23 OCT/2024

【山口真由】失職・婚約破棄…“落ちこぼれエリート”になっていた私が28歳で「やるべき」だったこと

Woman type13周年特集
28歳、これからの私。

もうすぐ30歳──「素敵な大人」になるために、28歳の今からやっておきたいことって何? サイトオープン13周年を迎えたWoman typeが、「なりたい自分」になるための“28歳のこれから”を一緒に考えます

「私の28歳は、まさに人生のどん底でした」

自身の経験をそう振り返るのは、元財務官僚で信州大学社会基盤研究所特任教授の山口真由さんだ。

東大を卒業し、財務省勤務を経て弁護士に。その後ハーバード大学留学、東京大学大学院入学と、きらびやかなエリートコースを歩んできたように見える彼女だが、28歳の時にはいくつもの挫折や失敗を経験したと明かす。

当時の焦りや葛藤を乗り越え、自分らしい生き方にたどり着いた山口さんが語る、28歳の時に「やってよかったこと」「やっておけばよかったこと」とは。

山口 真由さん

山口 真由さん

1983年生まれ、北海道出身。2006年に東京大学を卒業後、財務省に入省。その後弁護士事務所を経てハーバード大学ロースクール卒業、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。現在は信州大学の特任教授として教壇に立つかたわら、テレビでのコメンテーターとして「羽鳥慎一 モーニングショー」(テレビ朝日)、「ゴゴスマ」(CBCテレビ)などに出演中。著書に『挫折からのキャリア論』(日経BP) 『前に進むための読書論』(光文社新書)など多数。X

仕事も結婚も「王道」から外れるなんて

私が28歳の頃は、自分が思い描いていた「王道のキラキラキャリア」から外れていっているのではないかと、とにかく焦っていた時期です。

底が分からない真っ暗な海を、沈まないように必死にもがきながら泳いでいる。そんな感覚でした。

当時は財務省を辞め、弁護士になって3年目。仕事にも慣れ、少しずつ責任ある仕事を任されるようになってきた頃です。

でも同時に、思うような結果が出せずに悩んでいた時期でもありました。

弁護士になった当初は、比較的評価が良かったんです。もらった指示を完璧にこなしたり、リサーチを徹底的にしたりするのは、勉強が得意な私の強みを活かせる仕事だったから。

でも、年次が上がるにつれて、自分の意見を求められたり、後輩のマネジメントをしたり、仕事の裁量や責任が増えていきました。すると、私の評価は途端に下がっていったのです。私は勉強は得意でも、そういう仕事がうまくできるタイプではなかったんですよね。

気付けば案件を任されなくなり、やることがないので朝から晩まで事務所宛に届いたスパムメールをチェックして過ごした日も。あまりにも情けなくて悔しくて、泣きながら帰ったこともありました。

学生時代は成績も優秀で、常に高い評価を得ていたからこそ、当時は自分のアイデンティティーが「エリート中のエリート」であることに疑いすら持っていなかったんです。

説明する山口 真由さん

当時は、将来のビジョンについても、漠然としたイメージしか持っていませんでした。

けれど、何となく「業界の“女性初”をどんどん塗り替えて、バリバリ活躍して成功している」とか「30代前半までに結婚して子供もいる」自分を疑いもしていませんでしたね。

でも実際は、仕事面でも悩んでばかりだし、プライベートでも「30歳までに“ちゃんとした”結婚をしなければ」という強迫観念のようなものに取りつかれていたんです。

でも、仕事が手一杯で、出会いを探す余裕もない。「結婚市場では29歳を過ぎると“おばさん”扱いされる」なんていう説をうのみにしたりもして、早く結婚相手を探さなきゃと焦っていました。

エリートが自分のアイデンティティーだったはずなのに、恋愛市場ではわざと「ばかで可愛い女子」を演じることもあって。プライドを持って仕事を頑張っていても、結局は若さや可愛らしさで評価されることにも苦しんでいました。

説明する山口 真由さん

何もかもうまくいかず、人生に焦った私が取った行動は、「さらに自分を追い込むこと」でした。

弁護士事務所を辞めてハーバード大学に留学したり、向いていない分野の弁護士になろうとしたり。この期に及んで、仕事でも婚活市場でも、周りに自慢できるような“武器”を増やすことばかり考えていたのです。

今振り返れば、もっと肩の力を抜いて「引き算」すればよかったかもしれませんね。

その後も、20代後半は散々でした。仕事をなくして金銭的に困った時期もあったし、将来を約束したパートナーから婚約破棄されたことも。28歳はまさに、失意のどん底にいた時期でした。

へし折られたプライドが、私を強くしてくれた

そんな時期を抜けられたのは、留学経験などを経て、自分の得意分野が少しずつ見つかってきた頃からです。

若い頃は弁護士の花形とも言えるM&Aを担当していてうまくいかなかったけれど、本来の私の強みは「誰よりも早く・深く資料を読める」こと。そこに気付いてからは、例えばコメンテーターの仕事などに自信を持って挑めるようになったんですよね。

