【白目みさえ】育児で白目むいても「心理カウンセラーも漫画家も」辞めずにいられる理由

心理カウンセラーで漫画家の白目みさえさんインタビュー

昼間は精神科に勤務する心理カウンセラーで、夜は漫画家。年子の小学生姉妹を育てる母でもある白目みさえさん。

カウンセラーの日常を綴る『白目むきながら心理カウンセラーやってます』(竹書房)や、母親目線で育児のドタバタを描く『子育てしてたら白目になりました』(KADOKAWA)などのコミックエッセイが話題となり、子育て世代の女性を中心に共感を呼んでいる。

白目みさえ

【Profile】
白目みさえ さん

臨床心理士・公認心理師の資格を持ち、精神科に勤務するカウンセラー。家に帰ると、年子の母。基本的に白目をむいて育児をしていて、その様子をかるたにしたものを増産中。生粋のお宅で気引きこもり体質。最新著に『白目むきながら心理カウンセラーやってます 親子カウンセリング編』(竹書房)がある XInstagramブログ

白目さんが心理カウンセラーと漫画家の仕事を本格的に両立し始めたのは、今から約4年前。

二つの仕事を掛け持ちしながら子育てをする毎日は、白目をむいてしまうくらい忙しいこともあるけれど、「精神的につらいと思ったことはない」のだそう。

「完璧なんかじゃないし、うまくいかないこともたくさんあるけど、子育てしながら思い切り働けることがすごく楽しい」と話す白目さん。そんなふうに朗らかな自分を保っていられる秘訣を聞いた。

漫画もカウンセラーも「出力の仕方を変えているだけ」

ーー子育てに加えて、昼は病院勤務のカウンセラーで夜は漫画家と、二つの職業を掛け持ちしています。毎日とても忙しいと思うのですが、1日どんなスケジュールでお仕事をされているんですか?

だいたい18時に病院から帰ってきて、犬の散歩をしたり、学校から帰ってきた子どもたちにご飯を食べさせたりお風呂に入れたりして、21時までに家族のことをいったん終わらせる感じですね。

そこから少し自分の時間を過ごして、22時から漫画家としての仕事をスタート。翌日に疲れを残さないように、なるべく24時台には寝るようにしています。

平日に有給がとれれば、日中に漫画を描くことも。土日は子どもたちが習い事に行っている時間は、漫画の仕事にあてていますね。

白目みさえ

出典:「白目家の日常〜番外編1〜

ーー起きているほとんどの時間を仕事に費やしているような気がするのですが、つらくなることはないですか?

年齢的にもう徹夜したりはできないし、体力的にきついなと思うことはあります。

でも、精神的につらいと思ったことはないんですよね。

ーーそれはなぜですか?

自分にとって苦じゃないことを仕事にできているからかなと思います。これが「やらされている」と感じることだったり、「苦手」なことだったりしたら、こうはいかなかったはずです。

私自身は「人の感情を考え続けること」が全く苦にならないタイプ。だからこそ、カウンセラーの仕事が続けられているし、昔は病院で働いている人ならみんなそれができるんだろうな、くらいに思っていました。

でも、実際は違って、人の気持ちに思いを寄せたり、人の感情についてずっと考え続けたりすることが苦になって仕事を辞めてしまう人もたくさんいて。

「私は人の気持ちを考えることが得意だったんだ」って働き始めて何年もたってから気付きましたね。

ーー漫画を描くことはカウンセラーの仕事と全然違う作業だと思うのですが、それでも苦にならないのでしょうか?

ならないんですよね。

最近気付いたことなんですけど、私にとっては漫画の仕事も心理カウンセラーの仕事の一つなんです。同じことを出力の仕方を変えてやっている感じ。

カウンセラーとして働いている病院には、患者さんが来ます。もう心や体に不調が出ている人がやって来るので、皆さんが元気になるための治療をお手伝いするのが私の仕事。  

漫画家として目指しているのは、皆さんが患者として病院に来る必要がないように、予防につながる考え方を伝えていくこと。

人は「誰にも分かってもらえない」という孤独を感じたときに苦しくなってしまうものだから、「こんなことに悩んでいるのは自分だけじゃなかったんだ」と思ってもらえるようなエピソードを中心に発信するようにしています。

白目みさえ

出典:「白目カルタ

ーーだから、白目さんの描く漫画は「共感」を誘うものが多いんですね。

そうですね。

ただ、漫画を描き始めたばかりの頃は、自分が子育てでイライラしたことをネタとして消化するためにInstagramに投稿していたんです。

それで、いいねがだんだんつくようになって、私自身が皆さんに認めてもらって、ただ満たされるだけっていう感じでした。

転機が訪れたのは、2020年。1冊目の本を出版することが決まる少し前のこと。

SNSでフォロワーさんが増えるに従って、「こんなことに悩んでいるのは自分だけだと思ったら、こんなに同じような仲間がいて安心した」というようなコメントが散見されるようになって。

