「心の中で“嫌な人とのお別れ会”をしましょう」誹謗中傷の悩みを救う住職流、心が疲れないSNSとの付き合い方

SNSを見ていると、どうしてもネガティブな投稿が目に入ってしまうもの。無意識に見続けているうちに、心が疲れてしまう人は多いのでは?

そこで今回は、インターネット上の誹謗中傷で悩む人たちを守る寺、天台宗照諦山 心月院尋清寺で住職を務める髙橋美清さんに「心が疲れないSNSとの付き合い方」を教えてもらった。

天台宗 照諦山 心月院 尋清寺 住職 髙橋美清さん

天台宗 照諦山 心月院 尋清寺 住職 髙橋美清さん

1964年、群馬県生まれ。短大在学中からモデルとして活動した後、フリーアナウンサーに。群馬テレビのレポーター、日本テレビ『おはよう天気』キャスター、競輪のテレビ中継の司会者のほか、フィニッシングスクールを主宰し企業などのマナー研修を行う。2014年にはキングレコード発売のCD『波に抱かれて』(北原朱夏名義)で歌手デビューもしている。11年に得度、17年に比叡山延暦寺行院で修行に入り、正式な天台宗僧侶となる。20年、群馬県伊勢崎市に天台宗照諦山心月院尋清寺を新寺建立した。Instagram

「これって私のこと?」SNSに“敏感すぎる”人は多い

SNSに書かれた言葉は、簡単に消えるものではない。そして、ネガティブな投稿を見てしまったときの嫌な気持ちも、ずるずると尾を引いてしまうものだ。

髙橋さんが住職を務める心月院にも、SNSに書かれた言葉で傷ついた人からの問い合わせが日々来ているという。

髙橋さん

例えば会社の食堂でしか話していないこと、つまりその場にいた人しか知らないはずのことが、SNSに書かれていたと悩む人はとても多いです。

「これって、私のことを言ってるの……?」と思ったら、その考えが頭から離れなくなるんですよね。そう思い始めたら、周りの人や会社が怖くなって、出勤できなくなってしまった方もいます

そのほかにも、身に覚えのないことを口コミとしてSNS上に書かれ、サービスの運営元に削除を依頼したものの取り合ってもらえなかった企業も多い。

髙橋さん

昔に比べると、法律でSNS上の中傷は規制されるようになったとは言いますが、まだまだ自力での解決は難しいのが現状です。

口コミが書かれたサービスの運営側やプロバイダに削除を依頼すると、弁護士を通してほしいと言われ、弁護士をつけても、今度は警察を入れるように言われることが多いんですね。そして、警察が何もしてくれなかったら、そこで終わり。泣き寝入りするしかないんです

こうした相談を受ける中で、髙橋さんは被害者・加害者ともに人に対する「鈍感さ・スルーする力」を持ってほしいと考えるようになったと続ける。

髙橋さん

例えば先ほどの「私のことを書かれているのかも」というケースは、結果的に自分の思い込みに過ぎなかったということも多いんです。気になる気持ちは痛いほど分かりますが、書き込みに敏感になりすぎていないかは落ち着いて考えた方がいいですね。ある種の鈍感さは、SNSと付き合う上では大切なことです

SNSの書き込みにショックを受ける女性
髙橋さん

そしてもちろん、SNSに投稿する側も、配慮は絶対に必要です。例えばラーメンを食べて、あまり美味しくなかった時に、どうしてわざわざネットに書く必要があるのでしょうか。 食べ物でも何でも、それが好きな人も嫌いな人もいるのは当たり前ですよね

髙橋さんは、「今は投稿する側も、自分の気持ちに敏感、神経質になりすぎているように思う」と続ける。

髙橋さん

自分が何かを嫌だと思っても、それをわざわざSNSに書く必要があるのか、自分の投稿がどんな影響を持つかは、一呼吸置いて考えた方がいいですよ

人に対して興味を持つのは、決して悪いことではない。でも人に敏感すぎると、それがかえって悩みを深くしたり、誰かを傷つけてしまうことにもつながってしまう。SNSを使う人はその危険性を十分に理解する必要があると、髙橋さんは考えている。

