実業家→生成AI関連で転職。ハヤカワ五味の選択から学ぶ「キャリアの身を置く場所・タイミング」を見極める重要性
18歳で起業し、ファッションデザイナーや実業家としてキャリアを切り拓いてきたハヤカワ五味さん。そんな彼女が、生成AI関連の仕事をするため大手IT企業に転職した。
アパレル・EC業界、事業づくりのバックグラウンドが長い彼女が、なぜ経験のない、黎明期の生成AI業界に飛び込んだのか。その答えを探っていくと、自身の今後にモヤモヤを抱える働く女性が「自分らしいキャリア」に飛び込むためのヒントが見えてきた。

ハヤカワ 五味さん
18 歳で起業後、ランジェリーブランド『feast』、フェムテック事業『ILLUMINATE』など、多数の事業を展開。2022年3月にはユーグレナグループに参画し、はたらく女性向けの新規事業開発に取り組む。24年4月に退職後、大手IT企業に生成AI関連の社内推進担当として転職。生成AIの利活用に関してSNSでも積極的に発信している X、Instagram、note
実業家・ハヤカワ五味が生成AIで「企業就職」を選んだ理由
事業づくりのイメージが強いハヤカワさんが、生成AI関連で転職されたのは意外に感じました。どのようなきっかけがあったのでしょうか。
昨年ChatGPTが流行した時期に、私も生成AIを触ってみて、「これは大きなゲームチェンジが起こるな」と強く思ったんです。私が長年関わってきたEC業界だけでなく、既存のビジネスや市場、働き方全体が大きく変わっていく。そう確信しました。
そこで、今このタイミングで生成AIに携わることが、自分のキャリア戦略においてベストな選択だと思ったんです。
生成AIに、大きな可能性を感じられたのですね。
ええ。ただ私自身はエンジニアではないので、技術的なバックグラウンドはありません。
でも、めざましいスピードで進化する生成AIの技術と、私自身が培ってきた経験や知識を活かせば、社内のコミュニケーションや顧客体験の向上に貢献できるのではと思って。IT企業に入社し新しいキャリアをスタートさせました。

画像はすべてご本人が生成AIで作成したもの
現在はどのようなポジションで働いているのですか?
正式な肩書はなく、生成AIを活用して社内の業務効率化、コミュニケーションの活性化をするポジションです。いわゆる生成AIを活用した社内の「コミュ力担当」という感じですね(笑)
コミュ力担当?
入社した会社は社員数1,000名以上なので、多様なバックグランドを持ったメンバーが集まっています。
組織が大きくなる重要なフェーズにおいて、生成AIに限らず、新しい技術や仕組み、制度を導入し、組織全体に浸透させるのは簡単なことではありません。
生成AIはこれまでの新しいITサービスとは一線を画す革新的な技術かつ、自由度が高いものだからこそ、「使いこなせている人」と「そうでない人」の間のギャップが生じやすいと思っていて。
そこで、社内外の関係者と丁寧に対話を重ねながらそのギャップを少しずつ埋め、より良い組織や事業づくりに貢献していく。私は今のポジションをそう理解しています。
キャリアにおける「ポジション取り」の重要性
今回の転職を「自分のキャリア戦略においてベストな選択をした」とおっしゃいましたが、改めてご自身のキャリアに対する考え方について教えてください。
私がキャリアを選択する上で重視しているのは、市場の「需要」と「供給」のバランスを見極めて、自分の強みを活かせる「ポジション取り」をしていくことです。
どんなに良い仕事をしていても、そもそも世の中に需要がないとか、周りに同じことをしている人が多ければ、評価は下がってしまいますよね。
つまり、身を置く場所やタイミングが変われば、評価も給与も変わってくる。そういった意味では、「評価や給与は絶対的なものではない」ということは常に意識した方が良いと思っていて。
自分の価値や能力を存分に発揮できる場所はどこか。それを見極めるためにはトレンドや社会変化を敏感に観察しながら、最適なタイミングで自分の強みや得意を活かすという視点が大切だと思っているんです。
ニーズのある市場において自分が活躍できる「ポジション」を見つけるのが重要だということですね。それは、一般の会社員にも同じことが言えそうです。
私のように自分の意思や裁量ですぐにキャリアを変えられる環境にいる人ばかりではないと思いますが、今は転職サイトなどで自分の給与相場や市場価値を知ることもできますしね。
自分ができそうなことで、給与や市場価値の高い場所はどこなのかを探すだけでも「ポジション」の当てはつくのではないでしょうか。
そして今いる組織の中でのポジションだけでなく、もう少し大局的な視点で、10年後、20年後、自分がどんな仕事をしていたいのか考えてみると、自分なりの「キャリア戦略」が見えてくると思いますよ。

