「生成AIを使う」のはずるい? 稼ぐ力を磨くために女性たちが解くべき自己暗示【崔真淑】
最近話題の生成AI。確かに便利なものではあるけれど、仕事の中でうまく活用しきれている人は、まだ少ないかもしれない。
さらに、生成AIを使うことに何となく抵抗感がある女性もいるのではないだろうか。
エコノミストの崔真淑さんによれば、「生成AIを使うことに対して『ずるいことをしている』と感じる人の割合が、男性に比べて女性のほうが高いことを示すデータがある」という。
一体どういうことなのだろうか。生成AIスキルの有無が女性の収入に与える影響について崔さんが解説する。
優秀な女性ほど「生成AI」に拒否反応
ChatGPTが誕生して2年がたち、暮らしの中で生成AIを使う機会が増えてきました。
私自身も、読みたい論文があればChatGPTに「まず要約してもらう」ことから始めたり、英語学習に活用したり。生成AIを使って業務効率化を図ることで、わが子と一緒に過ごす時間を増やすようにしています。
ですが、女性たちの中には、まだまだ「生成AIを使うことに抵抗がある」と感じる人も少なくないようです。
シカゴ大学のアンダース・フムラム教授とコペンハーゲン大学のエミリー・ヴェステルガード教授の「生成AIの利用とジェンダーギャップ」に関する研究で、興味深いものがありました。
この研究は10万人のデンマーク人を対象に、ChatGPTの使用頻度とその活用を抑制する壁について検証したもので、女性は男性に比べて生成AIツールの利用率が16〜20%低いことが明らかになっています。
この結果は、AIがビジネスのインフラになりつつある時代にあって、男女の経済的な格差をさらに広げてしまう可能性が高いことも示唆しています。
そもそも、女性たちが男性と比べて生成AIを使わないのはなぜなのでしょうか。
アールト大学のダニエル・カルバハル教授らが行った研究では、「成績が上位の女性ほど、生成AIを使わない傾向が確認された」といいます。
その理由を探ると、優秀な女性ほど「良い女性」であろうとする社会的期待から、生成AIを積極的に活用しない選択をしていることが示されました。
つまり、生成AIを使うことは「ずるい」ことで、「努力を怠っている」「正しい行いではない」というイメージを抱いている女性が多いのです。
確かに、昨今のニュースを見ていると、生成AIが作り出したものによって著作権を侵害されたと訴える人がいたり、大学などでは論文執筆の生成AIを使わないように指示するところもあったり、生成AIが「悪いもの」として扱われているケースも目立ちます。
そういった風潮も後押しし、優等生として生きてきた女性ほど、「生成AIを使うことは正しいことではない」という自己暗示をかけてしまうのです。
特に、日本では「残業している人ほど頑張っている」と評価されたり、長い時間をかけて何かを完成させた人が讃えられたりするような文化があります。
「汗水垂らしたものがえらい」と言われるような環境では、なおさら女性たちが自己暗示にかかりやすくなってしまいそうですよね。
生成AIでサクッと企画や資料を作ってしまうのは、どこかチート感があり、褒められたことじゃないような気がする……。心の中でそんなふうに感じてしまう女性もいるでしょう。
男女のAI格差は、賃金格差に直結する
とはいえ、世の中はそうも言っていられない状況に変わりつつあります。
いまやAIはビジネスのインフラ。生産性向上のためにAIを導入する企業や、特定の仕事をまるごとAIに置き換える企業が一気に増えてきました。
AIを使う側に回るのか、AIに仕事を代替される側になってしまうのか……それ次第で、今後の収入に大きな差が出ることになります。
AIが苦手なのは、ビジネスの目標を決めたり、事業を俯瞰して見てやるべきことの優先順位付けを行ったり、人材をマネジメントしたりすること。要は、管理職的な仕事をすることは今のAIには難しいのです。
一方、AIが得意なのは事務作業やワークフローがはっきりしているオペレーション業務。単に決まったタスクをこなすだけなら「AIで十分」と考える経営者が今後ますます増えていくでしょう。