そこで初めて、私の漫画とそれに共感してくれるフォロワーさんたちの存在が、誰かを孤独から救っているのかもしれないと気付いたんです。

漫画を描くことを「趣味」じゃなくて自分の「仕事」として認識したのも、その頃からでした。

白目みさえ

出典:「白目カルタ

ーーそしてそれが、カウンセラーの仕事の延長線上にあると気づいたわけですね。

はい。カウンセリングにいらっしゃる患者さんの中にも、「誰にも苦しみを分かってもらえない」とおっしゃる方がすごく多いんです。

その中には子育て中の女性もたくさんいて、夫がそばに居るのに「何も理解してくれない」ことに強烈な孤独を感じる人もいます。

そして、周りに1人でもいいから「あなたのつらさがよく分かる」って言ってくれる人がいたら、ここまで苦しまずに済んだんだろうな……と常々思うんです。

だから、私の描く漫画に共感してくださる方をたくさん集めることが、誰かの孤独を払拭できるなら……心理師として、この仕事を続けるべきなんじゃないか。そう思うようになりました。

白目みさえ

出典:「白目カルタ

産後に来た限界「めっちゃ働きてぇ!」

ーー漫画を描いていることは、カウンセラーの仕事にどんな影響を与えていますか?

漫画は一般の方が日常生活の中で役立てられるような知識を中心に発信していて、「分かりやすい表現」や「人の心に響く伝え方」を意識して描いています。

これは、カウンセリングの現場で患者さんとお話しするときにもすごく役立ちますね。

精神科の世界は、専門的な知識を持っていることや専門家としての対応が求められるので、小難しいことをそのまま患者さんに伝えてしまいそうになることもあるんです。

ですが、誰にでも理解しやすい内容に翻訳してから伝えるスキルは漫画を描いているからこそ養われていきました。

一方、専門的な知識と経験がなかったら、正確な情報を漫画で伝えることもできません。

カウセラーとしての専門知識や現場での経験が増えるほど、漫画で表現できる幅がすごく広がると感じています。

ーー二つの仕事を持つことによる相乗効果を感じていらっしゃるんですね。

はい。あとは、自分の気持ちの面でもメリットを感じることがあって。

病院だと、自分の思った通りには発言できないことや行動できないことがいろいろあるんです。本当は患者さんに「もっとこうしてあげたい」と思うことがあっても、病院の方針に合わなければぐっと我慢することもあるので。

そういうものは、漫画家の白目みさえとして発信することで、自分の気持ちも消化できるからいいですね。

仕事が二つあることで単純に忙しくなる面はありますが、自分がやりたいと思えることをやれる場所が増えたと考えると、精神的にはすごくいいなと思います。

ーー出産したら「仕事を控えた方がいいのかな」と思ってしまう女性も多そうですが、白目さんはむしろ逆ですね。

まさに。子育てしながら働くこと自体にもともと抵抗感はなかったんですけど、ここまで仕事漬けな毎日になるとは想像していませんでした(笑)

むしろ、出産する前は「母親なら子どもとたくさん過ごすべき」とか「母親はやりたいことをあきらめてでも、子どもと一緒にいるべき」とか、少し思ったこともあるくらいです。

ーーそれがなぜ、今のような働き方になったんですか?

産休・育休で実際に職場から離れてみたら、我慢の限界が来たんです。「めっちゃ働きてぇ!」って。

うちの場合は、産後すぐに夫だけ普通に働き始めたので、「なんで同じ親やのに、私だけが我慢せなあかんねやろ」って思いまして(笑)

白目みさえ

出典:「白目カルタ

それで、産後5~6カ月のタイミングで、夫に「私ももう働きたいんだよね」って言いました。

彼は当初、パートくらいの感じで私が職場復帰すると思っていたらしいんですけど、普通にフルタイムで復帰して、漫画を描き始めて……。

そうこうしているうちに私の方が年収的にも高くなって、「家事はもちろんあなたもするよね?」っていうプレッシャーをかけて、今に至る感じです(笑)

白目みさえ

出典「白目カルタ

「なぜそう思う?」納得感ある生き方を選ぶための問い

ーー白目さんも「母親なら仕事もセーブすべき」と考えたこともあったそうですが、そういうふうに考えてしまう女性は多いと感じますか?

すごく多いですよ。

カウンセリングにいらっしゃる女性たちからも、よく言われるんです。「お母さんなんだから〇〇すべき・すべきじゃないですよね?」っていう言葉。過去に何度も聞いてきました。

ーーそういう場合、白目さんはどんな言葉を投げ掛けるんですか?

