢献することです。
言い換えれば、自分に与えられた役割を全うし、成果を出すこと。そして、会社の成長にとって“無くてはならない存在”に少しでも近づく努力をすることです」
「会社の成長に貢献してくれる社員を手放したいと思う企業はない」というのが河合さんの考え方。まずやるべきことは、「とにかく声を挙げること」ではなく、「声を挙げるための基盤を作ること」だ。「そういう人材の声であれば、積極的に吸い上げ、会社側も“変わらなきゃ”とアクションを起こしてくれるはず」と語る。
女性活用を進めたい企業が同社の取り組みから学ぶことは多いはず。そしてまた、私たち一人一人も、日々の仕事で成果を挙げることが会社を変える一歩だということを意識しておきたい。
取材・文/金子恵妙 撮影/赤松洋太