「賢い女は結婚できない」の型に自らはまっていった…山口真由が30代で見つけた消耗しない生き方

山口真由

2024年、今年も残りわずか。アメリカ大統領選における女性候補者の活躍や、国連女性差別撤廃委員会からの日本政府への勧告など、女性の権利や男女平等の実現に向けた動きが活発化した年となった。

一方で、女性蔑視が問題視されるニュースや話題もいまだに絶えない1年だった。

男性政治家による性差別的な失言、芸能人のセクハラ問題、男性優位で進んでいくさまざまな意思決定……。

たしかに心苦しいけれど、自ら声を挙げて意見を主張するほどでもない「女性のモヤモヤニュース」を、私たちはどう捉えればいいのか。

コメンテーターとしても広く活躍する山口真由さんにその疑問をぶつけると、自身も「なかなか声を挙げられるタイプではない」と言いつつも「そんな“怒るほどでもないこと”が、女性の選択肢を狭め続けている」という回答が。

20〜30代のころは「おかしいこと」に「おかしい」と言えず、傷ついたり消耗したりしていたという山口さんが、「モヤモヤすることがあれば、口にしたり態度で示したりすることが大切」だと話す理由とは?

山口真由さん

1983年生まれ、北海道出身。2006年に東京大学を卒業後、財務省に入省。その後弁護士事務所を経てハーバード大学ロースクール卒業、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了。現在は信州大学の特任教授として教壇に立つかたわら、テレビでのコメンテーターとして「羽鳥慎一 モーニングショー」(テレビ朝日)、「ゴゴスマ」(CBCテレビ)などに出演中。著書に『挫折からのキャリア論』(日経BP) 『前に進むための読書論』(光文社新書)など多数。X

「怒るほどでもない」ことで選択肢は狭められてしまう

編集部

「女性が軽視されているな」という話題に胸は痛めつつも、個人で声を挙げるほどでもないし、何だかモヤモヤするニュースが今年は多かったです。

山口さん

難しいですよね。女性関連の話題って、主張するだけで「フェミ」って引かれるし、ちょっと大きな声をあげたら「ヒステリックな女」と見られるし。

私もそういうことに声をあげたり怒ったりできる方ではないから、気持ちは分かります。

編集部

そういうものなんですかね……。

山口さん

実はこの「そういうものなのかな」という諦めのような感情って、ある種のスティグマ(※偏見や差別)を社会にまいていることがあるんですよ。

編集部

偏見や差別、ですか?

山口さん

例えば日本の不妊治療って、法律婚や事実婚のみに適用されていて、同性カップルやシングルマザーは制度の恩恵を受けられません。

また、これから制度化する精子提供についても、法律婚以外のカップルやシングルマザーは利用が禁止されており、違反した場合には刑事罰が科せられることになっています。

刑事罰まで行くのは先進国の中ではめずらしい方で、ヨーロッパやアメリカなどに比べると非常に特殊なのですが、日本人は「そういうものなのかな」で受け入れていますよね。

編集部

「まぁ法律で決まってるし仕方ないか~」と思う人の方が多そうです。

山口さん

でもこれって「子どもには男女の両親がいなければいけない」「シングルで子どもを持つのはちゃんとしたことではない」という考えが前提ですよね。うっすらと社会の中に偏見を植え付けていませんか?

編集部

たしかに……。気付かないうちに差別や偏見を定着させていますね。

山口さん

これは一例にすぎませんが、他にも「怒るほどでもない」「声をあげるほどでもない」と言っていた結果、自分の選択肢が狭まっていくことにつながるケースは多いと思います。

編集部

「怒るほどでもない」を見逃すことで、どんどん生き方や働き方の選択肢を狭めてしまう。

山口さん

それに、メンタル面でも悪影響はあると思いますよ。

怒るほどではないけれど本当は傷つくような扱いを受け続けていると、それが自分の自尊心を少しずつ削いでいきますよね。

例えば、私もかつてはメディアに出るたび「頭は良いけど結婚できないキャラ」にされていて。訂正するのも面倒だったし、勝手に言わせておこうと思っていたんです。

でも、これって自分がいかに幸せだと言い続けても、逆にそれがみじめのようになっていって、自己肯定感が下がっていくんですよね。

「こんなこといちいち言わないよね」を口にした方がいい

山口真由
編集部

怒るほどでもないからいいか、と放置してしまう感じ、日常にも思い当たる節があります。

山口さん

誰しもありますよね。それと同じように、フェミニスト的な発言をする人を冷笑したり、女性がお互いをたたき合ったりするのって、自分たちの肯定感を下げて選択肢を自分で狭めにいっているだけのように思っちゃいます。

あとは「怒るほどでもないモヤモヤ」に、女性は慣れてしまっているんですよね。

編集部

慣れてしまっている?