管理職に女性が圧倒的に少ないことや、バックオフィス系の職種や非正規雇用でオペレーション業務にあたっている女性が多いことを考えると、AIを使う側にならないことによる煽りを受けやすいのは女性ということになってしまいます。
男女のAI格差は賃金格差を固定化してしまうか、ますます格差を広げてしまう可能性があるのです。
ちなみに、「AIに仕事を取って代わられる」という話でいうと、私がかつてやっていた仕事も、今や多くの部分をAIが担うようになっています。
15年ほど前、当時勤めていた投資銀行を退職し、トレーダーの仕事を辞めました。
トレーダーは、証券の売買を仲介する職種。当時は人気職種でしたが、数年先のことを考えると、人がやらなくてもいいのでは……? と思うことがあったのです。
たしかに、お客さまに投資の魅力を語ったり、夢を見せたりするのは人間の方が得意かもしれません。でも、過去の膨大なデータから未来を予測するのはAIの得意領域。
あっという間に、アナリストやトレーダーの仕事の一部が自動化されていきました。
今思うと、あの時に会社を辞めて学び直して本当に良かったなと思います。この先も長く働き続ける力が身についたし、キャリアの不安を払拭することができました。
AI時代こそ専門性を磨こう
では、今後どうしたらAIを使う側に回るためのスキルを磨けるのでしょうか。
大切なのは、今こそ自分の専門性を突き詰めることだと思います。
例えば、単純作業やオペレーション業務をAIがやってくれるとして、人間がやる必要があるのは、自社のビジネスの意義や目的を理解してAIに目標・ゴールを与えることです。
どういった成果を得られればビジネスとして成功したと言えるのか、俯瞰的に見て考えながらAIに指示を与えられるようになるには、自分が任されている仕事に精通している必要がありますよね。
さらに、AIが出すアウトプットは正しいものばかりとは限らないので、使える情報を取捨選択したり、タスクの優先順位を自分で整理したりする必要もあります。
こういったシチュエーションでは、皆さん自身が業務の専門家であることが何より重要です。
作業者の一人としてではなく、少し目線を上げて今の仕事に取り組んでみるだけで、AIを使いこなすスキルを磨くことにつながると思います。
もちろん、なれるチャンスがあるのであれば、リーダーや管理職のポジションで実際に働いてみることをおすすめします。
自分が社内で触れられる情報も自ら判断を下す機会も増えるはずなので、とてもいい訓練になります。
さらに、「生成AI」を使いこなすスキルを磨くという意味では、実際に使う頻度を増やすことも重要です。
ただ、「毎日生成AIを使う」こと自体を目的にしてしまうと、長続きしない可能性大。
何か自分がやりたいことやかなえたいことを実現する手段として、生成AIを使ってみましょう。
楽しみながらできて、なおかつ「使わざるを得ない」ような状況をつくってしまうことをおすすめします。
例えば、私は最近、英語学習のためにChatGPTや Googleスピーチを使っています。
ただ、勉強すること自体を目的にしてしまうと、いくらでも自分の裁量でやめられるので(笑)、ある程度の強制力を持たせることも大事です。
私の場合は、英語を人前で話す機会を持つようにして、勉強せざるを得ない状況をつくり、効率よく勉強するために生成AIを使うことにしました。
また、生成AIを使う目的は、自分の好きなことにするとなおさらモチベーションが上がりやすいはず。
自分と同じ趣味を持つ海外の人と話してみたいから、生成AIを活用して語学を学んでみる。自分の好きなものを紹介するWebサイトを作りたいから、生成AIツールを使ってみる。
そんな感じで、自分のやりたいことの実現のために活用してみましょう。使えば使うほど「こんなことにも役立てられそう」というひらめく回数も増え、いつのまにか仕事でもバリバリ活用できるようになっていると思います。
そうやって、これからの時代に必要な「稼ぐ力」も磨いていきましょう。
取材・文/栗原千明(編集部)