強みが分かったからこそ、何かあればそこに立ち返ればいいんだと、肩の力を抜いて楽に生きられるようになった。

そして今なら「20代でエリートとしてのプライドを散々へし折られ、傷つく経験ができてよかった」と思えるまでになりました。

説明する山口 真由さん

当時のことは今思い出すのも本当につらいくらい、自分のふがいなさを痛感した経験でしたが、いまは「あの試練を味わってよかった」と心から思えるんです。

その理由はいくつかあります。一つは、いろいろな経験をして自分の強みを見つけたからこそ、心から納得感を持った選択をできるようになったから。

もう一つは、「二度とあんな悔しさを味わいたくない」という思いが強い原動力になって、今の私を鼓舞してくれるから。

世の中から「花形」と言われる仕事や、周りから「羨ましがられる結婚」に固執して、プライドや自信という鎧で武装していた以前の私は、周囲の意見や助言を聞く素直さも持ち合わせていなかったと思います。

でも少し遠回りはしたけれど、今は自分が本当にやりたい仕事、心から大切な人と向き合えている。そう考えると、挫折や失敗が私を強くしてくれたし、自分の輪郭をはっきりとさせてくれたと感じます。

ロールモデルよりも、同世代の仲間を見つけよう

一方で私が「28歳の時にやっておけばよかったな」と思うことはいくつかあります。

まずは多様な属性やコミュニティーの人と交流すること。同世代の仲間を見つけること。そして、自分の弱さをオープンにすることです。

当時は仕事を頑張ることと結婚を考えられる相手と出会うことに必死だったから、それ以外は自分には必要ないと、人とのつながりを排除してしまっていました。

女子会やるくらいなら、その時間で合コンした方が有益じゃない? なんて本気で思っていましたから(笑)

でも今になって、いろいろな価値観に触れたり、同年代の仲間と励まし合ったりすることの尊さに気付いたんです。

よく若手の子が「私には女性のロールモデルがいない」と嘆く声を耳にしますが、私は上の世代で成功している「ロールモデル」を探すのもいいけれど、本当はもっと近くで支え合える「同年代の仲間」を見つけることが大切なんじゃないかなと思います。

だって仕事で成功してキラキラ輝く女性の上司や先輩は、何だか隙がなく完璧な人間に見えてしまいますし、世代が異なれば、置かれている環境も向き合う課題も違うと思いますから。

それなら今同じ時代を生きている仲間たちと、励まし合い、支え合いながら自分たちでキャリアを切り開いていく方が有意義ではないでしょうか。

説明する山口 真由さん

また当時の私は仕事や恋愛に悩んでいたし、30代後半になっても子供がいないことをコンプレックスに感じていて、周りの友人や同僚に悩みを打ち明ける勇気を持てずにいました。

でも、思いきって同世代の人と話してみると、案外自分と同じような悩みを抱えている人も多いと分かったんです。

完璧に見える人も、見えないところでは血の滲むような努力を重ねているし、たくさん失敗して傷ついて、それぞれの悩みを抱えている。

そう分かってから、自分の傷が少し癒された気がしましたし、その後の人生でも連帯できる大切な「仲間」「同志」になりました。

だから、今仕事や恋愛などがうまくいかなくて悩んでいる方がいたら、弱さや苦しみを一人で抱え込まず、できるだけ周りの人にオープンにして仲間をつくってみて、と伝えたいですね。

人生に正解はないから、“及第点”を取ればいい

最後にこの記事を読んでいる方に伝えたいのは、「予想外のことが起きる人生も面白いよ」ということ。

学校のテストは勉強すれば対策ができるけど、社会で満点を取るのは難しいじゃないですか。

私も28歳頃には、「こんなに頑張っているのに、なんで結果が出ないんだろう」と思ったこともありました。

でも、人生はテストとは違ってコントロールできない要素がたくさんあるし、予想していなかった出来事に遭遇することもありますよね。

私自身、30代で卵子凍結をして、40歳直前で出産を経験して、20代の頃に思い描いていたライフプランとは全く違う道を歩んでいます。

自分がかつて思い描いた「キラキラのエリートコース」の上にはいないかもしれない。特に子育てをしている今なんて、毎日がハプニングの連続で、本当にハチャメチャ(笑)

でも今は、そんな“完璧じゃない”自分が好きだし、ままならない毎日にこそ幸せを感じているんです。

説明する山口 真由さん

そもそも、キャリアや人生の選択に「正解」も「ゴール」もないですよね。

だからこそ、自分でコントロールできないことに執着するよりも、「今この瞬間」に自分ができること、目の前の相手に向き合う方が大切。

そして「満点を取ろうとするんじゃなくて、『このくらいでいっか』って及第点が取れたら、それでいいんじゃない?」って、今の私は思うんです。

28歳は、人生の長い道のりのほんの一部分です。あまり肩肘張らずに、時には同世代の仲間と語り合いながら、自分らしい未来を見つけてもらえたらと心から思います。

取材・文/安心院 彩 撮影/吉永和久

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