危険な投稿をする人とは「関わらない」が正解

心月院に問い合わせる人たちには、SNSとの付き合い方について「しっかり距離を取る」ことをアドバイスしているという。

髙橋さん

距離を取るというのは、SNSを一切使うなという意味ではありません。例えば何かを発信して批判的なコメントがついたとき、つい反論したくなるかもしれませんが、そこは距離を取りましょうということです

無視するとかえって刺激してしまう場合もあるかもしれない。そんな時は、自分の投稿そのものを削除するのも一つのアイデアだという。

髙橋さん

わざわざ自分を傷つけるようなものに近づく必要はないので、基本的には「関わらない」がベストです。

世の中には、相手が誰であろうと食ってかかってくる、困った人がいます。そんな人に関わったところで、何もいいことはありませんよ

こうした現実的なアドバイスができるのは、髙橋さん自身も誹謗中傷の被害者だったからだ。

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かつて髙橋さんにストーカー行為を行っていた男性が逮捕されると、その男性を擁護したい人々からの中傷が始まった。インターネット上の書き込みに加えて、匿名の電話やメールが絶えなかったという。

大半は知らない人からの中傷だったが、知人による攻撃もあった。「大丈夫?」と心配して連絡をくれた人が、自身のFacebookに「(髙橋さんは)人殺しだ」と投稿していたのを見た時は、言葉を失ったという。

髙橋さん

当時は深く傷つきましたが、今では縁を切る良い機会になったと思えます。

もしSNS上で「この人とはもう付き合えない」と思うようなことがあったら、心の中でお別れ会をすればいいんですよ。「あなたと出会ったおかげで、人間はこんなにひどいことをするんだと学べました。ありがとう」という感謝の気持ちとともに送り出すんです。いつまでも恨み続けるよりも、ずっと心の健康に良いですよ

御遺誠
髙橋さん

伝教大師・最澄の「怨みをもって怨みに報ぜば 怨み止まず、徳を以て怨みに報ぜば 怨み即ち盡く」という言葉があります。これは、怨みに対して報復で応じれば終わりがなく意味がない、相手を怨むのではなく、優しい心で許してあげることができれば怨みはなくなるという意味。これはまさに真理で、私自身もこの言葉を信じて、相手を恨む気持ちをなくしています

それでもつらいときは、「自分に確実に優しくしてくれる人やもの」に接するのが効果的だと続ける。

髙橋さん

家族や友人に相談しようと考える人が多いかもしれませんが、身近な人の言葉には意外と傷つくこともあります。ですから、確実に優しくしてくれる人を選びましょう。

心療内科の医者でもいいですし、何なら人間でなくてもいいんです。動物や植物、ぬいぐるみでも構いません。人はどうしても何か言いたくなってしまうものですが、彼らなら何も言いませんからね。人間以外の優しい生き物と接することで、心があたたかくなっていきますよ

「紙に書いて捨てる」の繰り返しで心を癒す

最後に、すでにSNSで心が疲れたり、傷ついたりしてしまった人に向けて、今すぐに実践できる特効薬を教えてもらった。

髙橋さん

話を聞いてくれる相手が、なかなか見つからないこともあるでしょう。そんなときは、つらかったこと、嫌だったことを声に出して、ひたすら紙に書き続けるんです

全部吐き出したら、その紙を燃やしてしまいましょう。くしゃくしゃっと丸めて捨てるのでも構いません。私の心月院では、それを何度でもやりなさいとお話ししています。

書いて捨てて、書いて捨ててを繰り返すうちに、「こんなこと、もうどうでもいいや」と思える日が必ず来ますから

真面目で優しい人ほど、ネガティブな投稿で苦しみやすいもの。だからこそ、今つらい思いをしている人は一人で悩まないでほしいと髙橋さんは訴える。

髙橋さん

SNSを使っていると、アンチや嫌な人に出会ってしまうことがあると思います。でもそんな人には絶対に負けてはいけません。優しく真面目な人ほど苦しくなりやすい世の中ですが、自分を守れるのは、自分だけです

天台寺にて法話した時の様子
髙橋さん

私の座右の銘でもある「一隅を照らす」という言葉は、自分が光となって周りを照らしていくことこそが人の役割であり、それが積み重なることで世の中がつくられるという意味がありますが、そのためには自分自身が「光」とならなければなりません。

ですから周りの人に対してだけでなく、あなた自身にもやさしい気持ちで接することを、どうか忘れないでくださいね

取材・文/一本麻衣 編集/大室倫子(編集部) 写真/本人提供