山口さん

例えば保育士さんって、すごく複雑で価値が高い仕事なのに、給与に反映されないことが多いですよね。このように女性がメインの仕事が、正当に評価されないようなことは往々にして起こっています。

「ガラスの床」とも呼ばれますが、そういった不平等や困難に対して、当の女性たちは「こんなこといちいち言わないよね」となってしまっている。

それが社会の中に積もり積もって今になっているので、違和感があったらそれを口にした方が本当はいいんだろうなと思います。

編集部

ただ口にすると、周りから「フェミっぽい」なんて言って茶化されるような気がして少し怖いです。

山口さん

分かります。日本だとフェミニストって強そう、とんがってるって思われてしまいますしね。

例えばエマ・ワトソンやミシェル・オバマが「私はフェミニストです」と言ったらかっこいい!ってなるのに不思議です。

彼女たちのような「カジュアルフェミニスト」のようなアイコンが、日本にいてもいいなとは思います。

「フェミニスト」の言葉にきついイメージが付きすぎちゃったから、もうちょっとおしゃれなワードにできるといいのかもしれませんね。

傷つけられた側が「配慮」する必要はない

山口真由
編集部

「怒るほどでもないと思っていること」は仕事の中でもたくさんありますが、職場においては「評価」がつきまとうのでなおさら意見を口にしづらいことがありますよね。

場の空気を乱したくないような気もしますし。

山口さん

どこの会社でもありますよね。「お前は(体格がいいから)飲みそうだな!」と言われるとか、若い新入社員と比較されて「令和顔と昭和顔」って笑われるとか。

でもそれを笑って流すことは、次世代の後輩にもネガティブな影響が出るように思います。

そんなときは、必要以上に盛り上げないのがいいのかもしれません。

編集部

必要以上に盛り上げない?

山口さん

「セクハラですよ」とか声をあげるほどでもないなら、その場から静かに立ち去るとか。

だってよく考えたら、こっちの配慮で笑いに変えていく必要ってないじゃないですか。

編集部

なんで傷つけられた側が笑いまで取らないといけないのって感じですね。

山口さん

とにかくコート外に落ちたボールを、無理にひろいに行かないこと!

いま話をしていて、これなら私にもできるかもって思いました。

編集部

山口さんでも、「それっておかしくない?」という声をあげるのは難しいんですか?

山口さん

私はもともと空気を読みすぎてしまうタイプなので、場を冷めさせるような発言をするのは苦手で……。

例えば、弁護士をしていたときに男性の先輩から、同期の女性と比べられて「みんなは東大主席のあなたより、おバカでかわいい子の方がいいって。僕は真由ちゃん派だけどね」と言われたことがあったんです。

正直すごく傷ついたのですが、感情的になるのも恥ずかしかったし、盛り下がるようなことを言うのも違うなと思って、なぜか「ありがとうございます」と返してしまいました(笑)

編集部

むかつきますが、先輩相手だと強く言えないですしね……。

山口さん

いま思えば、必要以上に自分を卑下しなくてもよかったのかなって思いますけどね。

自分を犠牲にして場を盛り上げるほど、自分自身の価値がすり減っていくんですよ。

私は30代でテレビに出始めたころも、場を盛り上げるために、自分をステレオタイプにはめこもうとして苦しんだ時期がありました。

編集部

どんなステレオタイプですか?

山口さん

「女性は自分より若い女性が嫌い」「勉強ができる女性は結婚できなくて困っている」などのステレオタイプに自分をはめていくと、その場はすごい盛り上がるし、仕事しやすい感じがあったんですよ。

でもそれをすると、どんどん自分が薄っぺらくなっていくような気がして。

本当は40歳手前で自分のやりたいことを自分で決める楽しさもあったし、いろいろな複雑な自分の思いがあるのに、「人が期待するかたち」の中に自らはまっていってしまう。いま振り返ると、痛々しいし、きつかったですね。

編集部

「求められている自分」を演じてしまったと。

山口さん

ええ。だから可能な限り、複雑なことは複雑なまま、ありのまま話そうと思って。そこからは、自分をすり減らして消耗してる感じもなくなってきたかなと思います。

編集部

「必要以上に盛り上げない」は、自分の心をすり減らさないためにも必要ですね。

山口さん

20代の女性だと、どうしても注目が集まって場を盛り上げたくなっちゃうと思うんです。私もそうでしたから。

でも一呼吸おいて「無理に盛り上げる必要はあるのか」を考えられると、少しだけ自己肯定感も上がるんじゃないかなと思いますね。

編集部

我慢し続けることは、自分の心をじわじわと蝕んでいきますもんね。モヤるニュースも、そういう目線で見られるといいのかもしれません。ありがとうございました!

取材・文/大室倫子(編集部)