「なぜそう思うの?」と問い掛けてみますね。そうするとね、大体の人が「みんなそうだから……」みたいな答えが返ってくるんですよ。

そこでもう一回、「じゃあ、みんなはなぜそうしてるの?」と聞いてみる。

そこからの回答は、「子どもが健全に育つように」とか「子どもの成長を見逃したくないから」とか、人によってバラバラになります。

さらに、「それは、仕事をしていたら得られないものなんでしたっけ?」「逆に、仕事さえセーブすれば、それらは全て得られるものなんでしたっけ?」と聞いてみる。

そこまで問いを重ねて、それでも「そうだ」と思うなら、自分で納得してそういう産後の生き方を選んでいる実感が持てるはず。

逆に、「そうじゃないじゃん」と気付いたなら、自分で自分にかけてしまっていた「お母さんならこうすべき」という暗示を解くことにつながります。

そして、「本当はこう生きたい」という自分の本音を認識できるようになると思いますよ。

ーー問いを重ねて、自分なりの落としどころを見つけていく感じですね。

はい。結局、仕事でも何でも、本当は自分で望んでいるわけではないのに「やらされている」と感じることが増えるほど、つらさが増してしまうんです。

だから、どんな働き方・生き方を選ぼうと、自分で納得して選んだ感覚を持てることが大事だと思います。

共感してくれる人、苦じゃない仕事を見つけよう

白目みさえ

出典:「白目カルタ

ーー今、世の中では子育てと仕事の両立について「大変さ」にフォーカスされることが多く、「自分にできるのか」と不安になる女性も少なくない印象です。

そうだと思います。SNSなどを見ていても、どうしてもネガティブな話の方が目につきやすいんですよね。

でも、もうちょっと視野を広げて身の周りの人に目を向けてみると、きっと「子育ても仕事もマイペースに楽しんでいる人」っていると思うんですよ。

「全然、適当にやってるよー」って言いながらもニコニコしていて、仕事もバリバリやっている……みたいな人が。

20代のうちに、そういう人と交流しておくと不安が軽減されるような気がしますね。

そういう人って、いざ自分が困ったときに「分かる分かるー」って話を聞いてくれたり、自分の経験値から「ちゃんとしていないなりに、いい感じにやる」ための知恵を貸してくれたりする可能性が高いので。

将来の自分がもしも孤独に陥りそうになったときに救い出してくれるようなセーフティーネットを築いておくことをおすすめします。

もう一つは、20代のうちに「苦じゃない仕事」を見つけておくこと。これも、長く働き続けたい女性にとっては大切なことなのではないかと思います。

ーーどうすれば、「苦じゃない仕事」を見つけられるのでしょうか?

20代後半くらいの方であれば、職場でも中堅くらいの立場になっていたり、仕事の経験もある程度あったりする方が多いと思います。

その場合、「苦じゃないこと」つまり「得意なこと」を見つける方法は、ざっくり二つあるかなと思っていて。

一つは、他の人からよく褒められることを思い出してみること。それは確実に自分の特技だと思うんですよね。

「いつも仕事が丁寧だよね」とか「絶対遅刻しないよね」とか、自分にとっては些細なことでも、それができない人からすると「すごい」と思えることっていっぱいあるんです。

自分は苦じゃないし頑張らずにできるから、特技だと気付きにくいんですけどね。

あともう一つ、こっちの方が思いつきやすいかもしれないんですけど、「人がよく怒られているのに、自分は怒られたことがないこと」ってありませんか?

事務作業でミスが目立つ人とか、コミュニケーションが雑で人から誤解されやすい人とか……そういう人が注意されているときに、「そういえば私は指摘されたことないな」って気付くことがあると思います。それもきっと、自分の長所です。

「他の人と自分は何か違うな」と思うところには、得意が隠れている可能性大。「みんなが嫌がる作業だけど、実は私はちょっと好き」とかね。

それでも得意なことが分からなければ、思い切って上司や同僚に「私の良いところって何?」って聞いてしまえばいいですよ。意外とみんな、そう聞かれたらいろいろと教えてくれると思います。

私もね、かつて職場にいた先輩に、「苦じゃないことを仕事にすると後で楽になるよ」って教えてもらったことがあったんですよ。

それもあって、「人の感情について考え続けることは、自分にとって苦じゃないんだ」「この仕事は自分に向いているんだ」と改めて気付くことができました。

手を抜くところはうまく抜いて、自分が楽できるところで存分に力を発揮する。そういう働き方ができると、子育てと仕事の両立生活がますます楽しくなるのかな、と思いますね。

書籍情報

白目みさえ
『白目むきながら心理カウンセラーやってます 親子カウンセリング編』(竹書房)
SNSでも人気の現役心理士によるカウンセリング漫画・第2弾!白目先生はDV被害にあった母娘の親子カウンセリングを始める。カウンセリングによって母娘はどう変わる……?
>>書籍詳細

取材・文/栗原千明(編集部)