22 NOV/2024

転職でのミスマッチを防ぐには? 1万人以上の転職者を見てきた採用のプロが解説する転職活動中にすべき四つのこと

横河デジタルでタレント・アクイジション・ディレクターを担う塲田聖さん

希望の会社に転職できたと喜んだのもつかの間、「あれ、思っていたのと違う……」と入社後にミスマッチを感じ、早期退職をしてしまう。

そんな事態を避けるために、転職活動中にできることって何だろう?

塲田さん

入社後にミスマッチが生じない人たちには、転職活動中の行動に共通点があります。

そう話すのは、製造業に向けたDXコンサルティングを行う横河デジタルにおいて優秀な人材の採用責任者を担う、塲田 聖さんだ。

約10年にわたり、外資系から日系まで多様な企業でエグゼクティブ人材のヘッドハンティングを担当した後、社内人事に転職し、人事として自社の採用活動をリード。長く採用に関わる中で、向き合ってきた転職者の数は1万人を超えるという。

塲田さん

さまざまな企業や転職者を見てきましたが、横河デジタルの定着率の高さは業界でもトップクラスだと思います。

転職のプロフェッショナルであり、現在は定着率の高い企業の採用を手掛ける塲田さんの話から「ミスマッチのない転職」をかなえるコツを探ろう。

横河デジタル株式会社 タレント・アクイジション・ディレクター 塲田 聖(ばた・みな)さん

横河デジタル株式会社
タレント・アクイジション・ディレクター
塲田 聖(ばた・みな)さん

シマンテック、シスコシステムズ、デルなど外資系IT企業で営業を担当した後、ヘッドハンターに転身。外資系や日系企業のエグゼクティブ人材の採用支援に携わる。2021年にIBMに人事として転職し、中途採用を担当。23年6月に横河デジタルに入社し、Talent Acquisition Director(タレント・アクイジション・ディレクター)として優秀な人材の採用を積極的に行っている

ささいなギャップの“ちり積も”が離職の引き金に

編集部

塲田さんはこれまでに一万人以上の転職者の採用に携わってきたそうですが、入社後にミスマッチが起こる人には、どんな共通点があると思いますか。

塲田さん

会社のブランドだけを魅力に感じて転職する人は、ミスマッチが起こりやすいですね。

長く働き続けるなら、自分のやりたいことができるかどうか、カルチャーが合うかどうかは必ず考えなきゃいけないことなので。

自分の経験とスキルを踏まえてやりたいことができるのかどうかは、必ず確認すべきかなと。

後々、やりたいことができなくて辞めてしまう人は多いんですよね。

編集部

なるほど。カルチャーのミスマッチは、入社後のどのような場面で表れるのでしょうか。

塲田さん

例えば、リモートワークの場合は電話コミュニケーションの文化なのか、チャットツールがメインなのか。ミーティングする際はカメラをオンにするのかオフにするのか。朝礼はあるのかないのか……。

そんなささいなカルチャーのミスマッチが積み重なることで大きなストレスになり、「自分には合わない」と離職につながるケースが多いですね。

インタビューに答える塲田聖さん
編集部

ちりも積もれば……ですね。こうしたミスマッチは、どうして起きてしまうんでしょう?

塲田さん

面接でのコミュニケーション不足だと思います。

企業側は「何となく良さそう」と内定を出し、候補者側も「何となく良さそう」と入社してしまう。

その結果、働き始めてから「思っていたのと違う」となることがよくあります。

ミスマッチを起こさない人の四つの共通点

編集部

では逆にミスマッチを起こさない人には、どんな共通点があるのでしょうか?

塲田さん

入社後に長く活躍できる人は、転職活動中に次の四つができている人だと思います。

①自己開示ができる
②会社にも開示を求められる
③一つの情報をうのみにしない
④やりたいことかできる環境かどうかを見極めるための行動ができる
塲田さん

それぞれ、なぜ大切なのか解説しますね。まず一つ目の「自己開示」について。

面接では少しでも自分を良く見せたいという気持ちが働きがちですが、苦手なことやできないことを含めて、素直にありのままの自分を出した方がいいです。

背伸びしたところで、入社後に苦労するのは自分ですし、結果的に長く働けませんから。

採用面接はPRの場でもありますが、自己開示の場だと捉えるといいと思います。

編集部

内定をもらいたいと思うと、つい自分を良く見せなきゃと思ってしまいます……。

塲田さん

その気持ちは分かります。ただ、弱みや苦手なことがあるのは当たり前なので、それ自体がマイナス評価に直結することは少ないですよ。

むしろ、自分の弱みはちゃんと理解していたほうがよくて、弱みの有無より、それに対処する姿勢の方が大事です。

編集部

とはいっても、未経験での転職だったり、スキルに自信がなかったりすると余計に弱みを隠したくなります。

塲田さん

たとえ未経験でも、「これからチャレンジしたいので資格を取った」など向上心や行動力が見えれば、「すぐには難しくても、いずれはこんな風に成長してもらえそうだな」と将来を想像できます。

時代とともに会社も世の中のトレンドもどんどん変わっていくので、 求められるスキルも流動的です。

そのため、目標に向かって行動できたりやり抜くことができたり、柔軟な思考を持てたり……という力の方が、普遍的なスキルとして高く評価されることはよくありますよ。

インタビューに答える塲田聖さん
編集部

なるほど。ちなみに、経験やスキルだけではなく、志望動機もつい「よく見せたい」と思ってしまう人は多そうです。

「給料を上げることが一番大事」とか「リモートワークがしたいから転職した」なんて言いづらいなって……。

塲田さん

常識の範囲内で、あまりネガティブな話でなければ、志望動機も正直に伝えていいと思いますよ。

ただ、自分は会社に何を貢献できるのかもセットで伝えることが重要です。「お給料を上げるための転職だけど、この経験は御社のサービス成長に役立つと思います」といった具合ですね。