とはいえ生成AIのような黎明期の業界は「ポジション取り」には有効な反面、リスクを考えて不安になってしまう人も多いと思います。
おっしゃるように、新しい産業や技術は先行きが不透明で、最初はリスクが高いのは事実です。
特に女性の方が慎重でリスクを回避する傾向が高いという統計学的な調査もありますし、経済的にも不安定な世の中で、リスキーな意思決定を避けたくなる気持ちも分かります。
そうした理由からか、実際AI業界も男性社会で、“ボーイズクラブ”的な雰囲気になりやすいんですよね。
たしかに、女性が少ないイメージはあります。
でも、だからこそ「先行者利益」はあるなとも感じていて。
SNSのフォロワー数やYouTubeのチャンネル登録者数などが分かりやすい例ですが、早い段階でその業界に飛び込んだ方が、その領域の拡大とともに自分のポジションも自然と優位になっていきます。さらに、そこに女性というだけで希少性も加わりますよね。
ですから、自分の強みややりたいことがある程度明確にあるなら、周りの人より少し早く参入するのが吉かなと思っています。どんなキャリア選択をしてもメリット、デメリットはありますから。
「幸せの基準」があるから、やりたいことに素直になれる
キャリア構築において、早い段階での「ポジション取り」の重要性が分かりました。
実はもう一つ、キャリア構築において大切だと思っていることがあるんです。それは、自分の「幸せの基準」を明確に持つことです。
私が身軽にキャリアを変えられる理由として、自分の中で「最低限の生活と“そこそこの幸せ”が保証されるな」というラインを明確に決めているから、という側面もあるなと感じていて。
私は生活にすごくお金をかけるタイプではないし、「大きな家に住みたい」とか「高い車に乗りたい」みたいな欲も、そんなに強くないんです。趣味のコスプレも、それほどお金がかからないですし(笑)
お金をたくさん稼ぐことが幸せに繋がるわけではないと、明確に基準があるのですね。

もちろんある程度収入面の算段はしていますが、たとえ今急激に収入が減ってしまったとしても、“そこそこ幸せ”な状態をキープできる。そう思えているから、やりたいことがあった時に自分の気持ちに素直に従えるのかもしれません。
人それぞれ、また人生のフェーズによっても異なるとは思いますが、「自分にとっての幸せとは何か」、それを考えておくのが大切です。
生成AIのさらなる発達によって、これまで以上に「人の在り方」や「働く意味」が問われるようになりますから、「自分にとっての幸せ」の重要性はより一層高まると思うんですよ。
なぜでしょうか?
私たち人間は仕事をするためだけに生まれてきたわけじゃないですよね。だったら、人間がやらなくてもいいことは、AIやいろいろなツールを活用してコンパクトにすることで、もっと充実した生活を送れるようになるはずです。
だからこそ、なおさら「人間にしかできないことは何か」とか「私たちは何のために生きているのか」を多くの人が考えるようになるでしょう。
なるほど。ハヤカワさんが生成AIの「コミュ力担当」になったことはまさに「人間にしかできないこと」でもありますよね。
そうですね。だからこそ私は今このポジションで、企業が技術進化に適応していく先行事例を作っていきたいです。それはきっと日本のビジネスを変革することにも繋がるはずですから。
生成AIを活用して、この次のフェーズに行けるかどうかが勝負どころだし、面白い。そこを乗り切っていくことが、今の私の使命だと考えています。それが「私にとっての幸せ」な生き方につながるはずです。
取材・文/安心院 彩 編集/大室倫子