どうしても自己開示のハードルが高い人は、転職エージェントに本音を話して、交渉を任せるのも一つの手です。

編集部

たしかに、エージェントに任せるなら少しハードルが下がる気がします。

塲田さん

加えて覚えておいていただきたいのが、ミスマッチを起こさない人の共通点の二つ目である「会社にも開示を求める」姿勢を持つことです。

業務の進め方や自分の役割、担当範囲、顧客先にはどのくらいの頻度で行くのかなど、実際に働くイメージが湧くまで質問してください。

例えば、一言で「コンサルティング」と言っても、会社によって業務範囲が違うことも多いので、できる限り具体的に説明してもらうことをおすすめします。

編集部

お互い開示し合うことが大切なんですね。

塲田さん

お互いの本来の姿を知った上で「いいな」と思えないと、本当に幸せなマッチングにはなりませんから。

働き方も細かいところまで確認しておくと安心です。フレックスタイム制ならコアタイムがあるか。有給休暇の消化率や申請方法はどうなっているのか。リモートワークが基本ならオンラインミーティングの頻度、カメラのオン・オフなどの文化なども聞いちゃっていいと思います。

編集部

そこまで細かく聞いていいんですね。

塲田さん

はい。私は全く問題ないと思います。転職は情報戦ですよ。

聞きづらいことがあれば、これもまた転職エージェントにお願いするのもアリです。

インタビューに答える塲田聖さん
編集部

ミスマッチを起こさない人の三つ目の共通点も教えてください。

塲田さん

「一つの情報をうのみにしない」ですね。

転職活動中は企業の口コミサイトなどを見る人も多いと思いますが、あくまで書いた人の主観にすぎず、良い内容にしろ、悪い内容にしろ、自分に当てはまるかどうかは分かりません。

情報はたくさん入手した方がいいですが、あくまで参考としてのインプットにとどめ、実際にどうなのかは面接で確認してみてください。

編集部

面接だと、人事も会社をよく見せようとしてリアルな話をしてくれない可能性はないですか?

塲田さん

人事だけでなく、いろいろな人と話すといいと思います。

福利厚生を聞くなら人事、実際の仕事の話を聞くなら現場のマネジャー、文化や雰囲気を聞くなら同僚社員……みたいに、内容によって質問する人を変えるといいですね。

そして、物事にはいろいろな側面があるので、「この人はいいと言っていたけれど、自分はどう思うかな」といったん自分視点で捉え直してみることで、事実の受け止め方も変わってきます。

多角的な視点を持てると、入社後に多少ミスマッチがあっても、「こういう側面から見ると、たしかにこれも必要だな」と自分で折り合いを付けられるようになります。

編集部

ミスマッチが生じた時に、自分で対処できる力にもつながるんですね。

塲田さん

そうですね。そしてこれもとても大切なのですが、四つ目の共通点は「やりたいことかできる環境かどうかを見極める努力をする」ことです。

お給料を上げたいとか、リモートワークをしたいというのが転職の第一の動機であったとしても、「やりたいこと」とマッチしているかどうかも欠かさずにチェックしてください。

転職時は重視していないと思っていても、後々「やりたいことと違う」という気持ちが膨れ上がってくるケースは、これまで何度も見てきましたから。

インタビューに答える塲田聖さん

「やりたい」も「苦手だからやりたくない」も主張していい

編集部

塲田さんは普段から、転職者がこれらのポイントを実践できるよう考えながら採用活動を行っているのでしょうか。

塲田さん

そうですね。実践できるように会社側からできることはやるようにしています。面接やオファー面談時には良いことも悪いことも開示した上で、転職者に判断してもらうようにしていますね。

私自身、転職を重ねてきて、後から「これも事前に教えてほしかったな」と思うことが多かったんです。

塲田さん

だからこそしっかり開示をして、本当に候補者と弊社がマッチしているのか、その人がやりたいことができるのかを見極めるようにしています。

例えば、私自身が転職して感じたIT/コンサル業界と横河デジタルのカルチャーの違いなども採用担当者として候補者にしっかり説明しています。

その結果、横河デジタルは業界でもトップクラスの社員定着率を実現できていますし、ミスマッチなく長く働いてもらえているのはうれしいですね。

編集部

入社後にやりたいことや価値観が変わることもあると思うんですが、そういう時も離職につながらないのでしょうか?

塲田さん

本人が何をしたいのかは定期的に確認するようにしています。

上司との1on1を毎月行っているほか、より具体的な希望を聞く機会も設けています。

横河グループを横断した社内公募制度も充実していて、社内イントラネットには常時数件の公募が出ています。本人のやりたいという思いを最大限尊重できるように、応募の際には上長の許可を必要としない仕組みになっているんです。

その結果、希望ベースの異動や部署の兼務をする人も珍しくありません。

編集部

「やりたい」と手を挙げれば、比較的かなえやすい環境なんですね。

塲田さん

はい。やりたいことだけでなくて、「苦手だから積極的にはやりたくない」という意思も尊重しています。会社はチームですから、苦手なことは皆でカバーし合えばいいんですよね。

私はピープルマネジメントが苦手なので、「ピープルマネジメントは積極的にやりたくはないけれど、その代わり採用で私の価値を発揮します」と正直に伝えて、その意思を尊重してもらっています。

編集部

自己開示が大事なのは、入社後も変わらないんですね。

塲田さん

そうですね。ずっと取り繕い続けることはできないので、ありのままの自分で居続けられる会社を選べるといいですね。

カメラに向かってほほ笑む塲田聖さん

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取材・文/古屋 江美子 撮影/小黒冴夏 編集/光谷麻里(編集部)